給与計算を社労士に依頼するメリットとは?税理士との違いも解説

更新日:2024年08月16日

給与計算 社労士

社労士(社会保険労務士)に給与計算を依頼することは、多くの企業にとって有効な選択肢の一つです。給与計算は、企業にとって必須の業務でありながら、煩雑で時間のかかる作業でもあります。近年では、専門家である社労士や税理士に給与計算を依頼する企業が増えています。しかし、社労士と税理士はそれぞれ異なる専門性を有するため、どちらに依頼するべきか迷う方も多いのではないでしょうか。

本記事では、給与計算を社労士に依頼するメリットと、税理士との違いについて解説し、依頼するデメリットや依頼先を選ぶポイントについても紹介します。

目次

給与計算は社労士や税理士に代行を依頼できる

給与計算は専門性が高く手間と時間もかかるため、負担の大きい作業です。そのため、税理士や社労士に給与計算を依頼することも一つの選択肢です。外部に依頼することにより、これまで給与計算に費していた時間を主要業務に充てることを可能にし、業務の効率化を期待できます。さらに、専門の従業員を雇うよりも、費用を節約できるケースもあります。

社労士は給与計算を含む労務全般、税理士は給与計算における税金や源泉徴収などが担当範囲です。そのため、特定の業務は担当できないことがあります。

たとえば、年末調整は税理士の業務範囲であり、社労士が扱うと違法になる場合があります。ただし、年末調整に必要な給料計算や社会保険料の確定は社労士が対応しても違法ではありません。必要に応じて適切なアウトソーシング先を選ぶことが重要です。

社労士と税理士との業務上の違い

給与計算は、特定の資格を持つ人以外でも扱える業務であるため、税理士や社労士のどちらにも依頼が可能です。

どちらに依頼すべきかを決める前に、それぞれの業務内容の違いを理解しておくことが重要です。税理士と社労士の専門分野の違いを確認した上で、給与計算以外に依頼したい業務が何かを考慮して選ぶとよいでしょう。

社労士は労務管理や社会保険に関連する専門家

労務管理や社会保険の専門家として知られる社会保険労務士(社労士)は、社会保険および労働保険に関する文書の作成、手続きの代行、行政機関との折衝などを独占的に担う資格を有しています。

労働保険関連の帳簿や書類の作成代行は社労士固有の業務であり、他の専門家には認められていません。これらの業務は、企業が労働法規や社会保険制度を適切に運用する上で欠かせない業務であり、社労士のサポートは企業のリスク軽減や職場環境の向上に大きく寄与します。

新入社員の入社に伴う書類提出の代行も、社労士のみが対応できる業務であり、税理士には委託できません。給与計算を社労士に任せることで、社会保険関連の手続きも一元的に管理できるため、労務や社会保険に関する業務を包括的に委託したい企業に適した選択肢の一つです。

とくに従業員数が数十名を超える規模の企業では、入退社や休職などの手続きが頻繁に発生するため、社労士による支援が重要度を増します。

加えて、常時10名以上の従業員を雇用する企業は、労働基準法により就業規則の策定と届出が義務付けられています。社労士に依頼することで、労務相談や就業規則の見直しなども含めた包括的なサポートを受けられる点も大きな利点といえるでしょう。

税理士は税務に関する専門家

会計の専門家である税理士に給与計算を委託することで、年末の所得税調整や法定書類の処理を一括して任せられます。年度末に企業が実施する従業員の所得税過不足の調整手続きは、税理士のみが代行可能です。とくに小規模企業では、顧問税理士に給与計算も含めて依頼することでコストの効率化が図れます。

税務のエキスパートである税理士は、税務代理や関連書類の作成、税務相談などを独占的に扱う資格を有しています。とくに決算報告や年末の税金調整などは税理士の専門分野であり、社会保険労務士(社労士)には委託できません。社労士との契約を考慮する際は、それぞれの独占業務の違いを理解することが大切です。

他方、税理士は社労士の専門領域である社会保険関連の手続きはできません。ただし、社労士と連携している税理士や、両方の資格を保有する専門家も存在します。そのような事務所に依頼すれば、年末の税金調整と社会保険の手続きを一元的に処理してもらうことが可能です。

