更新日:2025年12月08日
ひとり親控除は、年末調整で従業員から申告される重要な所得控除です。婚姻状況や所得制限、寡婦控除との違い、2025年度の税制改正のポイントを押さえておくことで、従業員への説明や年末調整業務をよりスムーズかつ正確に進められます。本記事では、基礎知識から控除額、申請方法、注意点まで実務で役立つ情報を詳しく解説します。
目次
ひとり親控除とは、納税者がひとり親である際に、一定金額の所得控除を受けられる制度を指します。
2020年の税制改正に伴い、新たにひとり親控除の制度が誕生しました。また、ひとり親控除が新設されたタイミングで、「寡夫控除」が廃止されています。
寡夫控除とは、納税者が寡夫(妻と死別しているなどの人)である場合に、生計を一にする子がいるなどの要件を満たせば27万円の控除が受けられる制度でした。男性が対象の寡夫控除が廃止される一方で、女性が対象の寡婦控除の制度はそのまま残っています。
ここから、ひとり親控除の対象者や控除額について確認していきましょう。
参考)国税庁「No.1171 ひとり親控除」
ひとり親控除適用の対象者は、シングルマザーやシングルファザーです。廃止された寡夫控除と異なり、性別による制限は設けられておりません。
ただし、ひとり親控除を適用するためには、生計を一にする子どもがいることや、合計所得金額が500万円以下であることなど、いくつかの要件を満たすことが必要です。要件については、のちほど詳しく解説します。
ひとり親控除を適用することで受けられる所得控除額は、35万円です。廃止された寡夫控除(27万円)と比較すると、控除額は増加しています。
なお、所得税と住民税でひとり親控除の控除額が異なる点に注意しましょう。ひとり親控除を適用することで所得税は35万円控除されるのに対し、住民税で控除されるのは30万円です。
ひとり親控除を適用するためには、主に以下の要件を満たさなければなりません。
それぞれ詳しく解説します。
納税の対象となる年の12月31日時点で、婚姻(*)をしていないことがひとり親控除を適用するための要件です。過去に結婚していたか、未婚のままであるかは関係ありません。
たとえば、もともとシングルマザーやシングルファザーであっても、再婚すればその年にひとり親控除を適用できない点に注意が必要です。
また、たとえ婚姻していても、配偶者の生死が明らかではない場合は、ひとり親控除の対象となる場合があります。「生死が明らかではない」ケースの具体例は、船舶の沈没などの事故で生死不明、3年以上生死が明らかでないなどです。
(*)両性の合意と婚姻届の提出することによって成立する、法律上の「結婚」のこと
事実婚の相手がいないことも、ひとり親控除を受けるための要件です。事実婚とは、婚姻届を提出していなくても、事実上夫婦としての実態を有する関係を指します。
事実婚の有無を確認する際の基準のひとつが、住民票への記載内容です。たとえば、住民票に「夫(未届)」「妻(未届)」などといった記載があれば、各種要件を満たしていたとしても、ひとり親控除は適用できません。
なお、事実婚を証明する主な方法は、住民登録以外にも公正証書の作成やパートナーシップ制度の利用などです。事実婚を選べば夫婦別姓にできるなどのメリットがある一方で、「ひとり親控除」だけでなく「配偶者控除」などの制度も適用できなくなります。なぜなら、配偶者控除は「民法の規定による配偶者」であることを要件として定められているためです。
ひとり親控除を受けるには、「生計を一にする子」がいることが前提であり、さらにその子の所得が一定基準以下でなければなりません。
「生計を一にする」とは、同居の有無にかかわらず仕送りなどによって生活費を共有しているなど実質的に家計がつながっている状況を指します。また、対象となる「子」は、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっている場合は含まれません。
子の所得制限は、2025年度(令和7年度)の税制改正によって緩和され、以下のように変更されました。
なお、同じく2025年度の税制改正で「特定親族特別控除」が創設されています。特定親族特別控除は、子の合計所得金額が58万円を超える場合に利用できる制度です。ただし、特定親族特別控除の適用を受ける子の場合には、ひとり親控除の適用は受けられません。
