更新日:2025年12月12日
勤労学生控除とは、納税する人が学生で、給与所得などがある場合に受けられる所得控除のことです。2025年度の税制改正で要件などに変更があるため、納税額を計算する際に注意しましょう。この記事では、2025年度の税制改正を踏まえて、勤労学生控除の要件やメリットについて解説します。
目次
勤労学生控除とは、納税者が学生で学校へ通いながら働いていて、所得がある場合に受けられる所得控除のことです。所得控除は、納税額を計算する際に、所得から一定額を引ける制度のことを指します。
2025年12月1日時点における所得控除の種類は以下のとおりです。
なお、所得控除は、納税者本人・配偶者・親族などに関する「人的控除」と、納税者の支出に対する「物的控除」に分類できます。人的控除の具体例は基礎控除や配偶者控除など、物的控除の具体例は社会保険料控除や生命保険料控除などです。今回紹介する勤労学生控除は、人的控除に分類されます。
参考)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
2025年度の税制改正で、勤労学生控除の控除額には変更がありません。ただし、合計所得金額の要件が「75万円以下」から「85万円以下」に引き上げられています。
また、勤労学生控除以外にも、所得控除制度に関する変更点がいくつかあります。とくに、基礎控除や給与所得控除については、控除額に関する変更がある点に注意が必要です。
基礎控除の控除額は「48万円」(合計所得金額2,400万円以下)でしたが、合計所得金額に応じて「48万円」〜「95万円」に変更されています。また、給与所得控除額は最低保障額が「55万円」から「65万円」に引き上げられている点がポイントです。
いずれも納税額の計算に影響を及ぼす変更のため、押さえておきましょう。
参考)国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
勤労学生控除を受けるためには、納税者自身が以下の条件を満たした勤労学生でなければなりません。
ここから、各条件について詳しく解説します。
納税する人が勤労による所得があることが、勤労学生控除を受けるための要件のひとつです。たとえば、カフェでアルバイトをして給与をもらっている場合、給与所得があるため要件のひとつを満たすことになります。
所得とは、収入から必要経費を引いて残った額のことです。給与所得・不動産所得・利子所得・配当所得・一時所得など、合計10種類の所得が存在します。
勤労学生控除としての要件を満たすためのポイントは、所得が「勤労」を通じて得たものであることです。そのため、たとえ所得があってもそれがすべて不労所得に該当する場合は、勤労学生控除を受け取るための条件を満たしません。
不労所得の具体例は、親族から相続した不動産から得ている家賃収入(不動産所得)、今までもらったお年玉を預けている口座から得られる預貯金の利子(利子所得)、株式投資から得られる配当収入(配当所得)、競馬や競輪の払戻金(一時所得)などです。
納税する人の合計所得金額が85万円以下で、給与以外の所得が10万円以下であることも勤労学生控除を受けるための要件です。給与所得控除は16種類の所得控除とは異なる制度のため、所得金額を計算する際には注意しましょう。
本来、所得は収入から経費を引いて計算するものです。ただし、給与所得は必要経費を差し引けないため、代わりに給与所得控除を引きます。
給与収入が190万円以内であれば、給与所得控除額は65万円です。そのため、アルバイトをしている学生が条件を満たすためには、そもそも給与収入が150万円以下(85万円 + 65万円)でなければなりません。
なお、給与収入が仮に140万円(給与所得75万円)でも、配達員として15万円の所得(事業所得もしくは雑所得)があれば合計所得が「85万円」を超えている(75万円 + 15万円 = 90万円)ため、勤労学生控除の適用対象外です。また、このケースで仮に給与所得が70万円で合計所得85万円以内の要件を満たしていても、給与以外の所得が10万円を超えているため勤労学生控除を適用できません。
勤労学生控除を受けるには、そもそも特定の学校の学生または生徒でなければなりません。どの学校に在籍していても対象なのではなく、基本的に以下いずれかに該当することが求められます。
適用対象の学校か判断が難しい場合は、直接学校の窓口に確認するとよいでしょう。
勤労学生控除対象の納税者が、所得税の計算に適用できる控除額は「27万円」です。そのため、これまで勤労学生控除を適用することにより、所得税の軽減につながることがありました。
