勤労学生控除とは?メリットや扶養控除との関係をわかりやすく解説

更新日:2024年11月06日

勤労学生控除

勤労学生控除とは、納税する人が学生で給与所得などがある場合に受けられる所得控除を指します。適用することによって、所得税や住民税を軽減できます。本記事で勤労学生控除を適用するための3つの条件や、控除を受けるための方法を押さえておきましょう。

目次

勤労学生控除とは

勤労学生控除とは、納税する人自身が学生で学校へ通いながら働いていており、給与所得などがある場合に受けられる所得控除のことです。

所得控除とは各種所得の合計額から引ける金額のことで、勤労学生控除を含めて15種類あります。勤労学生控除以外の所得控除は、以下のとおりです。

所得控除は、納税者本人や配偶者・親族など人に関する「人的控除」と、納税者の支出に関する「物的控除」に分類できます。勤労学生控除は納税者本人に関する控除のため、人的控除のひとつです。

参考)国税庁「No.1100 所得控除のあらまし」

勤労学生に該当するための3つの条件

勤労学生控除を受けるためには、納税者自身が以下の条件を満たした勤労学生でなければなりません。

  1. 勤労による所得がある
  2. 合計所得金額が75万円以下かつ給与以外の所得が10万円以下
  3. 特定の学校の学生または生徒

ここから、各条件について詳しく解説します。

1. 勤労による所得がある

納税する人が勤労による所得があることが、勤労学生控除を受けるための要件のひとつです。たとえば、カフェでアルバイトをして給与をもらっている場合、給与所得があるため要件のひとつを満たすことになります。

所得とは、収入から必要経費を引いて残った額のことです。給与所得・不動産所得・利子所得・配当所得・一時所得など、合計10種類の所得が存在します。

勤労学生控除としての要件を満たすためのポイントは、所得が「勤労」を通じて得たものであることです。そのため、たとえ所得があってもそれがすべて不労所得に該当する場合は、勤労学生控除を受け取るための条件を満たしません。

不労所得の具体例は、親族から相続した不動産から得ている家賃収入(不動産所得)、今までもらったお年玉を預けている口座から得られる預貯金の利子(利子所得)、株式投資から得られる配当収入(配当所得)、競馬や競輪の払戻金(一時所得)などです。

2. 合計所得金額が75万円以下かつ給与以外の所得が10万円以下

納税する人が得ている合計所得金額が75万円以下で、給与以外の所得が10万円以下であることも勤労学生控除を受けるための要件として定められています。

本来、所得は収入から経費を引いて計算するものです。ただし、給与所得は必要経費を差し引けないため、代わりに給与所得控除を引きます。

給与収入が162万5,000円の場合、給与所得控除額は55万円です。そのため、アルバイトをしている納税者が条件を満たすためには、まず給与収入が130万円以下(75万円 + 55万円)であることが求められます。

また、たとえ給与所得が70万円でも、配達員として15万円の所得(事業所得もしくは雑所得)があれば条件を満たしません。なぜなら、合計所得が75万円を超えているためです(70万円 + 15万円 = 85万円)。

さらに、このケースで仮に給与所得が60万円でも、まだ条件は満たしません。給与以外の所得(今回は事業所得もしくは雑所得)が10万円を超えている点が理由です。

3. 特定の学校の学生または生徒

勤労学生控除を受けるには、そもそも特定の学校の学生または生徒でなければなりません。どの学校に在籍していても対象なのではなく、基本的に以下いずれかに該当することが求められます。

  • 小学校・中学校・高等学校・大学・高等専門学校など(学校教育法に規定される学校)
  • 国・地方公共団体・私立学校法の第3条に規定する学校法人や同法第64条第4項に規定する法人など
  • 職業能力開発促進法で認定職業訓練を実施する職業訓練法人(一定の課程を履修させることが条件)

適用対象の学校か判断が難しい場合は、直接学校の窓口に確認するとよいでしょう。

参考)国税庁「No.1175 勤労学生控除」

勤労学生控除の控除額

勤労学生控除対象の納税者が、所得税の計算に適用できる控除額は27万円です。

所得税の計算では、合計所得が2,400万円以下の納税者は一律で48万円の控除額(基礎控除)を適用できます。そのため、勤労学生控除の対象者がアルバイトで75万円の給与所得を得ている場合の課税所得は0円で(75万円 − 27万円 − 48万円)、所得税が発生しません。

ただし、所得税がかからなくても住民税がかかる場合はあります。住民税の計算では、勤労学生控除で26万円を適用可能です。

勤労学生控除を適用するメリット・デメリット

納税者が勤労学生控除を適用するメリットとデメリットは、以下のとおりです。

  • メリット〜所得税・住民税が軽減される
  • デメリット〜扶養控除が受けられなくなる

それぞれ解説します。

メリット:所得税・住民税が軽減される

勤労学生の控除額からもわかるように、所得税や住民税が軽減される点がメリットです。

対象の所得控除がない場合、給与収入が103万円を超える(給与所得が48万円を超える)と、所得税が発生します。なぜなら、所得から基礎控除48万円(合計所得が2,400万円以下の場合)しか引けないためです。