「特定親族特別控除」の詳しい内容や適用上の注意点については、後の項目(ひとり親控除と「特定親族特別控除」の関係性)で解説します。
ひとり親控除を適用するには、合計所得金額の上限(500万円以下)も要件として定められています。
合計所得は、年収とは異なる概念であることに注意しましょう。合計所得は、以下の合計に、退職所得金額と山林所得金額を加えた金額のことです。ただし、純損失や雑損失・居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失・上場株式等にかかる譲渡損失などで繰越控除を受けている場合は、適用前の金額を指します。
なお、収入が給与のみの場合は、年収およそ677万円が上限の目安です。たとえば、合計所得金額が560万円の場合や、給与収入が700万円の場合は、控除を適用できません。
参考)国税庁「専門用語集ー合計所得金額」
以下のケースに該当する場合は、ひとり親控除を適用する際に注意しなければなりません。
それぞれのケースについて、詳しく解説します。
1年の途中で配偶者と離婚した場合や配偶者と死別した場合は、他の要件を満たしていればその年にひとり親控除を受けられます。なぜなら、ひとり親控除は対象年の12月31日時点の状況で可否を判断されるためです。
その反対に、1年の途中で結婚したり、事実婚の状態になったりした場合は、その年のひとり親控除の対象になりません。婚姻届・離婚届を提出する際は、ひとり親控除のタイミングも意識しておきましょう。
元配偶者から子どもの養育費(*)を受け取っている場合、ひとり親控除を適用できない可能性があるため注意が必要です。
「同居」は「生計を一にする」ことの条件ではありません。たとえ子どもと一緒に暮らしているのは自分であっても、養育費の額などによって元配偶者が子どもと生計を一にしている(扶養している)と判断されることがあります。
なお、ひとり親控除は、子どもに対してひとりの親だけが適用できる制度です。そのため、元夫婦のうち一方がひとり親控除を適用すると、他方は適用できないことになります。
(*)子どもの監護や教育のために必要な費用。子どもを監護している親が、他方の親から受け取れる
子どもに一定の収入があるケースでも、ひとり親控除を適用する際に注意が必要です。なぜなら、納税者だけでなく子どもにも総所得金額の上限が設けられているためです。
生計を一にする子がいて各条件を満たしていても、子どもの合計所得金額が58万円(給与収入のみの場合は年収123万円)を超えていれば適用できません。子どもが学生であっても、アルバイトやパートによる給与収入、フードデリバリー配達員の雑所得(事業所得)などによって、上限を超えるケースはあるでしょう。
ひとり親控除の申請方法は、以下の2つです。
各申請方法とその手順について、詳しく解説します。
会社員などの給与所得者は、年末調整で「ひとり親控除」を申請できます。年末調整とは、源泉徴収された税額の年間の合計額と年税額を一致させるための精算手続きのことです。
一般的に、以下の流れで年末調整します。
ここから、手順を確認していきましょう。
11月に入ると、会社の人事部などの部署が従業員に対して年末調整の書類を配布します。年末調整に関する書類は、以下のとおりです。
配布にあたって、会社側は従業員に提出期限を伝えます。
従業員は、書類を受け取ったら自身や家族に関係する書類の該当項目に記載していきます。そのうち、ひとり親控除に関連する書類は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。
書類には、「C障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」の項目があります。その中で、「ひとり親」の部分にレ点を入れれば、ひとり親控除自体の申請は完了です。
ひとり親控除以外に関する必要事項を記載し終えたら、会社(人事部など)に提出します。
会社は、年末調整の書類を従業員から回収したら、計算して法定調書を作成します。ひとり親控除を適用する従業員がいる場合は、要件を満たしている(例:事実婚状態にないかなど)ことの確認が必要です。
