更新日:2025年12月08日
年末調整のスケジュールを押さえておくことは、事業者にとってミスを防ぐうえで欠かせません。従業員の年末調整を適切に進めるには、早期の準備が不可欠です。申告書の配布時期や回収期限、税務署への提出期限など、各ステップを確認しておくことで、還付が遅れる心配を減らせます。本記事では、年末調整のスケジュールや2025年度の税制改正のポイント、還付金が発生するケースまで実務に役立つ情報を解説します。
目次
年末調整を適切に実施するには、対象者や期限を正確に把握しておく必要があります。ここでは、年末調整の基本的な概要と書類提出の期限について解説します。
年末調整とは、会社員や公務員などの給与所得者に対して、源泉徴収されている所得税の過不足を精算する手続きのことです。
毎月の給与支払時には概算の所得税が徴収されていますが、年間を通じてみると控除の有無や扶養家族の状況によって正確な税額に差が生じます。その差額を精算するのが年末調整です。
対象となるのは、年末調整時点で会社などに在籍しており「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員です。パートやアルバイトであっても条件を満たしている場合は、年末調整の対象となります。
年末調整の業務は、一般的に10月頃から翌年1月にかけて進められます。従業員は11月下旬までに会社に必要書類を提出し、事業者は12月から翌年1月にかけて処理作業を進めるのが通例です。
事業者は、源泉徴収票や支払調書、法定調書合計表、給与支払報告書などを翌年の1月31日までに税務署や各従業員の住所地の市区町村などに提出しなければなりません。
従業員自身の書類提出の遅れや不備が原因で控除が適用されなかった場合、その従業員は翌年に自ら確定申告をすることで控除を受けられます。
確定申告は、通常2月16日から3月15日の間に行われますが、還付申告であれば対象となる年の翌年1月1日から5年間について申請が可能です。
年末調整をスムーズに進めるには、全体のスケジュールを把握し、各段階で必要な作業を計画的に実施することが大切です。ここでは、時期ごとの主な業務内容について見ていきます。
10月までは、年末調整に向けた準備期間として位置づけられます。10月までの準備期間では、主に以下を実施します。
特に重要なのが税制改正の確認です。毎年、税制は改正される可能性があるため、新たな情報を国税庁のWebサイトなどで確認し、控除額や適用要件の変更点を把握しておく必要があります。
また、年末調整に必要な申告書の様式が変更されていないかどうかもチェックしましょう。
さらに、従業員への案内も重要な準備作業の一つです。年末調整の概要や必要書類、提出期限などを記載した案内文書を作成し、配布の準備をします。
保険料控除証明書など従業員自身が準備すべき書類についても、早めに案内することでスムーズな書類回収につながります。
10月下旬から12月上旬にかけては、従業員へ申告書を配布し、記入済みの書類を回収する期間とするのが一般的です。この期間に事業者は従業員へ以下の申告書類を配布します。
提出期限を11月下旬から12月上旬に設定すると、その後の業務に余裕が生まれます。期限を早めに設定することで、記入漏れや不備があった場合にも、従業員への確認や再提出の依頼がしやすくなるためです。
また、回収した書類は内容を確認し、不明点や記入ミスがあれば早めに従業員へ問い合わせることで、後の計算作業をスムーズに進められます。
12月から翌年1月にかけては、回収した申告書をもとに、各従業員の年税額を計算する期間です。
この作業では、給与や賞与の総額を集計し、各種控除額を差し引いて課税所得を算出します。課税所得に税率を適用して年税額を計算し、すでに源泉徴収した税額との差額を求める作業です。
源泉徴収済額との過不足がある場合は、12月または翌年1月の最終給与で精算します。多くの事業者では12月の給与で精算することが一般的です。
ただし、計算が間に合わない場合や12月中に退職者が出た場合などは、翌年1月の給与で調整することもあります。過不足の精算結果は給与明細に明記し、従業員にわかりやすく伝えることが大切です。
なお、年末調整によって確定した年間の所得税額は、翌年1月10日までに納付する必要があります。
翌年1月31日までに、法定調書合計表や源泉徴収票などを作成し、管轄の税務署へ提出しなければなりません。
法定調書合計表は、その年に支払った給与や報酬、源泉徴収税額などを集計した書類です。また、一定の条件を満たす従業員には源泉徴収票を交付し、税務署にも提出しなければなりません。
さらに、各市区町村には「給与支払報告書(総括表・個人別明細書)」を1月31日までに提出します。給与支払報告書は、従業員の住民税を計算するための資料となるもので、従業員が1月1日時点で居住している市区町村に提出しなければなりません。