一方、勤労学生控除を受ける場合は、控除額27万円を適用できる分、給与収入130万円(給与所得75万円)まで所得税がかからなくなります。また、勤労学生控除を適用できれば、給与収入124万円以下までは住民税もかかりません(基礎控除:43万円、勤労学生控除:26万円)。

なお、給与所得以外の所得がある場合は、計算が変わるため注意しましょう。

デメリット:扶養控除が受けられなくなる

扶養控除を受けられなくなる可能性がある点が、デメリットです。

勤労学生控除を適用することが、扶養控除の対象から外れることに直接結びつくわけではありません。ただし、勤労学生控除を適用する意味がある基準まで勤労学生が所得を得ると、親などが扶養控除の適用対象外になることがあります。

扶養控除とは、納税者に控除対象の扶養親族がいる場合に受けられる所得控除のことです。扶養控除を受けるためには、「扶養親族が納税者と生計を一にしている」「扶養親族の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)」などの要件を満たすことが求められます。

勤労学生控除を受けなくても、給与収入103万円までは所得税がかかりません(給与収入のみのケース)。そのため、基本的に勤労学生控除を受ける意味があるのは、給与収入103万円超130万円以下のラインです。

しかし、勤労学生の給与収入103万円を超えると、親など今まで扶養控除を受けていた人が要件を満たさなくなります。つまり、勤労学生自身は勤労所得控除を受けることにより所得税がかからなかったとしても、勤労学生の収入増加により扶養控除を受けられなくなった親などにかかる所得税が、今までより増える可能性があるというわけです。

参考)国税庁「No.1180 扶養控除」

年末調整で勤労学生控除を適用する方法

年末調整とは、源泉徴収された税額の年間合計額と、年税額を一致させる精算手続きのことです。給与収入金額が2,000万円を超えるケースなどを除き、勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している人はすべて年末調整の対象になります。

そのため、勤労学生でアルバイトとして働いている場合でも、会社に「扶養控除等申告書」を提出していれば年末調整の対象です。年末調整で勤労学生控除を適用する場合は、一般的に以下の流れで進めます。

  1. 年末調整の書類を準備する
  2. 必要事項を記入して会社に提出する

ここから、各手順でする作業を確認していきましょう。

1. 年末調整の書類を準備する

年末調整の手続きにあたって、まずは書類を準備しなければなりません。年末調整に必要な書類は、以下のとおりです。

  1. 扶養控除等(異動)申告書
  2. 基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
  3. 保険料控除申告書
  4. 住宅借入金等特別控除申告書

受ける所得控除によっては、3や4の提出が不要の場合もあります。

勤務先の所管部署の担当者から、必要書類を受け取ることが一般的です。書式や見本は、国税庁のサイトからもダウンロードできます。毎年異なるため、時期が近づいたら最新版を確認しましょう。

参考)国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和5年分)」

2. 必要事項を記入して会社に提出する

書類を準備したら、必要事項に記入してアルバイトなどで勤務する会社に提出しましょう。年末調整で勤労学生控除を受けるにあたって記入する必要があるのは、「扶養控除等(異動)申告書」です。

書類の中央下部に設けられた「C障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」欄の左にある、「勤労学生」にチェックを入れましょう。また、右側の「障害者又は勤労学生の内容」欄に、「学校名、入学年月日、対象年中の所得の種類と見積額」を記入します。

なお、書類の提出時には、在籍証明書の添付も必要です。

学生で確定申告が必要になる場合

年末調整で対応できず、確定申告が必要になることもあります。確定申告が必要になるケースは、主に以下のとおりです。

  • 年末調整の対象ではない
  • 複数の会社で働いている
  • 各種控除を適用したい

確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までに生じた所得の金額と、それに対する所得税額を計算して確定させる手続きのことです。勤労学生控除の適用対象外だとしても、一定の所得があり、所定の条件に該当する場合は確定申告しなければなりません。

ここから、確定申告が必要になる各ケースについて、詳しく解説します。

参考)国税庁「No.2020 確定申告」

年末調整の対象ではない

勤労で一定の所得を得ている学生で、年末調整の対象外の場合は確定申告しなければなりません。たとえば、年の途中で退職し、以下のいずれにも該当しない場合は、年末調整の対象外です。

  • 海外支店などに転勤して非居住者となった
  • 死亡によって退職した
  • 著しい心身の障害のために退職した
  • 12月に支給されるべき給与などの支払を受けてから退職した
  • いわゆるパートタイマーとして働いていてから退職した