なお、法定調書とは源泉徴収票・支払調書・給与支払報告書のことです。源泉徴収票と支払調書は税務署、給与支払報告書は従業員が居住する市町村に提出します。
一部の会社員や個人事業主・フリーランスなどは、確定申告で「ひとり親控除」を申告しなければなりません。(所得税の)確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税などの額を計算して確定させる手続きです。
確定申告の一般的な流れは、以下のとおりです。
各手順を解説します。
年が明けたら、確定申告書類の作成を開始します。確定申告書の中で、ひとり親控除に関する書類は第一表と第二表です。
まず、第一表の「所得から差し引かれる金額」にある「寡婦、ひとり親控除」にひとり親控除の額(350000)を記載します。また、区分欄に「1」の記載が必要です。
続いて、第二表の「本人に関する事項」で、「ひとり親」に⚪︎をつけます。
ひとり親控除以外の確定申告に必要な事項の記入(入力)も終えたら、確定申告書を提出します。提出方法は、以下のとおりです。
なお、確定申告は原則として2月16日から3月15日までに終えなければなりません。期限に遅れないようにしましょう。
ひとり親控除と混同しやすい制度のひとつが、寡婦控除です。主な違いとして、以下の点が挙げられます。
まず、寡婦控除の方が適用できる額が少ないです。一方で、寡婦控除は「子ども」がいる場合だけでなく、孫がいる場合なども対象になりえます。
また、寡婦控除は、女性(シングルマザー)のみが対象である点も違いです。さらに、寡婦控除は一度は婚姻関係にあることが求められます(未婚のケースは対象外)。
寡婦控除の概要については、次でより詳しく確認していきましょう。
寡婦控除(かふこうじょ)とは、一定の要件を満たす女性が所得税・住民税の負担を軽減できる所得控除制度です。所得税では27万円、住民税では26万円の控除が受けられます。
対象となるのは、夫と離婚または死別した後、事実婚を含め再婚していない女性です。寡婦控除の適用を受けるには、これらの状況に加えて、後述する複数の適用要件をすべて満たさなければなりません。
ここでは、具体的な要件について解説します。
寡婦控除の適用要件は、以下のとおりです。
それぞれ見ていきましょう。
ひとり親控除の対象に該当しない場合に適用されるのが、寡婦控除です。
ただし両者は似た制度であり、所得要件や対象者の生活状況などが一部重なるため、まず自分がどちらに該当するのかを整理することが重要です。ひとり親控除に該当する場合は、ひとり親控除が優先されます。
寡婦控除が適用されるのは「婚姻歴がある女性」に限られ、離婚・死別後に再婚していないことが前提です。また、事実婚と判断される相手がいる場合は、ひとり親控除と同様に寡婦控除も適用から外れます。
なお寡婦控除は、婚姻歴や扶養親族の有無など複数の要件を総合的に確認する必要があり、ひとり親控除よりも適用範囲が細かく設定されています。ひとり親控除に当たらない理由とあわせて、各要件を丁寧にチェックすることが重要です。
寡婦控除の対象となるのは、かつて法律上の結婚をしていた女性で、夫と離婚または死別している、あるいは夫の生死が不明で、その後再婚していない場合です。
内縁や事実婚のように法的に婚姻として扱われない関係は、解消や死別があっても寡婦控除の対象とはなりません。
さらに、控除を申告する年の12月31日時点で、事実婚とみなされる相手がいないことも要件のひとつです。形式上の同居や実質的に夫婦同様の生活実態がある場合も、寡婦控除の対象から外れます。
寡婦控除を受けるには、納税者本人の合計所得金額が500万円以下であることが条件です。ひとり親控除と同じ上限ですが、寡婦控除は扶養親族の有無や婚姻歴などもあわせて判断されます。
収入が給与のみであれば年収の目安は約677万円ですが、事業所得や不動産所得がある場合は計算が少し複雑です。控除を受けられるかどうかは、正しく所得を確認してから申請する必要があります。
夫と離婚後に再婚をしていない場合、寡婦控除の適用には「扶養親族」を有することが必須要件です。死別したケースと比較して、適用要件が厳しく設定されている点に留意しましょう。
扶養親族とは、納税者と生計を一にしている合計所得金額が58万円以下の人を指します。収入源が給与のみであれば、年収123万円以下が判定の基準です。