これらの書類を期限内に提出することで、年末調整業務は完了します。
年末調整では各種控除の適用により税額が減少し、還付金が発生することがあります。代表的なケースは、以下のとおりです。
ここでは、それぞれのケースについて解説します。
扶養対象者が増えた場合は、扶養控除額の増加にともない課税所得が減少し、還付金が発生する場合があります。扶養控除は、納税者が一定の要件を満たす親族を扶養している場合に受けられる控除で、扶養親族の年齢や同居の有無などによって控除額が異なります。
2025年度の税制改正により、対象者の年間合計所得金額は48万円以下から58万円以下に引き上げられました。そのため、これまで所得超過で扶養控除の対象外だった親族が、新たに対象となる可能性があります。
扶養対象者の増加は改正だけでなく、年の途中で子どもが生まれた場合や親族を新たに扶養することになった場合にも起こります。これらの変動は控除額や還付額に影響するため、扶養控除等(異動)申告書に必ず記載してもらい、早めに把握しておくことが重要です。
離婚や死別などによりひとり親になった場合、一定の要件を満たすことで性別や婚姻歴に関係なく一律35万円の控除が受けられ、還付金が発生する場合があります。
ひとり親控除の要件は、次のとおりです。
2025年度の税制改正により、2025年分(令和7年分)以降は、ひとり親控除の対象となる子の総所得金額等の上限が48万円以下から58万円以下に引き上げられています。
生命保険や医療保険、地震保険などに加入し要件を満たす場合には、控除が受けられ還付金が発生する場合があります。
生命保険料控除は、一般の生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料の3種類に分かれており、それぞれに控除額の上限が設けられています。
これらの控除を受けるには、保険会社から送付される控除証明書を年末調整の際に提出しなければなりません。控除証明書は10月頃から各自に届くため、紛失しないよう大切に保管しておくよう周知しておきましょう。
住宅ローン控除は、住宅ローンを組んでいる場合に対象となる控除で、正式には「住宅借入金等特別控除」と呼ばれます。
一定の要件を満たす住宅を取得し、住宅ローンを利用している場合、年末時点での住宅ローン残高の一定割合について所得税の控除を受けられます。注意点として、借入1年目に控除を受ける場合は、従業員自身による確定申告が必要です。
2年目以降は、税務署から送付される「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」と、金融機関から発行される「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」の提出により年末調整で控除を受けられます。
年末調整で税額の精算ができる場合が多いですが、一部のケースでは従業員自身が確定申告をする必要があります。確定申告が必要な主なケースは、以下のとおりです。
年末調整では対応できない控除を受けたい場合や、税額が確定しないケースでは確定申告をすることで還付金が多くなることもあります。
2025年度の税制改正では、所得税の基礎控除の見直しなどがありました。これらの変更は年末調整業務にも大きく影響するため、事業者は変更点を把握し適切に対応する必要があります。ここでは、主な変更点と業務のポイントについて解説します。
2025年度の税制改正により、基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、給与所得者の税負担は全体的に軽減されます。基礎控除は最大95万円まで、給与所得控除は最大65万円まで引き上げられました。
参考)国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)
年末調整では従業員の所得金額を正確に把握し、所得区分に応じた適切な控除額を適用することが重要です。特に、控除の適用範囲の境界付近にある従業員については、慎重に確認しましょう。
基礎控除の改正に伴い、扶養親族や配偶者に適用される所得基準がこれまでよりも緩やかになりました。
扶養親族として認められる合計所得金額の上限が従来の48万円から58万円へと拡大され、配偶者控除・配偶者特別控除も同様に基準が引き上げられています。
引用)国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)
所得要件の緩和により、これまで控除の対象外だった人が新たに該当するケースが増える可能性があります。扶養に入れられる家族が増える従業員は、「令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」にその情報を記載しなければなりません。
