更新日:2025年11月04日
2025年の年末調整における主な変更点として、基礎控除額・給与所得控除額の見直しや、特定親族特別控除の創設などが挙げられます。担当者は、記入漏れや計算ミスを防ぐために、従業員に変更内容を伝えておかなければなりません。本記事では、年末調整における変更点を説明したうえで、事務面で押さえておくべきことについても解説します。
目次
税制改正で所得税の基礎控除に関する見直しがあるため、2025年12月に実施する年末調整にも変更が生じます。主な変更点は、以下のとおりです。
ここから、2025年年末調整と年収の壁見直しの関係を説明したうえで、各変更点について解説します。
参考)国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
2025年の年末調整は、年収の壁見直しとも密接に関わっています。
年収の壁とは、年収によって税金や社会保険料が発生する境目を示した言葉です。この年収の壁を超えないように調整して働く労働者が一定数います。
従来の年収の壁の具体例のひとつが、「103万円の壁」です。103万円の壁とは、基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)を足した額である「103万円」を超えたタイミングで所得税がかかることや、配偶者の給与収入が「103万円」を超えると配偶者控除の代わりに配偶者特別控除を適用することなどを指します。
今回の税制改正で基礎控除・給与所得控除が見直されたり、配偶者控除の要件が緩和されたりするため、「103万円の壁」のラインは上がります。年末調整においても、対象者や控除額を判定する際に、従来とは異なる基準を用いなければなりません。
参考)東京都「年収の壁とは?働き控えにつながるよくある誤解を解説!」
税制改正に伴い、2025年以降の所得税に適用できる基礎控除額が最大48万円から95万円まで引き上げられます。
基礎控除とは、納税者の合計所得金額に応じて引ける控除額のことです。そのため、合計所得132万円超の場合は、所得によって控除できる額が異なります。
改正後の基礎控除額は、以下のとおりです。
たとえば、給与収入が320万円(給与収入のみありの場合)の人は、今までに適用できる基礎控除額が48万円でした。変更に伴い、2025年の年末調整時には88万円の控除が可能です。
なお、2025年11月までの給与について、源泉徴収事務は通常通り実施します。そのため、年末調整時に改正後の基礎控除額で税額を計算し、改正前の源泉徴収税額との精算作業が必要です。
※2025年・2026年分に対する時限適用で、2027年分以降は「58万円」。また、非居住者に該当する場合は、2025〜2026年分も「58万円」。
税制改正に伴い給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円まで引き上げられます。給与所得控除とは、給与所得を計算するにあたって、給与収入から引ける額のことです。
これまで、給与収入が「162万5,000円まで」は「55万円」、「162万5,000円超180万円まで」は「収入金額 × 40% − 100,000円」、「180万円超360万円まで」は「収入金額 × 30%+ 80,000円」が給与所得控除額でした。
2025年の年末調整では、給与収入「162万5,000円超190万円まで」について一律で「65万円」の給与所得控除額を適用します。給与収入「190万円超」については、これまでの計算と変更ありません。
なお、2025年11月までの源泉徴収事務は従来の通りです。2025年12月に実施する年末調整で、改正後の給与所得控除額で税額を計算し、改正前に源泉徴収した税額との精算を実施します。
基礎控除が改正されるため、「扶養親族・同⼀⽣計配偶者」「ひとり親の⽣計を⼀にする⼦」「勤労学⽣」の所得要件も変更されています。新たな所得要件は、以下のとおりです。
いずれも、「10万円分」要件が緩和されています。要件緩和に関連する控除制度は、「扶養控除」(扶養親族)、「配偶者控除」(同一生計配偶者)、「ひとり親控除」(ひとり親の生計を一にする子)、「配偶者特別控除」(配偶者)、「勤労学生控除」(勤労学生)です。
なお、2025年11月までの源泉徴収事務には特段変更がありません。同年12月より、税制改正に伴い従業員がいずれかの控除を適用できる場合には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出が必要です。
特定親族特別控除が創設されたことも、変更点のひとつです。特定親族特別控除とは、納税者(※)に特定親族がいる場合に、対象者ひとりにつき一定額を総所得金額から控除できる制度のことです。
金額を以下にまとめました。
特定親族とは、生計を一にする19〜23歳未満の親族で、合計所得金額58万円超123万円以下の人を指します。親族の収入が給与収入のみの場合、収入が「123万円超188万円以下」であれば、合計所得金額は「58万円超123万円以下」です。
