更新日:2025年12月03日
扶養控除とは、扶養対象の扶養親族がいる場合に受けられる所得控除のことです。適用を受けるにあたって、一般的に会社員は年末調整、個人事業主は確定申告で手続きします。本記事では、扶養控除の対象者や、適用される控除額などについて詳しく解説します。
目次
そもそも、「扶養」には「生活できるように養う」という意味があります。実生活では、親族に対して経済的援助をすることや、親族から経済的援助を受ける意味で使うことが一般的です。
また、会話の中で「夫(妻)の扶養に入る」「(学生が)親の扶養に入っている」などと表現することがあります。「扶養に入る」とは、一般的に税金(例:扶養控除)や社会保険面の制度を適用することです。
なお、一般的に扶養する側を「扶養者」、扶養される側を「被扶養者」と呼びます。
扶養控除とは、納税者に所得税法上の「控除対象扶養親族」がいる場合に、一定額受けられる所得控除です。扶養親族が「一般の控除対象扶養親族」「特定扶養親族」「老人扶養親族(同居老親等以外の者)」「老人扶養親族(同居老親等)」のいずれに該当するかによって、控除額が異なります。
所得控除とは、所得税額を計算する際に各納税者の個人的事情を加味して、各種所得金額の合計額から一定額引ける制度のことです。扶養控除以外に、以下の所得控除があります。
特定親族特別控除は、2025年の税制改正で新設されました。
参考)国税庁「No.1180 扶養控除」
扶養親族や勤労学生などに関する所得要件が、2025年の税制改正で緩和されています。
従来、扶養控除の所得要件は合計所得金額「48万円以下(給与収入のみの場合:収入103万円以下)」でした。税制改正では、合計所得金額が「58万円以下(給与収入のみの場合:収入123万円以下)」に引き上げられています。
なお、基礎控除と給与所得控除が見直されたことや特定親族特別控除が創設されたことも、税制改正による変更点です。
扶養控除を受ければ、税負担を軽減できる点がメリットです。
たとえば、扶養控除対象の親族を扶養に入れた場合、扶養控除を適用できます。所得控除を適用すれば、各種所得の金額の合計額から一定額を引いて課税所得金額を減らせるため、課される税金(所得税や住民税)も少なくなるでしょう。
ただし、扶養控除を受けるには、さまざまな要件を満たさなければなりません。
扶養親族となるには、以下の要件すべてに該当する必要があります。
血族とは納税者本人の親族のことで、姻族とは納税者の配偶者(夫や妻)の親族のことです。扶養親族には、納税者本人の子どもだけでなく、親や祖父母など、上の世代も対象になります。
扶養親族になるには、納税者と親族が同一生計である必要があります。納税者の収入で生活している親族であれば、同居していなくとも構いません。納税者が単身赴任などで別居している場合に納税者の仕送りで生活する親族や、納税者が療養費を支払っている入院中の親族なども同一生計として扶養親族になります。
控除対象扶養親族に該当するには、年間の合計所得が「58万円以下」(※)でなければなりません。たとえば、アルバイトで給料を受け取っていて年間の所得が「58万円(給与収入のみの場合は年収123万円)」を超えている子どもは、控除対象扶養親族の対象外です。
※税制改正に伴い、「48万円以下」から「58万円以下」に引き上げ
扶養親族となるには、親族が青色申告の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払を受けていない(または、白色申告者の事業専従者でない)ことが必要です。
誤解されやすい点ですが、扶養親族であれば扶養控除の対象になる、というわけではありません。控除対象扶養親族に該当するのは、その年の12月31日時点で16歳以上の扶養親族のみです。16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)は、平成23年の法改正で子ども手当(現:児童手当)の対象になったことに伴い、扶養控除からは除外されました。
16歳未満の扶養親族については、扶養控除申告書の下部にある「住民税に関する事項」に記載します。これにより、住民税の非課税基準額が算定されます。
なお、対象となる親族が年度の途中で死亡した場合は、死亡した時点で前述の要件を満たしていれば扶養親族に該当し、扶養控除を受けられます。
扶養控除を申告する方法は、以下のとおりです。
各方法を詳しく解説します。
一般的に、会社員は年末調整で扶養控除を申告します。ただし、年間の給与収入額が2,000万円を超えるなど、一定の条件に該当する場合は年末調整の対象外です。
