更新日:2025年12月02日
源泉徴収簿と源泉徴収票の違いは、年末調整を進めるうえで必ず押さえておきたいポイントです。名称は似ていますが、両者は目的も役割も大きく異なるため、経営者や人事担当者の間で混同が生じやすい書類でもあります。本記事では、源泉徴収簿の基本的な知識から具体的な書き方、源泉徴収票との違い、作成時の注意点まで年末調整業務を円滑に進めるために押さえておくべきポイントを詳しく解説します。
目次
源泉徴収簿は、従業員の所得や控除額を記録し、正確な源泉徴収と年末調整をするための帳簿を指します。源泉徴収票とは異なり、社内で管理する資料であり、税務処理の基礎として重要な役割を担う帳簿です。以下では、作成目的と源泉徴収票との違いについて解説します。
源泉徴収簿を作成する目的は、従業員の給与から源泉徴収すべき所得税額を正確に算出し、適切に処理するための基礎情報を一元管理することです。
源泉徴収簿には、事業者が従業員へ支払った給与・賞与の金額や社会保険料などの控除額、扶養親族の状況、月ごとの源泉徴収税額など税額計算に必要な情報を記録します。
加えて、源泉徴収簿は年末調整の計算や源泉徴収票の作成を効率よく進めるための基礎資料としても重要です。必要な情報が整っていることで、年末調整後の源泉徴収票をスムーズに発行できる点も大きなメリットといえます。
なお源泉徴収簿は、法令で作成が義務づけられている帳簿ではありません。そのため、業務フローに合わせて使いやすい形式で作成が可能です。
「源泉徴収簿」と「源泉徴収票」は名称が似ていますが、担っている役割はそれぞれ異なります。
源泉徴収票は、事業者が従業員に発行する所得税の証明書です。源泉徴収票は、一年分の給与や賞与、源泉徴収税額などを集計して従業員に交付する帳票であり、所得税法によって発行が義務付けられています。
事業主は従業員に対し、翌年1月末までに源泉徴収票を発行する必要があり、退職者にも退職後1か月以内に発行しなければなりません。
源泉徴収票の発行は法的に義務付けられていますが、源泉徴収簿は事業主の関係者のみが閲覧する内部資料としての性格が強く、基本的に従業員に開示する義務や国税庁への提出義務はありません。
源泉徴収簿の記入は、以下7つのステップからなります。
ステップ1.従業員の個人情報を記入する ステップ2.給与・賞与の情報を記入する ステップ3.給与所得控除後の給与等の金額を算出する ステップ4.扶養対象者の情報を記入し控除額を算出する ステップ5.生命保険等の申告書の情報を記入する ステップ6.算出所得税額を計算する ステップ7.税額を計算する
以下では、それぞれについて解説します。
※国税庁|令和7年分 給与所得に対する源泉徴収簿を引用して加工
源泉徴収簿の上部の欄(1の黄色い箇所)に従業員の基本情報を記入しましょう。所属部署、職名、住所、氏名、整理番号を正確に記載してください。整理番号は、事業者が独自に設定できる管理用の番号です。
左側に表示されている「甲欄」と「乙欄」は、従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合は「甲」、申告書が未提出の場合は「乙」を意味しています。
この段階で記入漏れや誤記入があると、後の工程にも影響が出てしまうため、慎重に確認しながら記入しましょう。
源泉徴収簿への給与・賞与情報の記入では、給与計算で確定した数値を正確に転記することが重要です。
源泉徴収簿の左の欄(2のオレンジの箇所)に、毎月の支給額を記入します。各従業員の毎月の給与額を、源泉徴収簿の該当欄に月ごとに記入しましょう。作業は給与明細や賃金台帳を確認しながら進め、記入漏れや誤記を避けることがポイントです。
各項目には、支給日や総支給金額、社会保険料などの控除額、控除後の給与額を記入します。社会保険料等の控除額は、健康保険・厚生年金・雇用保険などの合計額です。
総支給金額との差額が、社会保険料等控除後の給与等の金額です。この控除後の金額と扶養親族数を基に源泉徴収税額を計算し、算出税額欄に記入します。