従来、大学生(19〜23歳未満)の子どもがアルバイトをする場合、「扶養控除(特定扶養親族の場合)」を適用して親の合計所得金額から「63万円」を控除するには、収入「103万円」までの要件を満たさなければなりませんでした(給与収入のみの場合)。特定親族特別控除が創設されたことで、大学生(19〜23歳未満)の子どもが給与収入103万円を超えても、金額によって引き続き「63万円」を控除できる可能性があります。
なお、年末調整で特定親族特別控除を受けるには、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要です。
※「居住者」が対象
年末調整とは、一年間に源泉徴収された税額と、年税額を一致させるための精算手続きのことです。年末調整の書類を提出するには、以下の方法があります。
各方法について、確認していきましょう。
従来、従業員が年末調整の紙を事業者に提出する方法が一般的でした。現在でも、一定の事業者で採用されています。
手続きの流れは、以下のとおりです。
紙を使った作業であれば、機械の操作が苦手な従業員でも対応できます。以前から採用されているやり方のため、新たにルール決めをする必要もありません。
一方で、担当者に記入漏れや計算ミスがないかを確認する手間がかかる点はデメリットです。従業員の数が多いほど、チェックに時間がかかったり、保存に負担がかかったりします。
自社で対応のシステムやソフトを導入していれば、従業員にオンラインで年末調整書類を提出してもらう方法もあります。
入力内容の自動チェック・自動計算機能により、漏れやミスを防げる点がオンラインで年末調整するメリットです。ただし、紙の手続きからオンラインの手続きに切り替えると、作業のやり方で従業員が戸惑うことがあります。スムーズに導入するためには、ルールを設定して従業員にわかりやすく説明しなければなりません。
従業員がマイナポータルを使って、年末調整の手続きを進める方法もあります。行政手続きがワンストップでできるサービスのことです。
マイナポータルを活用した年末調整の手続きは、以下の流れで進めます。
マイナポータルを活用すれば、従業員が各種証明書をスムーズに取得できる点がメリットです。ただし、利用者登録やサービスとの連携などに手間がかかることがあります。
参考)国税庁「マイナポータルと連携した年末調整手続」
年末調整事務の変更に伴いミスが発生するリスクを軽減するため、総務・経理・人事などの担当者はいくつかのポイントを押さえておきましょう。年末調整に必要な書類は、主に以下のとおりです。
各書式別に、押さえておくべきポイントを解説します。
給与所得控除・基礎控除額に変更があることが、基礎控除申告書で押さえておくべきポイントです。
税制改正に伴い、給与収入「162万5,000円超190万円まで」は一律で「65万円」の給与所得控除額が適用されます。「所得金額」に間違いがないか確認しましょう。
また、基礎控除額は最大95万円まで適用できる可能性があります。「基礎控除の額」を従来のまま「480,000円」と記載していないか確認しましょう。
配偶者控除等申告書では、配偶者に給与収入がある場合に正しい給与所得控除額を確認して「所得金額」を計算しているか確認することがポイントです。基礎控除申告書と同様に、給与収入「162万5,000円超190万円まで」の場合は、一律で「65万円」の給与所得控除額が適用される点を意識しておきましょう。
また、配偶者の所得要件が緩和されている点もポイントです。とくに、今まで所得が48万円を超えていて「配偶者控除」の代わりに「配偶者特別控除」を適用していた場合でも、税制改正に伴い、今年は「58万円以下」であれば「配偶者控除」を適用できる可能性があります。
特定親族特別控除申告書は、特定親族特別控除の創設に伴い新たにできた書式です。控除対象であるにもかかわらず、記入を忘れる従業員がいないよう注意しましょう。2025年の年末調整では、2003年1月2日生まれ〜2007年1月1日生まれで所得58万円超123万円以下の親族がいる場合に、特定親族として記載が必要です。
なお、基礎控除申告書・配偶者控除申告書・特定親族特別控除申告書は、「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書」としてひとつの書式にまとまっています。
扶養控除等(異動)申告書では、「扶養親族等」の所得要件が緩和されている点がポイントです。
昨年は控除の対象外で今年も家族の所得水準が同等だったとしても、所得要件の緩和に伴い2025年は適用範囲に含まれる可能性があります。また、給与収入から所得の見積額を計算する際に、正しい給与所得控除を適用しているか確認することも必要です。
参考)国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)」
年末調整の事務においてミスを軽減するためのコツは、主に以下のとおりです。
