二以上事業所勤務被保険者とは何か~複数の事業所で勤務する人の社会保険~

更新日:2022年09月09日

二以上事業所勤務被保険者

近年、副業や兼業の希望者が増加傾向にあります。その理由として挙げられる主な理由は以下の通りです。さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大も、副業・兼業の希望者増加に影響を与えました。リモートワークへの切り替えや、休業・失業を余儀なくされたことが要因です。この記事では、二以上事業所勤務被保険者に関する基礎知識を解説します。

二以上事業所勤務被保険者とは

二以上事業所勤務被保険者とは、複数の適用事業所に使用される者を指します。以下のいずれかに該当する項目があれば、主たる事業所を選択する必要があります。

  • 保険者の一方が健康保険組合である
  • 保険者がいずれも健康保険組合である
  • 保険者のいずれかが全国健康保険協会で、他方が健康保険組合である
  • 保険者がいずれも全国健康保険協会で、複数の事業所を管轄する年金事務所が異なる(年金事務所を選択)
  • 保険者がいずれも全国健康保険協会で、複数の事業所を管轄する年金事務所が同一である(事業所を選択)

該当者である被保険者は、事実発生から10日以内に届出を行い、主たる事業所を選択しなければなりません。

引用:日本年金機構「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届

社会保険への加入要件

社会保険への加入要件として、以下のいずれかに該当することが挙げられます。

  • 常時使用されている従業員
  • 週の所定労働時間及び月の所定労働日数が、いずれもフルタイムである従業員の4分の3以上の従業員

また、複数の事業所でこれに該当するときは、二以上事業所勤務被保険者として届出を提出しなければなりません。

ただし、昨今では社会保険が適用される範囲が段階的に拡大されています。今後予定されている改正点は以下の通りです。

2022年10月から改正

特定適用事業所の要件 改正前 事業所における被保険者(※)の総数が常時500人を超える
改正後 事業所における被保険者(※)の総数が常時100人を超える
短時間労働者の適用要件 改正前 1年以上が見込まれる雇用期間
改正後 2か月以上が見込まれる雇用期間

2024年10月改正

特定適用事業所の要件 改正前 事業所における被保険者(※)の総数が常時100人を超える
改正後 事業所における被保険者(※)の総数が常時50人を超える

(※)被保険者:短時間労働者は含まない

参考:日本年金機構「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大

二以上事業所勤務被保険者として手続きする場合

二以上事業所勤務被保険者としての手続きが求められる場面として、以下のケースが考えられます。

  • すでに社会保険に加入している事業所があり、その後、別の事業所でも勤務を始めたとき
  • 複数の事務所の代表として起業をしたとき など

社会保険の加入要件拡大に伴い、手続きを求められるケースが増加すると予想されます。

二以上事業所勤務被保険者の対象となるケース

二以上事業所勤務被保険者の対象となるケースを、それぞれ詳しく解説します。

対象ケース①

社会保険適用あり労働者+法人の代表取締役(役員報酬あり)

すでに1つの事業所で社会保険に加入して社会保険料を支払っている方が、新たに法人の代表取締役に就任し、かつ役員報酬を受け取っているケースです。このケースでは、役員報酬を受け取っているか否かを基準とします。役員報酬が生じた場合は必ず被保険者となります。

対象ケース②

社会保険適用あり労働者+社会保険適用あり労働者

すでに社会保険に加入している事業所に加えて、兼業先の事業所でも社会保険の適用を受けるケースです。このケースは二以上事業所勤務被保険者に該当し、いずれの事業所においても保険料の支払いが生じます。このケースでは、週の労働時間が非常に長くなっている傾向があります。

対象ケース③

法人の代表取締役(役員報酬あり)+法人の代表取締役(役員報酬あり)

すでに会社を経営している方が、別の事業を起ち上げたときに発生するケースです。あとから起ち上げた事業が軌道に乗り、役員報酬を受け取れるまでに成長した場合も、二以上事業所勤務被保険者に該当します。そのため、いずれの事業においても社会保険料を負担しなければなりません。

二以上事業所勤務被保険者の対象外となるケース

二以上事業所勤務被保険者の対象外となるケースには、どのようなものがあるでしょうか。以下、対象外となるケースについて解説します。

対象外となるケース①

社会保険適用あり労働者+法人の代表取締役(役員報酬なし)

