更新日:2024年12月02日
退職金は、年末調整の対象にはなりません。所得税法上「退職所得」として分類されるためです。年末調整は主に「給与所得」を対象とする手続きであり、給与や賞与が対象となりますが、退職金は含まれません。そのため、退職金に関しては会社が個別に税額を計算し、所得税および住民税を徴収する形になります。本記事では、退職金に関する税金の取り扱いや、会社がすべき手続きについて解説します。
目次
退職金が年末調整の対象外となる理由は、所得税法による分類にあります。所得税法では、所得を10種類に分けており、退職金は「退職所得」として分類されます。
年末調整の対象は、給与や賞与などの「給与所得」に限られており、退職金は「給与所得」ではないため、年末調整には含まれません。
退職所得には、給与やボーナスとは異なる税計算の方法が適用されるため、会社は退職金については別途で税金を計算します。また、退職者そのものが年末調整の対象外となる点にも留意しましょう。
年末調整とは、従業員が1年間に受け取った給与に対して、過剰に支払われた税金を還付し、不足している税金を精算する手続きです。
毎月の給与から源泉徴収される所得税は、収入が年間を通じて一定と仮定し、計算されます。しかし、実際にはボーナスの変動や扶養家族の変更などで、年間の収入額が変わることもあります。
そのため、年末に1年間の収入や控除を確定させ、払いすぎた税金は還付し、不足している場合は追加で納税しなければなりません。この精算が年末調整であり、正確な納税額を確定するために重要な役割を果たしています。
退職金を受け取る際、年末調整は不要ですが「所得税」と「住民税」が課されます。
所得税は、毎年1月1日から12月31日までの所得に対して課税され、退職金も対象です。また、2037年まで「復興特別所得税」が所得税に加算されます。これは、東日本大震災の復興を目的としています。
住民税は、1月1日時点で住んでいる都道府県や市町村に納める地方税で、「道府県民税」と「市町村民税」を合わせた税金です。住民税には均等割と所得割の2種類があり、均等割は全員に課される固定額、所得割は前年の所得にもとづいて計算されます。
参考)国税庁「退職金と税」
退職金にかかる税金は、退職金から退職所得控除額を差し引いた後の金額の半分を課税対象として計算します。ここでは、退職金にかかる税金の計算方法について解説します。
退職所得の計算方法は、収入金額から退職所得控除額を引いた後、その半額を課税対象とします。具体的な式は、以下のとおりです。
【退職所得の金額の計算方法】
退職所得控除額は勤続年数によって異なり、以下のように計算します。
なお、勤続年数の端数は1年に切り上げられるため、実際の計算時には注意が必要です。
障害者になったことが直接の理由で退職した場合、通常の控除額に100万円が加算されます。
退職金は「退職所得」という所得区分に分類され、他の所得とは切り離して計算される分離課税の対象です。退職所得には、会社から支給される退職手当や社会保険からの一時金に加えて、生命保険や信託会社からの一時金も含まれます。
計算は、前述の計算で求めた「退職所得」に税率をかけ、控除額を差し引きます。
【所得税の計算式】
退職金の所得税額と復興特別所得税の計算方法は、以下のとおりです。
【所得税の税率】
退職所得金額が確定した後「所得税の速算表」を参照し、「A課税退職所得金額」に該当する「B税率」と「C控除額」を割り出します。求める税額の計算式は、以下のようになります。
※1円未満の端数は切り捨て
住民税は、納税者が等しく支払う「均等割」と、前年の総所得をもとに計算される「所得割」の2つで構成されています。退職金に対する住民税は、他の所得とは別に計算される分離課税の対象です。
課税退職所得金額は、所得税と同じ計算方式を使用して求めます。所得割の税率は、道府県民税が4%、市町村民税が6%で、合計すると10%となります。
退職金が非課税になるケースとは、退職所得がゼロまたはマイナスとなる状況を指します。退職所得は、退職金から退職所得控除額を引いた金額です。
たとえば、勤続年数が長く、退職金が比較的少ない場合などが考えられます。退職所得が非課税になるかどうかは、退職金の額と勤続年数によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
退職金の支給は、従業員の長年の貢献に報いる重要な機会でもあります。単に支払うだけでなく、適切な手続きを踏むことまでが会社側の責任です。退職金に関する手続きは、税務上の取り扱いや法的要件を満たす必要があり、慎重に対応することが求められます。ここでは、退職金支給時に会社がすべき主な手続きについて解説します。