制度が変わった点を従業員にわかりやすく知らせ、該当者の申告漏れがないよう適切にフォローすることが重要です。
2025年度の税制改正では、新たに「特定親族特別控除」が創設されました。特定親族とは、19歳以上23歳未満の扶養親族を指し、特定親族を有する場合には総所得金額等から特定親族1人につき最高63万円(所得に応じて段階的に減額)が控除されます。
特定親族特別控除は、子育て世帯の経済的負担を軽減することを目的としており、大学生などの子どもを持つ家庭にとって大きなメリットです。
引用)財務省|令和7年度税制改正
従業員が特定親族特別控除の適用を受ける場合は、「給与所得者の特定親族特別控除申告書(4つの申告書が兼用となっているもの)」を提出する必要があります。
年末調整業務では、申告書の回収や内容確認を従来の業務に加えて実施するため、スケジュール管理に注意が必要です。また、所得制限や控除対象親族の範囲を正確に把握し、該当する従業員へ適切に案内しましょう。
年末調整は、10月頃から翌年1月まで続く長期的な業務であり、早期の準備と計画的な対応がスムーズな進行のカギとなります。特に10月の準備段階では、税制改正の確認や申告書類の整理、従業員への案内が欠かせません。
11月〜12月上旬は書類回収が本格化し、年末にかけては控除額の計算や精算業務が集中する時期です。さらに、源泉徴収票や法定調書などの提出期限である1月31日までは、正確な書類作成と期日管理が求められます。
加えて、2025年度の税制改正では、基礎控除・給与所得控除の見直しや扶養親族の所得要件の緩和、特定親族特別控除の新設など大きな変更がありました。そのため、従業員への周知や申告漏れ防止がこれまで以上に重要です。
還付金が出るケースや、従業員が別途確定申告すべき場面についても事前に案内することで、トラブルなく効率的に進められます。必要な情報を早めに整理し、余裕のあるスケジュールで年末調整を進めていきましょう。
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年末調整のスケジュールを押さえておくことは、事業者にとってミスを防ぐうえで欠かせません。従業員の年末調整を適切に進めるには、早期の準備が不可欠です。申告書の配布時期や回収期限、税務署への提出期限など、各ステップを確認しておくことで、還付が遅れる心配を減らせます。本記事では、年末調整のスケジュールや2025年度の税制改正のポイント、還付金が発生するケースまで実務に役立つ情報を解説します。
目次
いつからいつまで?年末調整の期限
年末調整を適切に実施するには、対象者や期限を正確に把握しておく必要があります。ここでは、年末調整の基本的な概要と書類提出の期限について解説します。
年末調整の対象と期限
年末調整とは、会社員や公務員などの給与所得者に対して、源泉徴収されている所得税の過不足を精算する手続きのことです。
毎月の給与支払時には概算の所得税が徴収されていますが、年間を通じてみると控除の有無や扶養家族の状況によって正確な税額に差が生じます。その差額を精算するのが年末調整です。
対象となるのは、年末調整時点で会社などに在籍しており「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員です。パートやアルバイトであっても条件を満たしている場合は、年末調整の対象となります。
年末調整の業務は、一般的に10月頃から翌年1月にかけて進められます。従業員は11月下旬までに会社に必要書類を提出し、事業者は12月から翌年1月にかけて処理作業を進めるのが通例です。
必要書類の提出期限
事業者は、源泉徴収票や支払調書、法定調書合計表、給与支払報告書などを翌年の1月31日までに税務署や各従業員の住所地の市区町村などに提出しなければなりません。
従業員自身の書類提出の遅れや不備が原因で控除が適用されなかった場合、その従業員は翌年に自ら確定申告をすることで控除を受けられます。
確定申告は、通常2月16日から3月15日の間に行われますが、還付申告であれば対象となる年の翌年1月1日から5年間について申請が可能です。
年末調整のスケジュールの目安
年末調整をスムーズに進めるには、全体のスケジュールを把握し、各段階で必要な作業を計画的に実施することが大切です。ここでは、時期ごとの主な業務内容について見ていきます。
~10月:年末調整に向けた準備期間
10月までは、年末調整に向けた準備期間として位置づけられます。10月までの準備期間では、主に以下を実施します。
特に重要なのが税制改正の確認です。毎年、税制は改正される可能性があるため、新たな情報を国税庁のWebサイトなどで確認し、控除額や適用要件の変更点を把握しておく必要があります。