年末調整は本来12月に実施する手続きですが、上記に該当する場合は年の途中で作業します。

なお、年間の給与総額が2,000万円を超える人も年末調整の対象外です。しかし、この場合は合計「所得金額が75万円を超える」ため、そもそも勤労学生控除を適用できないでしょう。

参考)国税庁「確定申告が必要な方」

複数の会社で働いている

休日はカフェの店員、平日の夜は塾講師として勤務するなど、複数の会社で働いている場合も確定申告をしなければなりません。なぜなら、年末調整は1か所でしか手続きできないためです。

複数の勤務先で働いている場合、給与は「主たる給与」と「従たる給与」に分類されます。原則として、「従たる給与」について確定申告しなければなりません。

なお、給与(全額源泉徴収の対象)を1か所から受けているほかに、配達員などとして働いて給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える場合にも、確定申告が必要です。ただし、この場合は「給与以外の所得が10万円を超える」ため、勤労学生控除は適用できません。

参考)国税庁「No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」

各種控除を適用したい

勤労学生控除以外の所得控除を適用するケースで、確定申告が必要になる場合もあります。原則として確定申告が必要な所得控除は、以下のとおりです。

  • 寄附金控除
  • 雑損控除
  • 医療費控除

寄附金控除は、納税者が国・地方公共団体などに「特定寄附金」を支出した場合に受けられます。また、雑損控除は、災害・盗難・横領で要件を満たす資産が損害を受けた場合に受けられる所得控除のことです。

さらに、医療費控除は、自分や自分の配偶者・親族の医療費を支払った際に、医療費が一定額を超える場合に受けられます。

参考)国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」
参考)国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
参考)国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」

確定申告で勤労学生控除を適用する方法

確定申告で勤労学生控除を適用する際の流れは、以下のとおりです。

  1. 確定申告書を作成する
  2. 所管の税務署へ提出する

各手順を解説します。

1. 確定申告書を作成する

確定申告書・所得を証明できるもの・所得控除に関する証明書などを用意したら、必要事項を記載していきます。

勤労学生控除を受ける際にポイントになるのが、確定申告書第一表の左側にある「所得から差し引かれる金額」欄の「勤労学生、障害者控除」の部分です。「0000」の前に、「27」と記入してほかの記載項目と一緒に計算することで、勤労学生控除を受けられます。

また、第二表の中央右にある「本人に関する事項」の「勤労学生」にも丸が必要です。専修学校・各種学校・職業訓練校に通っていて、年末調整で勤労学生控除を受けていない場合は、「年調以外かつ専修学校等」にもチェックを入れましょう。

2. 所管の税務署へ提出する

確定申告の書類が完成したら、必要な証明書と一緒に所管の税務署に提出します。提出方法は、以下のとおりです。

  • e-Taxで申告する
  • 郵便や信書便を使って、所轄の税務署に送付する
  • 所轄の税務署窓口に直接提出する

e-Taxとは、インターネットを使って国税に関する各種手続きができるシステムのことです。e-Taxで申告した場合は、勤労学生控除の証明書の提出を省略できます。

参考)国税庁「所得税及び復興特別所得税についてよくある質問」

勤労学生控除の適用にあたって注意すること

勤労学生控除を適用するにあたって、以下の点に注意しましょう。

  • 在籍証明書を取得する
  • 学生の判定基準を間違えない

それぞれ解説します。

在籍証明書を取得する

勤労学生控除を受けるにあたって、在籍証明書を取得しなければならないケースがあります。

「学校教育法に規定する小学校・中学校・高等学校・大学・高等専門学校」以外に該当する勤労学生は、基本的に在籍証明書が必要です。そのため、対象者は在学する学校の長から必要な証明書の交付を受けて申告書に添付するか、申告書を提出する際に提示しなければなりません。

なお、e-taxの場合は提出・提示を省略できますが、取得不要なわけではない点に注意が必要です。法定申告期限から5年間、税務署から提示・提出を求められた場合は対応しなければなりません。

学生の判定基準を間違えない

勤労学生控除を適用する際は、「学生」「生徒」の判断基準を間違えないようにしましょう。

対象年の「12月31日時点」で要件を満たす人が、勤労学生控除を受けられます。たとえ、勤労学生控除を受けようとする年の3月まで学生であったとしても、その後卒業していれば対象外です。

その反対に、対象年の途中から入学した場合でも、12月31日時点で学生・生徒であれば勤労学生控除を受けられる可能性があります。

勤労学生控除まとめ

勤労学生控除とは、納税する人自身が学生で、学校に通いながら働き、給与所得がある場合に受けられる所得控除です。適用するには、「勤労による所得がある」「合計所得金額が75万円以下かつ給与以外の所得が10万円以下」「特定の学校の学生または生徒」の3要件を満たさなければなりません。

勤労学生控除は、年末調整や確定申告で手続きします。所得税・住民税の軽減につながるため、対象者は忘れずに手続きしましょう。

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