退職金を支払う際には、従業員に「退職所得の受給に関する申告書」を記入・提出してもらうことが必要です。申告書が提出されない場合、退職金は一律で20.42%の税率が適用され、税額が高くなってしまいます。
その結果、退職者の税金が払いすぎとなり、退職者にとって不要な確定申告が必要となるケースが発生することもあるため、本人へ提出を促すことが必要です。提出がなされない場合には、退職金支給額から特別徴収もしなければなりません。
一方、申告書が提出された場合には、退職金に適切な税率が適用され、従業員が税金を過剰に納めなければならないリスクを避けられます。
退職金を支給する際には、まず退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取ります。そして、退職金に対して源泉徴収をしなければなりません。この手続きを適切に行うことで、退職者は退職金に関する税務手続きが完了するため、確定申告の手間を省けます。
源泉徴収した税金は原則として翌月10日までに納付しなければなりません。また、退職金に対して住民税が発生する場合は、特別徴収納入書・申告書に必要事項を記入し、徴収した住民税を市区町村に翌月10日までに納付します。
退職金を支給した際、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を作成し、退職後1ヶ月以内に退職者へ交付する義務があります。
「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」は、退職金の金額と、源泉徴収した所得税の金額を証明するための重要な法定調書です。
給与所得と退職所得は税計算が異なるため、「給与所得の源泉徴収票」とは別に作成する必要があります。忘れずに発行するようにしましょう。
退職所得の源泉徴収票は、退職金の支払に関する重要な書類です。しかし、その作成や取り扱いには注意すべき点がいくつかあります。ここでは、退職所得の源泉徴収票に関する主な注意点をいくつか紹介します。
退職所得の源泉徴収票を退職者に交付する際、マイナンバーを記載してはいけません。個人情報の保護を目的とするためです。一方、税務署や市区町村への提出用には、退職者と支払者のマイナンバー(法人の場合は法人番号)を記入する必要があります。
同じ要領で作成しないよう、十分に確認しましょう。マイナンバーの取り扱いには細心の注意を払い、適切な管理を心がけることが重要です。
退職所得控除を計算する際の勤続年数は、同一企業での継続勤務期間が基本です。この期間には、欠勤や病気による長期休職も含まれます。
契約社員から正社員への転換があった場合、退職手当の計算と退職所得控除の計算で異なる点があるため注意しなければなりません。退職所得控除では、実際の勤務期間全体を考慮することから、契約社員時代も勤続年数に含まれます。
さらに、勤続期間が1年未満の場合は、原則として1年に切り上げて計算されます。勤続年数は所得税や住民税の計算にも影響するため、正確な把握が重要です。退職金の税金計算を適切に行うためにも、これらの点に注意しましょう。
退職所得の課税において、通常は「(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2」の計算式が適用されます。しかし、勤続年数が5年以下の場合、この2分の1課税が適用されないケースもあるため注意が必要です。
具体的には、以下の2つのケースが該当します。まず、勤続年数5年以下の役員等に支払われる「特定役員退職手当等」です。次に、勤続年数5年以下の従業員に支払われる「短期退職手当等」から退職所得控除額を差し引いた額のうち、300万円を超える部分です。
このような場合、税額計算のベースとなる退職所得の額が変わるため、退職金の税金が通常より高くなる可能性があります。特に勤続年数の短い人が退職する際は、計算方法の違いに注意しましょう。
退職所得の源泉徴収票を作成する際には、他社から支給された退職金との重複に注意が必要です。自社の退職手当の支払日前に、他の一時金が支給されている場合、それらも考慮に入れて源泉徴収税額を計算する必要があります。
具体的には、企業の退職金制度にもとづく退職金に加え、社会保険制度によって支給される一時金や企業型確定拠出年金(企業型DC)、個人型確定拠出年金(iDeCo)の老齢給付金も退職所得として扱われます。
また、退職者から提出された「退職所得の受給に関する申告書」のC欄(前年以前4年内に退職手当等の支払を受けたことがある場合)に記載があるか確認し、他の退職所得がある際には適切に対処することが重要です。
