給与計算を効率化させるには？システムによる自動化のメリットを解説

給与計算の効率化をはかることは、企業の経営において重要です。給与計算業務は、時間と手間がかかり、小さなミスでもトラブルにつながるリスクの高い業務でもあります。また、専門知識も要求されるため、担当者にとっては大きな負担です。

本記事では、給与計算を効率化するための方法として、アウトソーシングの活用や給与計算システムによる自動化のメリットを解説します。

給与計算業務の課題からシステム導入のポイントまで詳しく紹介し、企業が効率的に業務を進めるためのヒントを紹介します。

目次

給与計算業務の課題とは？

給与計算は企業運営において欠かせない月次業務ですが、多くの担当者にとって負担感の大きな業務として認識されています。「計算が煩雑」「作業の負担が大きい」といった否定的な印象を抱く人が少なくありません。このような感覚が広まっている背景には、いくつかの要因が存在します。給与計算が敬遠されがちな理由として、次のような点があげられます。

• 計算に手間と時間を要する
• ミスがトラブルへとつながる恐れがある
• 専門知識が求められる

ここでは、それぞれの要因について詳しく解説します。

計算に手間と時間を要する

給与計算が厄介に感じられる主な要因は、その計算が複雑で時間を要するためです。従業員への給与支払いは、単に基本給を支払うだけではなく、勤怠情報を集め、それを基に支給額と控除額を算出しなければなりません。

勤怠情報には「出勤日数」「有給休暇の取得状況」「欠勤日数」「遅刻や早退の有無」「労働時間」「残業時間」「休日出勤時間」など、多岐にわたる要素が含まれます。また、通勤手当や役職手当、家族手当など、従業員ごとに異なる手当も正確に反映させなければなりません。

それに加え、税金や社会保険料などの控除額を引き、最終的な支給額を算出する必要があります。このような作業には多大な手間と時間がかかるため、中小企業などの経営者や担当者が給与計算に時間を取られて過ぎてしまうと、他の業務に支障をきたすおそれもあるため注意が必要です。

ミスがトラブルへとつながる恐れがある

タイムレコーダーやタイムカードの手計算、あるいはエクセルへの転記による勤怠管理や給与計算は、入力ミスや不備が発生しやすいポイントです。人間の手作業にはミスが伴い、作業が多くなればなるほどそのリスクは増加します。

ミスが発生すると、その修正や確認作業に多くの時間と労力がかかり、負担がさらに増します。さらにミスが見過ごされると、不正な給与支給や残業管理、税務処理の不備など、深刻なトラブルにつながりかねません。

給与は社員の生活に直結する重要な要素であり、会社と社員の信頼関係の基盤です。さらに、税金の計算ミスが発生すれば、追徴課税などのペナルティが課されるリスクもあります。このように、給与計算業務はミスに対してとくに厳しい業務であるといえるでしょう。

専門知識が求められる

給与計算は、労働基準法などの法令に従って処理しなければなりません。近年の働き方改革により、法改正やルールの変更が頻繁なため、これらの変化を随時把握して対応することが求められます。また、社内の就業規定に熟知しておかなければならないことも、業務が難しいと感じてしまう要因となっています。

給与計算には「労働基準法」「雇用保険法」「健康保険法」「厚生年金保険法」「所得税法」などがかかわり、税率や保険料率の改訂にも対応しなければなりません。このように専門知識が必要となるため、多くの人が面倒や大変であると感じてしまいます。

さらに、この複雑さにより業務が一部のベテラン社員に依存しがちです。これらが組織の硬直化や業務停滞のリスクを引き起こし、特定の社員への負担が集中してしまうといった問題も懸念されます。

給与計算業務を効率化させるための方法

給与計算業務を効率化させるためには、給与計算のアウトソーシングと給与計算システムの活用が有効です。

給与計算のアウトソーシングでは、専門知識を持つ外部の専門家に業務を委託し、自社のリソースを節約できます。一方、給与計算システムは自動化された計算プロセスを提供し、手作業のヒューマンエラーを減らすことにより作業時間の大幅な短縮が可能です。

