更新日:2024年11月05日
基礎控除とは、誰でも無条件で一定額を控除できる制度のことです。適用する際は、税額控除ではなく、所得控除の一種であることを理解しておきましょう。本記事では、基礎控除を受けるための方法や所得税との関係について詳しく解説します。
目次
基礎控除とは、すべての納税者を対象に無条件で差し引ける所得控除を指します。確定申告や年末調整で所得税額を計算する際、総所得金額などから一定額を控除可能です。
従来、基礎控除の額は一律で、納税者の所得に関係しませんでした。しかし、2020年度の税制改正以降は、個人の合計所得金額が「2,400万円以下」「2,400万円超2,450万円以下」「2,450万円超2,500万円以下」「2,500万円超」のいずれかによって、基礎控除額が異なります。
参考)国税庁「No.1199 基礎控除」
基礎控除を適用する際、以下の点に注意しましょう。
それぞれ解説します。
基礎控除は税額控除ではなく、所得控除の一種である点に注意しましょう。所得税の控除には、所得控除と税額控除があります。
税額控除とは、課税所得金額に税率をかけて算出した所得税額から一定の金額を控除する制度です。配当控除や住宅借入金等控除(住宅ローン控除)、外国税額控除などが具体例として挙げられます。
一方、基礎控除が当てはまる所得控除は、所得金額から一定の金額を控除する制度です。そのため、税額控除と比べると、基本的に所得控除の額が節税に与える影響は小さくなります。
参考)国税庁「No.1200 税額控除」
「所得税の基礎控除」や「住民税の基礎控除額」と「相続税の基礎控除」を混同しないようにしましょう。名称は同じでも、所得税に適用するか、相続税に適用するかによって、条件や控除額が異なります。
相続税の基礎控除とは、課税遺産総額を計算する際に正味の遺産額から引く金額のことです。相続税の基礎控除額は、以下の計算式で求めます。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
一方、所得税や住民税の基礎控除額は個人の合計所得金額によって決まるものです。具体的な金額については、次で詳しく説明します。
参考)国税庁「No.4152 相続税の計算」
基礎控除の控除額は、最大48万円です。個人の合計所得金額と控除額の関係を以下の表にまとめています。
なお、従来は、所得に関係なく一律で38万円(住民税は33万円)が控除額でした。
所得税額を確定申告で申告するか、年末調整で申告するかによって、基礎控除の適用方法も異なります。それぞれのやり方を確認していきましょう。
確定申告とは、1年間(毎年1月1日から12月31日まで)に生じた所得の金額と、それに対する所得税などの額を計算して確定させるための手続きです。確定申告時に作成する確定申告書に記載することで、基礎控除を適用できます。
確定申告書第一表の左側にある「所得から差し引かれる金額」の「基礎控除」に所得に応じた基礎控除額を記入しましょう。たとえば、個人の合計所得金額が900万円(2,400万円以下)であれば、該当欄の「0000」の前に「48」と記入します。
なお、確定申告が必要なのは、個人事業主やフリーランス、給与収入金額が2,000万円を超える人などです。ただし、給与収入金額が2,000万円以下の会社員でも、副業の収入が一定額を超える場合や住宅ローン控除の申告をする場合(1年目)などで、確定申告することがあります。
参考)国税庁「No.2020 確定申告」
年末調整とは1年間に源泉徴収された税額合計と年税額を一致させる精算手続きを指します。原則として、給与の収入金額が2,000万円以内で、勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している人が、年末調整の対象です。
年末調整で基礎控除を受けるには、その年に受け取る最後の給与までに会社へ提出する「給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」の「給与所得者の基礎控除申告書」欄に対象の控除額などを記入します。
参考)国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和6年分)」
基礎控除は、「(年収)103万円の壁」と深く関係しています。103万円の壁とは、年収103万円を超えると所得税が課税されることを示した言葉です。
