更新日:2025年11月19日
「給与所得控除」は、経営者が従業員の正確な給与計算や年末調整を実施するうえで、最も基本的な仕組みの一つです。2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除の最低保障額の引き上げ、基礎控除や扶養親族の所得要件の見直し、特定親族特別控除の創設といった、多岐にわたる変更が盛り込まれました。これらの改正は、年末調整の実務に直結するものばかりです。特に、各種控除の拡充による実質的な「年収の壁」の引き上げは、従業員の採用・維持戦略にも影響を与えかねません。本記事では、これらの法改正の全体像を正確に把握し、迫りくる年末調整業務に向けて万全の準備を進めるための実務的なポイントを解説します。給与所得控除の基本的な知識を確認したうえで、令和7年分以後の改正点と計算方法、そして年末調整業務において注意すべきポイントを押さえましょう。
目次
給与所得控除とは、会社員やアルバイトなどの給与所得者が受けられる、所得から一定の金額を控除する制度のことです。給与所得者は、事業所得者のように収入から経費を差し引けません。そこで、経費分として収入に応じて控除されるのが、給与所得控除です。
給与所得控除は、給与収入に対して適用される控除です。事業所得者が収入から必要経費を差し引くのと同様、給与所得者も給与収入から一定額を控除する仕組みです。
給与所得控除により、給与所得者は実質的に必要経費を差し引いた形で所得が計算され、税負担が軽減されます。給与所得者にとって、給与所得控除は節税の観点から重要な仕組みの一つです。
給与収入とは、いわゆる年収を指し、給与や賞与に加え休日出勤手当や残業代など、労働の対価として会社から支払われるすべての金額を含みます。また、自社製品の無料提供など、現物支給(現物給与)も給与収入に含まれます。
一方、給与所得は給与収入から給与所得控除を差し引いた金額です。つまり、給与収入と給与所得の違いは、給与所得控除が適用されているかどうかにあります。
給与所得控除の対象となる「給与収入」ですが、すべての手当が含まれるわけではありません。例えば、通勤手当は月額10万円以下のものは対象外です。また、転勤や出張などの旅費も、通常必要と認められるものは給与収入に含まれません。
その他、宿直や日直手当のうち一定金額以下のものや、社内規定に準じて支払われる慶弔金なども、給与収入の対象外です。
給与所得控除と所得控除は、似た名称ですが、まったく異なる制度です。給与所得控除は、会社員などが受けられる控除で、仕事に必要な経費を考慮しています。
一方、所得控除は個人的事情に応じて税負担を軽減する制度です。例えば、医療費控除や生命保険料控除など、個人の事情に応じて所得から控除されます。このように、所得控除は、納税者の税負担を公平にするための制度といえるでしょう。
源泉徴収票とは、会社が支払った給与や賞与、そして天引きされた所得税や社会保険料などの詳細を記載した書類です。企業は従業員の年間収入が確定した翌年1月31日までに交付する義務があり、退職者には退職後1か月以内に交付されます。
この書類には、支払われた金額から給与所得控除を差し引いた「給与所得控除後の金額」も記載されています。源泉徴収票は、税金や社会保険料の内訳を確認するための重要な書類であり、確定申告や各種手続きで必要です。
2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除をはじめ、経営者が従業員の給与計算や年末調整をするうえで見逃せない重要な変更が盛り込まれています。
特に給与所得控除の最低保障額の引き上げは、一部の従業員の所得税額に影響を及ぼします。経営者として、改正点と適切に業務を遂行するためのポイントを把握しましょう。
2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除の最低保障額が引き上げられました。具体的には、給与収入が190万円以下の方に適用される最低保障額が55万円から65万円へ10万円引き上げられます。
一方、190万円を超える給与所得者については、従来の控除計算式に変更はありません。
この改正は、特にパートやアルバイトとして働く従業員、いわゆる「年収の壁」を意識する層にとって影響が大きく、所得税の負担が軽減されるケースもあります。
改正前後の給与所得控除額の比較と計算式は、以下のとおりです。