どちらの方法も、効率化と精度向上を実現するための有力な手段といえます。ここでは、それぞれについて解説します。

給与計算アウトソーシングを活用する

給与計算のアウトソーシングは、企業が社会保険労務士や税理士などの専門家に給与計算業務を委託する方法です。給与や賞与の計算や給与振込、年末調整、住民税の更新なども含めて依頼できます。

メリットとしては、社内の業務負担が大幅に軽減されることや専門家により最新の法改正への対応をしてもらえることであり、経営者や他部署の従業員が兼任で給与計算をしている場合に、その効果は顕著です。

デメリットとしては、外部委託に伴う費用の発生、社内でのノウハウ蓄積が難しくなること、将来的に内製化する際の人材育成の必要性などがあります。また、従業員の個人情報を外部に預けることになるため、情報セキュリティに関する十分な配慮も必要です。

これらのメリットとデメリットを慎重に検討し、自社の状況に適した給与計算の方法を選択するようにしましょう。

給与計算システムを活用する

給与計算システムの自動化は、さまざまなプロセスにおける効率化が可能です。たとえば「給与明細書の作成や発行」「次月度の更新処理」「経費や給与の個人申請の管理」「社会保険料の月変更処理」「実際の給与計算の実行」などです。

これらの自動化により、手作業に比べて作業時間が大幅に削減され正確性も向上し、さらにはエラーを事前に検知して修正する仕組みにより、労務担当者の負担も軽減されます。

次に、これら給与計算システムを活用するメリットについて、詳しく解説します。

給与計算システムで自動化できる業務

給与計算システムは、従業員の給与処理を効率化し、手動によるミスを減らすための強力なツールです。多くの企業で利用されているこれらのシステムは、経理担当者の負担を軽減し、作業の正確性とスピードの向上に貢献します。給与計算システムで自動化できる業務は、次の通りです。

• 給与計算
• 社会保険料の月額変更
• 経費申請
• データの一元管理

以下で、給与計算システムで自動化できる具体的な業務について詳しく解説します。

給与計算

給与の算出は複雑な作業を含む重要なプロセスです。このプロセスは、従業員の勤務記録の確認から始まり、企業固有の規定に基づいて基本給や諸手当を算定します。そこから各種控除項目を差し引いて最終的な支給額を決定し、従業員の銀行口座へ送金する手続きです。同時に、雇用主側の義務として、関連する保険料や税金の納付も忘れてはいけません。

一見単純そうに見えるこれらの作業も、従業員数が増えるにつれて複雑化し、時間と労力を要します。近年では、専門的な給与計算システムの利用が一般的です。これらのツールは、入力されたデータを基に自動的に計算し、人為的ミスを減らすとともに作業の効率化に貢献します。

社会保険料の月額変更

従業員の給与体系に大幅な変更が生じた場合、社会保険料算定の基礎となる標準報酬月額の見直しが求められます。これは、昇給や降給による収入の変動、あるいは雇用形態の変更（例：パートタイムから正社員への変更）などの状況下で発生します。そのような場合「月額変更届」などの書類を適切に提出し、標準報酬月額を随時改定しなければなりません。

給与計算システムは、この複雑なプロセスを簡素化する機能も備えています。システムに内蔵されたさまざまなツールを活用することにより、給与証明書や月額変更届の作成作業の自動化が可能です。

さらに、これらのシステムは過去の給与情報や既定の基準値を参照する機能も持ち合わせています。この機能を活用することで、社会保険に関する月次の変更処理も効率的に処理できます。

経費申請

経費精算は経理担当者の重要な業務の一つですが、従業員による申請段階でのミスや不備が頻繁に発生し、確認や修正に多くの時間を要することがあります。また、担当者自身の入力ミスも懸念されます。