給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を引いて計算します。給与等の収入金額と給与所得控除額の関係は、以下の表のとおりです。
上の表からわかるとおり、給与所得を計算するにあたって、給与収入から最低でも55万円の給与所得控除が適用されます。また、年収が2,400万円以下の場合に給与所得金額から引かれる基礎控除額は48万円です。
つまり、給与収入が103万円以内(ほかに収入がないと仮定)であれば、課税所得は0円になるため、所得税がかかりません。
なお、年収103万円を超えると親や配偶者の扶養から外れることを「103万円の壁」と呼ぶ場合もあります。
参考)国税庁「No.1410 給与所得控除」
ここから、基礎控除を考慮して課税所得を計算する流れを簡単に紹介します。今回紹介するのは、基礎控除以外に所得控除がないケースです。
なお、所得とは収入から経費や給与所得控除など一定の額を引いた金額のことです。それに対して、課税所得は所得から所得控除を引いた残りの金額で、所得税を計算するための根拠となる数字を指します。
参考)国税庁「所得税のしくみ」
納税者が個人で事業を営んでいる(個人事業主)か、会社員などの給与所得者かによって、課税所得の計算方法が異なります。具体的な数字を使って、それぞれのケースで課税所得を計算してみましょう。
わかりやすくするため、年間売上は800万円で経費が300万円、所得控除は基礎控除のみのケースで計算します。
まず、売上(800万円)から経費(300万円)を引いた額が500万円のため、所得は500万円です。また、所得が2,400万円以下のため、基礎控除は48万円を適用できます。
よって、課税所得は、452万円(500万円 − 48万円)です。
給与収入が700万円(ほかに収入なし)で、所得控除は基礎控除のみのケースで計算します。
まず、給与収入が700万円(6,600,001円から8,500,000円まで)のため、給与所得控除額は180万円です(収入金額 × 10% + 1,100,000円)。よって、給与所得は520万円と計算できます(700万円 − 180万円)。
また、基礎控除額は48万円(所得が2,400万円以下)のため、課税所得は472万円(520万円 − 48万円)です。
課税所得まで計算できたら、所定の税率をかけてから決められた控除額を引いて、所得税を計算してみましょう。2023年4月1日現在、所得税の税率は以下のとおりです。
たとえば、先ほどの個人事業主のケースでは、課税所得が452万円(3,300,000円から6,949,000円まで)のため、税率20%・控除額427,500円で計算します。計算結果は、以下のとおりです。
所得税 = 課税所得(4,520,000円) × 所得税率(20%)− 427,500円 =476,500円
なお、2037年までは、所得税に加えて復興特別所得税(原則、その年の基準所得税額の2.1%)もかかります。
参考)国税庁「No.2260 所得税の税率」
基礎控除は、15種類ある所得控除のうちのひとつです。所得控除の種類によって、適用条件・対象者・控除額などが異なるため、所得税額を計算するにあたって違いを理解しておきましょう。
基礎控除以外の所得控除は、以下のとおりです。
各所得控除の概要を簡単に紹介します。
配偶者控除とは、納税者に「控除対象配偶者」がいる場合に受けられる所得控除のことです。
控除対象配偶者と認められるためには、「民法の規定による配偶者」「納税者と生計を一にしている」などの要件が定められています。また、納税者や控除対象配偶者に対する所得要件も満たさなければなりません。
控除額は、納税者本人の合計所得金額や、「一般の控除対象配偶者」か「老人控除対象配偶者」によって異なります。たとえば、納税者本人の合計所得金額が900万円以下で「一般の控除対象配偶者」に適用する場合、控除額は38万円です。
参考)国税庁「No.1191 配偶者控除」
配偶者特別控除とは、配偶者に48万円超の所得があり配偶者控除を適用できない場合に受けられる可能性のある所得控除のことです。
配偶者特別控除を受ける場合も、配偶者が「民法の規定による配偶者」「控除を受ける人と生計を一にしている」などの要件を満たさなければなりません。また、納税者の対象年における合計所得金額が1,000万円以下であることも控除を受けるための条件です。