また、年末調整に必要な申告書の様式が変更されていないかどうかもチェックしましょう。
さらに、従業員への案内も重要な準備作業の一つです。年末調整の概要や必要書類、提出期限などを記載した案内文書を作成し、配布の準備をします。
保険料控除証明書など従業員自身が準備すべき書類についても、早めに案内することでスムーズな書類回収につながります。
10月下旬~12月上旬:申告書の配布および回収
10月下旬から12月上旬にかけては、従業員へ申告書を配布し、記入済みの書類を回収する期間とするのが一般的です。この期間に事業者は従業員へ以下の申告書類を配布します。
提出期限を11月下旬から12月上旬に設定すると、その後の業務に余裕が生まれます。期限を早めに設定することで、記入漏れや不備があった場合にも、従業員への確認や再提出の依頼がしやすくなるためです。
また、回収した書類は内容を確認し、不明点や記入ミスがあれば早めに従業員へ問い合わせることで、後の計算作業をスムーズに進められます。
~翌年1月:控除額の確定と過不足の計算
12月から翌年1月にかけては、回収した申告書をもとに、各従業員の年税額を計算する期間です。
この作業では、給与や賞与の総額を集計し、各種控除額を差し引いて課税所得を算出します。課税所得に税率を適用して年税額を計算し、すでに源泉徴収した税額との差額を求める作業です。
源泉徴収済額との過不足がある場合は、12月または翌年1月の最終給与で精算します。多くの事業者では12月の給与で精算することが一般的です。
ただし、計算が間に合わない場合や12月中に退職者が出た場合などは、翌年1月の給与で調整することもあります。過不足の精算結果は給与明細に明記し、従業員にわかりやすく伝えることが大切です。
なお、年末調整によって確定した年間の所得税額は、翌年1月10日までに納付する必要があります。
~翌年1月31日:必要書類の提出
翌年1月31日までに、法定調書合計表や源泉徴収票などを作成し、管轄の税務署へ提出しなければなりません。
法定調書合計表は、その年に支払った給与や報酬、源泉徴収税額などを集計した書類です。また、一定の条件を満たす従業員には源泉徴収票を交付し、税務署にも提出しなければなりません。
さらに、各市区町村には「給与支払報告書(総括表・個人別明細書)」を1月31日までに提出します。給与支払報告書は、従業員の住民税を計算するための資料となるもので、従業員が1月1日時点で居住している市区町村に提出しなければなりません。
これらの書類を期限内に提出することで、年末調整業務は完了します。
年末調整で還付金が発生するケース
年末調整では各種控除の適用により税額が減少し、還付金が発生することがあります。代表的なケースは、以下のとおりです。
ここでは、それぞれのケースについて解説します。
扶養対象者が増加した
扶養対象者が増えた場合は、扶養控除額の増加にともない課税所得が減少し、還付金が発生する場合があります。扶養控除は、納税者が一定の要件を満たす親族を扶養している場合に受けられる控除で、扶養親族の年齢や同居の有無などによって控除額が異なります。
2025年度の税制改正により、対象者の年間合計所得金額は48万円以下から58万円以下に引き上げられました。そのため、これまで所得超過で扶養控除の対象外だった親族が、新たに対象となる可能性があります。
扶養対象者の増加は改正だけでなく、年の途中で子どもが生まれた場合や親族を新たに扶養することになった場合にも起こります。これらの変動は控除額や還付額に影響するため、扶養控除等(異動)申告書に必ず記載してもらい、早めに把握しておくことが重要です。
ひとり親になった
離婚や死別などによりひとり親になった場合、一定の要件を満たすことで性別や婚姻歴に関係なく一律35万円の控除が受けられ、還付金が発生する場合があります。
ひとり親控除の要件は、次のとおりです。
2025年度の税制改正により、2025年分(令和7年分)以降は、ひとり親控除の対象となる子の総所得金額等の上限が48万円以下から58万円以下に引き上げられています。
生命保険や地震保険などに加入している
生命保険や医療保険、地震保険などに加入し要件を満たす場合には、控除が受けられ還付金が発生する場合があります。
生命保険料控除は、一般の生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料の3種類に分かれており、それぞれに控除額の上限が設けられています。
これらの控除を受けるには、保険会社から送付される控除証明書を年末調整の際に提出しなければなりません。控除証明書は10月頃から各自に届くため、紛失しないよう大切に保管しておくよう周知しておきましょう。
「住宅ローン控除」が適用された
住宅ローン控除は、住宅ローンを組んでいる場合に対象となる控除で、正式には「住宅借入金等特別控除」と呼ばれます。