この改正にともない、令和7年分以後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」や、令和8年分以後の「源泉徴収税額表」も改正されます。
参考)国税庁|令和7年度税制改正による 所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)
給与所得控除額は、従業員の給与等の収入金額(額面)に応じて、以下の計算式に当てはめて算出します。
例えば、給与収入が190万円以下の場合、控除額は65万円です。収入がそれ以上の場合、上記表の計算式に当てはめて控除額を算出します。
例として、年間の給与収入が500万円の場合を考えてみましょう。この金額は、給与所得控除の計算表において、360万円超660万円以下の区分に該当します。計算式に当てはめると、給与所得控除額は以下のとおりになります。
給与所得控除:5,000,000円✕20%+440,000円=1,440,000円
給与収入500万円から給与所得控除を差し引いた金額は、356万円になります。
給与収入が660万円未満の従業員については、国税庁のウェブサイトで公表されている「令和7年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を確認すると、控除後の金額を容易に算出できます。
参考)国税庁|令和7年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表
今回の給与所得控除の改正は、賃上げと人手不足の解消という国策的な背景のもと、社会保険や所得税の扶養要件をめぐる「年収の壁」問題に直接影響を与えます。
給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に、そして基礎控除が48万円から58万円に引き上げられた結果、所得税・住民税の税制上の非課税ラインと扶養の判定基準が以下のように変動しました。
これは、給与所得控除(最低65万円)と基礎控除(最低58万円)の合計により算出されるものです。
さらに、これらの控除額の変更にともない、納税者(従業員本人)が配偶者控除・配偶者特別控除を受けられる配偶者の年収上限も変更されました。
これらの「壁」の引き上げは、主に扶養内で働く従業員、特に配偶者などの就業調整(働き控え)を緩和し、より長くより多く働いてもらいやすくすることを目的としています。
年末調整時に従業員から扶養に関する質問や相談が急増すると予想されるため、この新しい控除基準と年収のボーダーラインを正確に把握し、対応できる準備が経営者にとって不可欠です。
2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除以外にも、年末調整業務に影響を与える重要な変更点があります。特に、基礎控除の引き上げや特定親族特別控除の創設は、年末調整業務の準備段階で確認すべきポイントです。
2025年(令和7年)の税制改正では、すべての納税者に適用される基礎控除額についても見直されました。これは、給与所得控除の改正と並行して、特定の所得水準以下の層に対し、税負担のさらなる軽減を図るものです。
改正後の基礎控除は、合計所得金額に応じて控除額が変動する仕組みとなりました。基本となる控除額58万円をベースに、一定所得以下の層には上乗せの加算措置が講じられます。具体的には、合計所得金額が132万円以下の納税者の場合、基礎控除額は最大で95万円となり、改正前の48万円から大幅に拡充されました。
この段階的な引き上げ措置は、主にパートやアルバイトなどの低所得層から中所得層にかけての所得税・住民税の負担軽減を目的としています。
参考)国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
「働き控え」による人手不足の解消や、教育費負担の軽減を目的として、新たに「特定親族特別控除」が創設されました。この控除は、一定の要件を満たす19歳以上23歳未満の親族(大学生など)を扶養している納税者に対して適用される制度です。
特定親族本人の所得に応じて、納税者の所得から控除できる金額が段階的に設定されています。これにより、大学生などがアルバイトで収入を得ても扶養を外れにくくなり、「働き控え」の抑制が期待されています。
特定親族の主な要件は以下のとおりです。
この新制度により、該当する親族を扶養している従業員については、年末調整時の申告内容が変更となる可能性があります。