年末調整とは、源泉徴収された税額の年間合計額と、年税額を一致させるための精算手続きを指します。年末調整で、対象者は勤務先に主に以下の書類の提出が必要です。
「扶養控除等(異動)申告書」が、扶養控除の適用に関係する書類です。「扶養控除等(異動)申告書」には、源泉控除配偶者の情報(氏名・住所・対象年度の所得見積額)や、控除対象の扶養親族に関する情報などを記載します。
なお、「扶養控除等(異動)申告書」で他の所得控除(障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除)も申請可能です。
参考)国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和7年分)」
個人事業主は、基本的に確定申告で申告します。
確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税等の額を計算して確定させる手続きのことです。源泉徴収された税金や予定納税額は、確定申告により精算します。
確定申告で扶養控除を適用するためには、確定申告書の「扶養控除」に適用できる控除額の記載が必要です。「扶養控除」の欄は、確定申告書第一表の左下「所得から差し引かれる金額」の中にあります。また、対象の扶養親族に関する情報を確定申告書第二表の「配偶者や親族に関する事項」欄に記載が必要です。
なお、確定申告書は所轄の税務署に持参もしくは郵送するか、自宅などのパソコンを使ってe-Taxを利用して提出します。
参考)国税庁「No.2020 確定申告」
扶養控除には以下の4種類があり、それぞれ控除額が異なります。
※同居老親等とは、老人扶養親族のうち、納税者又は配偶者の直系の尊属(父母や祖父母など)で、納税者または配偶者と普段同居している人です。
年末調整事務をスムーズに進めるためにも、扶養控除について理解を深めておかなければなりません。一般的に、扶養控除に関する年末調整は以下の流れで進めます。
2025年の税制改正で、扶養親族の所得要件が緩和されました。そのため、親族の所得を理由にこれまで扶養控除を適用できなかった従業員でも、2025年以降は適用対象になる可能性があります。
対応に漏れがないよう、従業員に変更内容を周知しておきましょう。
扶養控除では、いくつか注意しなければならない点があります。とくに気をつけるべきケースが、以下のとおりです。
各ケースについて、詳しく解説します。
平成27年度の税制改正を受け、平成28年度分の扶養控除等(異動)申告書から「非居住者である親族」の項目が追加されました。扶養親族のうち国外に居住している人がいる場合には、この項目に○をつけ、親族関係書類(戸籍の写しなど)と、送金関係書類(金融機関発行の支払いを証明する書類など)を添付または提示する必要があります。
従業員の扶養控除対象となる子どもがアルバイトをしている場合も、注意が必要です。
扶養控除を適用するためには、対象となる扶養親族の年間合計所得が「58万円以下」(給与収入のみの場合は年収123万円以下)でなければなりません。そのため、従業員が子どものアルバイト収入が年収123万円を超えていることを把握せずに扶養控除を申告すると、のちに是正処理が必要になる可能性があります。
たとえば、従業員が離れて暮らしている実家の親に生活費を仕送りしているとき、親も扶養親族になります。従業員と親が「生計を一にしている」かどうかがポイントです。ほかにも、仕送り先の親を扶養親族とするには条件があります。親の収入(年金やパート代、家賃など)より、仕送りの額が多いことです。ちなみに、従業員に兄弟がいて、両方から親に仕送りしているとします。このとき、兄弟二人が親を扶養親族にすることは認められません。
扶養控除と配偶者控除の主な違いは、対象となる家族(親族)です。
生計を一にする親族(親や子など)は、扶養控除の対象となりえます。ただし、配偶者には扶養控除を適用できません。なぜなら、配偶者には配偶者控除や配偶者特別控除が適用できるためです。
ここから、配偶者控除と配偶者特別控除の特徴を詳しく解説します。
配偶者控除とは、納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に受けられる一定額の所得控除のことです。対象年において、配偶者が以下4つすべての要件を満たす場合に、配偶者控除を受けられます。