退職金を支払った際、退職者が確定申告をした方が良いケースもあります。退職金は、通常の給与とは異なる税制が適用されるため、適切な手続きを怠ると過剰な税金が徴収される可能性もあります。
特に、年の途中での退職や、年末調整で申告していない控除がある場合には注意が必要です。これらのケースでは、退職者自身が確定申告を通じて正確な税額を計算し、払いすぎた税金を取り戻せます。
それでは、具体的なケースについて詳しく見ていきましょう。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出せずに退職金を受け取った場合、支給総額に対して一律で20.42%の所得税および復興特別所得税が差し引かれます。一方、申告書を提出している場合には、通常、税額は申告書を提出していない場合よりも少ないです。そのため、確定申告をすることにより、過剰に徴収された税金が還付される可能性があります。
退職者が確定申告をする際には、退職先から発行された「退職所得の源泉徴収票」をもとに正確に申告をすることが大切です。これにより、正しい税額で計算され、払いすぎた税金の返還を受けられます。
年の途中で退職して年末調整を受けていない場合、所得税の過剰支払に注意が必要です。
給与から毎月差し引かれる源泉徴収税は概算額のため、本来は年末調整で正確な税額に調整されます。しかし、年末調整が行われないと精算されず、過剰に納めた税金が返還されない可能性があるため、退職者にその旨を伝えるようにしましょう。
このような場合、「退職所得の源泉徴収票」をもとに確定申告することで、過剰に支払った所得税を取り戻せるでしょう。
年末調整で申告していない控除がある場合、確定申告をすることで税金の還付を受けられる可能性があります。年末調整で申告を忘れた控除や、そもそも年末調整では適用できない控除がある場合です。たとえば、医療費控除や寄付金控除などは年末調整では対応できません。
そのため、確定申告をし、これらの控除を適用することで払いすぎた税金を取り戻せます。確定申告の際には、前年度の給与明細や源泉徴収票を確認し、退職者に申告漏れがないよう伝えるようにしましょう。
退職金を受け取った後、多くの場合は源泉徴収で課税関係が完了します。ただし、特定の状況下では確定申告が必要です。
確定申告が必要かどうかは、退職金以外の所得や年金受給状況によって異なります。確定申告が必要となる主なケースは以下のとおりです。
適切な対応をすることで不要な税務トラブルを避け、場合によっては税金の還付を受けられる可能性もあるため、その旨を退職者に伝えておくようにしましょう。
公的年金を受給している退職者は、「公的年金等に関連する雑所得以外の所得」が20万円を超える場合、確定申告が必要です。
ここでの「公的年金等に関連する雑所得以外の所得」には、以下が含まれます。
年金受給者は所得状況を把握し、必要に応じて確定申告をしなければなりません。
年金を受け取っている退職者で、「公的年金等」の年間収入が400万円を超える場合、確定申告が必要です。退職者は、退職金を受け取った際、その金額も確定申告書に記載しなければなりません。
「公的年金等」には、以下のものが含まれます。
なお、生命保険会社の個人年金保険は対象外です。
退職後に自営業者やフリーランスになった場合、確定申告が必要です。事業の内容によっては、給与所得や退職所得に加えて、雑所得や事業所得が発生することもあります。
年末調整や源泉徴収によって給与所得や退職所得にかかる税金の精算が済んでいても、他の所得に対しては別途、納税額を確定して納付しなければなりません。
また、赤字で納税が不要な場合でも、確定申告にはメリットがあります。たとえば、源泉徴収された税金の一部が還付される可能性もあります。さらに、青色申告を選択することで、翌年以降の税金計算が有利になるでしょう。
退職金を支給する際は、いくつかの注意点があります。
まず、退職金は年末調整の対象外です。ただし、会社側には退職者への源泉徴収票交付が義務付けられています。退職後1ヶ月以内に源泉徴収票を発行する必要があるため、担当者は期限を守りましょう。
次に、退職金からは原則として住民税も天引きされます。支給額から控除されるため、翌年の住民税納税額への影響はありません。ただし、退職者が転職や無職の状況によって納付方法が変わる点について退職者へ注意を促すようにしましょう。
最後に、退職者への確定申告の周知も重要です。年末調整をしない場合や「退職所得の受給に関する申告書」未提出の場合には、その周知が一層求められます。確定申告の期限は例年2月16日から3月15日までであり、期限を過ぎると罰則のリスクがあります。