2025年の変更に伴い、ミスが生じるリスクが高まります。あらかじめ、それぞれのコツを押さえておきましょう。
従業員に早めに変更点を伝えておくことが、年末調整における事務ミスを減らすためのコツです。
従業員は、2025年度の税制改正について理解していない可能性があります。従来通りのやり方で記入されると、ミスを指摘したり再度用紙を回収したりするのに手間がかかります。
とくに、基礎控除・給与所得の見直しで所得金額の計算方法が変わること、新たにできた特定親族特別控除を適用できる可能性があることなどを中心に伝えましょう。
担当者自身も、変更に伴い金額計算に間違いがないか注意して確認しましょう。とくに給与所得控除の見直しにより、所得金額の計算では間違いが発生する可能性があります。
また、「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」に「特定親族特別控除申告書」が加わったことで、書式が複雑になっているため、記入漏れがないかを注意深くチェックすることも必要です。
システムの導入を検討することも、年末調整事務におけるミスを防ぐ策のひとつです。
従業員が紙に手書きで記入する場合、控除額の計算でミスが発生する可能性があります。年末調整事務の担当者がチェックしても、ミスを見つけられるとは限りません。
システムを導入すれば自動計算で対応できるため、計算ミスのリスクを軽減できます。従業員が記入する手間や計算する手間、担当者が検算する手間を省けるため、業務の効率化にもつながるでしょう。
事業者は年収の壁見直しに伴い、年末調整以外にも以下の点を意識しておかなければなりません。
それぞれ解説します。
税制改正に伴い、「103万円の壁」は「160万円の壁」(対象者自身の所得税の観点)や「123万円の壁」(扶養控除の観点)に引き上がります。そのため、今まで「壁」を考慮して働き控えをしていた従業員が、労働時間を増やすことを希望することがあるでしょう。
従業員が労働時間を増やすことで、今まで抱えていた人手不足の課題を解消できる可能性があります。まずは、一度従業員と話し合いの場を設けるとよいでしょう。
年収の壁の見直しで、社会保険のことも考えることが重要です。
「年収の壁」には、税金面での壁と社会保険における壁があります。具体例は、一定規模の会社に勤める際に健康保険や厚生年金保険への加入義務が発生する年収を示した「106万円の壁」と、「106万円の壁」の対象外の場合に国民健康保険や国民年金の保険料支払いが発生する年収目安を示した「130万円の壁」です。
そのため、税金面での壁が引き上げられて従業員が労働時間を増やしたとしても、社会保険料の支払いが発生することがあります。事業者は、従業員が社会保険面での壁も意識しないで働けるように、厚生労働省の「年収の壁・支援強化パッケージ」の利用も検討しましょう。
参考)厚生労働省「「年収の壁」への対応」
税制改正で、2026年1月1日以降の給与事務にも影響が生じます。
まず、従業員から回収した「扶養控除等(異動)申告書」に、源泉控除対象親族が正しく記載されているか確認しましょう。源泉控除対象親族とは、以下に該当する人のことです。
また、2026年1月以降に新たな源泉徴収税額表を使って毎月源泉徴収します。源泉徴収税額表については、国税庁のサイトからダウンロードできます。
参考)国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」
2025年税制改正に伴い、年末調整に関する事務も変更があります。主な変更点は、基礎控除・給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の創設などです。
年末調整の手続きに関する事務を進める際は、従業員が変更点を正しく反映しているか確認しておかなければなりません。また、変更を見落としていたり、計算にミスが発生したりすることがあるため、注意しましょう。
計算ミスの防止や、業務の効率化には、システムを導入して紙の手続きから電子申請に移行することもポイントです。
この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが制作しています。当社は、従業員5人まで永久無料の給与計算ソフト「フリーウェイ給与計算」を提供しています。フリーウェイ給与計算はクラウド給与計算で、WindowsでもMacでも利用できます。ご興味があれば、ぜひ利用してみてください。詳しくは、こちら↓
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2025年の年末調整における主な変更点として、基礎控除額・給与所得控除額の見直しや、特定親族特別控除の創設などが挙げられます。担当者は、記入漏れや計算ミスを防ぐために、従業員に変更内容を伝えておかなければなりません。本記事では、年末調整における変更点を説明したうえで、事務面で押さえておくべきことについても解説します。