なお、賞与を支払った場合は、給与と同じ手順で下の賞与等欄に記入しましょう。賞与は支給の機会が限られるため、記入漏れが起きやすい点に注意が必要です。
給与と賞与の金額をすべて源泉徴収簿へ記入し終えたら、次の作業として「給与所得控除後の給与等の金額」を右側の該当欄(3の緑色部分)へ記入します。給与所得控除は支給額に応じて変動するため、従業員ごとに個別で計算しなければなりません。
給与欄と賞与欄の金額(左の欄)を合算し、その合計値を年末調整欄(右側の欄)へ転記します。そのうえで、「給料・手当等」や「賞与等」に記載した内容を基に、税額計算を進めていきましょう。
「扶養控除等の申告・各種控除額」欄は、従業員が受けられる各種控除を記録し、源泉徴収税額を算出するための基礎情報をまとめる箇所です。従業員から提出された扶養控除等申告書の内容を記入します。
控除対象者がいる場合は「有」、いない場合は「無」と記入し、配偶者が源泉控除対象であれば該当欄に「有」を記入してください。
一般扶養親族、特定扶養親族、老人扶養親族など控除の種類ごとに人数を記入し、それぞれ1人当たりの控除額を記入して合計控除額を算出します。
また、寡婦・ひとり親・勤労学生などの特別控除の有無も記入し、必要に応じて従たる給与から控除対象者の合計人数を記入しましょう。
特定親族特別控除の適用がある場合は、右下の余白部分に欄を設けて控除額を記載し、控除額を加算します。
なお2026年(令和8年)度分は、下図のとおり特定親族特別控除の欄が設けられているため、項目内容を確認するようにしましょう。
※国税庁|令和8年分 給与所得に対する源泉徴収簿を引用して加工
従業員が提出した保険料控除申告書に基づき、生命保険料控除と地震保険料控除の正確な控除額を源泉徴収簿に記入します。
生命保険料控除の対象は、生命保険・介護医療保険・個人年金保険の掛金で、年間上限は各保険4万円、合計で最大12万円です。ただし、平成23年12月31日以前の旧契約は各保険につき5万円が上限となるため、控除額の計算に注意しましょう。
一方、地震保険料控除は地震保険のみが対象であり、年間上限5万円までの控除が可能です。
ステップ3で求めた給与所得控除後の金額から、各種所得控除の合計を差し引きます。その差額に所得税の税率を適用し、さらに控除額を差し引いて所得税額を算出してください。
所得税額=課税される所得金額 × 所得税の税率 - 控除額
所得税率は課税所得に応じて5%から45%まで段階的に設定されており、この計算で得られた金額が、その年の所得税額の基礎となります。
参考)国税庁「No.2260 所得税の税率」
最後は、復興特別所得税を含めた年間の所得税額の計算です。
ステップ6で求めた所得税額に102.1%を乗じることで、所得税額の2.1%が復興特別所得税として加算されます。この税は、東日本大震災以降に導入されており、2037年まで所得税納付義務のある人は支払わなければなりません。
この計算で得られた金額が、従業員の年間所得税額です。
次に、年間所得税額と毎月の給与から源泉徴収した税額の合計を比較し、過不足があれば年末調整で精算します。多く徴収していた場合は還付し、足りない場合は追加で徴収されます。
源泉徴収簿は年末調整の基礎資料となる重要書類であり、作成や管理を誤ると後の業務や税務調査に影響するおそれがあります。そのため、作成時にはいくつかのポイントを確実に押さえることが重要です。
源泉徴収簿作成における主な注意点は、次のとおりです。
これらのポイントを意識して管理することで、正確で安全な運用につながります。以下で、それぞれの注意点を見ていきましょう。
源泉徴収簿自体に法的な保存期間は定められていません。ただし、年末調整に関する書類は、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存が義務付けられています。
源泉徴収簿は、税務調査の際に提示を求められる可能性もあるため、他の年末調整業務の基礎資料同様に7年間保存するのが望ましいでしょう。保存期間中は、必要に応じてすぐに取り出せるよう、適切に整理して保管しておくことが重要です。