しかし、2025年度の税制改正以降、勤労学生控除を適用するケースは限定的です。税制改正に伴い「103万円の壁」が「160万円の壁」に引き上げられたことが理由として挙げられます。
103万円の壁とは、給与所得控除の55万円と基礎控除の48万円を足した額(103万円)までは、所得税がかからないことです。基礎控除が95万円(合計所得⾦額132万円以下)、給与所得控除の最低保障額が65万円に引き上げられたため、「160万円の壁」ができました。
たとえば、給与収入が150万円だと給与所得は「85万円(150万円 − 65万円)」で、基礎控除の95万円を考慮すると所得税がかかりません(勤労学生控除を使う機会なし)。また、給与収入が150万円を超えると今度は要件(合計所得金額が85万円以下)を満たさなくなるため、勤労学生控除の適用対象外です。
扶養控除とは、納税者に控除対象扶養親族がいる納税者が受けられる所得控除のことです。たとえば、学生の子どもがいる親が扶養控除を適用することがあります。
これまで、勤労学生控除を適用して自分が納税しなくてもよいギリギリの範囲(給与収入103万円超)まで働こうとすると、親が扶養控除を受けられませんでした。「103万円」を超えることで学生が扶養親族としての所得要件を満たさなくなることが理由です。
しかし、2025年度の税制改正で基礎控除が大幅に引き上げられたため、勤労学生控除が扶養控除に関連する機会は減っています。
住民税を軽減できる可能性がある点が、勤労学生控除を適用するメリットとして挙げられます。
2025年度の税制改正以降、所得税の計算に勤労学生控除を適用できるケースは限定的です。一方で、所得税がかからなくても住民税がかかることがあるため、勤労学生控除の存在意義は依然としてあります。
自治体によって異なりますが、給与収入のみの場合に個人住民税が非課税となる目安はおよそ110万円です。そのため、学生が給与収入110万円を少し超えて働いている場合に、勤労学生控除を適用することで負担を軽減できることがあるでしょう。
なお、住民税の計算における勤労学生控除の控除額は26万円です。
年末調整とは、源泉徴収された税額の年間合計額と、年税額を一致させる精算手続きのことです。給与収入金額が2,000万円を超えるケースなどを除き、勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している人はすべて年末調整の対象になります。 そのため、勤労学生でアルバイトとして働いている場合でも、会社に「扶養控除等申告書」を提出していれば年末調整の対象です。年末調整で勤労学生控除を適用する場合は、一般的に以下の流れで進めます。
ここから、各手順でする作業を確認していきましょう。
年末調整の手続きにあたって、まずは書類を準備しなければなりません。年末調整に必要な書類は、以下のとおりです。
受ける所得控除によっては、3や4の提出が不要の場合もあります。 勤務先の所管部署の担当者から、必要書類を受け取ることが一般的です。書式や見本は、国税庁のサイトからもダウンロードできます。毎年異なるため、時期が近づいたら最新版を確認しましょう。
参考)国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和7年分)」
書類を準備したら、必要事項に記入してアルバイトなどで勤務する会社に提出しましょう。年末調整で勤労学生控除を受けるにあたって記入する必要があるのは、「扶養控除等(異動)申告書」です。
書類の中央下部に設けられた「C障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」欄の左にある、「勤労学生」にチェックを入れましょう。また、右側の「障害者又は勤労学生の内容」欄に、「学校名、入学年月日、対象年中の所得の種類と見積額」を記入します。
なお、書類の提出時には、在籍証明書の添付も必要です。
年末調整で対応できず、確定申告が必要になることもあります。確定申告が必要になるケースは、主に以下のとおりです。
確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までに生じた所得の金額と、それに対する所得税額を計算して確定させる手続きのことです。勤労学生控除の適用対象外だとしても、一定の所得があり、所定の条件に該当する場合は確定申告しなければなりません。 ここから、確定申告が必要になる各ケースについて、詳しく解説します。