また、確定申告には源泉徴収票が不可欠です。退職者に対し、紛失しないよう源泉徴収票の重要性を伝えましょう。これらの点に留意することで、退職金に関する税務処理をスムーズに進められます。
退職金は、従業員が退職時に受け取る重要な手当ですが、年末調整の対象にはなりません。これは、退職金が「退職所得」として分類され、年末調整が対象とする「給与所得」とは異なるためです。そのため、退職金は別途、税務処理をしなければなりません。また、「所得税」と「住民税」も課されます。
退職所得の計算は、退職金から退職所得控除額を差し引いた後、その半額に税率をかける方法です。退職所得控除は勤続年数によって異なり、退職金の受給額や勤続年数によっては、非課税になることもあります。
会社は退職金の支給に際し、従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取る必要があります。この申告書が提出されない場合、高い税率が適用されるため、税金の過剰納付を防ぐためにも重要です。また、源泉徴収を行い、源泉徴収票を発行することも義務付けられています。
退職金は、退職者にとって大きな金額でもあるため、会社側には税務処理の知識が必要です。適切な手続きを踏むことで、退職者の負担を軽減できるだけでなく、会社としても法令遵守を図れます。退職金に関する理解を深めることで、退職者とともにスムーズで円満な退職プロセスを実現しましょう。
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退職金は、年末調整の対象にはなりません。所得税法上「退職所得」として分類されるためです。年末調整は主に「給与所得」を対象とする手続きであり、給与や賞与が対象となりますが、退職金は含まれません。そのため、退職金に関しては会社が個別に税額を計算し、所得税および住民税を徴収する形になります。本記事では、退職金に関する税金の取り扱いや、会社がすべき手続きについて解説します。
目次
退職金が年末調整の対象にならない理由
退職金が年末調整の対象外となる理由は、所得税法による分類にあります。所得税法では、所得を10種類に分けており、退職金は「退職所得」として分類されます。
年末調整の対象は、給与や賞与などの「給与所得」に限られており、退職金は「給与所得」ではないため、年末調整には含まれません。
退職所得には、給与やボーナスとは異なる税計算の方法が適用されるため、会社は退職金については別途で税金を計算します。また、退職者そのものが年末調整の対象外となる点にも留意しましょう。
そもそも「年末調整」とは
年末調整とは、従業員が1年間に受け取った給与に対して、過剰に支払われた税金を還付し、不足している税金を精算する手続きです。
毎月の給与から源泉徴収される所得税は、収入が年間を通じて一定と仮定し、計算されます。しかし、実際にはボーナスの変動や扶養家族の変更などで、年間の収入額が変わることもあります。
そのため、年末に1年間の収入や控除を確定させ、払いすぎた税金は還付し、不足している場合は追加で納税しなければなりません。この精算が年末調整であり、正確な納税額を確定するために重要な役割を果たしています。
退職金にかかる「所得税」と「住民税」
退職金を受け取る際、年末調整は不要ですが「所得税」と「住民税」が課されます。
所得税は、毎年1月1日から12月31日までの所得に対して課税され、退職金も対象です。また、2037年まで「復興特別所得税」が所得税に加算されます。これは、東日本大震災の復興を目的としています。
住民税は、1月1日時点で住んでいる都道府県や市町村に納める地方税で、「道府県民税」と「市町村民税」を合わせた税金です。住民税には均等割と所得割の2種類があり、均等割は全員に課される固定額、所得割は前年の所得にもとづいて計算されます。
参考)国税庁「退職金と税」
退職金にかかる税金の計算方法
退職金にかかる税金は、退職金から退職所得控除額を差し引いた後の金額の半分を課税対象として計算します。ここでは、退職金にかかる税金の計算方法について解説します。
退職所得の計算方法
退職所得の計算方法は、収入金額から退職所得控除額を引いた後、その半額を課税対象とします。具体的な式は、以下のとおりです。
【退職所得の金額の計算方法】
退職所得控除額は勤続年数によって異なり、以下のように計算します。
なお、勤続年数の端数は1年に切り上げられるため、実際の計算時には注意が必要です。
障害者になったことが直接の理由で退職した場合、通常の控除額に100万円が加算されます。
参考)国税庁「退職金と税」
退職金にかかる所得税の計算方法