こうした問題に対しては、給与計算システムや経費精算システムの導入が効果的な解決策です。これらのシステムウェアは、入力項目のカスタマイズや入力ミスの警告機能を備えており、業務の簡略化とエラーの早期発見が可能です。

具体的には、必須入力項目の明確化、金額の誤りに対する自動アラート、申請締め切りの自動リマインダーなどの機能が実装されています。これにより、従業員自身が申請時のミスに気づきやすくなり、経理担当者の負担軽減と作業効率の向上につながります。

データの一元管理

給与計算システムは、月例給与や賞与に関連する書類や台帳の管理機能を提供しています。給与明細書や給与管理台帳、賞与明細書、賞与管理台帳など、多岐にわたる書類の効率的な管理が可能です。

さらに、社会保険や労働保険に関連する書類や台帳もサポートしており、社会保険料計算書や労働保険料一覧表などを含みます。年末調整機能も充実しており、年末調整データ一覧表などの管理が可能です。これにより、社会保険や所得税の改正にも対応し、正確な処理を少ない労力で処理できます。

また、給与データの暗号化や過去データのバックアップ機能もあり、紙での保管が不要となるため、コスト削減が可能です。さらに、過去の給与データを確認したい場合や、万一データが消失・破損した際にも安心です。

給与計算効率化にシステムを活用するメリット

給与計算システムの活用は、単に作業時間を短縮するだけでなく、部門全体の生産性向上や戦略的な人材管理の実現にも貢献します。ここでは、給与計算の自動化がもたらすメリットについて解説します。主なメリットは、次の通りです。

• 給与担当者の負担を軽減できる
• 人的ミスを削減できる
• 人的コスト削減につながる

以下で、それぞれのメリットについて解説します。

給与担当者の負担を軽減できる

給与計算システムの自動化による最大の利点は、給与担当者の負担を軽減できる点です。従業員が増えることにより、毎月の給与計算作業が増大するものの、システム化することでこの作業量を大幅に削減できます。効率化により負担が減った分、自動化が難しい業務や他の業務に時間を割けるようになるため、全体の業務効率が向上します。

人的ミスを削減できる

給与計算の自動化は、手作業での計算ミスを減らす効果があります。たとえば、日付の入力ミスや源泉徴収票の計算ミスなどは、会社や従業員の財務に直結するため、容認できません。人間が手作業で処理する限り、注意していてもミスの発生は避けられないでしょう。自動化によって手作業での入力やケアレスミスの排除が進めば、正確な給与計算の実現に一歩近づけます。

人的コスト削減につながる

給与計算の自動化システムは、毎月の給与計算作業を大幅に削減する効果があります。これにより、給与担当者の作業負担が軽減され、人的コスト削減が期待できます。人手不足が社会全体で進行しているなか、働き方改革が求められており、企業は業務の効率化をはからなければなりません。こうした社会的背景を考慮すると、給与計算の自動化は有効な手段となりえます。

給与計算自動化するデメリット

給与計算の自動化は、多くの企業にとって業務効率化の有効な手段です。たしかに、手作業による計算ミスの削減や作業時間の短縮など、数多くのメリットがあります。その一方で、デメリットも存在しているのは確かです。ここでは、給与計算自動化に伴うデメリットについて解説します。主なデメリットは、次の通りです。

• 導入と運用にコストがかかる
• 導入と管理に人員を要する
• セキュリティ対策が必要になる

以下で、それぞれのデメリットについて解説します。

導入と運用にコストがかかる

給与計算の自動化システム導入には初期費用とランニングコストが必要です。システムの種類や機能によって費用は大きく異なり、自社専用にカスタマイズすると利便性は向上しますが、追加費用が発生します。そのため、導入前には詳細な費用対効果の分析が不可欠です。企業の規模や需要に合わせて最適なシステムを選択し、長期的な視点で投資効果を判断することが重要です。