目次
2025年(令和7年)年末調整の変更点とは
税制改正で所得税の基礎控除に関する見直しがあるため、2025年12月に実施する年末調整にも変更が生じます。主な変更点は、以下のとおりです。
ここから、2025年年末調整と年収の壁見直しの関係を説明したうえで、各変更点について解説します。
参考)国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
2025年の年末調整と年収の壁見直しの関係
2025年の年末調整は、年収の壁見直しとも密接に関わっています。
年収の壁とは、年収によって税金や社会保険料が発生する境目を示した言葉です。この年収の壁を超えないように調整して働く労働者が一定数います。
従来の年収の壁の具体例のひとつが、「103万円の壁」です。103万円の壁とは、基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)を足した額である「103万円」を超えたタイミングで所得税がかかることや、配偶者の給与収入が「103万円」を超えると配偶者控除の代わりに配偶者特別控除を適用することなどを指します。
今回の税制改正で基礎控除・給与所得控除が見直されたり、配偶者控除の要件が緩和されたりするため、「103万円の壁」のラインは上がります。年末調整においても、対象者や控除額を判定する際に、従来とは異なる基準を用いなければなりません。
参考)東京都「年収の壁とは?働き控えにつながるよくある誤解を解説!」
変更点1. 基礎控除額の改正
税制改正に伴い、2025年以降の所得税に適用できる基礎控除額が最大48万円から95万円まで引き上げられます。
基礎控除とは、納税者の合計所得金額に応じて引ける控除額のことです。そのため、合計所得132万円超の場合は、所得によって控除できる額が異なります。
改正後の基礎控除額は、以下のとおりです。
たとえば、給与収入が320万円(給与収入のみありの場合)の人は、今までに適用できる基礎控除額が48万円でした。変更に伴い、2025年の年末調整時には88万円の控除が可能です。
なお、2025年11月までの給与について、源泉徴収事務は通常通り実施します。そのため、年末調整時に改正後の基礎控除額で税額を計算し、改正前の源泉徴収税額との精算作業が必要です。
※2025年・2026年分に対する時限適用で、2027年分以降は「58万円」。また、非居住者に該当する場合は、2025〜2026年分も「58万円」。
変更点2. 給与所得控除額の引き上げ
税制改正に伴い給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円まで引き上げられます。給与所得控除とは、給与所得を計算するにあたって、給与収入から引ける額のことです。
これまで、給与収入が「162万5,000円まで」は「55万円」、「162万5,000円超180万円まで」は「収入金額 × 40% − 100,000円」、「180万円超360万円まで」は「収入金額 × 30%+ 80,000円」が給与所得控除額でした。
2025年の年末調整では、給与収入「162万5,000円超190万円まで」について一律で「65万円」の給与所得控除額を適用します。給与収入「190万円超」については、これまでの計算と変更ありません。
なお、2025年11月までの源泉徴収事務は従来の通りです。2025年12月に実施する年末調整で、改正後の給与所得控除額で税額を計算し、改正前に源泉徴収した税額との精算を実施します。
変更点3. 扶養親族等の所得要件の改正
基礎控除が改正されるため、「扶養親族・同⼀⽣計配偶者」「ひとり親の⽣計を⼀にする⼦」「勤労学⽣」の所得要件も変更されています。新たな所得要件は、以下のとおりです。
(給与収入のみの場合の収入)
(123万円以下)
(123万円以下)
(123万円超201万5,999円以下)
(150万円以下)
いずれも、「10万円分」要件が緩和されています。要件緩和に関連する控除制度は、「扶養控除」(扶養親族)、「配偶者控除」(同一生計配偶者)、「ひとり親控除」(ひとり親の生計を一にする子)、「配偶者特別控除」(配偶者)、「勤労学生控除」(勤労学生)です。
なお、2025年11月までの源泉徴収事務には特段変更がありません。同年12月より、税制改正に伴い従業員がいずれかの控除を適用できる場合には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出が必要です。
変更点4. 特定親族特別控除の創設
特定親族特別控除が創設されたことも、変更点のひとつです。特定親族特別控除とは、納税者(※)に特定親族がいる場合に、対象者ひとりにつき一定額を総所得金額から控除できる制度のことです。
金額を以下にまとめました。
特定親族とは、生計を一にする19〜23歳未満の親族で、合計所得金額58万円超123万円以下の人を指します。親族の収入が給与収入のみの場合、収入が「123万円超188万円以下」であれば、合計所得金額は「58万円超123万円以下」です。