控除額は、納税者本人の合計所得金額や配偶者の合計所得金額によって異なります。たとえば、納税者の合計所得が900万円以下で配偶者の合計所得金額が48万円超95万円以下の場合、受けられる控除額は38万円です。
参考)国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
扶養控除とは、納税者に所得税法上の控除対象扶養親族がいる場合に受けられる所得控除のことです。
控除対象扶養親族とは、対象年の12月31日時点で16歳以上の「扶養親族」を指します。扶養親族とは、「配偶者以外の親族」「納税者と生計を一にしている」「合計所得金額が48万円以下」などの要件をすべて満たした人のことです。
控除対象扶養親族は年齢や同居の有無などによって「一般の控除対象扶養親族」「特定扶養親族」「老人扶養親族(同居老親以外)」「老人扶養親族(同居老親など)」に区分されており、それぞれ控除額が異なります。たとえば、一般の控除対象扶養親族の場合の控除額は、38万円です。
参考)国税庁「No.1180 扶養控除」
社会保険料控除とは、納税者が自分の社会保険料を支払った場合、自分と生計を一にする配偶者やそのほかの親族が負担すべき社会保険料を支払った場合に受けられる所得控除のことです。
健康保険・国民年金・厚生年金保険・国民健康保険・介護保険・労働保険などで納税者が負担した保険料が、社会保険料控除の対象となります。控除額は、対象年に支払った金額か、給与・公的年金などから差し引かれた金額(全額)です。
参考)国税庁「No.1130 社会保険料控除」
生命保険料控除とは、納税者が生命保険・介護医療保険・個人年金保険の保険料を支払った場合に受けられる所得控除のことです。
控除額の計算方法は、加入している保険が新制度・旧制度のどちらに該当するかによって異なります。たとえば、新制度の一般生命保険で支払っている年間保険料が2万円以下の場合、支払保険料の全額が控除対象です。
なお、控除額の上限は、保険の種類ごとに定められています。
参考)国税庁「No.1140 生命保険料控除」
地震保険料控除とは、納税者が特定の損害保険契約のうち地震などの損害部分の保険料や掛金を支払った場合に受けられる所得控除のことです。2006年の税制改正に伴い、一部経過措置に該当するケースを除き、火災保険料は所得控除の対象外になりました。
控除額は、年間の支払保険料が5万円以下の場合に支払金額の全額、5万円超の場合に一律5万円です。
参考)国税庁「No.1145 地震保険料控除」
寄附金控除とは、納税者が特定寄附金を支出した場合に受けられる所得控除のことです。
特定寄附金とは、国・地方公共団体への寄附金や公益社団法人・公益財団法人などに対する寄附金のうち一定の条件を満たすもの、政治活動に関する寄附金のうち一定のものなどを指します。寄附をした人に特別の利益がおよぶものや学校入学に関するものなどは対象外です。
「対象年に支出した特定寄附金の合計額」「対象年の総所得金額などの40%相当額」のいずれか低い金額から2千円引いた額を控除できます。
なお、一部の寄付金については所得控除の代わりに税額控除を選択可能です。
参考)国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」
医療費控除とは、1年間支払った医療費の額が一定額を超えるときに受けられる所得控除のことです。納税者本人、もしくは納税者と生計を一にする配偶者や親族に支払った医療費であることや、対象年の1月1日から12月31日までに払った医療費であることが条件とされています。
控除額は、実際に支払った医療費合計から保険金などで補てんされる金額を引いた額 − 10万円(*)です。最高で200万円まで控除できます。
*総所得金額が200万円未満の場合は、総所得金額 × 5%の額
参考)国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
雑損控除とは、災害・盗難・横領によって資産に損害を受けた場合に受けられる所得控除のことです。対象の資産が納税者や一定の条件を満たす配偶者やそのほかの親族の所有物であることや、棚卸資産・事業用固定資産・「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない場合に控除を受けられます。
控除額は、「(損害金額 + 災害等関連支出の金額 − 保険金等の額)−(総所得金額等)× 10%」「(災害関連支出の金額 − 保険金等の額)− 5万円」のいずれか多い方の額です。
