給与計算の仕事内容とは?業務の流れや人事・経理の役割も解説

更新日:2025年09月03日

給与計算 仕事

給与計算に関する主な仕事は、総支給額から控除額を引いて給与を計算することです。担当者は、法律や税金・社会保険料に関する知識も押さえておかなければなりません。本記事で、給与計算の仕事の流れや作業で気をつけることなどについて解説します。

目次

給与計算の仕事内容・業務内容とは

給与計算に関する一般的な仕事内容・業務内容は、総支給額を計算したり控除額を計算したりして、従業員に支給する金額を計算することです。関連して、給与明細を作成して掲示することや、税金・社会保険料を納付することまで含まれる場合もあります。

ここから、給与計算業務に当たる従業員や給与計算に求められるスキル、向いている人について確認していきましょう。

給与計算の担当者

給与計算の業務を担当する部署は、会社によって異なります。主な部署は、一般的に以下のとおりです。

  • 経理部
  • 総務部
  • 人事部

経理部は、会社の資金管理に関する業務を担う部署です。経費など各種支払いに関する業務に加え、従業員への給与支給額の計算業務などを担うこともあります。

総務部は、会社の事務全般を担う部署です。従業員の労務管理に加え、労働日数・労働時間の把握、給与支給額の計算などを担うこともあります。

人事部は、従業員の採用や研修、労務管理などを担う部署です。労務管理の一環として、給与計算の業務も担うことがあります。

給与計算に求められるスキル・向いている人

給与計算に関する作業は、Excelなどの表計算ソフトや給与計算ソフトを活用することが一般的です。そのため、給与計算業務を確実にこなすためには、PCに関するスキルが求められます。

また、給与計算にあたっては、特段必要不可欠な資格はありません。ただし、スキルの向上や給与計算スキルがあることをアピールするために資格を取得したい場合は、「給与計算実務能力検定」の受験を検討するとよいでしょう。

給与計算業務に向いているのは、細かな作業が得意な人です。給与計算では、さまざまな数字と向き合い、正確に処理しなければなりません。

また、自己研鑽に努められる人も向いています。なぜなら、給与計算業務は、毎年変わる法律や制度に対応しなければならないためです。

給与計算に関する業務の流れ

給与計算に関する一般的な業務の流れは、以下のとおりです。

  1. 総支給額を計算する
  2. 控除額を計算する
  3. 差引支給額を決定する
  4. 賃金台帳を作成する
  5. 従業員に給与を支給する
  6. 税金や社会保険料を納付する

各手順について、詳しく解説します。

1. 総支給額を計算する

給与計算するには、総支給額を計算しなければなりません。総支給額とは、基本給に割増賃金や各種手当を加えた額のことです。

基本給は給与のベースになる賃金、割増賃金は法定労働時間を超過して働いた際に支払う賃金を指します。また、手当とは住宅手当や役職手当、資格手当のように基本給や割増賃金以外で会社が任意で設定する賃金のことです。

たとえば、基本給が27万円で対象月の割増賃金が2万円、手当の合計額が2万円であれば、総支給額は31万円と計算できます(27万円 + 2万円 + 2万円)。

なお、総支給額を計算するために、給与計算担当者には従業員の基本給や勤続日数・勤続時間、対象の手当などを把握する作業もあります。

2. 控除額を計算する

総支給額計算の作業を終えたら、次に控除額を計算します。

控除額とは、総支給額から引く税金や社会保険料のことです。一般的に、会社で従業員にかかる税金や社会保険料を天引きしているため、控除額を計算しなければなりません。

天引きする具体例は、所得税・住民税、健康保険料・介護保険料(従業員が40歳以上の場合)・厚生年金保険料・雇用保険料です。

仮に所得税8千円・住民税1万1千円・健康保険料1万4千円・厚生年金保険料2万5千円・雇用保険料2千円の場合、控除額は6万円(8,000円 + 11,000円 + 14,000円 + 25,000円 + 2,000円)です。

3. 差引支給額を決定する

総支給額と控除額の計算結果に基づき、差引支給額を決定します。差引支給額とは、実際に従業員に支払う給与の額のことです。以下の式で計算します。

差引支給額(円) = 総支給額 − 控除額

たとえば、総支給額が31万円、控除額が6万円の場合、差引支給額は25万円です(31万円 − 6万円)。

なお、差引支給額のことを「手取り」と呼ぶこともあります。

4. 賃金台帳を作成する

給与計算後に、賃金台帳を作成しなければなりません。賃金台帳とは、従業員に対する賃金の支払い状況を示した帳簿のことです。

また、給与明細を作成する作業もあります。給与明細に盛り込む項目は、主に以下のとおりです。

  • 従業員の基本情報(氏名・社員番号など)
  • 支給項目(基本給の額・各種手当の額・休日出勤日数)
  • 控除項目(税金や社会保険の額)
  • 勤怠項目(労働日数・労働時間など)
  • 差引支給額