ただし、配偶者が要件を満たしていても、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は配偶者控除を受けられません。 配偶者控除を適用できる金額は、条件によって異なります。控除額は以下のとおりです。
なお、「老人控除対象配偶者」とは、控除対象配偶者のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の方を指します。
※税制改正に伴い、合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)から引き上げ
参考)国税庁「No.1191 配偶者控除」
配偶者特別控除とは、配偶者の所得金額を理由に配偶者控除を適用できない場合でも、一定額受けられる可能性がある所得控除のことです。配偶者特別控除を受けるには、納税者本人の対象年における合計所得金額が1,000万円以下でなければなりません。
また、配偶者が以下の要件を満たす必要があります。
配偶者特別控除で受けられる控除額は、納税者本人と配偶者の所得合計金額によって異なります。配偶者特別控除の控除額は、以下のとおりです。
たとえば、納税者本人の合計所得金額が800万円で、配偶者の合計所得金額が123万円であれば、受けられる控除額は11万円です。
なお、配偶者特別控除は夫婦間で相互には受けられない点に注意しましょう。
参考)国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
2025年に新設された特定親族特別控除とは、特定親族がいる納税者(「居住者」であることが条件)が、特定親族ひとりにつき一定額を総所得金額から控除できる制度を指します。特定親族とは、居住者と生計を一にする19歳以上23歳未満の親族で、合計所得金額が「58万円超123万円以下」の人です。
控除できる額は、特定親族の合計所得金額によって以下のように9段階に分かれています。
大学生年代の子どもがいる世帯の税負担を軽減することが、「特定親族特別控除」が創設された主な目的です。
改正前の税制では、19歳から23歳未満の子ども(特定扶養親族)がいる納税者が扶養控除を適用して「63万円」を控除するには、対象の子どもの年間合計所得が「48万円以下」(給与収入のみの場合は年収103万円以下)(※)でなければなりませんでした。そのため、一定の金額を超えないよう働き控えを検討する学生もいたでしょう。
税制改正に伴い、子どもが所得要件の範囲から外れて扶養控除を適用できなくても、特定親族特別控除の所得要件を満たしていれば、最大で63万円を控除可能です。その結果、子どもも親にかかる税負担を気にせず、安心してアルバイトの時間を増やせます。
※税制改正で、合計所得金額「58万円(給与収入のみの場合は年収123万円)」に引き上げ
参考)国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
人事担当者が扶養控除の控除額の計算をスムーズに進めるには、給与計算ソフトを使う方法があります。
扶養控除や配偶者控除は、申告する従業員や家族の情報によって適用できる控除額が異なるため、計算に手間がかかります。また、計算ミスしないように注意しなければなりません。
そこでフリーウェイ給与計算の年末調整機能を活用すれば、扶養控除などの所得控除計算を含む年末調整作業をスピーディーにこなせます。あらかじめ従業員の家族情報を登録できるため、生年月日から扶養区分を判定して「扶養控除等(異動)申告書」を自動で作成できる点もメリットです。
フリーウェイ給与計算「「年末調整の機能」の特徴」
実は、扶養には税法上の「扶養」と社会保険上の「扶養」があるため、混同しないよう注意が必要です。
ここまで説明してきた扶養控除は、基本的に税法上の「扶養」にあたります。それに対して、社会保険上の「扶養」は健康保険や厚生年金保険など保険に関連するものです。
ここから、社会保険上の扶養の概要や具体例を紹介します。
社会保険とは、健康保険・厚生年金保険・介護保険など、公的保険制度の総称を指します。社会保険上の扶養とは、家族や親族の社会保険に加入することにより、自分が保険料を負担する必要がなくなる制度です。
生計を支え、社会保険料を納付している人を「被保険者」、保険料を払わず家族・親族の社会保険に加入する人を「被扶養者」と呼びます。
たとえば、健康保険で被扶養者に該当するための条件は、以下のいずれかです。
2に該当するには、以下の条件も満たさなければなりません。
ただし、後期高齢者医療制度の被保険者などは対象外です。