対象範囲は配偶者以外の親族で、6親等内の血族および3親等内の姻族(子・親・祖父母・孫など)と定められています。
また親族だけでなく、都道府県知事から委託を受けた里親として預かる児童や、市町村から委託され養護している高齢者も含まれます。ただし、青色申告者や白色申告者の事業専従者は、扶養親族として扱われません。
寡婦控除の対象者は、ひとり親控除と同様に年末調整や確定申告で寡婦控除を申請可能です。
会社員などで年末調整する場合は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」欄で「寡婦」にレ点を入れます。
個人事業主などが確定申告する場合は、第一表の「寡婦、ひとり親控除」に金額(270000)の記載が必要です。また、第二表の「本人に関する事項」欄で「寡婦」に⚪︎をつけ、該当する事由にレ点を入れます。
扶養控除とは、納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合に、一定の金額の所得控除が受けられる制度です。ひとり親控除と扶養控除の主な違いとして、以下の点が挙げられます。
納税者が対象者と「納税者と生計を一にしていること」、対象者の「合計所得金額が58万円以下であること」が要件である点は、ひとり親控除も扶養控除も同じです。ただし、扶養控除の対象は「子」ではなく「扶養親族」である点が異なります。
また、扶養控除は対象者のその年12月31日現在の年齢が16歳以上であることが要件である点も違いです。さらに、扶養控除の適用額には、年齢などの条件によって38万〜63万円の幅があります。
ひとり親控除・寡婦控除の組み合わせと異なり、ひとり親控除と扶養控除は両方適用できる場合があります。ただし、両方同時に適用できるのは、「子ども」が「16歳以上」のケースのみです。
たとえば、12月31日時点で年間の合計所得金額が58万円以下の大学生(20歳)の子どもがいる場合、その他の要件を満たせばひとり親控除の35万円と扶養控除の63万円(特定扶養親族に該当するため)を控除できる可能性があります。
なお、ひとり親控除ではなく寡婦控除に該当する場合も、状況次第で扶養控除と同時に適用可能です。
ひとり親控除の適用を受けるには、子の給与年収を123万円以下に抑える必要があります。特定親族特別控除が創設された2025年以降も、子の収入状況には十分な注意が必要です。
2025年度の税制改正で「特定親族特別控除」が創設され、19歳以上23歳未満の子を持つ家庭の「年収の壁」は緩和されました。しかし、この控除が適用される範囲であっても、ひとり親控除の要件は従来どおり厳格に確認する必要があります。
引用)国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)3ページ」
ひとり親控除では、子の総所得金額等が58万円以下(給与収入で123万円以下)であることが必須です。一方の特定親族特別控除は、子の所得が58万円超123万円以下(給与収入123万円超188万円以下)であっても親が控除を受けられる制度です。
そのため、子の年収が123万円をわずかでも超えると、特定親族特別控除の対象には該当しますが、親はひとり親控除(所得税35万円・住民税30万円)を受けられなくなり、結果として世帯の税負担が増える可能性があります。
ひとり親控除のメリットを確実に得るためには、子の収入状況を把握しながら世帯全体で有利になる働き方を検討することが大切です。
ひとり親控除は、シングルマザー・シングルファザーである従業員の税負担を軽減する制度です。
適用にあたっては、従業員が婚姻状況や所得制限、子の条件などの要件を満たしているか確認する必要があります。特に、養育費の取り扱いや子の年収については、従業員への説明が重要です。
2025年度の税制改正による変更点や特定親族特別控除との関係性を把握し、従業員への適切な情報提供が求められます。年末調整の際には、要件を丁寧に確認しながら、該当する従業員が確実に控除を受けられるよう対応しましょう。
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(c) 2017 freewayjapan Co., Ltd.