また、保存方法については紙ベースでの保管だけでなく、電子データとしての保存も認められています。電子保存の場合は、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があるため、事前に確認しておきましょう。
源泉徴収簿には従業員の給与額など機密性の高い情報が多く含まれるため、個人情報保護法に基づいた慎重な管理が欠かせません。
源泉徴収簿は紙かデータかを問わず、外部に漏えいすれば深刻なトラブルにつながるおそれがあります。特に給与に関する情報は、社内であっても閲覧を限定すべき内容です。
紙の場合は鍵付き棚に保管し、担当者以外が触れない体制を整えます。データの場合も同様で、文書管理システムの権限設定や外部メディアの厳重管理が必要です。
保管期間が終了した書類を廃棄するときは、復元されない処理方法を選びましょう。溶解処理を採用することで、安全性を高められます。
源泉徴収簿の管理は、「誰が閲覧できるか」と「どう守るか」を常に意識する姿勢が大切です。適切な環境で保管し厳重な方法で廃棄することで、事業者としての責任を果たせます。
源泉徴収簿の記入内容に誤りがあると、源泉徴収票にも誤った情報が記載されてしまい、従業員が確定申告をする際にトラブルが生じる可能性があります。
特に、金額の桁を間違えたり控除額を正しく計算できていなかったりすると、所得税額に大きな影響が出てしまうため注意しなければなりません。
記入作業をする際は、複数人でダブルチェックするなど誤りを防ぐ仕組みを整えることが重要です。また、計算が複雑で不安な部分については、税理士や税務署に相談することをおすすめします。
特に、初めて源泉徴収簿を作成する場合や制度改正があった年などは、より慎重に確認作業を進めるよう心がけましょう。
源泉徴収票の発行は、法令遵守と適切な情報管理の両面において極めて重要です。税務署への提出対象者の確認や従業員のマイナンバーの取り扱い、発行遅延や未発行による法的リスクは実務でトラブルになりやすいポイントです。
以下で、それぞれの注意点を確認していきましょう。
年末調整後の源泉徴収票であっても、支払金額が一定基準を超える場合は税務署に提出しなければなりません。この提出義務は、全受給者に源泉徴収票を交付する義務とは異なり、法令で定められた範囲に限定されている点が特徴です。
提出基準は以下のとおり、受給者の属性によって区分されています。
これらの金額を超える場合、支払者は源泉徴収票を税務署へ提出しなければなりません。そのため、事業者は年末調整後に各従業員の立場と年間支払額を確認し、提出対象者を正確に洗い出す必要があります。
該当者がいる場合は、翌年1月31日までに「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」とともに、所轄税務署へ提出できるよう準備を進めましょう。
源泉徴収票には、従業員のマイナンバーを記載してはいけないため、注意してください。
これは個人情報漏えいを防ぐため、2015年の所得税法施行規則の改正により明確に禁止されたルールです。改正前は記載が義務付けられていたため、旧ルールのまま運用してしまう誤りには特に注意しましょう。
実務では、給与システムが税務署提出用フォーマットの設定のままで出力することや印刷区分の選択を誤ることで、マイナンバーが誤って記載されるケースもあります。
マイナンバーの誤表示は、情報漏えいにつながる重大な事故であり、事業者として防がなければなりません。そのため、事業者はマイナンバーの管理ルールを明確化し、担当者に徹底させる体制づくりが不可欠です。
システム設定や出力区分の確認、源泉徴収票を印刷する前にサンプルを必ずチェックするなど、実務的で確実な手順を設け、不要な記載が生じないよう継続的に管理しましょう。