参考)国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
障害者控除とは、納税者本人もしくは同一生計配偶者か扶養親族が所得税法上の障害者に該当する場合に受けられる所得控除のことです。控除額は、対象者が「障害者」「特別障害者」「同居特別障害者」のいずれかに該当するかによって異なります。
障害者は27万円、特別障害者は40万円、同居特別障害者は75万円が受けられる控除額です。
参考)国税庁「No.1160 障害者控除」
勤労学生控除とは、納税者が勤労学生である場合に受けられる所得控除のことです。勤労学生とは、対象年の12月31日時点で「給与所得など勤労所得がある」「合計所得金額が75万円以下かつ対象の勤労所得以外の所得が10万円以下」「特定の学校の学生・生徒である」といった3つの要件をすべて満たさなければなりません。
控除額は一律27万円です。
参考)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
ひとり親控除とは、納税者がひとり親である場合に受けられる所得控除のことです。
ひとり親とは、原則として12月31日時点で婚姻をしていないもしくは配偶者の生死が明らかでない一定の人を指します。また、ひとり親控除を適用するためには、「事実婚と認められる相手がいない」「生計を一にする子ども(一定の条件を満たす)がいる」「合計所得金額が500万円以下」の3つをすべて満たさなければなりません。
控除額は一律35万円です。
参考)国税庁「No.1171 ひとり親控除」
寡婦控除とは、納税者が寡婦であるときに受けられる所得控除のことです。
寡婦は原則として対象年の12月31日時点で「ひとり親」に該当しない人を指します。また、「夫と離婚してから婚姻をしておらず扶養親族がいて合計所得金額が500万円以下」「夫と死別してから婚姻をしていないもしくは夫の生死が明らかでない一定の人で合計所得金額が500万円以下」のいずれかを満たさなければなりません。
2020年以降、控除額は一律27万円です。
参考)国税庁「No.1170 寡婦控除」
小規模企業共済等掛金控除とは、小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金を支払った場合に受けられる所得控除のことです。小規模企業共済法の規定で独立行政法人中小企業基盤整備機構と締結した共済契約の掛金や、確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金・個人型年金加入者掛金などが対象となります。
控除額は対象年に支払った掛金の全額です。
参考)国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」
確定申告後に、個人事業主が基礎控除の適用を失念していたことに気づいた場合は、更正の請求書を税務署に提出することにより、対応できます。更正請求できる期限は、確定申告の期限から5年以内です。
会社員で年末調整している場合は、まず失念を気づいた段階で勤務先の所管部署に伝えましょう。すでに関係書類が税務署に提出されている場合でも、還付申告することにより対応できます。還付申告可能な期間は、その年の翌年1月1日から5年間です。
参考)国税庁「【申告が間違っていた場合】」 参考)国税庁「No.2030 還付申告」
基礎控除とは、すべての納税者を対象に無条件で一定の額を引ける所得控除を指します。たとえば、合計所得金額が2,400万円以下の場合の控除額は、48万円です。
確定申告で基礎控除を適用する場合は、「確定申告書第一表」の該当箇所へ記入しなければなりません。また、年末調整の場合は、「給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」の所定欄に記入します。
納税額を左右するため、所得税の計算をする際は基礎控除を失念しないようにしましょう。
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基礎控除とは、誰でも無条件で一定額を控除できる制度のことです。適用する際は、税額控除ではなく、所得控除の一種であることを理解しておきましょう。本記事では、基礎控除を受けるための方法や所得税との関係について詳しく解説します。
目次
基礎控除とは