一定の要件を満たす住宅を取得し、住宅ローンを利用している場合、年末時点での住宅ローン残高の一定割合について所得税の控除を受けられます。注意点として、借入1年目に控除を受ける場合は、従業員自身による確定申告が必要です。
2年目以降は、税務署から送付される「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」と、金融機関から発行される「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」の提出により年末調整で控除を受けられます。
従業員による確定申告が必要なケース
年末調整で税額の精算ができる場合が多いですが、一部のケースでは従業員自身が確定申告をする必要があります。確定申告が必要な主なケースは、以下のとおりです。
年末調整では対応できない控除を受けたい場合や、税額が確定しないケースでは確定申告をすることで還付金が多くなることもあります。
令和7年度税制改正の変更点と年末調整への影響
2025年度の税制改正では、所得税の基礎控除の見直しなどがありました。これらの変更は年末調整業務にも大きく影響するため、事業者は変更点を把握し適切に対応する必要があります。ここでは、主な変更点と業務のポイントについて解説します。
基礎控除と給与所得控除の見直し
2025年度の税制改正により、基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、給与所得者の税負担は全体的に軽減されます。基礎控除は最大95万円まで、給与所得控除は最大65万円まで引き上げられました。
参考)国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)
年末調整では従業員の所得金額を正確に把握し、所得区分に応じた適切な控除額を適用することが重要です。特に、控除の適用範囲の境界付近にある従業員については、慎重に確認しましょう。
扶養親族等の所得要件の緩和
基礎控除の改正に伴い、扶養親族や配偶者に適用される所得基準がこれまでよりも緩やかになりました。
扶養親族として認められる合計所得金額の上限が従来の48万円から58万円へと拡大され、配偶者控除・配偶者特別控除も同様に基準が引き上げられています。
引用)国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)
所得要件の緩和により、これまで控除の対象外だった人が新たに該当するケースが増える可能性があります。扶養に入れられる家族が増える従業員は、「令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」にその情報を記載しなければなりません。
制度が変わった点を従業員にわかりやすく知らせ、該当者の申告漏れがないよう適切にフォローすることが重要です。
特定親族特別控除の創設
2025年度の税制改正では、新たに「特定親族特別控除」が創設されました。特定親族とは、19歳以上23歳未満の扶養親族を指し、特定親族を有する場合には総所得金額等から特定親族1人につき最高63万円(所得に応じて段階的に減額)が控除されます。
特定親族特別控除は、子育て世帯の経済的負担を軽減することを目的としており、大学生などの子どもを持つ家庭にとって大きなメリットです。
引用)財務省|令和7年度税制改正
従業員が特定親族特別控除の適用を受ける場合は、「給与所得者の特定親族特別控除申告書(4つの申告書が兼用となっているもの)」を提出する必要があります。
年末調整業務では、申告書の回収や内容確認を従来の業務に加えて実施するため、スケジュール管理に注意が必要です。また、所得制限や控除対象親族の範囲を正確に把握し、該当する従業員へ適切に案内しましょう。
年末調整のスケジュールまとめ
年末調整は、10月頃から翌年1月まで続く長期的な業務であり、早期の準備と計画的な対応がスムーズな進行のカギとなります。特に10月の準備段階では、税制改正の確認や申告書類の整理、従業員への案内が欠かせません。
11月〜12月上旬は書類回収が本格化し、年末にかけては控除額の計算や精算業務が集中する時期です。さらに、源泉徴収票や法定調書などの提出期限である1月31日までは、正確な書類作成と期日管理が求められます。
加えて、2025年度の税制改正では、基礎控除・給与所得控除の見直しや扶養親族の所得要件の緩和、特定親族特別控除の新設など大きな変更がありました。そのため、従業員への周知や申告漏れ防止がこれまで以上に重要です。
還付金が出るケースや、従業員が別途確定申告すべき場面についても事前に案内することで、トラブルなく効率的に進められます。必要な情報を早めに整理し、余裕のあるスケジュールで年末調整を進めていきましょう。