基礎控除額の引き上げにともない、扶養親族などの所得要件も改正されました。これにより、これまでよりも高い所得金額まで扶養対象となるケースが増えます。
※「合計所得金額」に基づく要件です。給与収入のみの場合、扶養親族の年収ベースでは123万円程度が目安となります。
この改正は、従業員からの扶養に関する申告内容に直接影響するため、年末調整の準備においては、特に注意が必要です。
今回の税制改正は、2025年(令和7年)に実施する年末調整業務に大きく関わります。特に、基礎控除の引き上げや新設された特定親族特別控除により、扶養関係の確認作業が例年以上に重要になります。
経営者や給与担当者は、以下のポイントを押さえて円滑に対応しましょう。
年末調整の準備を始める前に、法改正の内容を従業員に周知することが大切です。
まずは、扶養対象者の追加・変更の確認を促しましょう。
「特定親族特別控除」の創設により、これまでは扶養対象とならなかった親族が新たに対象となる可能性があります。従業員に対し、自身の家族構成と所得状況を調べ、申告の変更要否について個別に確認を求める必要があります。
また、「年収の壁」に関する情報提供も重要です。パートで働く配偶者などがいる従業員に対して、所得税・住民税の年収の壁が引き上げられたことを案内し、誤解が生じないように情報を提供するのが望ましいです。
改正点を踏まえたうえで、控除額を正しく計算する必要があります。
従業員から提出される申告書に基づき、「特定親族特別控除」の適用要件を満たしているかも確認しましょう。税制改正に伴い、源泉徴収簿を使用する場合、特定親族特別控除額などは以下の例のように余白部分に記載します。
給与所得控除や基礎控除の改正、新設された特定親族特別控除など、変更点が多い2025年の年末調整業務は、例年以上に時間がかかる可能性があります。
従業員への周知、申告書の回収、給与計算システムのアップデートなど、作業がスムーズに進むよう早めに準備を進めるのが賢明です。
また、年末調整業務に給与計算ソフトや人事労務システムなどを活用している場合は、システム提供元に問い合わせ、法改正の内容が正しく反映されているかを確認し、速やかにアップデートする必要があるでしょう。
給与所得者には、通常の給与所得控除に加えて、「特定支出控除」という制度が用意されています。この制度は、職務遂行に直接関わる個人負担の経費を、一定の条件下で所得から控除できるものです。
特定支出控除の適用を受けるには、職務関連の特定支出の総額が一定の基準額を上回る必要があり、その超過分が特定支出控除の対象となります。一定の基準額とは、その年の給与所得控除額の半分を超える金額です。
例えば、給与所得控除額が200万円の場合、特定支出が100万円を超えていれば、100万円を超えた金額に対して控除を申請できます。
控除の対象となる経費は、以下の7つです。
これらの支出の合計額が、特定支出控除額の適用判定の基準となる金額を超えた場合、確定申告をすることで超過分を特定支出控除にできます。
2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除をはじめとする多くの項目が変更されました。基礎控除の改正や特定親族特別控除の創設など、年末調整業務に直結する重要な変更点もあります。
給与所得控除の最低保障額の引き上げは、特に低所得層の従業員の所得に影響を及ぼし、それにともなう「年収の壁」の変動は、従業員の働き方にも関わってきます。経営者としては、これらの複雑な法改正を正確に理解することが重要です。従業員への適切な情報提供とシステムへの反映を滞りなく実施することが、信頼される組織運営の基盤となります。
年末調整業務のポイントとしてご紹介したとおり、今回の改正は例年以上に確認事項が多く、準備を早めに進める必要があります。給与計算ソフトのアップデートや、従業員への周知を徹底し、正確かつ円滑な年末調整を目指しましょう。
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「給与所得控除」は、経営者が従業員の正確な給与計算や年末調整を実施するうえで、最も基本的な仕組みの一つです。2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除の最低保障額の引き上げ、基礎控除や扶養親族の所得要件の見直し、特定親族特別控除の創設といった、多岐にわたる変更が盛り込まれました。これらの改正は、年末調整の実務に直結するものばかりです。特に、各種控除の拡充による実質的な「年収の壁」の引き上げは、従業員の採用・維持戦略にも影響を与えかねません。本記事では、これらの法改正の全体像を正確に把握し、迫りくる年末調整業務に向けて万全の準備を進めるための実務的なポイントを解説します。給与所得控除の基本的な知識を確認したうえで、令和7年分以後の改正点と計算方法、そして年末調整業務において注意すべきポイントを押さえましょう。