基礎控除とは、すべての納税者を対象に無条件で差し引ける所得控除を指します。確定申告や年末調整で所得税額を計算する際、総所得金額などから一定額を控除可能です。
従来、基礎控除の額は一律で、納税者の所得に関係しませんでした。しかし、2020年度の税制改正以降は、個人の合計所得金額が「2,400万円以下」「2,400万円超2,450万円以下」「2,450万円超2,500万円以下」「2,500万円超」のいずれかによって、基礎控除額が異なります。
参考)国税庁「No.1199 基礎控除」
基礎控除で注意すること
基礎控除を適用する際、以下の点に注意しましょう。
それぞれ解説します。
税額控除ではなく所得控除の一種
基礎控除は税額控除ではなく、所得控除の一種である点に注意しましょう。所得税の控除には、所得控除と税額控除があります。
税額控除とは、課税所得金額に税率をかけて算出した所得税額から一定の金額を控除する制度です。配当控除や住宅借入金等控除(住宅ローン控除)、外国税額控除などが具体例として挙げられます。
一方、基礎控除が当てはまる所得控除は、所得金額から一定の金額を控除する制度です。そのため、税額控除と比べると、基本的に所得控除の額が節税に与える影響は小さくなります。
参考)国税庁「No.1200 税額控除」
相続税の基礎控除と混同しない
「所得税の基礎控除」や「住民税の基礎控除額」と「相続税の基礎控除」を混同しないようにしましょう。名称は同じでも、所得税に適用するか、相続税に適用するかによって、条件や控除額が異なります。
相続税の基礎控除とは、課税遺産総額を計算する際に正味の遺産額から引く金額のことです。相続税の基礎控除額は、以下の計算式で求めます。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
一方、所得税や住民税の基礎控除額は個人の合計所得金額によって決まるものです。具体的な金額については、次で詳しく説明します。
参考)国税庁「No.4152 相続税の計算」
基礎控除の控除額は最大48万円
基礎控除の控除額は、最大48万円です。個人の合計所得金額と控除額の関係を以下の表にまとめています。
なお、従来は、所得に関係なく一律で38万円(住民税は33万円)が控除額でした。
基礎控除を受けるには
所得税額を確定申告で申告するか、年末調整で申告するかによって、基礎控除の適用方法も異なります。それぞれのやり方を確認していきましょう。
確定申告で適用する方法
確定申告とは、1年間(毎年1月1日から12月31日まで)に生じた所得の金額と、それに対する所得税などの額を計算して確定させるための手続きです。確定申告時に作成する確定申告書に記載することで、基礎控除を適用できます。
確定申告書第一表の左側にある「所得から差し引かれる金額」の「基礎控除」に所得に応じた基礎控除額を記入しましょう。たとえば、個人の合計所得金額が900万円(2,400万円以下)であれば、該当欄の「0000」の前に「48」と記入します。
なお、確定申告が必要なのは、個人事業主やフリーランス、給与収入金額が2,000万円を超える人などです。ただし、給与収入金額が2,000万円以下の会社員でも、副業の収入が一定額を超える場合や住宅ローン控除の申告をする場合(1年目)などで、確定申告することがあります。
参考)国税庁「No.2020 確定申告」
年末調整で適用する方法
年末調整とは1年間に源泉徴収された税額合計と年税額を一致させる精算手続きを指します。原則として、給与の収入金額が2,000万円以内で、勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している人が、年末調整の対象です。
年末調整で基礎控除を受けるには、その年に受け取る最後の給与までに会社へ提出する「給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」の「給与所得者の基礎控除申告書」欄に対象の控除額などを記入します。
参考)国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和6年分)」
基礎控除と「年収103万円の壁」の関係
基礎控除は、「(年収)103万円の壁」と深く関係しています。103万円の壁とは、年収103万円を超えると所得税が課税されることを示した言葉です。
給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を引いて計算します。給与等の収入金額と給与所得控除額の関係は、以下の表のとおりです。