そのほか、被保険者の収入についても条件がいくつかあります。
認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合、健康保険で被扶養者として認定されるための年収基準は、原則として以下のとおりです。
また、厚生年金でも同様の年収基準が設けられています。
そのため、たとえば認定対象者の年間収入が90万円、被保険者の年間収入が400万円の場合、年収面では社会保険上の扶養の条件を満たします。ただし、あくまで年収基準をクリアしているだけです。認定対象者が「被扶養者の範囲」に含まれていなければ、被扶養者に該当しません。
参考)全国健康保険協会「被扶養者とは?」 参考)日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」
「扶養」を考える上で、「年収の壁」も重要なポイントです。「年収の壁」とは、配偶者の扶養に入る人が、一定の年収を超えることで手取り収入に影響を及ぼすことを指します。
ここから、一般的に「年収の壁」と呼ばれる103万円の壁・106万円(130万円)の壁、150万円の壁について確認していきましょう。
なお、2025年の税制改正に伴い、「年収の壁」のラインに変更があるため注意が必要です。
103万円の壁とは、パートやアルバイトで働いている人の所得税が発生するラインや、配偶者控除を受けるための配偶者の所得ラインなどを示した言葉です。
税制改正前は、給与所得控除額が最低「55万円」、所得税の基礎控除額が「48万円」であったため、パート・アルバイトとして働く人の収入が「103万円」(55万円 + 48万円)以下であれば、原則としてその人に所得税がかかりませんでした。
税制改正後は、給与所得控除額が最低「65万円」、基礎控除額が最大「95万円」まで適用可能になるため、「103万円の壁」は「160万円の壁」(65万円 + 95万円)になるといえるでしょう。
また、配偶者控除を受けるための配偶者の収入上限が「103万円」であったことも、「103万円の壁」と呼ばれた根拠です。税制改正で配偶者の収入上限が「123万円」に引き上げられたため、「103万円の壁」が「123万円の壁」に変わったともいえるでしょう。
「103万円の壁」が「160万円の壁」もしくは「123万円の壁」に変わったことで、働く時間を増やす人が今後出てくることが予想されます。
「106万円の壁」「130万円の壁」は、社会保険に関する年収の目安です。
従業員数が51人以上の会社に勤める人は、一般的に年収「106万円」を超えると配偶者の扶養から外れて社会保険に加入しなければなりません。また、従業員が50人以下の会社や厚生年金の適用対象外の会社に勤める人でも、年収「130万円」を超えると扶養から外れるため、社会保険料の支払いが必要です。
参考)政府広報オンライン「社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック」
もともと「150万円の壁」とは、配偶者の給与収入(他に所得なし)が150万円以下(所得が95万円以下)であれば、納税者が満額「38万円」の配偶者特別控除を適用できる可能性がある点を示した言葉です。
しかし、2025年の税制改正で給与所得控除の最低保障額が「55万円」から「65万円」に引き上げられたため(※)、配偶者の給与収入が増えても「160万円」までは満額の「38万円」を適用できるようになりました。つまり、「150万円の壁」が「160万円の壁」になったといえるでしょう。
なお、配偶者特別控除の適用には、配偶者控除を受けられないこと、納税者が所得要件を満たすことに注意が必要です。
※給与所得控除は、給与収入から引いて給与所得を算出するための額。160万円(給与収入) − 65万円(給与所得控除) =「95万円」のため、満額を受けるための要件を満たす。
参考)首相官邸「いわゆる「年収の壁」対策」
扶養控除とは、納税者に控除対象の扶養親族がいる場合に、一定額受けられる所得控除です。扶養控除を適用することで、税負担の軽減につながります。
2025年の税制改正で、控除対象扶養親族の所得要件が緩和されました。従来控除を受けられなかった親族でも扶養控除を適用できる可能性があるため、申告者や担当者は見逃さないようにしましょう。
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(c) 2017 freewayjapan Co., Ltd.