源泉徴収票を発行しない、または適切に発行しないことは、事業者が罰則を受ける可能性がある法令違反です。源泉徴収票の交付は給与支払者に課せられた法定義務であり、この義務を怠ると所得税法第242条により拘禁刑または罰金が科されるおそれがあります。
法的リスクだけでなく、発行遅延や配布漏れは従業員からの信頼を失う大きな要因にもなるため注意が必要です。
特に、医療費控除や寄附金控除を適用する人や年末調整の対象外となる人などは、正確な確定申告をするために事業者が発行する源泉徴収票が必要です。源泉徴収票が届かない場合、従業員は適切な申告ができず直接的な不利益を受けてしまいます。
こうした法的・実務的トラブルを避けるためにも、源泉徴収票は定められた期限内に確実に発行することが欠かせません。特に退職者には、退職日から1か月以内という明確な交付期限があります。
発行漏れを防ぐため、社内の確認フローや管理体制を整備し、全担当者に対して迅速かつ確実に交付できる仕組みを徹底しましょう。
源泉徴収簿と源泉徴収票は、名称は似ていますが役割は大きく異なります。源泉徴収簿は年末調整業務を正確に実施するための内部管理帳簿であり、源泉徴収票は従業員に交付する公的な証明書類です。
それぞれの目的を正しく理解し適切に作成・発行することで、スムーズな年末調整業務を実現できます。また、個人情報の取り扱いや保存期間、税務署への提出要件など注意すべきポイントを押さえ、コンプライアンスを遵守した業務運営を心がけましょう。
この記事は、給与計算ソフト「フリーウェイ給与計算」の株式会社フリーウェイジャパンが提供しています。フリーウェイ給与計算は、従業員5人まで永久無料のクラウド給与計算で、WindowsでもMacでも利用できます。
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(c) 2017 freewayjapan Co., Ltd.
源泉徴収簿と源泉徴収票の違いは、年末調整を進めるうえで必ず押さえておきたいポイントです。名称は似ていますが、両者は目的も役割も大きく異なるため、経営者や人事担当者の間で混同が生じやすい書類でもあります。本記事では、源泉徴収簿の基本的な知識から具体的な書き方、源泉徴収票との違い、作成時の注意点まで年末調整業務を円滑に進めるために押さえておくべきポイントを詳しく解説します。
目次
源泉徴収簿とは?源泉徴収票との違い
源泉徴収簿は、従業員の所得や控除額を記録し、正確な源泉徴収と年末調整をするための帳簿を指します。源泉徴収票とは異なり、社内で管理する資料であり、税務処理の基礎として重要な役割を担う帳簿です。以下では、作成目的と源泉徴収票との違いについて解説します。
源泉徴収簿の作成目的
源泉徴収簿を作成する目的は、従業員の給与から源泉徴収すべき所得税額を正確に算出し、適切に処理するための基礎情報を一元管理することです。
源泉徴収簿には、事業者が従業員へ支払った給与・賞与の金額や社会保険料などの控除額、扶養親族の状況、月ごとの源泉徴収税額など税額計算に必要な情報を記録します。
加えて、源泉徴収簿は年末調整の計算や源泉徴収票の作成を効率よく進めるための基礎資料としても重要です。必要な情報が整っていることで、年末調整後の源泉徴収票をスムーズに発行できる点も大きなメリットといえます。
なお源泉徴収簿は、法令で作成が義務づけられている帳簿ではありません。そのため、業務フローに合わせて使いやすい形式で作成が可能です。
源泉徴収簿と源泉徴収票の違い
「源泉徴収簿」と「源泉徴収票」は名称が似ていますが、担っている役割はそれぞれ異なります。
源泉徴収票は、事業者が従業員に発行する所得税の証明書です。源泉徴収票は、一年分の給与や賞与、源泉徴収税額などを集計して従業員に交付する帳票であり、所得税法によって発行が義務付けられています。
事業主は従業員に対し、翌年1月末までに源泉徴収票を発行する必要があり、退職者にも退職後1か月以内に発行しなければなりません。
源泉徴収票の発行は法的に義務付けられていますが、源泉徴収簿は事業主の関係者のみが閲覧する内部資料としての性格が強く、基本的に従業員に開示する義務や国税庁への提出義務はありません。