参考)国税庁「No.2020 確定申告」
勤労で一定の所得を得ている学生で、年末調整の対象外の場合は確定申告しなければなりません。たとえば、年の途中で退職し、以下のいずれにも該当しない場合は、年末調整の対象外です。
年末調整は本来12月に実施する手続きですが、上記に該当する場合は年の途中で作業します。
なお、年間の給与総額が2,000万円を超える人も年末調整の対象外です。しかし、この場合は合計「所得金額が85万円を超える」ため、そもそも勤労学生控除を適用できないでしょう。
参考)国税庁「確定申告が必要な方」
休日はカフェの店員、平日の夜は塾講師として勤務するなど、複数の会社で働いている場合も確定申告をしなければなりません。なぜなら、年末調整は1か所でしか手続きできないためです。
複数の勤務先で働いている場合、給与は「主たる給与」と「従たる給与」に分類されます。原則として、「従たる給与」について確定申告しなければなりません。
なお、給与(全額源泉徴収の対象)を1か所から受けているほかに、配達員などとして働いて給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える場合にも、確定申告が必要です。ただし、この場合は「給与以外の所得が10万円を超える」ため、勤労学生控除は適用できません。
参考)国税庁「No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」
勤労学生控除以外の所得控除を適用するケースで、確定申告が必要になる場合もあります。原則として確定申告が必要な所得控除は、以下のとおりです。
寄附金控除は、納税者が国・地方公共団体などに「特定寄附金」を支出した場合に受けられます。また、雑損控除は、災害・盗難・横領で要件を満たす資産が損害を受けた場合に受けられる所得控除のことです。
さらに、医療費控除は、自分や自分の配偶者・親族の医療費を支払った際に、医療費が一定額を超える場合に受けられます。
参考)国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」 参考)国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」 参考)国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
確定申告で勤労学生控除を適用する際の流れは、以下のとおりです。
各手順を解説します。
確定申告書・所得を証明できるもの・所得控除に関する証明書などを用意したら、必要事項を記載していきます。
勤労学生控除を受ける際にポイントになるのが、確定申告書第一表の左側にある「所得から差し引かれる金額」欄の「障害者控除、勤労学生」の部分です。「0000」の前に、「27」と記入してほかの記載項目と一緒に計算することで、勤労学生控除を受けられます。
また、第二表の中央右にある「本人に関する事項」の「勤労学生」にも丸が必要です。専修学校・各種学校・職業訓練校に通っていて、年末調整で勤労学生控除を受けていない場合は、「年調以外かつ専修学校等」にもチェックを入れましょう。
確定申告の書類が完成したら、必要な証明書と一緒に所管の税務署に提出します。提出方法は、以下のとおりです。
e-Taxとは、インターネットを使って国税に関する各種手続きができるシステムのことです。e-Taxで申告した場合は、勤労学生控除の証明書の提出を省略できます。
参考)国税庁「所得税及び復興特別所得税についてよくある質問」
勤労学生控除を適用するにあたって、以下の点に注意しましょう。
それぞれ解説します。
勤労学生控除を受けるにあたって、在籍証明書を取得する必要があるケースがあります。
「学校教育法に規定する小学校・中学校・高等学校・大学・高等専門学校」以外に該当する勤労学生は、基本的に在籍証明書が必要です。そのため、対象者は在学する学校の長から必要な証明書の交付を受けて申告書に添付するか、申告書を提出する際に提示しなければなりません。
なお、e-taxの場合は提出・提示を省略できますが、取得不要なわけではない点に注意が必要です。法定申告期限から5年間、税務署から提示・提出を求められた場合は対応しなければなりません。
勤労学生控除を適用する際は、「学生」「生徒」の判断基準を間違えないようにしましょう。
対象年の「12月31日時点」で要件を満たす人が、勤労学生控除を受けられます。たとえ、勤労学生控除を受ける年の3月まで学生であったとしても、その後卒業していれば対象外です。