退職金は「退職所得」という所得区分に分類され、他の所得とは切り離して計算される分離課税の対象です。退職所得には、会社から支給される退職手当や社会保険からの一時金に加えて、生命保険や信託会社からの一時金も含まれます。
計算は、前述の計算で求めた「退職所得」に税率をかけ、控除額を差し引きます。
【所得税の計算式】
退職金の所得税額と復興特別所得税の計算方法は、以下のとおりです。
【所得税の税率】
退職所得金額が確定した後「所得税の速算表」を参照し、「A課税退職所得金額」に該当する「B税率」と「C控除額」を割り出します。求める税額の計算式は、以下のようになります。
※1円未満の端数は切り捨て
参考)国税庁「退職金と税」
退職金にかかる住民税の計算方法
住民税は、納税者が等しく支払う「均等割」と、前年の総所得をもとに計算される「所得割」の2つで構成されています。退職金に対する住民税は、他の所得とは別に計算される分離課税の対象です。
課税退職所得金額は、所得税と同じ計算方式を使用して求めます。所得割の税率は、道府県民税が4%、市町村民税が6%で、合計すると10%となります。
退職金が非課税になるケース
退職金が非課税になるケースとは、退職所得がゼロまたはマイナスとなる状況を指します。退職所得は、退職金から退職所得控除額を引いた金額です。
たとえば、勤続年数が長く、退職金が比較的少ない場合などが考えられます。退職所得が非課税になるかどうかは、退職金の額と勤続年数によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
退職所得控除額 = 40万円 × 12年 = 480万円
退職金400万円<退職所得控除額480万円
退職金より、退職所得控除額が多くなるため非課税です。
退職所得控除額 = 70万円 ×(35年 - 20年)+ 800万円 = 1,850万円
退職金1,800万円<退職所得控除額1,850万円
退職金より、退職所得控除額が多くなるため非課税です。
退職金に関して企業が行う手続き
退職金の支給は、従業員の長年の貢献に報いる重要な機会でもあります。単に支払うだけでなく、適切な手続きを踏むことまでが会社側の責任です。退職金に関する手続きは、税務上の取り扱いや法的要件を満たす必要があり、慎重に対応することが求められます。ここでは、退職金支給時に会社がすべき主な手続きについて解説します。
「退職所得の受給に関する申告書」を従業員から受け取る
退職金を支払う際には、従業員に「退職所得の受給に関する申告書」を記入・提出してもらうことが必要です。申告書が提出されない場合、退職金は一律で20.42%の税率が適用され、税額が高くなってしまいます。
その結果、退職者の税金が払いすぎとなり、退職者にとって不要な確定申告が必要となるケースが発生することもあるため、本人へ提出を促すことが必要です。提出がなされない場合には、退職金支給額から特別徴収もしなければなりません。
一方、申告書が提出された場合には、退職金に適切な税率が適用され、従業員が税金を過剰に納めなければならないリスクを避けられます。
退職金に対して源泉徴収を行う
退職金を支給する際には、まず退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取ります。そして、退職金に対して源泉徴収をしなければなりません。この手続きを適切に行うことで、退職者は退職金に関する税務手続きが完了するため、確定申告の手間を省けます。
源泉徴収した税金は原則として翌月10日までに納付しなければなりません。また、退職金に対して住民税が発生する場合は、特別徴収納入書・申告書に必要事項を記入し、徴収した住民税を市区町村に翌月10日までに納付します。
源泉徴収票を作成する
退職金を支給した際、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を作成し、退職後1ヶ月以内に退職者へ交付する義務があります。
「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」は、退職金の金額と、源泉徴収した所得税の金額を証明するための重要な法定調書です。
給与所得と退職所得は税計算が異なるため、「給与所得の源泉徴収票」とは別に作成する必要があります。忘れずに発行するようにしましょう。
退職所得の源泉徴収票に関する注意点
退職所得の源泉徴収票は、退職金の支払に関する重要な書類です。しかし、その作成や取り扱いには注意すべき点がいくつかあります。ここでは、退職所得の源泉徴収票に関する主な注意点をいくつか紹介します。
マイナンバーの記載は不要