給与計算業務における課題とは

会社と社員の間では、労働に対して給与を支払う労働契約が結ばれているため、給与の支払いは契約履行に欠かせません。もし支払いにミスが生じると、社員からの信頼を失うだけでなく、その後の事務調整にも多大な時間と労力を費やさなければなりません。

さらに、社会保険料や税金を正確に計算し納付しなければ、コンプライアンスへの意識が低いと見なされるおそれがあります。

給与計算業務における課題として挙げられるのは、主に次の3つです。

  • 業務に正確性が求められる
  • 専門的な知識が必要になる
  • 業務に時間と手間を要する

ここでは、それぞれについて解説します。

業務に正確性が求められる

給与計算の精度は、その基礎となる情報の正確さに大きく依存します。社員の個人情報が適切に管理されていなかったり、勤怠データの入力が遅れたりすると、計算ミスにつながる可能性があります。そのため、情報の一元管理と期日厳守の徹底が不可欠です。

給与計算のエラーは、単なる数字の問題にとどまらず、法的責任や従業員の将来に影響を及ぼす可能性があります。税金や社会保険料の控除は労働関連法規に基づいて処理されるため、誤りがあれば追徴金などのペナルティーを科されるリスクがあります。さらに、控除額の誤りは従業員の年金や失業給付にも影響を与えかねません。

こうした事情により、給与計算担当者には高度な注意力と正確性が求められます。ミスのない計算をしなければならないというプレッシャーは相当なものですが、それだけ重要な業務であることの証左でもあります。正確な情報に基づく適切な給与計算体制の確立は、企業の責務であると同時に、従業員の権利を守るための重要な取り組みといえるでしょう。

専門的な知識が必要になる

給与計算業務における大きな難題は、控除額の計算です。控除額の計算には労働基準法などの労働関連法令の知識が必要です。しかし、近年の「働き方改革」に伴い、法律や規則が頻繁に改定されています。

たとえば、社会保険料は各人の標準報酬月額に定められた保険料率を掛けて算出しますが、これらの保険料率は毎年変更され、その都度控除金額も変わります。

給与計算業務を適切に処理するためには、変更情報を常に把握し対応する必要があり、それらが業務を難しくしている主な要因です。

業務に時間と手間を要する

給与計算は従業員数の増加に比例して複雑化します。企業ごとの規則やイレギュラーなケースへの対応が必要であり、特に勤怠状況の確認で人事情報と勤怠記録を手作業で照合する場合、担当者の負担は大きくなります。

社員の入退社も給与計算を複雑にする要因です。たとえば、月途中の入社では日割り計算が必要であり、一方の退職者については最終月の給与は各企業の就業規則に基づいて計算されるため、社会保険料や住民税の処理に注意が必要です。

さらに、従業員の家族構成の変化により、扶養家族の変更など個々の状況を正確に反映させる必要があります。これらの要因が重なることもあり、給与計算業務はより複雑で慎重な対応が必要な作業となっています。

社労士や税理士に給与計算を依頼する4つのメリット

企業が社労士や税理士に給与計算を依頼するメリットは、次の4つが挙げられます。

  • 給与計算担当者の負担を軽減できる
  • 人的コストの削減につながる
  • 給与計算にまつわる業務も依頼できる
  • 法や税にまつわる相談ができる

ここでは、それぞれについて解説します。

1.給与計算担当者の負担を軽減できる

給与計算業務を外部委託することで、企業内の作業負荷を大きく減らせます。とくに規模の小さな会社では、社長自らが給与の計算を担当したり、人事部門のスタッフが本来の仕事に加えてこの任務を引き受けたりすることが少なくありません。このような状況では、毎月の給与処理が大きな重荷となり、本来注力すべき事業活動の時間を奪ってしまうおそれがあります。

こうした課題に直面している企業にとって、給与計算の外部委託は有効な解決策となり得ます。専門家に任せることで、社内のスタッフは自身の主要な職務により多くの時間と労力を費やすことが可能です。結果として、業務効率の向上や企業全体のパフォーマンス改善につながります。

2.人的コストの削減につながる

給与計算には、税務や社会保障制度に関する専門的な知識が不可欠です。これには源泉所得税、社会保険、労働保険などが含まれます。企業が自前で給与計算をする場合、こうした専門知識を有する人材の採用かもしくは既存の従業員を教育する必要があります。