源泉徴収簿の書き方7ステップ
源泉徴収簿の記入は、以下7つのステップからなります。
ステップ1.従業員の個人情報を記入する
ステップ2.給与・賞与の情報を記入する
ステップ3.給与所得控除後の給与等の金額を算出する
ステップ4.扶養対象者の情報を記入し控除額を算出する
ステップ5.生命保険等の申告書の情報を記入する
ステップ6.算出所得税額を計算する
ステップ7.税額を計算する
以下では、それぞれについて解説します。
※国税庁|令和7年分 給与所得に対する源泉徴収簿を引用して加工
ステップ1.従業員の個人情報を記入する
源泉徴収簿の上部の欄(1の黄色い箇所)に従業員の基本情報を記入しましょう。所属部署、職名、住所、氏名、整理番号を正確に記載してください。整理番号は、事業者が独自に設定できる管理用の番号です。
左側に表示されている「甲欄」と「乙欄」は、従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合は「甲」、申告書が未提出の場合は「乙」を意味しています。
この段階で記入漏れや誤記入があると、後の工程にも影響が出てしまうため、慎重に確認しながら記入しましょう。
ステップ2.給与・賞与の情報を記入する
源泉徴収簿への給与・賞与情報の記入では、給与計算で確定した数値を正確に転記することが重要です。
源泉徴収簿の左の欄(2のオレンジの箇所)に、毎月の支給額を記入します。各従業員の毎月の給与額を、源泉徴収簿の該当欄に月ごとに記入しましょう。作業は給与明細や賃金台帳を確認しながら進め、記入漏れや誤記を避けることがポイントです。
各項目には、支給日や総支給金額、社会保険料などの控除額、控除後の給与額を記入します。社会保険料等の控除額は、健康保険・厚生年金・雇用保険などの合計額です。
総支給金額との差額が、社会保険料等控除後の給与等の金額です。この控除後の金額と扶養親族数を基に源泉徴収税額を計算し、算出税額欄に記入します。
なお、賞与を支払った場合は、給与と同じ手順で下の賞与等欄に記入しましょう。賞与は支給の機会が限られるため、記入漏れが起きやすい点に注意が必要です。
ステップ3.給与所得控除後の給与等の金額を算出する
給与と賞与の金額をすべて源泉徴収簿へ記入し終えたら、次の作業として「給与所得控除後の給与等の金額」を右側の該当欄(3の緑色部分)へ記入します。給与所得控除は支給額に応じて変動するため、従業員ごとに個別で計算しなければなりません。
※国税庁|令和7年分 給与所得に対する源泉徴収簿を引用して加工
給与欄と賞与欄の金額(左の欄)を合算し、その合計値を年末調整欄(右側の欄)へ転記します。そのうえで、「給料・手当等」や「賞与等」に記載した内容を基に、税額計算を進めていきましょう。
ステップ4.扶養対象者の情報を記入し控除額を算出する
「扶養控除等の申告・各種控除額」欄は、従業員が受けられる各種控除を記録し、源泉徴収税額を算出するための基礎情報をまとめる箇所です。従業員から提出された扶養控除等申告書の内容を記入します。
控除対象者がいる場合は「有」、いない場合は「無」と記入し、配偶者が源泉控除対象であれば該当欄に「有」を記入してください。
一般扶養親族、特定扶養親族、老人扶養親族など控除の種類ごとに人数を記入し、それぞれ1人当たりの控除額を記入して合計控除額を算出します。
また、寡婦・ひとり親・勤労学生などの特別控除の有無も記入し、必要に応じて従たる給与から控除対象者の合計人数を記入しましょう。
特定親族特別控除の適用がある場合は、右下の余白部分に欄を設けて控除額を記載し、控除額を加算します。
なお2026年(令和8年)度分は、下図のとおり特定親族特別控除の欄が設けられているため、項目内容を確認するようにしましょう。
※国税庁|令和8年分 給与所得に対する源泉徴収簿を引用して加工
ステップ5.生命保険等の申告書の情報を記入する
従業員が提出した保険料控除申告書に基づき、生命保険料控除と地震保険料控除の正確な控除額を源泉徴収簿に記入します。