退職所得の源泉徴収票を退職者に交付する際、マイナンバーを記載してはいけません。個人情報の保護を目的とするためです。一方、税務署や市区町村への提出用には、退職者と支払者のマイナンバー(法人の場合は法人番号)を記入する必要があります。
同じ要領で作成しないよう、十分に確認しましょう。マイナンバーの取り扱いには細心の注意を払い、適切な管理を心がけることが重要です。
勤続年数には欠勤や病気での長期休職期間も含まれる
退職所得控除を計算する際の勤続年数は、同一企業での継続勤務期間が基本です。この期間には、欠勤や病気による長期休職も含まれます。
契約社員から正社員への転換があった場合、退職手当の計算と退職所得控除の計算で異なる点があるため注意しなければなりません。退職所得控除では、実際の勤務期間全体を考慮することから、契約社員時代も勤続年数に含まれます。
さらに、勤続期間が1年未満の場合は、原則として1年に切り上げて計算されます。勤続年数は所得税や住民税の計算にも影響するため、正確な把握が重要です。退職金の税金計算を適切に行うためにも、これらの点に注意しましょう。
2分の1を乗じる課税が適用外になるケースがある
退職所得の課税において、通常は「(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2」の計算式が適用されます。しかし、勤続年数が5年以下の場合、この2分の1課税が適用されないケースもあるため注意が必要です。
具体的には、以下の2つのケースが該当します。まず、勤続年数5年以下の役員等に支払われる「特定役員退職手当等」です。次に、勤続年数5年以下の従業員に支払われる「短期退職手当等」から退職所得控除額を差し引いた額のうち、300万円を超える部分です。
このような場合、税額計算のベースとなる退職所得の額が変わるため、退職金の税金が通常より高くなる可能性があります。特に勤続年数の短い人が退職する際は、計算方法の違いに注意しましょう。
他社から支給された退職金との重複を考慮する
退職所得の源泉徴収票を作成する際には、他社から支給された退職金との重複に注意が必要です。自社の退職手当の支払日前に、他の一時金が支給されている場合、それらも考慮に入れて源泉徴収税額を計算する必要があります。
具体的には、企業の退職金制度にもとづく退職金に加え、社会保険制度によって支給される一時金や企業型確定拠出年金(企業型DC)、個人型確定拠出年金(iDeCo)の老齢給付金も退職所得として扱われます。
また、退職者から提出された「退職所得の受給に関する申告書」のC欄(前年以前4年内に退職手当等の支払を受けたことがある場合)に記載があるか確認し、他の退職所得がある際には適切に対処することが重要です。
退職金を受け取った後に確定申告をした方が良いケース
退職金を支払った際、退職者が確定申告をした方が良いケースもあります。退職金は、通常の給与とは異なる税制が適用されるため、適切な手続きを怠ると過剰な税金が徴収される可能性もあります。
特に、年の途中での退職や、年末調整で申告していない控除がある場合には注意が必要です。これらのケースでは、退職者自身が確定申告を通じて正確な税額を計算し、払いすぎた税金を取り戻せます。
それでは、具体的なケースについて詳しく見ていきましょう。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったケース
「退職所得の受給に関する申告書」を提出せずに退職金を受け取った場合、支給総額に対して一律で20.42%の所得税および復興特別所得税が差し引かれます。一方、申告書を提出している場合には、通常、税額は申告書を提出していない場合よりも少ないです。そのため、確定申告をすることにより、過剰に徴収された税金が還付される可能性があります。
退職者が確定申告をする際には、退職先から発行された「退職所得の源泉徴収票」をもとに正確に申告をすることが大切です。これにより、正しい税額で計算され、払いすぎた税金の返還を受けられます。
年の途中で退職し年末調整を受けていないケース
年の途中で退職して年末調整を受けていない場合、所得税の過剰支払に注意が必要です。
給与から毎月差し引かれる源泉徴収税は概算額のため、本来は年末調整で正確な税額に調整されます。しかし、年末調整が行われないと精算されず、過剰に納めた税金が返還されない可能性があるため、退職者にその旨を伝えるようにしましょう。
このような場合、「退職所得の源泉徴収票」をもとに確定申告することで、過剰に支払った所得税を取り戻せるでしょう。
年末調整で申告していない控除があるケース