その反対に、対象年の途中から入学した場合でも、12月31日時点で学生・生徒であれば勤労学生控除を受けられる可能性があります。
2025年度税制改正で創設された特定親族特別控除も、学生や家族に影響を及ぼす可能性があります。
特定親族特別控除とは、納税者に⽣計を⼀にする年齢19歳以上23歳未満の親族(控除対象扶養親族に該当しない)がいる場合に、一定額を控除できる制度です。大学生や専門学生などの世代の子どもがいる親は、特定親族特別控除を適用できる可能性があります。
控除額は、最大「63万円」(特定親族の合計所得によって異なる)です。子どもの合計所得が「85万円」を超えたことで扶養控除を適用できなくなっても、子どもの合計所得が「123万円」までであれば特定親族特別控除を適用して一定額を控除できます。
そのため、子ども(学生)にとっても今までよりも働きやすくなる点がメリットです。
参考)国税庁「No.1177 特定親族特別控除」
勤労学生控除とは、納税する人自身が学生で、学校に通いながら働き、給与所得がある場合に受けられる所得控除です。「勤労による所得がある」「合計所得金額が85万円以下かつ給与以外の所得が10万円以下」「特定の学校の学生または生徒」の3つの要件を満たした場合に、適用できます。
従来、勤労学生控除を適用することで、学生は給与収入「103万円」を超えた際に所得税の負担を抑えられることがありました。しかし、2025年度税制改正で基礎控除額が大幅に引き上げられたことで、所得税面で勤労所得控除を適用する機会は減っています。
納税額を計算する際は、2025年度税制改正を踏まえて対応しましょう。
この記事は、給与計算ソフト「フリーウェイ給与計算」の株式会社フリーウェイジャパンが提供しています。フリーウェイ給与計算は、従業員5人まで永久無料のクラウド給与計算で、WindowsでもMacでも利用できます。
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勤労学生控除とは、納税する人が学生で、給与所得などがある場合に受けられる所得控除のことです。2025年度の税制改正で要件などに変更があるため、納税額を計算する際に注意しましょう。この記事では、2025年度の税制改正を踏まえて、勤労学生控除の要件やメリットについて解説します。
目次
勤労学生控除とは
勤労学生控除とは、納税者が学生で学校へ通いながら働いていて、所得がある場合に受けられる所得控除のことです。所得控除は、納税額を計算する際に、所得から一定額を引ける制度のことを指します。
2025年12月1日時点における所得控除の種類は以下のとおりです。
なお、所得控除は、納税者本人・配偶者・親族などに関する「人的控除」と、納税者の支出に対する「物的控除」に分類できます。人的控除の具体例は基礎控除や配偶者控除など、物的控除の具体例は社会保険料控除や生命保険料控除などです。今回紹介する勤労学生控除は、人的控除に分類されます。
参考)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
2025年度税制改正による勤労学生控除の変更点
2025年度の税制改正で、勤労学生控除の控除額には変更がありません。ただし、合計所得金額の要件が「75万円以下」から「85万円以下」に引き上げられています。
また、勤労学生控除以外にも、所得控除制度に関する変更点がいくつかあります。とくに、基礎控除や給与所得控除については、控除額に関する変更がある点に注意が必要です。
基礎控除の控除額は「48万円」(合計所得金額2,400万円以下)でしたが、合計所得金額に応じて「48万円」〜「95万円」に変更されています。また、給与所得控除額は最低保障額が「55万円」から「65万円」に引き上げられている点がポイントです。
いずれも納税額の計算に影響を及ぼす変更のため、押さえておきましょう。
参考)国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
勤労学生に該当するための3つの条件
勤労学生控除を受けるためには、納税者自身が以下の条件を満たした勤労学生でなければなりません。
ここから、各条件について詳しく解説します。
1. 勤労による所得がある
納税する人が勤労による所得があることが、勤労学生控除を受けるための要件のひとつです。たとえば、カフェでアルバイトをして給与をもらっている場合、給与所得があるため要件のひとつを満たすことになります。
所得とは、収入から必要経費を引いて残った額のことです。給与所得・不動産所得・利子所得・配当所得・一時所得など、合計10種類の所得が存在します。