目次
給与所得控除とは
給与所得控除とは、会社員やアルバイトなどの給与所得者が受けられる、所得から一定の金額を控除する制度のことです。給与所得者は、事業所得者のように収入から経費を差し引けません。そこで、経費分として収入に応じて控除されるのが、給与所得控除です。
給与所得控除の対象は「給与収入」
給与所得控除は、給与収入に対して適用される控除です。事業所得者が収入から必要経費を差し引くのと同様、給与所得者も給与収入から一定額を控除する仕組みです。
給与所得控除により、給与所得者は実質的に必要経費を差し引いた形で所得が計算され、税負担が軽減されます。給与所得者にとって、給与所得控除は節税の観点から重要な仕組みの一つです。
給与収入と給与所得との違い
給与収入とは、いわゆる年収を指し、給与や賞与に加え休日出勤手当や残業代など、労働の対価として会社から支払われるすべての金額を含みます。また、自社製品の無料提供など、現物支給(現物給与)も給与収入に含まれます。
一方、給与所得は給与収入から給与所得控除を差し引いた金額です。つまり、給与収入と給与所得の違いは、給与所得控除が適用されているかどうかにあります。
給与収入に含まれないもの
給与所得控除の対象となる「給与収入」ですが、すべての手当が含まれるわけではありません。例えば、通勤手当は月額10万円以下のものは対象外です。また、転勤や出張などの旅費も、通常必要と認められるものは給与収入に含まれません。
その他、宿直や日直手当のうち一定金額以下のものや、社内規定に準じて支払われる慶弔金なども、給与収入の対象外です。
「給与所得控除」と「所得控除」の違い
給与所得控除と所得控除は、似た名称ですが、まったく異なる制度です。給与所得控除は、会社員などが受けられる控除で、仕事に必要な経費を考慮しています。
一方、所得控除は個人的事情に応じて税負担を軽減する制度です。例えば、医療費控除や生命保険料控除など、個人の事情に応じて所得から控除されます。このように、所得控除は、納税者の税負担を公平にするための制度といえるでしょう。
そもそも「源泉徴収票」とは
源泉徴収票とは、会社が支払った給与や賞与、そして天引きされた所得税や社会保険料などの詳細を記載した書類です。企業は従業員の年間収入が確定した翌年1月31日までに交付する義務があり、退職者には退職後1か月以内に交付されます。
この書類には、支払われた金額から給与所得控除を差し引いた「給与所得控除後の金額」も記載されています。源泉徴収票は、税金や社会保険料の内訳を確認するための重要な書類であり、確定申告や各種手続きで必要です。
2025年(令和7年)給与所得控除の改正点と計算方法
2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除をはじめ、経営者が従業員の給与計算や年末調整をするうえで見逃せない重要な変更が盛り込まれています。
特に給与所得控除の最低保障額の引き上げは、一部の従業員の所得税額に影響を及ぼします。経営者として、改正点と適切に業務を遂行するためのポイントを把握しましょう。
給与所得控除の改正点
2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除の最低保障額が引き上げられました。具体的には、給与収入が190万円以下の方に適用される最低保障額が55万円から65万円へ10万円引き上げられます。
一方、190万円を超える給与所得者については、従来の控除計算式に変更はありません。
この改正は、特にパートやアルバイトとして働く従業員、いわゆる「年収の壁」を意識する層にとって影響が大きく、所得税の負担が軽減されるケースもあります。
改正前後の給与所得控除額の比較と計算式は、以下のとおりです。
この改正にともない、令和7年分以後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」や、令和8年分以後の「源泉徴収税額表」も改正されます。