生命保険料控除の対象は、生命保険・介護医療保険・個人年金保険の掛金で、年間上限は各保険4万円、合計で最大12万円です。ただし、平成23年12月31日以前の旧契約は各保険につき5万円が上限となるため、控除額の計算に注意しましょう。
一方、地震保険料控除は地震保険のみが対象であり、年間上限5万円までの控除が可能です。
ステップ6.算出所得税額を計算する
ステップ3で求めた給与所得控除後の金額から、各種所得控除の合計を差し引きます。その差額に所得税の税率を適用し、さらに控除額を差し引いて所得税額を算出してください。
所得税額=課税される所得金額 × 所得税の税率 - 控除額
所得税率は課税所得に応じて5%から45%まで段階的に設定されており、この計算で得られた金額が、その年の所得税額の基礎となります。
参考)国税庁「No.2260 所得税の税率」
ステップ7.税額を計算する
最後は、復興特別所得税を含めた年間の所得税額の計算です。
ステップ6で求めた所得税額に102.1%を乗じることで、所得税額の2.1%が復興特別所得税として加算されます。この税は、東日本大震災以降に導入されており、2037年まで所得税納付義務のある人は支払わなければなりません。
この計算で得られた金額が、従業員の年間所得税額です。
次に、年間所得税額と毎月の給与から源泉徴収した税額の合計を比較し、過不足があれば年末調整で精算します。多く徴収していた場合は還付し、足りない場合は追加で徴収されます。
源泉徴収簿作成における注意点
源泉徴収簿は年末調整の基礎資料となる重要書類であり、作成や管理を誤ると後の業務や税務調査に影響するおそれがあります。そのため、作成時にはいくつかのポイントを確実に押さえることが重要です。
源泉徴収簿作成における主な注意点は、次のとおりです。
これらのポイントを意識して管理することで、正確で安全な運用につながります。以下で、それぞれの注意点を見ていきましょう。
作成後は7年間保存する
源泉徴収簿自体に法的な保存期間は定められていません。ただし、年末調整に関する書類は、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存が義務付けられています。
源泉徴収簿は、税務調査の際に提示を求められる可能性もあるため、他の年末調整業務の基礎資料同様に7年間保存するのが望ましいでしょう。保存期間中は、必要に応じてすぐに取り出せるよう、適切に整理して保管しておくことが重要です。
また、保存方法については紙ベースでの保管だけでなく、電子データとしての保存も認められています。電子保存の場合は、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があるため、事前に確認しておきましょう。
個人情報は慎重に取り扱う
源泉徴収簿には従業員の給与額など機密性の高い情報が多く含まれるため、個人情報保護法に基づいた慎重な管理が欠かせません。
源泉徴収簿は紙かデータかを問わず、外部に漏えいすれば深刻なトラブルにつながるおそれがあります。特に給与に関する情報は、社内であっても閲覧を限定すべき内容です。
紙の場合は鍵付き棚に保管し、担当者以外が触れない体制を整えます。データの場合も同様で、文書管理システムの権限設定や外部メディアの厳重管理が必要です。
保管期間が終了した書類を廃棄するときは、復元されない処理方法を選びましょう。溶解処理を採用することで、安全性を高められます。
源泉徴収簿の管理は、「誰が閲覧できるか」と「どう守るか」を常に意識する姿勢が大切です。適切な環境で保管し厳重な方法で廃棄することで、事業者としての責任を果たせます。
記入漏れ・誤記入に気を付ける
源泉徴収簿の記入内容に誤りがあると、源泉徴収票にも誤った情報が記載されてしまい、従業員が確定申告をする際にトラブルが生じる可能性があります。
特に、金額の桁を間違えたり控除額を正しく計算できていなかったりすると、所得税額に大きな影響が出てしまうため注意しなければなりません。