扶養控除とは、扶養対象の扶養親族がいる場合に受けられる所得控除のことです。適用を受けるにあたって、一般的に会社員は年末調整、個人事業主は確定申告で手続きします。本記事では、扶養控除の対象者や、適用される控除額などについて詳しく解説します。
目次
そもそも扶養の意味とは
そもそも、「扶養」には「生活できるように養う」という意味があります。実生活では、親族に対して経済的援助をすることや、親族から経済的援助を受ける意味で使うことが一般的です。
また、会話の中で「夫(妻)の扶養に入る」「(学生が)親の扶養に入っている」などと表現することがあります。「扶養に入る」とは、一般的に税金(例:扶養控除)や社会保険面の制度を適用することです。
なお、一般的に扶養する側を「扶養者」、扶養される側を「被扶養者」と呼びます。
扶養控除とは
扶養控除とは、納税者に所得税法上の「控除対象扶養親族」がいる場合に、一定額受けられる所得控除です。扶養親族が「一般の控除対象扶養親族」「特定扶養親族」「老人扶養親族(同居老親等以外の者)」「老人扶養親族(同居老親等)」のいずれに該当するかによって、控除額が異なります。
所得控除とは、所得税額を計算する際に各納税者の個人的事情を加味して、各種所得金額の合計額から一定額引ける制度のことです。扶養控除以外に、以下の所得控除があります。
特定親族特別控除は、2025年の税制改正で新設されました。
参考)国税庁「No.1180 扶養控除」
2025年税制改正による扶養控除の変更点
扶養親族や勤労学生などに関する所得要件が、2025年の税制改正で緩和されています。
従来、扶養控除の所得要件は合計所得金額「48万円以下(給与収入のみの場合:収入103万円以下)」でした。税制改正では、合計所得金額が「58万円以下(給与収入のみの場合:収入123万円以下)」に引き上げられています。
なお、基礎控除と給与所得控除が見直されたことや特定親族特別控除が創設されたことも、税制改正による変更点です。
扶養控除を受けるメリット
扶養控除を受ければ、税負担を軽減できる点がメリットです。
たとえば、扶養控除対象の親族を扶養に入れた場合、扶養控除を適用できます。所得控除を適用すれば、各種所得の金額の合計額から一定額を引いて課税所得金額を減らせるため、課される税金(所得税や住民税)も少なくなるでしょう。
ただし、扶養控除を受けるには、さまざまな要件を満たさなければなりません。
扶養親族・控除対象扶養親族とは誰のことか?
扶養親族となるには、以下の要件すべてに該当する必要があります。
6親等内の血族もしくは3親等内の姻族(配偶者を除く)
血族とは納税者本人の親族のことで、姻族とは納税者の配偶者(夫や妻)の親族のことです。扶養親族には、納税者本人の子どもだけでなく、親や祖父母など、上の世代も対象になります。
納税者と生計を一にしている
扶養親族になるには、納税者と親族が同一生計である必要があります。納税者の収入で生活している親族であれば、同居していなくとも構いません。納税者が単身赴任などで別居している場合に納税者の仕送りで生活する親族や、納税者が療養費を支払っている入院中の親族なども同一生計として扶養親族になります。
年間の所得が58万円以下である
控除対象扶養親族に該当するには、年間の合計所得が「58万円以下」(※)でなければなりません。たとえば、アルバイトで給料を受け取っていて年間の所得が「58万円(給与収入のみの場合は年収123万円)」を超えている子どもは、控除対象扶養親族の対象外です。
※税制改正に伴い、「48万円以下」から「58万円以下」に引き上げ
青色申告者の事業専従者ではない
扶養親族となるには、親族が青色申告の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払を受けていない(または、白色申告者の事業専従者でない)ことが必要です。
年齢が16歳以上
誤解されやすい点ですが、扶養親族であれば扶養控除の対象になる、というわけではありません。控除対象扶養親族に該当するのは、その年の12月31日時点で16歳以上の扶養親族のみです。16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)は、平成23年の法改正で子ども手当(現:児童手当)の対象になったことに伴い、扶養控除からは除外されました。
16歳未満の扶養親族については、扶養控除申告書の下部にある「住民税に関する事項」に記載します。これにより、住民税の非課税基準額が算定されます。
なお、対象となる親族が年度の途中で死亡した場合は、死亡した時点で前述の要件を満たしていれば扶養親族に該当し、扶養控除を受けられます。
扶養控除を申告する方法
扶養控除を申告する方法は、以下のとおりです。
各方法を詳しく解説します。