とくに中小規模の企業にとって、そのような専門家を雇用することは大きな課題です。また、仮に適切な人材を確保できたとしても、その人物が異動や退職した際に、業務の円滑な引き継ぎが困難となるリスクが存在します。

給与計算業務を外部の専門家に委託することで、こうした課題を解決できる可能性があります。外部委託により、社内で専門人材を抱える必要がなくなり、同時に特定の個人に依存する業務体制の回避が可能です。

3.給与計算にまつわる業務も依頼できる

社労士への委託は、労務管理と社会保険関連の手続きを一元化できる点が強みです。従業員の入退社に伴う手続きも含めて対応してもらえるため、日常的な業務負荷を軽減できます。また、頻繁に更新される社会保険料の手続きや、労働法規の改正への対応もスムーズです。

一方、税理士への委託は、税務関連の包括的なサポートを受けられる点が大きな魅力です。年末調整業務を一括して処理できるため、企業の負担が大幅に軽減されます。複雑な所得控除の計算や、税務署・自治体への報告書作成も効率的な処理が可能です。

4.法や税にまつわる相談ができる

給与計算は、多岐にわたる法律と密接に関連しています。これには「労働基準法」「雇用保険法」「健康保険法」「厚生年金保険法」「所得税法」などが含まれ、それぞれが給与計算のプロセスに影響を与えています。

さらに複雑なのは、給与や賞与から差し引かれる税金や社会保険料の料率が頻繁に変更されることです。こうした法改正や料率の更新を常に把握し、適切に対応することは、専門的な知識がなければ非常に困難な作業です。

このような状況下で、外部の専門家に給与計算を委託することには大きなメリットがあります。彼らは最新の法改正情報を常に把握し、迅速かつ適切に対応する能力を有しています。これにより、企業は法令遵守の面で安心感を得られるだけでなく、複雑な給与計算プロセスの効率的な管理が可能です。

社労士や税理士に給与計算を依頼する3つのデメリット

専門家に依頼することはメリットだけではありません。ここでは、主なデメリットとして次の3つを挙げます。

  • 給与計算に関するノウハウが蓄積できない
  • 情報漏洩のリスクがある
  • 費用が高額になる可能性がある

以下で、それぞれについて解説します。

1.給与計算に関するノウハウが蓄積できない

給与計算業務を外部専門家に委託することには、企業にとって両刃の剣となる側面があります。自社内での専門知識やノウハウが蓄積されないリスクです。

とくに、給与に関連する労務事項、社会保険制度、税制などの知識を持つ社内人材が育成されにくいことは将来的な懸念となって残ります。

さらに、将来的に給与計算業務を内製化したいと考えた際に、適切にその業務を遂行できる人材が社内にいないという事態に陥る可能性もあるため、慎重な検討が求められます。

2.情報漏洩のリスクがある

給与計算業務の外部委託には、情報セキュリティに関する考慮すべき点があります。外部委託の過程において、従業員の勤務記録や家族構成など、機密性の高い個人情報を外部に開示することになるため、データの取り扱いには細心の注意が必要です。

これらのリスクを最小限に抑えるためには、委託先のセキュリティ体制を徹底的に精査することが不可欠です。データの送受信方法、保管プロトコル、そしてサイバー攻撃に対する防御策などを詳細に確認する必要があります。

さらに、自社のシステムを保護するための対策も講じるべきです。委託先との連携がサイバー攻撃の経路とならないよう、適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。

3.費用が高額になる可能性がある

給与計算を外部の専門家に委託する際には、避けられないコストが生じます。この費用は、企業の従業員規模、そして委託する具体的な業務の範囲によって異なります。

したがって、外部委託を検討する際には、複数の専門家から見積もりを取得することが重要です。これにより、予想される経費の相場を把握し、自社の予算との整合性について検討できます。

給与計算の依頼先を選ぶ際のポイント

給与計算業務の外部委託は、多くの企業にとって効率化と専門性確保の有効な手段です。しかし、適切な委託先については、企業規模や業務内容によって異なります。

ここでは、従業員数による選択基準、税理士と社会保険労務士それぞれの特徴、そして各専門家の得意分野に基づく選定方法について詳しくみていきます。これらの情報を参考に、自社に最適な給与計算の委託先を見つけていきましょう。