上の表からわかるとおり、給与所得を計算するにあたって、給与収入から最低でも55万円の給与所得控除が適用されます。また、年収が2,400万円以下の場合に給与所得金額から引かれる基礎控除額は48万円です。
つまり、給与収入が103万円以内(ほかに収入がないと仮定)であれば、課税所得は0円になるため、所得税がかかりません。
なお、年収103万円を超えると親や配偶者の扶養から外れることを「103万円の壁」と呼ぶ場合もあります。
参考)国税庁「No.1410 給与所得控除」
基礎控除(所得控除)を使って課税所得を計算する方法
ここから、基礎控除を考慮して課税所得を計算する流れを簡単に紹介します。今回紹介するのは、基礎控除以外に所得控除がないケースです。
なお、所得とは収入から経費や給与所得控除など一定の額を引いた金額のことです。それに対して、課税所得は所得から所得控除を引いた残りの金額で、所得税を計算するための根拠となる数字を指します。
参考)国税庁「所得税のしくみ」
課税所得を計算してみよう
納税者が個人で事業を営んでいる(個人事業主)か、会社員などの給与所得者かによって、課税所得の計算方法が異なります。具体的な数字を使って、それぞれのケースで課税所得を計算してみましょう。
個人事業主のケース
わかりやすくするため、年間売上は800万円で経費が300万円、所得控除は基礎控除のみのケースで計算します。
まず、売上(800万円)から経費(300万円)を引いた額が500万円のため、所得は500万円です。また、所得が2,400万円以下のため、基礎控除は48万円を適用できます。
よって、課税所得は、452万円(500万円 − 48万円)です。
会社員(給与所得者)のケース
給与収入が700万円(ほかに収入なし)で、所得控除は基礎控除のみのケースで計算します。
まず、給与収入が700万円(6,600,001円から8,500,000円まで)のため、給与所得控除額は180万円です(収入金額 × 10% + 1,100,000円)。よって、給与所得は520万円と計算できます(700万円 − 180万円)。
また、基礎控除額は48万円(所得が2,400万円以下)のため、課税所得は472万円(520万円 − 48万円)です。
課税所得から所得税を求める方法
課税所得まで計算できたら、所定の税率をかけてから決められた控除額を引いて、所得税を計算してみましょう。2023年4月1日現在、所得税の税率は以下のとおりです。
たとえば、先ほどの個人事業主のケースでは、課税所得が452万円(3,300,000円から6,949,000円まで)のため、税率20%・控除額427,500円で計算します。計算結果は、以下のとおりです。
所得税 = 課税所得(4,520,000円) × 所得税率(20%)− 427,500円 =476,500円
なお、2037年までは、所得税に加えて復興特別所得税(原則、その年の基準所得税額の2.1%)もかかります。
参考)国税庁「No.2260 所得税の税率」
基礎控除以外の所得控除
基礎控除は、15種類ある所得控除のうちのひとつです。所得控除の種類によって、適用条件・対象者・控除額などが異なるため、所得税額を計算するにあたって違いを理解しておきましょう。
基礎控除以外の所得控除は、以下のとおりです。
各所得控除の概要を簡単に紹介します。
配偶者控除
配偶者控除とは、納税者に「控除対象配偶者」がいる場合に受けられる所得控除のことです。
控除対象配偶者と認められるためには、「民法の規定による配偶者」「納税者と生計を一にしている」などの要件が定められています。また、納税者や控除対象配偶者に対する所得要件も満たさなければなりません。
控除額は、納税者本人の合計所得金額や、「一般の控除対象配偶者」か「老人控除対象配偶者」によって異なります。たとえば、納税者本人の合計所得金額が900万円以下で「一般の控除対象配偶者」に適用する場合、控除額は38万円です。
参考)国税庁「No.1191 配偶者控除」
配偶者特別控除
配偶者特別控除とは、配偶者に48万円超の所得があり配偶者控除を適用できない場合に受けられる可能性のある所得控除のことです。
配偶者特別控除を受ける場合も、配偶者が「民法の規定による配偶者」「控除を受ける人と生計を一にしている」などの要件を満たさなければなりません。また、納税者の対象年における合計所得金額が1,000万円以下であることも控除を受けるための条件です。