参考)国税庁|令和7年度税制改正による 所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)
給与所得控除額の計算方法
給与所得控除額は、従業員の給与等の収入金額(額面)に応じて、以下の計算式に当てはめて算出します。
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
例えば、給与収入が190万円以下の場合、控除額は65万円です。収入がそれ以上の場合、上記表の計算式に当てはめて控除額を算出します。
例として、年間の給与収入が500万円の場合を考えてみましょう。この金額は、給与所得控除の計算表において、360万円超660万円以下の区分に該当します。計算式に当てはめると、給与所得控除額は以下のとおりになります。
給与所得控除:5,000,000円✕20%+440,000円=1,440,000円
給与収入500万円から給与所得控除を差し引いた金額は、356万円になります。
給与収入が660万円未満の従業員については、国税庁のウェブサイトで公表されている「令和7年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を確認すると、控除後の金額を容易に算出できます。
参考)国税庁|令和7年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表
2025年(令和7年)税制改正と「年収の壁」の関係性
今回の給与所得控除の改正は、賃上げと人手不足の解消という国策的な背景のもと、社会保険や所得税の扶養要件をめぐる「年収の壁」問題に直接影響を与えます。
給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に、そして基礎控除が48万円から58万円に引き上げられた結果、所得税・住民税の税制上の非課税ラインと扶養の判定基準が以下のように変動しました。
これは、給与所得控除(最低65万円)と基礎控除(最低58万円)の合計により算出されるものです。
さらに、これらの控除額の変更にともない、納税者(従業員本人)が配偶者控除・配偶者特別控除を受けられる配偶者の年収上限も変更されました。
これらの「壁」の引き上げは、主に扶養内で働く従業員、特に配偶者などの就業調整(働き控え)を緩和し、より長くより多く働いてもらいやすくすることを目的としています。
年末調整時に従業員から扶養に関する質問や相談が急増すると予想されるため、この新しい控除基準と年収のボーダーラインを正確に把握し、対応できる準備が経営者にとって不可欠です。
2025年(令和7年)税制改正┃給与所得控除以外の変更点
2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除以外にも、年末調整業務に影響を与える重要な変更点があります。特に、基礎控除の引き上げや特定親族特別控除の創設は、年末調整業務の準備段階で確認すべきポイントです。
基礎控除額の段階的な引き上げ
2025年(令和7年)の税制改正では、すべての納税者に適用される基礎控除額についても見直されました。これは、給与所得控除の改正と並行して、特定の所得水準以下の層に対し、税負担のさらなる軽減を図るものです。
改正後の基礎控除は、合計所得金額に応じて控除額が変動する仕組みとなりました。基本となる控除額58万円をベースに、一定所得以下の層には上乗せの加算措置が講じられます。具体的には、合計所得金額が132万円以下の納税者の場合、基礎控除額は最大で95万円となり、改正前の48万円から大幅に拡充されました。
この段階的な引き上げ措置は、主にパートやアルバイトなどの低所得層から中所得層にかけての所得税・住民税の負担軽減を目的としています。
参考)国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
特定親族特別控除の創設
「働き控え」による人手不足の解消や、教育費負担の軽減を目的として、新たに「特定親族特別控除」が創設されました。この控除は、一定の要件を満たす19歳以上23歳未満の親族(大学生など)を扶養している納税者に対して適用される制度です。
特定親族本人の所得に応じて、納税者の所得から控除できる金額が段階的に設定されています。これにより、大学生などがアルバイトで収入を得ても扶養を外れにくくなり、「働き控え」の抑制が期待されています。
特定親族の主な要件は以下のとおりです。