記入作業をする際は、複数人でダブルチェックするなど誤りを防ぐ仕組みを整えることが重要です。また、計算が複雑で不安な部分については、税理士や税務署に相談することをおすすめします。
特に、初めて源泉徴収簿を作成する場合や制度改正があった年などは、より慎重に確認作業を進めるよう心がけましょう。
源泉徴収票発行における注意点
源泉徴収票の発行は、法令遵守と適切な情報管理の両面において極めて重要です。税務署への提出対象者の確認や従業員のマイナンバーの取り扱い、発行遅延や未発行による法的リスクは実務でトラブルになりやすいポイントです。
以下で、それぞれの注意点を確認していきましょう。
税務署への提出が必要なケースがある
年末調整後の源泉徴収票であっても、支払金額が一定基準を超える場合は税務署に提出しなければなりません。この提出義務は、全受給者に源泉徴収票を交付する義務とは異なり、法令で定められた範囲に限定されている点が特徴です。
提出基準は以下のとおり、受給者の属性によって区分されています。
これらの金額を超える場合、支払者は源泉徴収票を税務署へ提出しなければなりません。そのため、事業者は年末調整後に各従業員の立場と年間支払額を確認し、提出対象者を正確に洗い出す必要があります。
該当者がいる場合は、翌年1月31日までに「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」とともに、所轄税務署へ提出できるよう準備を進めましょう。
マイナンバーの取り扱いに気を付ける
源泉徴収票には、従業員のマイナンバーを記載してはいけないため、注意してください。
これは個人情報漏えいを防ぐため、2015年の所得税法施行規則の改正により明確に禁止されたルールです。改正前は記載が義務付けられていたため、旧ルールのまま運用してしまう誤りには特に注意しましょう。
実務では、給与システムが税務署提出用フォーマットの設定のままで出力することや印刷区分の選択を誤ることで、マイナンバーが誤って記載されるケースもあります。
マイナンバーの誤表示は、情報漏えいにつながる重大な事故であり、事業者として防がなければなりません。そのため、事業者はマイナンバーの管理ルールを明確化し、担当者に徹底させる体制づくりが不可欠です。
システム設定や出力区分の確認、源泉徴収票を印刷する前にサンプルを必ずチェックするなど、実務的で確実な手順を設け、不要な記載が生じないよう継続的に管理しましょう。
未発行は罰則の対象になる
源泉徴収票を発行しない、または適切に発行しないことは、事業者が罰則を受ける可能性がある法令違反です。源泉徴収票の交付は給与支払者に課せられた法定義務であり、この義務を怠ると所得税法第242条により拘禁刑または罰金が科されるおそれがあります。
法的リスクだけでなく、発行遅延や配布漏れは従業員からの信頼を失う大きな要因にもなるため注意が必要です。
特に、医療費控除や寄附金控除を適用する人や年末調整の対象外となる人などは、正確な確定申告をするために事業者が発行する源泉徴収票が必要です。源泉徴収票が届かない場合、従業員は適切な申告ができず直接的な不利益を受けてしまいます。
こうした法的・実務的トラブルを避けるためにも、源泉徴収票は定められた期限内に確実に発行することが欠かせません。特に退職者には、退職日から1か月以内という明確な交付期限があります。
発行漏れを防ぐため、社内の確認フローや管理体制を整備し、全担当者に対して迅速かつ確実に交付できる仕組みを徹底しましょう。
源泉徴収簿・源泉徴収票の違いまとめ
源泉徴収簿と源泉徴収票は、名称は似ていますが役割は大きく異なります。源泉徴収簿は年末調整業務を正確に実施するための内部管理帳簿であり、源泉徴収票は従業員に交付する公的な証明書類です。
それぞれの目的を正しく理解し適切に作成・発行することで、スムーズな年末調整業務を実現できます。また、個人情報の取り扱いや保存期間、税務署への提出要件など注意すべきポイントを押さえ、コンプライアンスを遵守した業務運営を心がけましょう。