従業員数が少ない場合は税理士を選ぶ

従業員数の少ない中小企業にとって、税理士への給与計算代行の依頼は有効な選択肢です。多くの小規模企業はすでに顧問税理士と契約関係にあるため、給与計算を含む複数の業務を比較的低コストで委託できる可能性が高いです。

税理士は企業の財務状況や背景を熟知しているため、新たな業務もスムーズに開始できます。さらに、税理士の業務範囲は広く、確定申告・青色申告の申請・会計帳簿の記帳代行などの基本業務に加え、財務書類の作成や節税対策の提案も可能です。

とくに注目すべきは、中小企業向けの税務優遇制度の活用や経営アドバイス、資金調達のサポートなど、経営全般にわたる支援を受けられる点です。

数十人の従業員を抱える企業は社労士がおすすめ

企業の成長に伴い、従業員数が数十人規模に増加した場合、給与計算業務を社労士に委託することが推奨されます。この段階では、頻繁な入退社手続きや社会保険関連の業務が発生し、管理が複雑化します。また、常時10人以上の従業員を雇用する企業には、労働基準法に基づく就業規則の作成・届出義務を果たさなければなりません。

社労士は、これらの複雑な手続きを適切に管理し、法令における専門知識を有しています。さらに、育児休暇などの労務管理も含めた幅広い業務を一元的に処理できる点が大きな利点です。

多くの場合、税理士と社労士は業務上の連携があるため、既存の税理士を通じて信頼できる社労士を紹介してもらうことも可能です。

企業の従業員数が1,000人を超える場合、給与計算を専門の会社にアウトソーシングすることを検討しましょう。規模が大きくなると、税理士や社会保険労務士だけでは対応が困難です。そのような状況であれば、給与計算システムを導入し、実務も外部に委託するのが賢明です。給与計算システムを提供している企業の多くは、アウトソーシングサービスにも対応しています。

従業員数は目安でしかない

前述のとおりではありますが、給与計算業務の適切な委託先は従業員数のみで決まるわけではありません。従業員数が数名であっても社労士に給与計算業務を、税理士に税務関係の業務を依頼するのが適切な場合もあります。自社の置かれた状況や、現在の顧問税理士の得意分野なども考慮のうえで、給与計算業務の委託先を検討するようにしましょう。

それぞれの専門性で選ぶ

給与計算業務を外部の専門家に委託する際は、税理士と社労士の専門領域の違いを理解し、適切な選択をすることが重要です。

税理士は給与計算から年末調整までの税務関連業務を得意とします。一方、社労士は労務管理や社会保険手続きに精通していますが、税務処理には直接関与できません。

自社のニーズに合わせて適切な専門家を選ぶことが重要です。ただし、専門外の業務を依頼すると法律違反のリスクがあるため、事前に各専門家の業務範囲を十分に理解しておく必要があります。

複数の業務を一括して依頼したい場合は、選択した専門家が他分野の専門家と提携しているかどうかも確認しておきましょう。提携関係があれば、異なる専門分野にまたがる業務であってもスムーズな進行が可能です。

まとめ

給与計算を社労士や税理士に依頼することは、多くの企業にとって有効な選択肢の一つです。

社労士は労務管理や社会保険に詳しく、労働法や社会保険制度に通じています。一方、税理士は税務に精通し、法人税や消費税の申告やアドバイスが可能です。

給与計算は正確性が求められ、専門的な知識と時間が必要です。社労士や税理士に依頼することで、給与計算業務の負担を軽減し、人的コストを節約できます。また、法的な相談や業務の効率化も可能である反面、情報漏洩や費用負担というリスク要因にも考慮する必要があります。

給与計算を委託する際には、企業の従業員数や業務内容に応じて社労士か税理士を選ぶことが重要です。少人数の場合は税理士が適しており、多くの従業員を抱える企業には社労士が適しています。業務の専門性やニーズに合わせて、自社に適した専門家を選ぶようにしましょう。

この記事は、給与計算ソフト「フリーウェイ給与計算」の株式会社フリーウェイジャパンが提供しています。フリーウェイ給与計算は、従業員5人まで永久無料のクラウド給与計算で、WindowsでもMacでも利用できます。

給与計算ソフトが永久無料のフリーウェイ
このエントリーをはてなブックマークに追加
pagetop