ひとり親控除は、年末調整で従業員から申告される重要な所得控除です。婚姻状況や所得制限、寡婦控除との違い、2025年度の税制改正のポイントを押さえておくことで、従業員への説明や年末調整業務をよりスムーズかつ正確に進められます。本記事では、基礎知識から控除額、申請方法、注意点まで実務で役立つ情報を詳しく解説します。
目次
ひとり親控除とは
ひとり親控除とは、納税者がひとり親である際に、一定金額の所得控除を受けられる制度を指します。
2020年の税制改正に伴い、新たにひとり親控除の制度が誕生しました。また、ひとり親控除が新設されたタイミングで、「寡夫控除」が廃止されています。
寡夫控除とは、納税者が寡夫(妻と死別しているなどの人)である場合に、生計を一にする子がいるなどの要件を満たせば27万円の控除が受けられる制度でした。男性が対象の寡夫控除が廃止される一方で、女性が対象の寡婦控除の制度はそのまま残っています。
ここから、ひとり親控除の対象者や控除額について確認していきましょう。
参考)国税庁「No.1171 ひとり親控除」
ひとり親控除の対象者
ひとり親控除適用の対象者は、シングルマザーやシングルファザーです。廃止された寡夫控除と異なり、性別による制限は設けられておりません。
ただし、ひとり親控除を適用するためには、生計を一にする子どもがいることや、合計所得金額が500万円以下であることなど、いくつかの要件を満たすことが必要です。要件については、のちほど詳しく解説します。
ひとり親控除の控除額
ひとり親控除を適用することで受けられる所得控除額は、35万円です。廃止された寡夫控除(27万円)と比較すると、控除額は増加しています。
なお、所得税と住民税でひとり親控除の控除額が異なる点に注意しましょう。ひとり親控除を適用することで所得税は35万円控除されるのに対し、住民税で控除されるのは30万円です。
ひとり親控除の適用要件
ひとり親控除を適用するためには、主に以下の要件を満たさなければなりません。
それぞれ詳しく解説します。
参考)国税庁「No.1171 ひとり親控除」
婚姻をしていない・配偶者の生死が明らかでない
納税の対象となる年の12月31日時点で、婚姻(*)をしていないことがひとり親控除を適用するための要件です。過去に結婚していたか、未婚のままであるかは関係ありません。
たとえば、もともとシングルマザーやシングルファザーであっても、再婚すればその年にひとり親控除を適用できない点に注意が必要です。
また、たとえ婚姻していても、配偶者の生死が明らかではない場合は、ひとり親控除の対象となる場合があります。「生死が明らかではない」ケースの具体例は、船舶の沈没などの事故で生死不明、3年以上生死が明らかでないなどです。
(*)両性の合意と婚姻届の提出することによって成立する、法律上の「結婚」のこと
事実婚の相手がいない
事実婚の相手がいないことも、ひとり親控除を受けるための要件です。事実婚とは、婚姻届を提出していなくても、事実上夫婦としての実態を有する関係を指します。
事実婚の有無を確認する際の基準のひとつが、住民票への記載内容です。たとえば、住民票に「夫(未届)」「妻(未届)」などといった記載があれば、各種要件を満たしていたとしても、ひとり親控除は適用できません。
なお、事実婚を証明する主な方法は、住民登録以外にも公正証書の作成やパートナーシップ制度の利用などです。事実婚を選べば夫婦別姓にできるなどのメリットがある一方で、「ひとり親控除」だけでなく「配偶者控除」などの制度も適用できなくなります。なぜなら、配偶者控除は「民法の規定による配偶者」であることを要件として定められているためです。
生計を一にする子がいる
ひとり親控除を受けるには、「生計を一にする子」がいることが前提であり、さらにその子の所得が一定基準以下でなければなりません。
「生計を一にする」とは、同居の有無にかかわらず仕送りなどによって生活費を共有しているなど実質的に家計がつながっている状況を指します。また、対象となる「子」は、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっている場合は含まれません。
子の所得制限は、2025年度(令和7年度)の税制改正によって緩和され、以下のように変更されました。
なお、同じく2025年度の税制改正で「特定親族特別控除」が創設されています。特定親族特別控除は、子の合計所得金額が58万円を超える場合に利用できる制度です。ただし、特定親族特別控除の適用を受ける子の場合には、ひとり親控除の適用は受けられません。