従来、大学生(19〜23歳未満)の子どもがアルバイトをする場合、「扶養控除(特定扶養親族の場合)」を適用して親の合計所得金額から「63万円」を控除するには、収入「103万円」までの要件を満たさなければなりませんでした(給与収入のみの場合)。特定親族特別控除が創設されたことで、大学生(19〜23歳未満)の子どもが給与収入103万円を超えても、金額によって引き続き「63万円」を控除できる可能性があります。
なお、年末調整で特定親族特別控除を受けるには、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要です。
※「居住者」が対象
年末調整書類の提出方法
年末調整とは、一年間に源泉徴収された税額と、年税額を一致させるための精算手続きのことです。年末調整の書類を提出するには、以下の方法があります。
各方法について、確認していきましょう。
従業員が紙を事業者に提出する
従来、従業員が年末調整の紙を事業者に提出する方法が一般的でした。現在でも、一定の事業者で採用されています。
手続きの流れは、以下のとおりです。
紙を使った作業であれば、機械の操作が苦手な従業員でも対応できます。以前から採用されているやり方のため、新たにルール決めをする必要もありません。
一方で、担当者に記入漏れや計算ミスがないかを確認する手間がかかる点はデメリットです。従業員の数が多いほど、チェックに時間がかかったり、保存に負担がかかったりします。
従業員がオンラインで事業者に提出する
自社で対応のシステムやソフトを導入していれば、従業員にオンラインで年末調整書類を提出してもらう方法もあります。
手続きの流れは、以下のとおりです。
入力内容の自動チェック・自動計算機能により、漏れやミスを防げる点がオンラインで年末調整するメリットです。ただし、紙の手続きからオンラインの手続きに切り替えると、作業のやり方で従業員が戸惑うことがあります。スムーズに導入するためには、ルールを設定して従業員にわかりやすく説明しなければなりません。
従業員がマイナポータルを活用して提出する
従業員がマイナポータルを使って、年末調整の手続きを進める方法もあります。行政手続きがワンストップでできるサービスのことです。
マイナポータルを活用した年末調整の手続きは、以下の流れで進めます。
マイナポータルを活用すれば、従業員が各種証明書をスムーズに取得できる点がメリットです。ただし、利用者登録やサービスとの連携などに手間がかかることがあります。
参考)国税庁「マイナポータルと連携した年末調整手続」
2025年の変更に伴い年末調整事務で押さえておくこと
年末調整事務の変更に伴いミスが発生するリスクを軽減するため、総務・経理・人事などの担当者はいくつかのポイントを押さえておきましょう。年末調整に必要な書類は、主に以下のとおりです。
各書式別に、押さえておくべきポイントを解説します。
給与所得者の基礎控除申告書のポイント
給与所得控除・基礎控除額に変更があることが、基礎控除申告書で押さえておくべきポイントです。
税制改正に伴い、給与収入「162万5,000円超190万円まで」は一律で「65万円」の給与所得控除額が適用されます。「所得金額」に間違いがないか確認しましょう。
また、基礎控除額は最大95万円まで適用できる可能性があります。「基礎控除の額」を従来のまま「480,000円」と記載していないか確認しましょう。
給与所得者の配偶者控除等申告書のポイント
配偶者控除等申告書では、配偶者に給与収入がある場合に正しい給与所得控除額を確認して「所得金額」を計算しているか確認することがポイントです。基礎控除申告書と同様に、給与収入「162万5,000円超190万円まで」の場合は、一律で「65万円」の給与所得控除額が適用される点を意識しておきましょう。
また、配偶者の所得要件が緩和されている点もポイントです。とくに、今まで所得が48万円を超えていて「配偶者控除」の代わりに「配偶者特別控除」を適用していた場合でも、税制改正に伴い、今年は「58万円以下」であれば「配偶者控除」を適用できる可能性があります。
給与所得者の特定親族特別控除申告書のポイント
特定親族特別控除申告書は、特定親族特別控除の創設に伴い新たにできた書式です。控除対象であるにもかかわらず、記入を忘れる従業員がいないよう注意しましょう。2025年の年末調整では、2003年1月2日生まれ〜2007年1月1日生まれで所得58万円超123万円以下の親族がいる場合に、特定親族として記載が必要です。
なお、基礎控除申告書・配偶者控除申告書・特定親族特別控除申告書は、「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書」としてひとつの書式にまとまっています。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書のポイント