なお、賃金台帳の作成・保存は労働基準法、給与明細の発行は所得税法で義務付けられています。

5. 従業員に給与を支給する

計算した差引支給額を従業員に支給します。

法律上、給与の支給方法は現金による支払いが原則です。ただし、一般的には、従業員の承諾を得たうえで、金融機関への振込で対応する方法が用いられています。

なお、2023年4月より、賃金のデジタル払いができるようになりました。導入する際は、現金化できないポイントや仮想通貨での支払いはできない点、希望しない労働者に賃金のデジタル払いを強制できない点などに注意しましょう。

参考)厚生労働省「賃金のデジタル払いが可能になります!」

6. 税金や社会保険料を納付する

控除額で計算した税金や社会保険料を各機関に納付します。

源泉徴収した所得税・復興特別所得税は、原則として給与支払い月の翌月10日までに国に納付しなければなりません。徴収した個人住民税も、同様に翌月10日までに該当する自治体に納付します。

一方、社会保険料の納付期限は給与支払い月の翌月末日です。日本年金機構に納付します。

なお、雇用保険料の納付先は労働局です。原則として年に1回、労災保険料とあわせて納付します。

給与計算の仕事に必要な知識

給与計算の仕事を進めるにあたって、以下に関する知識を押さえておくことが大切です。

  • 賃金支払いの五原則
  • 割増賃金
  • 労働基準法
  • 所得税・住民税
  • 社会保険料

それぞれの基礎知識について、簡単に解説します。

賃金支払いの五原則

給与計算・支給にあたって、会社は賃金支払いの五原則を守らなければなりません。五原則とは、以下のことを指します。

  1. 通貨払い
  2. 直接払い
  3. 全額払い
  4. 毎月払い(毎月1回以上払い)
  5. 一定期日払い

通貨払いは実物給与を禁じ、直接払いは労働者以外に賃金を支払うことを原則として禁じたものです。また、全額払いでは、所得税の源泉徴収など公益上必要なものを除き、会社が給与から控除することを禁じています。

毎月払いや一定期日払いは、賃金支払いの間隔が開いたり、支払日が不安定になったりすることで従業員の生活を不安定にさせないための決まりです。

割増賃金

総支給額を計算する際は、基本給や諸手当に加えて割増賃金も把握しなければなりません。そのため、割増賃金の仕組みや計算方法も押さえておくことが大切です。

割増賃金を計算する際の流れを、以下に簡単にまとめました。

  1. 1か月の平均所定労働時間を計算する
  2. 1時間あたりの賃金額を計算する(月給 ÷ 「1の計算結果」)
  3. 割増賃金を計算する(「2の計算結果」 × 割増賃金対象の時間 × 所定の割増率)

なお、割増率は対象の割増賃金の種類(時間外・休日・深夜)によって異なります。

労働基準法

労働基準法とは、労働条件の原則や決まりについて最低基準を定めた法律です。給与計算や支給に関する決まりは、主に労働基準法で定められています。

すでに紹介した「賃金支払いの五原則」も、労働基準法第24条に定められている規定です。そのため、規定に違反した場合は30万円以下の罰金が課されます(労働基準法第120条)。

労働基準法以外に、給与計算に関係する主な法律は、最低賃金法・所得税法・地方税法・労働契約法・健康保険法・介護保険法・厚生年金保険法などです。

参考)e-Gov 法令検索「労働基準法第百二十条」

所得税・住民税

控除額に関係するため、源泉所得税や住民税の計算方法を理解しておかなければなりません。

毎月の源泉所得税の計算方法は、以下のとおりです。

  1. 課税支給額を計算する(総支給額から欠勤控除や非課税交通費などを除く)
  2. 「1の計算結果」から社会保険料を引く
  3. 「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」を使って源泉所得税を確認する

また、住民税は対象の自治体から届く「特別徴収税額決定通知書(税額通知書)」で確認できます。

社会保険料

所得税・住民税と同様に、社会保険料の計算方法も押さえておかなければなりません。

控除する健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料を求める際の計算式は、以下のとおりです。

控除する保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率(健康保険料率・介護保険料率・厚生年金保険料率)÷ 2

標準報酬月額は、受け取る給与に基づき区分されています。健康保険料・介護保険料は全50等級、厚生年金保険料は全32等級です。

また、控除する雇用保険料は以下の式で計算します。

控除する雇用保険料 = 賃金 × 被保険者負担分雇用保険料率 ÷ 2

なお、アルバイトやパートとして働く従業員の場合、年収や勤める会社の規模によって社会保険への加入義務がある場合とない場合があるため注意しましょう。

給与計算の仕事が難しい・大変な理由

給与計算の仕事は、「難しい」「大変」などと言われることもあります。主な理由は以下のとおりです。

  • ミスをしたり遅れたりできない
  • 給与体系や税制改正を理解しなければならない

それぞれ解説します。

ミスをしたり遅れたりできない

給与計算のミスや給与支給の遅れが許されない点が、給与計算が大変と言われる理由です。

給与は、従業員が安定した生活を続けるうえで欠かせません。万が一給与額が実際より少なかったり、支給される日に振り込まれなかったりすると、公共料金やクレジットカードの支払い、ローン返済などができず従業員の生活に支障をきたす可能性があります。