年末調整で申告していない控除がある場合、確定申告をすることで税金の還付を受けられる可能性があります。年末調整で申告を忘れた控除や、そもそも年末調整では適用できない控除がある場合です。たとえば、医療費控除や寄付金控除などは年末調整では対応できません。
そのため、確定申告をし、これらの控除を適用することで払いすぎた税金を取り戻せます。確定申告の際には、前年度の給与明細や源泉徴収票を確認し、退職者に申告漏れがないよう伝えるようにしましょう。
退職金を受け取った後に確定申告が必須となるケース
退職金を受け取った後、多くの場合は源泉徴収で課税関係が完了します。ただし、特定の状況下では確定申告が必要です。
確定申告が必要かどうかは、退職金以外の所得や年金受給状況によって異なります。確定申告が必要となる主なケースは以下のとおりです。
適切な対応をすることで不要な税務トラブルを避け、場合によっては税金の還付を受けられる可能性もあるため、その旨を退職者に伝えておくようにしましょう。
年金受給者で雑所得以外の所得が20万円を超えるケース
公的年金を受給している退職者は、「公的年金等に関連する雑所得以外の所得」が20万円を超える場合、確定申告が必要です。
ここでの「公的年金等に関連する雑所得以外の所得」には、以下が含まれます。
年金受給者は所得状況を把握し、必要に応じて確定申告をしなければなりません。
公的年金等の収入額が400万円を超えるケース
年金を受け取っている退職者で、「公的年金等」の年間収入が400万円を超える場合、確定申告が必要です。退職者は、退職金を受け取った際、その金額も確定申告書に記載しなければなりません。
「公的年金等」には、以下のものが含まれます。
なお、生命保険会社の個人年金保険は対象外です。
退職後に自営業者やフリーランスになったケース
退職後に自営業者やフリーランスになった場合、確定申告が必要です。事業の内容によっては、給与所得や退職所得に加えて、雑所得や事業所得が発生することもあります。
年末調整や源泉徴収によって給与所得や退職所得にかかる税金の精算が済んでいても、他の所得に対しては別途、納税額を確定して納付しなければなりません。
また、赤字で納税が不要な場合でも、確定申告にはメリットがあります。たとえば、源泉徴収された税金の一部が還付される可能性もあります。さらに、青色申告を選択することで、翌年以降の税金計算が有利になるでしょう。
退職金と年末調整にまつわる注意点
退職金を支給する際は、いくつかの注意点があります。
まず、退職金は年末調整の対象外です。ただし、会社側には退職者への源泉徴収票交付が義務付けられています。退職後1ヶ月以内に源泉徴収票を発行する必要があるため、担当者は期限を守りましょう。
次に、退職金からは原則として住民税も天引きされます。支給額から控除されるため、翌年の住民税納税額への影響はありません。ただし、退職者が転職や無職の状況によって納付方法が変わる点について退職者へ注意を促すようにしましょう。
最後に、退職者への確定申告の周知も重要です。年末調整をしない場合や「退職所得の受給に関する申告書」未提出の場合には、その周知が一層求められます。確定申告の期限は例年2月16日から3月15日までであり、期限を過ぎると罰則のリスクがあります。
また、確定申告には源泉徴収票が不可欠です。退職者に対し、紛失しないよう源泉徴収票の重要性を伝えましょう。これらの点に留意することで、退職金に関する税務処理をスムーズに進められます。
退職金の年末調整まとめ
退職金は、従業員が退職時に受け取る重要な手当ですが、年末調整の対象にはなりません。これは、退職金が「退職所得」として分類され、年末調整が対象とする「給与所得」とは異なるためです。そのため、退職金は別途、税務処理をしなければなりません。また、「所得税」と「住民税」も課されます。
退職所得の計算は、退職金から退職所得控除額を差し引いた後、その半額に税率をかける方法です。退職所得控除は勤続年数によって異なり、退職金の受給額や勤続年数によっては、非課税になることもあります。
会社は退職金の支給に際し、従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取る必要があります。この申告書が提出されない場合、高い税率が適用されるため、税金の過剰納付を防ぐためにも重要です。また、源泉徴収を行い、源泉徴収票を発行することも義務付けられています。
退職金は、退職者にとって大きな金額でもあるため、会社側には税務処理の知識が必要です。適切な手続きを踏むことで、退職者の負担を軽減できるだけでなく、会社としても法令遵守を図れます。退職金に関する理解を深めることで、退職者とともにスムーズで円満な退職プロセスを実現しましょう。