年末調整で申告する(主に会社員)
一般的に、会社員は年末調整で扶養控除を申告します。ただし、年間の給与収入額が2,000万円を超えるなど、一定の条件に該当する場合は年末調整の対象外です。
年末調整とは、源泉徴収された税額の年間合計額と、年税額を一致させるための精算手続きを指します。年末調整で、対象者は勤務先に主に以下の書類の提出が必要です。
*3〜5で1枚の用紙
「扶養控除等(異動)申告書」が、扶養控除の適用に関係する書類です。「扶養控除等(異動)申告書」には、源泉控除配偶者の情報(氏名・住所・対象年度の所得見積額)や、控除対象の扶養親族に関する情報などを記載します。
なお、「扶養控除等(異動)申告書」で他の所得控除(障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除)も申請可能です。
参考)国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和7年分)」
確定申告で申告する(個人事業主など)
個人事業主は、基本的に確定申告で申告します。
確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税等の額を計算して確定させる手続きのことです。源泉徴収された税金や予定納税額は、確定申告により精算します。
確定申告で扶養控除を適用するためには、確定申告書の「扶養控除」に適用できる控除額の記載が必要です。「扶養控除」の欄は、確定申告書第一表の左下「所得から差し引かれる金額」の中にあります。また、対象の扶養親族に関する情報を確定申告書第二表の「配偶者や親族に関する事項」欄に記載が必要です。
なお、確定申告書は所轄の税務署に持参もしくは郵送するか、自宅などのパソコンを使ってe-Taxを利用して提出します。
参考)国税庁「No.2020 確定申告」
扶養控除は4種類で金額が異なる
扶養控除には以下の4種類があり、それぞれ控除額が異なります。
※同居老親等とは、老人扶養親族のうち、納税者又は配偶者の直系の尊属(父母や祖父母など)で、納税者または配偶者と普段同居している人です。
年末調整事務における扶養控除のポイント
年末調整事務をスムーズに進めるためにも、扶養控除について理解を深めておかなければなりません。一般的に、扶養控除に関する年末調整は以下の流れで進めます。
2025年の税制改正で、扶養親族の所得要件が緩和されました。そのため、親族の所得を理由にこれまで扶養控除を適用できなかった従業員でも、2025年以降は適用対象になる可能性があります。
対応に漏れがないよう、従業員に変更内容を周知しておきましょう。
扶養控除で気をつけるべきケース
扶養控除では、いくつか注意しなければならない点があります。とくに気をつけるべきケースが、以下のとおりです。
各ケースについて、詳しく解説します。
非居住者である親族の場合
平成27年度の税制改正を受け、平成28年度分の扶養控除等(異動)申告書から「非居住者である親族」の項目が追加されました。扶養親族のうち国外に居住している人がいる場合には、この項目に○をつけ、親族関係書類(戸籍の写しなど)と、送金関係書類(金融機関発行の支払いを証明する書類など)を添付または提示する必要があります。
扶養控除対象の子どもがアルバイトしている場合
従業員の扶養控除対象となる子どもがアルバイトをしている場合も、注意が必要です。
扶養控除を適用するためには、対象となる扶養親族の年間合計所得が「58万円以下」(給与収入のみの場合は年収123万円以下)でなければなりません。そのため、従業員が子どものアルバイト収入が年収123万円を超えていることを把握せずに扶養控除を申告すると、のちに是正処理が必要になる可能性があります。
親に仕送りしている場合
たとえば、従業員が離れて暮らしている実家の親に生活費を仕送りしているとき、親も扶養親族になります。従業員と親が「生計を一にしている」かどうかがポイントです。ほかにも、仕送り先の親を扶養親族とするには条件があります。親の収入(年金やパート代、家賃など)より、仕送りの額が多いことです。ちなみに、従業員に兄弟がいて、両方から親に仕送りしているとします。このとき、兄弟二人が親を扶養親族にすることは認められません。
扶養控除と配偶者控除の違い
扶養控除と配偶者控除の主な違いは、対象となる家族(親族)です。
生計を一にする親族(親や子など)は、扶養控除の対象となりえます。ただし、配偶者には扶養控除を適用できません。なぜなら、配偶者には配偶者控除や配偶者特別控除が適用できるためです。
ここから、配偶者控除と配偶者特別控除の特徴を詳しく解説します。
配偶者控除とは