「特定親族特別控除」の詳しい内容や適用上の注意点については、後の項目(ひとり親控除と「特定親族特別控除」の関係性)で解説します。
合計所得額が500万以下
ひとり親控除を適用するには、合計所得金額の上限(500万円以下)も要件として定められています。
合計所得は、年収とは異なる概念であることに注意しましょう。合計所得は、以下の合計に、退職所得金額と山林所得金額を加えた金額のことです。ただし、純損失や雑損失・居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失・上場株式等にかかる譲渡損失などで繰越控除を受けている場合は、適用前の金額を指します。
なお、収入が給与のみの場合は、年収およそ677万円が上限の目安です。たとえば、合計所得金額が560万円の場合や、給与収入が700万円の場合は、控除を適用できません。
参考)国税庁「専門用語集ー合計所得金額」
ひとり親控除で注意が必要なケース
以下のケースに該当する場合は、ひとり親控除を適用する際に注意しなければなりません。
それぞれのケースについて、詳しく解説します。
1年の途中で離婚・死別したケース
1年の途中で配偶者と離婚した場合や配偶者と死別した場合は、他の要件を満たしていればその年にひとり親控除を受けられます。なぜなら、ひとり親控除は対象年の12月31日時点の状況で可否を判断されるためです。
その反対に、1年の途中で結婚したり、事実婚の状態になったりした場合は、その年のひとり親控除の対象になりません。婚姻届・離婚届を提出する際は、ひとり親控除のタイミングも意識しておきましょう。
元配偶者から養育費を受け取っているケース
元配偶者から子どもの養育費(*)を受け取っている場合、ひとり親控除を適用できない可能性があるため注意が必要です。
「同居」は「生計を一にする」ことの条件ではありません。たとえ子どもと一緒に暮らしているのは自分であっても、養育費の額などによって元配偶者が子どもと生計を一にしている(扶養している)と判断されることがあります。
なお、ひとり親控除は、子どもに対してひとりの親だけが適用できる制度です。そのため、元夫婦のうち一方がひとり親控除を適用すると、他方は適用できないことになります。
(*)子どもの監護や教育のために必要な費用。子どもを監護している親が、他方の親から受け取れる
子どもに一定の収入があるケース
子どもに一定の収入があるケースでも、ひとり親控除を適用する際に注意が必要です。なぜなら、納税者だけでなく子どもにも総所得金額の上限が設けられているためです。
生計を一にする子がいて各条件を満たしていても、子どもの合計所得金額が58万円(給与収入のみの場合は年収123万円)を超えていれば適用できません。子どもが学生であっても、アルバイトやパートによる給与収入、フードデリバリー配達員の雑所得(事業所得)などによって、上限を超えるケースはあるでしょう。
ひとり親控除の申請方法
ひとり親控除の申請方法は、以下の2つです。
各申請方法とその手順について、詳しく解説します。
年末調整で申請する方法
会社員などの給与所得者は、年末調整で「ひとり親控除」を申請できます。年末調整とは、源泉徴収された税額の年間の合計額と年税額を一致させるための精算手続きのことです。
一般的に、以下の流れで年末調整します。
ここから、手順を確認していきましょう。
1.会社が従業員に書類を配布する
11月に入ると、会社の人事部などの部署が従業員に対して年末調整の書類を配布します。年末調整に関する書類は、以下のとおりです。
配布にあたって、会社側は従業員に提出期限を伝えます。
2. 従業員が年末調整を作成して会社に提出する
従業員は、書類を受け取ったら自身や家族に関係する書類の該当項目に記載していきます。そのうち、ひとり親控除に関連する書類は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。
書類には、「C障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」の項目があります。その中で、「ひとり親」の部分にレ点を入れれば、ひとり親控除自体の申請は完了です。
ひとり親控除以外に関する必要事項を記載し終えたら、会社(人事部など)に提出します。
3. 会社が法定調書を作成して所管に提出する
会社は、年末調整の書類を従業員から回収したら、計算して法定調書を作成します。ひとり親控除を適用する従業員がいる場合は、要件を満たしている(例:事実婚状態にないかなど)ことの確認が必要です。