導入と管理に人員を要する

給与計算の自動化システム導入には、運用人材の確保と教育という課題があります。システムに精通した従業員がいれば問題ありませんが、そうでない場合は新たな人材確保や既存社員の教育に時間と労力を要します。さらに、システムの習熟には一定期間が必要となるため、円滑な運用開始までには準備期間を設けなければなりません。これらの要素は、システム導入の際に考慮すべき重要な点です。

セキュリティ対策が必要になる

給与計算システムの導入は業務効率を向上させますが、同時にデータセキュリティの懸念も高まります。給与情報には機密性の高い個人データが含まれるため、その漏えいは企業に深刻な影響をおよぼします。システム選定時には、データ管理方式を精査し、とくにクラウド型サービスを検討する際は、システム提供元のセキュリティ対策を十分に確認することいった対策が必要になる場合もあります。企業ごとに方針は異なりますので、安全性と利便性のバランスを考慮した選択が求められます。

給与計算を効率化するためのポイント

給与計算を効率化するためには、単にシステムを導入するだけでなく、業務プロセスの見直しや社内規則の整理など多角的なアプローチが必要です。ここでは、給与計算を効率化するための次のポイントについて解説します。

• 自社に応じた方法を検討する
• 業務フローや社内ルールを見直す
• システム導入時は自社システムとの互換性を確認しておく

これらのポイントを踏まえて、給与計算の効率化をはかっていくことが重要です。

自社に応じた方法を検討する

給与計算の手間は従業員数により変わります。従業員が少ない場合、アウトソーシングよりも自社で給与計算システムを使う方がコストを抑えられます。中規模以上の企業では、すでに導入済みの人事労務管理システムや勤怠管理システムとの連携が重要です。また、社会保険労務士や税理士と顧問契約を結んでいるのであれば、低コストで給与計算を依頼できる場合もあります。

業務フローや社内ルールを見直す

給与計算システム導入時には、既存の業務フローの見直しが必要です。完全に合致するシステムを見つけるのは難しく、とくに独自の業務プロセスを有する企業では不適合が生じやすくなります。その場合、カスタマイズよりもシステムに合わせて業務フローを改善する方が効果的です。多くのシステムは業務に最適化された設計になっているため、それに合わせることで業務の簡略化と負担軽減が期待できます。

システム導入時は自社システムとの互換性を確認しておく

業務フローを給与計算システムに合わせて見直すことは重要です。既存のフローがシステムとマッチする場合は理想的ですが、特殊なフローがあるとシステムの適合性に問題が生じることもあります。

このような課題を解決するためには、自社に最適なシステムを選び、業務フローを改善することが推奨されます。業務フローが複雑化している場合は、給与計算システムの導入によって簡素化し、業務負担を減らすことが可能です。多くの給与計算システムは効率的なフローを提供しており、これにより確実な成果が得られるでしょう。

また、就業規則や給与規定が複雑な場合、システムの設定不足や条件の処理が適切でないこともあります。新しい働き方の導入で規則と実態がかい離する場合もあるため、ルールを見直し、システムにフィットするよう調整することが重要です。たとえば、「四捨五入」と「切り上げ」の混在や、時間単位と日単位の手当計算の統一など、ルールの整理と明確化も必要です。

給与計算効率化に関するまとめ

給与計算業務は手間と時間がかかり、さらには小さなミスが大きなトラブルへと発展するリスクもあるため、効率化には「アウトソーシング」や「給与計算システム導入による自動化」がおすすめです。

アウトソーシングや給与計算システムの導入により、業務を効率化し担当者の負担を軽減できます。また、給与計算システムは「給与計算」「社会保険料の変更」「経費申請」「データ管理」などを自動化し、人的ミスとコスト削減に寄与します。

一方で、アウトソーシングやシステム導入にはコストやセキュリティ対策における検討が必要です。業務フローやルールを見直しながら自社に適した方法を選択し、給与計算効率化を進めていきましょう。