この新制度により、該当する親族を扶養している従業員については、年末調整時の申告内容が変更となる可能性があります。
参考)国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
基礎控除改正にともなう扶養親族等の所得要件の改正
基礎控除額の引き上げにともない、扶養親族などの所得要件も改正されました。これにより、これまでよりも高い所得金額まで扶養対象となるケースが増えます。
※「合計所得金額」に基づく要件です。給与収入のみの場合、扶養親族の年収ベースでは123万円程度が目安となります。
この改正は、従業員からの扶養に関する申告内容に直接影響するため、年末調整の準備においては、特に注意が必要です。
参考)国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
2025年(令和7年)年末調整業務のポイント
今回の税制改正は、2025年(令和7年)に実施する年末調整業務に大きく関わります。特に、基礎控除の引き上げや新設された特定親族特別控除により、扶養関係の確認作業が例年以上に重要になります。
経営者や給与担当者は、以下のポイントを押さえて円滑に対応しましょう。
法改正の内容を従業員に案内する
年末調整の準備を始める前に、法改正の内容を従業員に周知することが大切です。
まずは、扶養対象者の追加・変更の確認を促しましょう。
「特定親族特別控除」の創設により、これまでは扶養対象とならなかった親族が新たに対象となる可能性があります。従業員に対し、自身の家族構成と所得状況を調べ、申告の変更要否について個別に確認を求める必要があります。
また、「年収の壁」に関する情報提供も重要です。パートで働く配偶者などがいる従業員に対して、所得税・住民税の年収の壁が引き上げられたことを案内し、誤解が生じないように情報を提供するのが望ましいです。
控除額の計算ミスや記入もれに留意する
改正点を踏まえたうえで、控除額を正しく計算する必要があります。
従業員から提出される申告書に基づき、「特定親族特別控除」の適用要件を満たしているかも確認しましょう。税制改正に伴い、源泉徴収簿を使用する場合、特定親族特別控除額などは以下の例のように余白部分に記載します。
年末調整の準備は早めに進める
給与所得控除や基礎控除の改正、新設された特定親族特別控除など、変更点が多い2025年の年末調整業務は、例年以上に時間がかかる可能性があります。
従業員への周知、申告書の回収、給与計算システムのアップデートなど、作業がスムーズに進むよう早めに準備を進めるのが賢明です。
また、年末調整業務に給与計算ソフトや人事労務システムなどを活用している場合は、システム提供元に問い合わせ、法改正の内容が正しく反映されているかを確認し、速やかにアップデートする必要があるでしょう。
給与所得者の特定支出控除とは
給与所得者には、通常の給与所得控除に加えて、「特定支出控除」という制度が用意されています。この制度は、職務遂行に直接関わる個人負担の経費を、一定の条件下で所得から控除できるものです。
特定支出控除の適用を受けるには、職務関連の特定支出の総額が一定の基準額を上回る必要があり、その超過分が特定支出控除の対象となります。一定の基準額とは、その年の給与所得控除額の半分を超える金額です。
例えば、給与所得控除額が200万円の場合、特定支出が100万円を超えていれば、100万円を超えた金額に対して控除を申請できます。
控除の対象となる経費は、以下の7つです。
これらの支出の合計額が、特定支出控除額の適用判定の基準となる金額を超えた場合、確定申告をすることで超過分を特定支出控除にできます。
給与所得控除まとめ
2025年(令和7年)の税制改正では、給与所得控除をはじめとする多くの項目が変更されました。基礎控除の改正や特定親族特別控除の創設など、年末調整業務に直結する重要な変更点もあります。
給与所得控除の最低保障額の引き上げは、特に低所得層の従業員の所得に影響を及ぼし、それにともなう「年収の壁」の変動は、従業員の働き方にも関わってきます。経営者としては、これらの複雑な法改正を正確に理解することが重要です。従業員への適切な情報提供とシステムへの反映を滞りなく実施することが、信頼される組織運営の基盤となります。
年末調整業務のポイントとしてご紹介したとおり、今回の改正は例年以上に確認事項が多く、準備を早めに進める必要があります。給与計算ソフトのアップデートや、従業員への周知を徹底し、正確かつ円滑な年末調整を目指しましょう。