勤労学生控除としての要件を満たすためのポイントは、所得が「勤労」を通じて得たものであることです。そのため、たとえ所得があってもそれがすべて不労所得に該当する場合は、勤労学生控除を受け取るための条件を満たしません。
不労所得の具体例は、親族から相続した不動産から得ている家賃収入(不動産所得)、今までもらったお年玉を預けている口座から得られる預貯金の利子(利子所得)、株式投資から得られる配当収入(配当所得)、競馬や競輪の払戻金(一時所得)などです。
2. 合計所得金額が85万円以下かつ給与以外の所得が10万円以下
納税する人の合計所得金額が85万円以下で、給与以外の所得が10万円以下であることも勤労学生控除を受けるための要件です。給与所得控除は16種類の所得控除とは異なる制度のため、所得金額を計算する際には注意しましょう。
本来、所得は収入から経費を引いて計算するものです。ただし、給与所得は必要経費を差し引けないため、代わりに給与所得控除を引きます。
給与収入が190万円以内であれば、給与所得控除額は65万円です。そのため、アルバイトをしている学生が条件を満たすためには、そもそも給与収入が150万円以下(85万円 + 65万円)でなければなりません。
なお、給与収入が仮に140万円(給与所得75万円)でも、配達員として15万円の所得(事業所得もしくは雑所得)があれば合計所得が「85万円」を超えている(75万円 + 15万円 = 90万円)ため、勤労学生控除の適用対象外です。また、このケースで仮に給与所得が70万円で合計所得85万円以内の要件を満たしていても、給与以外の所得が10万円を超えているため勤労学生控除を適用できません。
3. 特定の学校の学生または生徒
勤労学生控除を受けるには、そもそも特定の学校の学生または生徒でなければなりません。どの学校に在籍していても対象なのではなく、基本的に以下いずれかに該当することが求められます。
適用対象の学校か判断が難しい場合は、直接学校の窓口に確認するとよいでしょう。
参考)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
勤労学生控除の控除額
勤労学生控除対象の納税者が、所得税の計算に適用できる控除額は「27万円」です。そのため、これまで勤労学生控除を適用することにより、所得税の軽減につながることがありました。
しかし、2025年度の税制改正以降、勤労学生控除を適用するケースは限定的です。税制改正に伴い「103万円の壁」が「160万円の壁」に引き上げられたことが理由として挙げられます。
103万円の壁とは、給与所得控除の55万円と基礎控除の48万円を足した額(103万円)までは、所得税がかからないことです。基礎控除が95万円(合計所得⾦額132万円以下)、給与所得控除の最低保障額が65万円に引き上げられたため、「160万円の壁」ができました。
たとえば、給与収入が150万円だと給与所得は「85万円(150万円 − 65万円)」で、基礎控除の95万円を考慮すると所得税がかかりません(勤労学生控除を使う機会なし)。また、給与収入が150万円を超えると今度は要件(合計所得金額が85万円以下)を満たさなくなるため、勤労学生控除の適用対象外です。
勤労学生控除と扶養控除の関係
扶養控除とは、納税者に控除対象扶養親族がいる納税者が受けられる所得控除のことです。たとえば、学生の子どもがいる親が扶養控除を適用することがあります。
これまで、勤労学生控除を適用して自分が納税しなくてもよいギリギリの範囲(給与収入103万円超)まで働こうとすると、親が扶養控除を受けられませんでした。「103万円」を超えることで学生が扶養親族としての所得要件を満たさなくなることが理由です。
しかし、2025年度の税制改正で基礎控除が大幅に引き上げられたため、勤労学生控除が扶養控除に関連する機会は減っています。
勤労学生控除を適用するメリット
住民税を軽減できる可能性がある点が、勤労学生控除を適用するメリットとして挙げられます。
2025年度の税制改正以降、所得税の計算に勤労学生控除を適用できるケースは限定的です。一方で、所得税がかからなくても住民税がかかることがあるため、勤労学生控除の存在意義は依然としてあります。
自治体によって異なりますが、給与収入のみの場合に個人住民税が非課税となる目安はおよそ110万円です。そのため、学生が給与収入110万円を少し超えて働いている場合に、勤労学生控除を適用することで負担を軽減できることがあるでしょう。