なお、法定調書とは源泉徴収票・支払調書・給与支払報告書のことです。源泉徴収票と支払調書は税務署、給与支払報告書は従業員が居住する市町村に提出します。
確定申告で申告する方法
一部の会社員や個人事業主・フリーランスなどは、確定申告で「ひとり親控除」を申告しなければなりません。(所得税の)確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税などの額を計算して確定させる手続きです。
確定申告の一般的な流れは、以下のとおりです。
各手順を解説します。
1. 確定申告書類を作成する
年が明けたら、確定申告書類の作成を開始します。確定申告書の中で、ひとり親控除に関する書類は第一表と第二表です。
まず、第一表の「所得から差し引かれる金額」にある「寡婦、ひとり親控除」にひとり親控除の額(350000)を記載します。また、区分欄に「1」の記載が必要です。
続いて、第二表の「本人に関する事項」で、「ひとり親」に⚪︎をつけます。
2. 確定申告書を提出する
ひとり親控除以外の確定申告に必要な事項の記入(入力)も終えたら、確定申告書を提出します。提出方法は、以下のとおりです。
なお、確定申告は原則として2月16日から3月15日までに終えなければなりません。期限に遅れないようにしましょう。
ひとり親控除と寡婦控除の違い
ひとり親控除と混同しやすい制度のひとつが、寡婦控除です。主な違いとして、以下の点が挙げられます。
まず、寡婦控除の方が適用できる額が少ないです。一方で、寡婦控除は「子ども」がいる場合だけでなく、孫がいる場合なども対象になりえます。
また、寡婦控除は、女性(シングルマザー)のみが対象である点も違いです。さらに、寡婦控除は一度は婚姻関係にあることが求められます(未婚のケースは対象外)。
寡婦控除の概要については、次でより詳しく確認していきましょう。
寡婦控除とは
寡婦控除(かふこうじょ)とは、一定の要件を満たす女性が所得税・住民税の負担を軽減できる所得控除制度です。所得税では27万円、住民税では26万円の控除が受けられます。
対象となるのは、夫と離婚または死別した後、事実婚を含め再婚していない女性です。寡婦控除の適用を受けるには、これらの状況に加えて、後述する複数の適用要件をすべて満たさなければなりません。
ここでは、具体的な要件について解説します。
寡婦控除の適用要件
寡婦控除の適用要件は、以下のとおりです。
それぞれ見ていきましょう。
「ひとり親控除」対象ではない
ひとり親控除の対象に該当しない場合に適用されるのが、寡婦控除です。
ただし両者は似た制度であり、所得要件や対象者の生活状況などが一部重なるため、まず自分がどちらに該当するのかを整理することが重要です。ひとり親控除に該当する場合は、ひとり親控除が優先されます。
寡婦控除が適用されるのは「婚姻歴がある女性」に限られ、離婚・死別後に再婚していないことが前提です。また、事実婚と判断される相手がいる場合は、ひとり親控除と同様に寡婦控除も適用から外れます。
なお寡婦控除は、婚姻歴や扶養親族の有無など複数の要件を総合的に確認する必要があり、ひとり親控除よりも適用範囲が細かく設定されています。ひとり親控除に当たらない理由とあわせて、各要件を丁寧にチェックすることが重要です。
夫と離婚または死別後に再婚していない、または夫が生死不明
寡婦控除の対象となるのは、かつて法律上の結婚をしていた女性で、夫と離婚または死別している、あるいは夫の生死が不明で、その後再婚していない場合です。
内縁や事実婚のように法的に婚姻として扱われない関係は、解消や死別があっても寡婦控除の対象とはなりません。
さらに、控除を申告する年の12月31日時点で、事実婚とみなされる相手がいないことも要件のひとつです。形式上の同居や実質的に夫婦同様の生活実態がある場合も、寡婦控除の対象から外れます。
合計所得金額500万円以下
寡婦控除を受けるには、納税者本人の合計所得金額が500万円以下であることが条件です。ひとり親控除と同じ上限ですが、寡婦控除は扶養親族の有無や婚姻歴などもあわせて判断されます。
収入が給与のみであれば年収の目安は約677万円ですが、事業所得や不動産所得がある場合は計算が少し複雑です。控除を受けられるかどうかは、正しく所得を確認してから申請する必要があります。
扶養親族がいる(夫と離婚した場合)