控除額は、納税者本人の合計所得金額や配偶者の合計所得金額によって異なります。たとえば、納税者の合計所得が900万円以下で配偶者の合計所得金額が48万円超95万円以下の場合、受けられる控除額は38万円です。
参考)国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
扶養控除
扶養控除とは、納税者に所得税法上の控除対象扶養親族がいる場合に受けられる所得控除のことです。
控除対象扶養親族とは、対象年の12月31日時点で16歳以上の「扶養親族」を指します。扶養親族とは、「配偶者以外の親族」「納税者と生計を一にしている」「合計所得金額が48万円以下」などの要件をすべて満たした人のことです。
控除対象扶養親族は年齢や同居の有無などによって「一般の控除対象扶養親族」「特定扶養親族」「老人扶養親族(同居老親以外)」「老人扶養親族(同居老親など)」に区分されており、それぞれ控除額が異なります。たとえば、一般の控除対象扶養親族の場合の控除額は、38万円です。
参考)国税庁「No.1180 扶養控除」
社会保険料控除
社会保険料控除とは、納税者が自分の社会保険料を支払った場合、自分と生計を一にする配偶者やそのほかの親族が負担すべき社会保険料を支払った場合に受けられる所得控除のことです。
健康保険・国民年金・厚生年金保険・国民健康保険・介護保険・労働保険などで納税者が負担した保険料が、社会保険料控除の対象となります。控除額は、対象年に支払った金額か、給与・公的年金などから差し引かれた金額(全額)です。
参考)国税庁「No.1130 社会保険料控除」
生命保険料控除
生命保険料控除とは、納税者が生命保険・介護医療保険・個人年金保険の保険料を支払った場合に受けられる所得控除のことです。
控除額の計算方法は、加入している保険が新制度・旧制度のどちらに該当するかによって異なります。たとえば、新制度の一般生命保険で支払っている年間保険料が2万円以下の場合、支払保険料の全額が控除対象です。
なお、控除額の上限は、保険の種類ごとに定められています。
参考)国税庁「No.1140 生命保険料控除」
地震保険料控除
地震保険料控除とは、納税者が特定の損害保険契約のうち地震などの損害部分の保険料や掛金を支払った場合に受けられる所得控除のことです。2006年の税制改正に伴い、一部経過措置に該当するケースを除き、火災保険料は所得控除の対象外になりました。
控除額は、年間の支払保険料が5万円以下の場合に支払金額の全額、5万円超の場合に一律5万円です。
参考)国税庁「No.1145 地震保険料控除」
寄附金控除
寄附金控除とは、納税者が特定寄附金を支出した場合に受けられる所得控除のことです。
特定寄附金とは、国・地方公共団体への寄附金や公益社団法人・公益財団法人などに対する寄附金のうち一定の条件を満たすもの、政治活動に関する寄附金のうち一定のものなどを指します。寄附をした人に特別の利益がおよぶものや学校入学に関するものなどは対象外です。
「対象年に支出した特定寄附金の合計額」「対象年の総所得金額などの40%相当額」のいずれか低い金額から2千円引いた額を控除できます。
なお、一部の寄付金については所得控除の代わりに税額控除を選択可能です。
参考)国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」
医療費控除
医療費控除とは、1年間支払った医療費の額が一定額を超えるときに受けられる所得控除のことです。納税者本人、もしくは納税者と生計を一にする配偶者や親族に支払った医療費であることや、対象年の1月1日から12月31日までに払った医療費であることが条件とされています。
控除額は、実際に支払った医療費合計から保険金などで補てんされる金額を引いた額 − 10万円(*)です。最高で200万円まで控除できます。
*総所得金額が200万円未満の場合は、総所得金額 × 5%の額
参考)国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
雑損控除
雑損控除とは、災害・盗難・横領によって資産に損害を受けた場合に受けられる所得控除のことです。対象の資産が納税者や一定の条件を満たす配偶者やそのほかの親族の所有物であることや、棚卸資産・事業用固定資産・「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない場合に控除を受けられます。