配偶者控除とは、納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に受けられる一定額の所得控除のことです。対象年において、配偶者が以下4つすべての要件を満たす場合に、配偶者控除を受けられます。
ただし、配偶者が要件を満たしていても、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は配偶者控除を受けられません。
配偶者控除を適用できる金額は、条件によって異なります。控除額は以下のとおりです。
なお、「老人控除対象配偶者」とは、控除対象配偶者のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の方を指します。
※税制改正に伴い、合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)から引き上げ
参考)国税庁「No.1191 配偶者控除」
配偶者特別控除とは
配偶者特別控除とは、配偶者の所得金額を理由に配偶者控除を適用できない場合でも、一定額受けられる可能性がある所得控除のことです。配偶者特別控除を受けるには、納税者本人の対象年における合計所得金額が1,000万円以下でなければなりません。
また、配偶者が以下の要件を満たす必要があります。
配偶者特別控除で受けられる控除額は、納税者本人と配偶者の所得合計金額によって異なります。配偶者特別控除の控除額は、以下のとおりです。
合計所得金額
たとえば、納税者本人の合計所得金額が800万円で、配偶者の合計所得金額が123万円であれば、受けられる控除額は11万円です。
なお、配偶者特別控除は夫婦間で相互には受けられない点に注意しましょう。
参考)国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
2025年新設の特定親族特別控除とは
2025年に新設された特定親族特別控除とは、特定親族がいる納税者(「居住者」であることが条件)が、特定親族ひとりにつき一定額を総所得金額から控除できる制度を指します。特定親族とは、居住者と生計を一にする19歳以上23歳未満の親族で、合計所得金額が「58万円超123万円以下」の人です。
控除できる額は、特定親族の合計所得金額によって以下のように9段階に分かれています。
大学生年代の子どもがいる世帯の税負担を軽減することが、「特定親族特別控除」が創設された主な目的です。
改正前の税制では、19歳から23歳未満の子ども(特定扶養親族)がいる納税者が扶養控除を適用して「63万円」を控除するには、対象の子どもの年間合計所得が「48万円以下」(給与収入のみの場合は年収103万円以下)(※)でなければなりませんでした。そのため、一定の金額を超えないよう働き控えを検討する学生もいたでしょう。
税制改正に伴い、子どもが所得要件の範囲から外れて扶養控除を適用できなくても、特定親族特別控除の所得要件を満たしていれば、最大で63万円を控除可能です。その結果、子どもも親にかかる税負担を気にせず、安心してアルバイトの時間を増やせます。
※税制改正で、合計所得金額「58万円(給与収入のみの場合は年収123万円)」に引き上げ
参考)国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
扶養控除の控除額の計算をスムーズに進める方法
人事担当者が扶養控除の控除額の計算をスムーズに進めるには、給与計算ソフトを使う方法があります。
扶養控除や配偶者控除は、申告する従業員や家族の情報によって適用できる控除額が異なるため、計算に手間がかかります。また、計算ミスしないように注意しなければなりません。
そこでフリーウェイ給与計算の年末調整機能を活用すれば、扶養控除などの所得控除計算を含む年末調整作業をスピーディーにこなせます。あらかじめ従業員の家族情報を登録できるため、生年月日から扶養区分を判定して「扶養控除等(異動)申告書」を自動で作成できる点もメリットです。
フリーウェイ給与計算「「年末調整の機能」の特徴」
【注意】税法上と社会保険上の扶養を混同しない
実は、扶養には税法上の「扶養」と社会保険上の「扶養」があるため、混同しないよう注意が必要です。
ここまで説明してきた扶養控除は、基本的に税法上の「扶養」にあたります。それに対して、社会保険上の「扶養」は健康保険や厚生年金保険など保険に関連するものです。
ここから、社会保険上の扶養の概要や具体例を紹介します。
社会保険上の扶養とは
社会保険とは、健康保険・厚生年金保険・介護保険など、公的保険制度の総称を指します。社会保険上の扶養とは、家族や親族の社会保険に加入することにより、自分が保険料を負担する必要がなくなる制度です。
生計を支え、社会保険料を納付している人を「被保険者」、保険料を払わず家族・親族の社会保険に加入する人を「被扶養者」と呼びます。