ある事業所で社会保険に加入して社会保険料を支払いながら、別の法人で代表取締役に就任し、かつ役員報酬を受け取っていないケースです。このケースでは、あとから就任した代表取締役として報酬を受け取っていなければ被保険者の対象とはならず、二以上事業所勤務被保険者の届出は必要ありません。

対象外となるケース②

社会保険適用あり労働者+社会保険適用なし労働者

すでにひとつの事業所で社会保険に加入しており、別の事業所でも勤務を始めたケースです。あとから就業した事業所で社会保険が適用されなければ、二以上事業所勤務被保険者に該当しません。したがって、二以上事業所勤務被保険者の届出は不要です。

対象外となるケース③

法人の代表取締役(役員報酬あり)+法人の代表取締役(役員報酬なし)

すでに1つの事業で代表取締役として役員報酬を受けている方が、別の事業を立ち上げるケースです。新たな事業が軌道に乗るまでの期間は、役員報酬が発生しないことがあります。その場合は、二以上事業所勤務被保険者に該当しません。

二以上事業所勤務被保険者の手続き

二以上事業所勤務被保険者の手続きをする際には、被保険者が1つの事業所を選択したのち、その事業所の保険者として被保険者自身が届け出ます。なお、この手続きは期限が決められており、事実発生から10日以内に行わなければなりません。

また、届出の際に選択した事業所を「選択事業所」、選択しない事業所を「非選択事業所」と呼びます。選択事業所にあたる保険者が、被保険者の健康保険についての事務手続きを担います。

選択事業所への提出が必要な書類

選択事業所への提出が求められる書類は、「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」です。

ただし、この届出は適用事業所が被保険者に対し、以下を提出していることが前提です。

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 被保険者資格取得届

新たに被保険者となる際は、各事業所の資格取得届を併せて提出しなければなりません。また、すでに全国健康保険協会の被保険者である場合は、被保険者証を添付する必要があります。

参考:日本年金機構「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届

必要書類の提出期限

必要書類の提出は、二以上事業所勤務被保険者の対象となる事実発生から10日以内と定められています。提出先は、選択事業所の所在地を管轄している事務センター、または健康保険組合です。ただし、選択事業所の管轄が健康保険組合の場合でも、厚生年金保険に関する事務は事務センターが担当します。

提出方法は、以下の3つです。

  • 電子申請
  • 郵送
  • 窓口への持参

参考:日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き

二以上事業所勤務被保険者の保険証交付

二以上事業所勤務被保険者の健康保険被保険者証は、選択事業所が所属する協会けんぽ支部または組合けんぽのいずれかから交付され、選択事業所に郵送されます。また、二以上事業所勤務届の提出時には、被保険者が以前の健康保険被保険者証を事前に返却する必要があります。返却されていない場合は、選択事業所・非選択事業所のいずれかが回収しなければなりません。

事業所における保険料の算出方法

各事業所が負担する社会保険料を算出する手順は、以下の通りです。

  1. すべての事業所における支払い額を合算する
  2. 合算した額を主たる事業所の保険料額表に当てはめて、保険料を決定する
  3. 決定した保険料を各事業所における支払い額の割合で按分し、事業所ごとの保険料を決定する

なお、日本年金機構から郵送される書類には、保険料が記載されています。実際の事務では、記載されている保険料に従えば問題なく処理できます。

複数の事業所での勤務を終了した場合

二以上事業所勤務者がいずれかの事業所や事業で退職や休業、あるいは複数事業で勤務を終了した場合には、一般的な社会保険に切り替える必要があります。
その際は、被保険者が勤務を終了した事業所の「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」を年金事務所に提出します。受理されると、自動的に一般的な社会保険へ切り替わります。ただし、新たな保険証は勤務を継続している事業所に郵送されるため、以前のものは回収しなければなりません。なお、厚生年金保険に関する手続きは別途必要です。

参考:被保険者資格喪失届

二以上事業所勤務者まとめ

近年、複数の事業所に勤務する「二以上事業所勤務者」が増加傾向にあります。二以上事業所勤務被保険者の対象になったときは、被保険者がひとつの事業所を選択し、届け出なければなりません。これにより決定された選択事業所を管轄している事務センターあるいは健康保険組合が、被保険者の健康保険に関する事務手続きを担います。また、いずれかの事業所で勤務を終了したときは、その事業所が被保険者資格喪失届を提出し、通常の社会保険に切り替えなければなりません。

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