なお、住民税の計算における勤労学生控除の控除額は26万円です。
年末調整で勤労学生控除を適用する方法
年末調整とは、源泉徴収された税額の年間合計額と、年税額を一致させる精算手続きのことです。給与収入金額が2,000万円を超えるケースなどを除き、勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している人はすべて年末調整の対象になります。 そのため、勤労学生でアルバイトとして働いている場合でも、会社に「扶養控除等申告書」を提出していれば年末調整の対象です。年末調整で勤労学生控除を適用する場合は、一般的に以下の流れで進めます。
ここから、各手順でする作業を確認していきましょう。
1. 年末調整の書類を準備する
年末調整の手続きにあたって、まずは書類を準備しなければなりません。年末調整に必要な書類は、以下のとおりです。
受ける所得控除によっては、3や4の提出が不要の場合もあります。 勤務先の所管部署の担当者から、必要書類を受け取ることが一般的です。書式や見本は、国税庁のサイトからもダウンロードできます。毎年異なるため、時期が近づいたら最新版を確認しましょう。
参考)国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和7年分)」
2. 必要事項を記入して会社に提出する
書類を準備したら、必要事項に記入してアルバイトなどで勤務する会社に提出しましょう。年末調整で勤労学生控除を受けるにあたって記入する必要があるのは、「扶養控除等(異動)申告書」です。
書類の中央下部に設けられた「C障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」欄の左にある、「勤労学生」にチェックを入れましょう。また、右側の「障害者又は勤労学生の内容」欄に、「学校名、入学年月日、対象年中の所得の種類と見積額」を記入します。
なお、書類の提出時には、在籍証明書の添付も必要です。
学生で確定申告が必要になる場合
年末調整で対応できず、確定申告が必要になることもあります。確定申告が必要になるケースは、主に以下のとおりです。
確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までに生じた所得の金額と、それに対する所得税額を計算して確定させる手続きのことです。勤労学生控除の適用対象外だとしても、一定の所得があり、所定の条件に該当する場合は確定申告しなければなりません。
ここから、確定申告が必要になる各ケースについて、詳しく解説します。
参考)国税庁「No.2020 確定申告」
年末調整の対象ではない
勤労で一定の所得を得ている学生で、年末調整の対象外の場合は確定申告しなければなりません。たとえば、年の途中で退職し、以下のいずれにも該当しない場合は、年末調整の対象外です。
年末調整は本来12月に実施する手続きですが、上記に該当する場合は年の途中で作業します。
なお、年間の給与総額が2,000万円を超える人も年末調整の対象外です。しかし、この場合は合計「所得金額が85万円を超える」ため、そもそも勤労学生控除を適用できないでしょう。
参考)国税庁「確定申告が必要な方」
複数の会社で働いている
休日はカフェの店員、平日の夜は塾講師として勤務するなど、複数の会社で働いている場合も確定申告をしなければなりません。なぜなら、年末調整は1か所でしか手続きできないためです。
複数の勤務先で働いている場合、給与は「主たる給与」と「従たる給与」に分類されます。原則として、「従たる給与」について確定申告しなければなりません。
なお、給与(全額源泉徴収の対象)を1か所から受けているほかに、配達員などとして働いて給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える場合にも、確定申告が必要です。ただし、この場合は「給与以外の所得が10万円を超える」ため、勤労学生控除は適用できません。
参考)国税庁「No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」
各種控除を適用したい
勤労学生控除以外の所得控除を適用するケースで、確定申告が必要になる場合もあります。原則として確定申告が必要な所得控除は、以下のとおりです。
寄附金控除は、納税者が国・地方公共団体などに「特定寄附金」を支出した場合に受けられます。また、雑損控除は、災害・盗難・横領で要件を満たす資産が損害を受けた場合に受けられる所得控除のことです。