控除額は、「(損害金額 + 災害等関連支出の金額 − 保険金等の額)−(総所得金額等)× 10%」「(災害関連支出の金額 − 保険金等の額)− 5万円」のいずれか多い方の額です。
参考)国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
障害者控除
障害者控除とは、納税者本人もしくは同一生計配偶者か扶養親族が所得税法上の障害者に該当する場合に受けられる所得控除のことです。控除額は、対象者が「障害者」「特別障害者」「同居特別障害者」のいずれかに該当するかによって異なります。
障害者は27万円、特別障害者は40万円、同居特別障害者は75万円が受けられる控除額です。
参考)国税庁「No.1160 障害者控除」
勤労学生控除
勤労学生控除とは、納税者が勤労学生である場合に受けられる所得控除のことです。勤労学生とは、対象年の12月31日時点で「給与所得など勤労所得がある」「合計所得金額が75万円以下かつ対象の勤労所得以外の所得が10万円以下」「特定の学校の学生・生徒である」といった3つの要件をすべて満たさなければなりません。
控除額は一律27万円です。
参考)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
ひとり親控除
ひとり親控除とは、納税者がひとり親である場合に受けられる所得控除のことです。
ひとり親とは、原則として12月31日時点で婚姻をしていないもしくは配偶者の生死が明らかでない一定の人を指します。また、ひとり親控除を適用するためには、「事実婚と認められる相手がいない」「生計を一にする子ども(一定の条件を満たす)がいる」「合計所得金額が500万円以下」の3つをすべて満たさなければなりません。
控除額は一律35万円です。
参考)国税庁「No.1171 ひとり親控除」
寡婦控除
寡婦控除とは、納税者が寡婦であるときに受けられる所得控除のことです。
寡婦は原則として対象年の12月31日時点で「ひとり親」に該当しない人を指します。また、「夫と離婚してから婚姻をしておらず扶養親族がいて合計所得金額が500万円以下」「夫と死別してから婚姻をしていないもしくは夫の生死が明らかでない一定の人で合計所得金額が500万円以下」のいずれかを満たさなければなりません。
2020年以降、控除額は一律27万円です。
参考)国税庁「No.1170 寡婦控除」
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除とは、小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金を支払った場合に受けられる所得控除のことです。小規模企業共済法の規定で独立行政法人中小企業基盤整備機構と締結した共済契約の掛金や、確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金・個人型年金加入者掛金などが対象となります。
控除額は対象年に支払った掛金の全額です。
参考)国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」
基礎控除の適用を忘れていた場合
確定申告後に、個人事業主が基礎控除の適用を失念していたことに気づいた場合は、更正の請求書を税務署に提出することにより、対応できます。更正請求できる期限は、確定申告の期限から5年以内です。
会社員で年末調整している場合は、まず失念を気づいた段階で勤務先の所管部署に伝えましょう。すでに関係書類が税務署に提出されている場合でも、還付申告することにより対応できます。還付申告可能な期間は、その年の翌年1月1日から5年間です。
参考)国税庁「【申告が間違っていた場合】」
参考)国税庁「No.2030 還付申告」
基礎控除まとめ
基礎控除とは、すべての納税者を対象に無条件で一定の額を引ける所得控除を指します。たとえば、合計所得金額が2,400万円以下の場合の控除額は、48万円です。
確定申告で基礎控除を適用する場合は、「確定申告書第一表」の該当箇所へ記入しなければなりません。また、年末調整の場合は、「給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」の所定欄に記入します。
納税額を左右するため、所得税の計算をする際は基礎控除を失念しないようにしましょう。