たとえば、健康保険で被扶養者に該当するための条件は、以下のいずれかです。
2に該当するには、以下の条件も満たさなければなりません。
ただし、後期高齢者医療制度の被保険者などは対象外です。
そのほか、被保険者の収入についても条件がいくつかあります。
社会保険上の扶養の具体例(年収基準)
認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合、健康保険で被扶養者として認定されるための年収基準は、原則として以下のとおりです。
また、厚生年金でも同様の年収基準が設けられています。
そのため、たとえば認定対象者の年間収入が90万円、被保険者の年間収入が400万円の場合、年収面では社会保険上の扶養の条件を満たします。ただし、あくまで年収基準をクリアしているだけです。認定対象者が「被扶養者の範囲」に含まれていなければ、被扶養者に該当しません。
参考)全国健康保険協会「被扶養者とは?」
参考)日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」
「年収の壁」を整理
「扶養」を考える上で、「年収の壁」も重要なポイントです。「年収の壁」とは、配偶者の扶養に入る人が、一定の年収を超えることで手取り収入に影響を及ぼすことを指します。
ここから、一般的に「年収の壁」と呼ばれる103万円の壁・106万円(130万円)の壁、150万円の壁について確認していきましょう。
なお、2025年の税制改正に伴い、「年収の壁」のラインに変更があるため注意が必要です。
103万円の壁(2025年に変更される)
103万円の壁とは、パートやアルバイトで働いている人の所得税が発生するラインや、配偶者控除を受けるための配偶者の所得ラインなどを示した言葉です。
税制改正前は、給与所得控除額が最低「55万円」、所得税の基礎控除額が「48万円」であったため、パート・アルバイトとして働く人の収入が「103万円」(55万円 + 48万円)以下であれば、原則としてその人に所得税がかかりませんでした。
税制改正後は、給与所得控除額が最低「65万円」、基礎控除額が最大「95万円」まで適用可能になるため、「103万円の壁」は「160万円の壁」(65万円 + 95万円)になるといえるでしょう。
また、配偶者控除を受けるための配偶者の収入上限が「103万円」であったことも、「103万円の壁」と呼ばれた根拠です。税制改正で配偶者の収入上限が「123万円」に引き上げられたため、「103万円の壁」が「123万円の壁」に変わったともいえるでしょう。
「103万円の壁」が「160万円の壁」もしくは「123万円の壁」に変わったことで、働く時間を増やす人が今後出てくることが予想されます。
106万円・130万円の壁
「106万円の壁」「130万円の壁」は、社会保険に関する年収の目安です。
従業員数が51人以上の会社に勤める人は、一般的に年収「106万円」を超えると配偶者の扶養から外れて社会保険に加入しなければなりません。また、従業員が50人以下の会社や厚生年金の適用対象外の会社に勤める人でも、年収「130万円」を超えると扶養から外れるため、社会保険料の支払いが必要です。
参考)政府広報オンライン「社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック」
150万円の壁(2025年に変更される)
もともと「150万円の壁」とは、配偶者の給与収入(他に所得なし)が150万円以下(所得が95万円以下)であれば、納税者が満額「38万円」の配偶者特別控除を適用できる可能性がある点を示した言葉です。
しかし、2025年の税制改正で給与所得控除の最低保障額が「55万円」から「65万円」に引き上げられたため(※)、配偶者の給与収入が増えても「160万円」までは満額の「38万円」を適用できるようになりました。つまり、「150万円の壁」が「160万円の壁」になったといえるでしょう。
なお、配偶者特別控除の適用には、配偶者控除を受けられないこと、納税者が所得要件を満たすことに注意が必要です。
※給与所得控除は、給与収入から引いて給与所得を算出するための額。160万円(給与収入) − 65万円(給与所得控除) =「95万円」のため、満額を受けるための要件を満たす。
参考)首相官邸「いわゆる「年収の壁」対策」
扶養控除まとめ
扶養控除とは、納税者に控除対象の扶養親族がいる場合に、一定額受けられる所得控除です。扶養控除を適用することで、税負担の軽減につながります。
2025年の税制改正で、控除対象扶養親族の所得要件が緩和されました。従来控除を受けられなかった親族でも扶養控除を適用できる可能性があるため、申告者や担当者は見逃さないようにしましょう。