さらに、医療費控除は、自分や自分の配偶者・親族の医療費を支払った際に、医療費が一定額を超える場合に受けられます。
参考)国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」
参考)国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
参考)国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
確定申告で勤労学生控除を適用する方法
確定申告で勤労学生控除を適用する際の流れは、以下のとおりです。
各手順を解説します。
1. 確定申告書を作成する
確定申告書・所得を証明できるもの・所得控除に関する証明書などを用意したら、必要事項を記載していきます。
勤労学生控除を受ける際にポイントになるのが、確定申告書第一表の左側にある「所得から差し引かれる金額」欄の「障害者控除、勤労学生」の部分です。「0000」の前に、「27」と記入してほかの記載項目と一緒に計算することで、勤労学生控除を受けられます。
また、第二表の中央右にある「本人に関する事項」の「勤労学生」にも丸が必要です。専修学校・各種学校・職業訓練校に通っていて、年末調整で勤労学生控除を受けていない場合は、「年調以外かつ専修学校等」にもチェックを入れましょう。
2. 所管の税務署へ提出する
確定申告の書類が完成したら、必要な証明書と一緒に所管の税務署に提出します。提出方法は、以下のとおりです。
e-Taxとは、インターネットを使って国税に関する各種手続きができるシステムのことです。e-Taxで申告した場合は、勤労学生控除の証明書の提出を省略できます。
参考)国税庁「所得税及び復興特別所得税についてよくある質問」
勤労学生控除の適用にあたって注意すること
勤労学生控除を適用するにあたって、以下の点に注意しましょう。
それぞれ解説します。
在籍証明書を取得する
勤労学生控除を受けるにあたって、在籍証明書を取得する必要があるケースがあります。
「学校教育法に規定する小学校・中学校・高等学校・大学・高等専門学校」以外に該当する勤労学生は、基本的に在籍証明書が必要です。そのため、対象者は在学する学校の長から必要な証明書の交付を受けて申告書に添付するか、申告書を提出する際に提示しなければなりません。
なお、e-taxの場合は提出・提示を省略できますが、取得不要なわけではない点に注意が必要です。法定申告期限から5年間、税務署から提示・提出を求められた場合は対応しなければなりません。
学生の判定基準を間違えない
勤労学生控除を適用する際は、「学生」「生徒」の判断基準を間違えないようにしましょう。
対象年の「12月31日時点」で要件を満たす人が、勤労学生控除を受けられます。たとえ、勤労学生控除を受ける年の3月まで学生であったとしても、その後卒業していれば対象外です。
その反対に、対象年の途中から入学した場合でも、12月31日時点で学生・生徒であれば勤労学生控除を受けられる可能性があります。
2025年度税制改正による学生への影響
2025年度税制改正で創設された特定親族特別控除も、学生や家族に影響を及ぼす可能性があります。
特定親族特別控除とは、納税者に⽣計を⼀にする年齢19歳以上23歳未満の親族(控除対象扶養親族に該当しない)がいる場合に、一定額を控除できる制度です。大学生や専門学生などの世代の子どもがいる親は、特定親族特別控除を適用できる可能性があります。
控除額は、最大「63万円」(特定親族の合計所得によって異なる)です。子どもの合計所得が「85万円」を超えたことで扶養控除を適用できなくなっても、子どもの合計所得が「123万円」までであれば特定親族特別控除を適用して一定額を控除できます。
そのため、子ども(学生)にとっても今までよりも働きやすくなる点がメリットです。
参考)国税庁「No.1177 特定親族特別控除」
勤労学生控除まとめ
勤労学生控除とは、納税する人自身が学生で、学校に通いながら働き、給与所得がある場合に受けられる所得控除です。「勤労による所得がある」「合計所得金額が85万円以下かつ給与以外の所得が10万円以下」「特定の学校の学生または生徒」の3つの要件を満たした場合に、適用できます。
従来、勤労学生控除を適用することで、学生は給与収入「103万円」を超えた際に所得税の負担を抑えられることがありました。しかし、2025年度税制改正で基礎控除額が大幅に引き上げられたことで、所得税面で勤労所得控除を適用する機会は減っています。
納税額を計算する際は、2025年度税制改正を踏まえて対応しましょう。