夫と離婚後に再婚をしていない場合、寡婦控除の適用には「扶養親族」を有することが必須要件です。死別したケースと比較して、適用要件が厳しく設定されている点に留意しましょう。
扶養親族とは、納税者と生計を一にしている合計所得金額が58万円以下の人を指します。収入源が給与のみであれば、年収123万円以下が判定の基準です。
対象範囲は配偶者以外の親族で、6親等内の血族および3親等内の姻族(子・親・祖父母・孫など)と定められています。
また親族だけでなく、都道府県知事から委託を受けた里親として預かる児童や、市町村から委託され養護している高齢者も含まれます。ただし、青色申告者や白色申告者の事業専従者は、扶養親族として扱われません。
寡婦控除の申請方法
寡婦控除の対象者は、ひとり親控除と同様に年末調整や確定申告で寡婦控除を申請可能です。
会社員などで年末調整する場合は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」欄で「寡婦」にレ点を入れます。
個人事業主などが確定申告する場合は、第一表の「寡婦、ひとり親控除」に金額(270000)の記載が必要です。また、第二表の「本人に関する事項」欄で「寡婦」に⚪︎をつけ、該当する事由にレ点を入れます。
ひとり親控除と扶養控除の違い
扶養控除とは、納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合に、一定の金額の所得控除が受けられる制度です。ひとり親控除と扶養控除の主な違いとして、以下の点が挙げられます。
納税者が対象者と「納税者と生計を一にしていること」、対象者の「合計所得金額が58万円以下であること」が要件である点は、ひとり親控除も扶養控除も同じです。ただし、扶養控除の対象は「子」ではなく「扶養親族」である点が異なります。
また、扶養控除は対象者のその年12月31日現在の年齢が16歳以上であることが要件である点も違いです。さらに、扶養控除の適用額には、年齢などの条件によって38万〜63万円の幅があります。
ひとり親控除・扶養控除は両方適用できることがある
ひとり親控除・寡婦控除の組み合わせと異なり、ひとり親控除と扶養控除は両方適用できる場合があります。ただし、両方同時に適用できるのは、「子ども」が「16歳以上」のケースのみです。
たとえば、12月31日時点で年間の合計所得金額が58万円以下の大学生(20歳)の子どもがいる場合、その他の要件を満たせばひとり親控除の35万円と扶養控除の63万円(特定扶養親族に該当するため)を控除できる可能性があります。
なお、ひとり親控除ではなく寡婦控除に該当する場合も、状況次第で扶養控除と同時に適用可能です。
ひとり親控除と「特定親族特別控除」の関係性
ひとり親控除の適用を受けるには、子の給与年収を123万円以下に抑える必要があります。特定親族特別控除が創設された2025年以降も、子の収入状況には十分な注意が必要です。
2025年度の税制改正で「特定親族特別控除」が創設され、19歳以上23歳未満の子を持つ家庭の「年収の壁」は緩和されました。しかし、この控除が適用される範囲であっても、ひとり親控除の要件は従来どおり厳格に確認する必要があります。
引用)国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)3ページ」
ひとり親控除では、子の総所得金額等が58万円以下(給与収入で123万円以下)であることが必須です。一方の特定親族特別控除は、子の所得が58万円超123万円以下(給与収入123万円超188万円以下)であっても親が控除を受けられる制度です。
そのため、子の年収が123万円をわずかでも超えると、特定親族特別控除の対象には該当しますが、親はひとり親控除(所得税35万円・住民税30万円)を受けられなくなり、結果として世帯の税負担が増える可能性があります。
ひとり親控除のメリットを確実に得るためには、子の収入状況を把握しながら世帯全体で有利になる働き方を検討することが大切です。
ひとり親控除まとめ
ひとり親控除は、シングルマザー・シングルファザーである従業員の税負担を軽減する制度です。
適用にあたっては、従業員が婚姻状況や所得制限、子の条件などの要件を満たしているか確認する必要があります。特に、養育費の取り扱いや子の年収については、従業員への説明が重要です。
2025年度の税制改正による変更点や特定親族特別控除との関係性を把握し、従業員への適切な情報提供が求められます。年末調整の際には、要件を丁寧に確認しながら、該当する従業員が確実に控除を受けられるよう対応しましょう。