扶養控除等(異動)申告書では、「扶養親族等」の所得要件が緩和されている点がポイントです。
昨年は控除の対象外で今年も家族の所得水準が同等だったとしても、所得要件の緩和に伴い2025年は適用範囲に含まれる可能性があります。また、給与収入から所得の見積額を計算する際に、正しい給与所得控除を適用しているか確認することも必要です。
参考)国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)」
年末調整事務でのミスを軽減するコツ
年末調整の事務においてミスを軽減するためのコツは、主に以下のとおりです。
2025年の変更に伴い、ミスが生じるリスクが高まります。あらかじめ、それぞれのコツを押さえておきましょう。
従業員に早めに変更点を伝える
従業員に早めに変更点を伝えておくことが、年末調整における事務ミスを減らすためのコツです。
従業員は、2025年度の税制改正について理解していない可能性があります。従来通りのやり方で記入されると、ミスを指摘したり再度用紙を回収したりするのに手間がかかります。
とくに、基礎控除・給与所得の見直しで所得金額の計算方法が変わること、新たにできた特定親族特別控除を適用できる可能性があることなどを中心に伝えましょう。
変更に伴い金額計算に間違いがないか確認する
担当者自身も、変更に伴い金額計算に間違いがないか注意して確認しましょう。とくに給与所得控除の見直しにより、所得金額の計算では間違いが発生する可能性があります。
また、「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」に「特定親族特別控除申告書」が加わったことで、書式が複雑になっているため、記入漏れがないかを注意深くチェックすることも必要です。
システムの導入を検討する
システムの導入を検討することも、年末調整事務におけるミスを防ぐ策のひとつです。
従業員が紙に手書きで記入する場合、控除額の計算でミスが発生する可能性があります。年末調整事務の担当者がチェックしても、ミスを見つけられるとは限りません。
システムを導入すれば自動計算で対応できるため、計算ミスのリスクを軽減できます。従業員が記入する手間や計算する手間、担当者が検算する手間を省けるため、業務の効率化にもつながるでしょう。
年収の壁見直しで事業者が年末調整以外に意識すること
事業者は年収の壁見直しに伴い、年末調整以外にも以下の点を意識しておかなければなりません。
それぞれ解説します。
労働時間を考える
税制改正に伴い、「103万円の壁」は「160万円の壁」(対象者自身の所得税の観点)や「123万円の壁」(扶養控除の観点)に引き上がります。そのため、今まで「壁」を考慮して働き控えをしていた従業員が、労働時間を増やすことを希望することがあるでしょう。
従業員が労働時間を増やすことで、今まで抱えていた人手不足の課題を解消できる可能性があります。まずは、一度従業員と話し合いの場を設けるとよいでしょう。
社会保険を考える
年収の壁の見直しで、社会保険のことも考えることが重要です。
「年収の壁」には、税金面での壁と社会保険における壁があります。具体例は、一定規模の会社に勤める際に健康保険や厚生年金保険への加入義務が発生する年収を示した「106万円の壁」と、「106万円の壁」の対象外の場合に国民健康保険や国民年金の保険料支払いが発生する年収目安を示した「130万円の壁」です。
そのため、税金面での壁が引き上げられて従業員が労働時間を増やしたとしても、社会保険料の支払いが発生することがあります。事業者は、従業員が社会保険面での壁も意識しないで働けるように、厚生労働省の「年収の壁・支援強化パッケージ」の利用も検討しましょう。
参考)厚生労働省「「年収の壁」への対応」
2026年1月1日以降の給与事務で変わること
税制改正で、2026年1月1日以降の給与事務にも影響が生じます。
まず、従業員から回収した「扶養控除等(異動)申告書」に、源泉控除対象親族が正しく記載されているか確認しましょう。源泉控除対象親族とは、以下に該当する人のことです。
また、2026年1月以降に新たな源泉徴収税額表を使って毎月源泉徴収します。源泉徴収税額表については、国税庁のサイトからダウンロードできます。
参考)国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」
年末調整の変更点まとめ
2025年税制改正に伴い、年末調整に関する事務も変更があります。主な変更点は、基礎控除・給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の創設などです。
年末調整の手続きに関する事務を進める際は、従業員が変更点を正しく反映しているか確認しておかなければなりません。また、変更を見落としていたり、計算にミスが発生したりすることがあるため、注意しましょう。
計算ミスの防止や、業務の効率化には、システムを導入して紙の手続きから電子申請に移行することもポイントです。