結果として、従業員の会社に対する信頼が失われることにもなりかねません。また、ミスや遅れを取り戻すためには、通常より多くの業務が求められるでしょう。

ミスや遅れを防ぐためには、会社の管理体制を整備することが必要です。

給与体系や税制改正を理解しなければならない

給与体系を理解しなければならないことが、給与計算の仕事が難しいと言われる理由です。従業員によって勤務時間や賞与、受け取れる手当などが異なるため、データや規定を把握しておかなければなりません。

また、税制改正を押さえておく必要がある点も大変なことです。給与計算に関する税制や法律は、定期的に改正されます。正しく給与計算するために、担当者はニュースを確認したり勉強会を実施したりして最新の情報を把握しなければなりません。

給与計算の仕事で気をつけること

給与計算の仕事で気をつけるべき点は、主に以下のとおりです。

  • 労働基準法などの法律を遵守する
  • 情報の取り扱いに注意する

それぞれ解説します。

労働基準法などの法律を遵守する

給与計算の業務を遂行する際は、労働基準法などの法律を遵守しましょう。また、関連する通達・ルールなどを確認しておくことも大切です。

たとえば、労働基準法において、一律に賃金額や労働時間数に不足が生じる方法は認められておりません。しかし、以下のケースにおける割増賃金の端数処理については、通達(昭和63年3⽉14⽇ 基発第150号)で、例外的に労働基準法違反としないとされています。

  • 1時間あたりの賃⾦額・割増賃⾦額に円未満の端数が⽣じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げるケース
  • 1か⽉における時間外労働・休⽇労働・深夜業の割増賃⾦額総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げるケース

他にも、労働時間や年次有給休暇などについて、端数処理の例外ルールがあります。

情報の取り扱いに注意する

給与計算の仕事を進めるなかで、情報の取り扱いに注意することも重要です。

給与計算で扱う情報のなかには、従業員の給与額や家族のことなど、個人情報が含まれています。万が一情報が漏洩すると、さまざまな問題が生じるでしょう。

たとえば、従業員が他の従業員の給与を知り、自分よりも高いことを知ったらモチベーションの低下につながる可能性があります。また、個人情報を適切に管理できない会社として、従業員だけでなく取引先からの信頼を失うことにもなりかねません。

給与計算の主な方法

従業員にかかる給与計算業務の負担を軽減するための主な方法は、以下のとおりです。

  • Excelなどの表計算ソフトを使う
  • アウトソーシングする
  • 各種システムを導入する

各方法について解説します。

xcelなどの表計算ソフトを使う

Excel(エクセル)やGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトを使えば、手計算で作業するよりも業務の効率化につながるでしょう。表計算ソフトを使う場合は、対象セルに給与計算に関する関数・数式を入れて処理します。

表計算ソフトで給与計算業務を遂行する主なメリットは、コストがかからない点です。すでに会社のパソコンにExcelが入っていれば、無料で処理できます。

一方、表計算ソフトを使ってもミスが生じる可能性がある点はデメリットです。自分で計算する手間は省けますが、入力する関数や数式が間違っていた場合や、誤って一部のセルを消してしまった場合などに、誤った値が出力される可能性があります。

アウトソーシングする

アウトソーシングすることにより、給与担当者の業務負担を軽減する方法もあります。給与計算のアウトソーシングとは、専門の業者や社会保険労務士などに、給与計算に関する業務を依頼することです。

アウトソーシングのメリットとして、専門家による正確な処理を期待できる点が挙げられます。また、自社で遂行する給与計算業務を省ける分、従業員をコア業務などに回せるでしょう。

一方で、コストがかかる点や、自社にノウハウを蓄積できない点がデメリットです。また、外部業者に情報を渡すことで、情報漏洩リスクも高まります。

各種システムを導入する

外部に依頼しなくても、各種システムを導入すればExcelで処理するよりも給与計算業務にかかる時間や労力を軽減できます。関連する主なシステムは、給与計算システム(ソフト)や勤怠管理システムなどです。

たとえば、給与計算ソフトを導入すれば、控除する所得税・住民税・社会保険料を従業員の勤怠データに基づき自動で処理できます。また、なかには税改正にも柔軟に対応できるソフトもあるでしょう。

給与計算の仕事まとめ

給与計算とは、従業員の総支給額から控除額を引いて差引支給額を計算する仕事です。また、賃金台帳の作成や給与の支給、税金の納付なども業務に含まれます。

給与計算の仕事では、ルールを守ることや情報の取り扱いに注意することが大切です。また、ミスや遅れのないように細心の注意を払わなければなりません。

給与計算の仕事で従業員にかかる負担を軽減する方法として、給与計算ソフトの導入が挙げられます。業務効率化のため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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