残業代の正しい計算方法とは?~基礎賃金、深夜労働、深夜残業、休日労働~

電卓と定規とペン

未払いの残業代の支払いを求めて労働者が会社を訴えたことがニュースで大きく取り上げられるなど、残業代に対する意識は年々高まっています。もし、残業代を支払っていなかったり計算方法を間違えていたりしたら大変です。今のうちに、正しい計算方法を確認しておきましょう。ちなみに、「割増賃金を支払わない、受け取らない」旨の会社と従業員の同意は無効です。※2020年10月7日に更新

目次

基礎賃金について解説

労働基準法に定められた法定労働時間の1日8時間を超える労働、週40時間を超える労働に対しては、正社員、パート、アルバイトの種別を問わず、残業代の支払いが必要です。まずは、残業代の基となる基礎賃金から確認しましょう。

日給制、月給制での違い

日給制の場合は、日給を1日の所定労働時間で割って基礎賃金となる時給を求めます。月給の場合は、1年間の労働日数と1日の所定労働時間から1カ月の平均所定労働時間を計算し、月給を1カ月の平均所定労働時間で割って時給を算出します。

各種手当は含まない

通勤手当や家族手当や住宅手当などが支給されていても、それらの手当は基礎賃金に含めません。危険作業が法定労働時間外に及ぶ場合、危険作業手当は割増賃金の算定基礎賃金に含めなければなりませんが、残業が危険作業ではない場合には危険作業手当を含める必要はありません。

基礎賃金の計算例

例えば、1日8時間労働、月平均の労働日数が21日の場合、1カ月の平均所定労働時間は8時間×21日で168時間。手当を含まない月給が25万円であれば、基礎賃金の時給は、240,000円÷168時間=1,488円です。

基礎賃金を正しく計算することが残業代計算の基本です。基礎賃金を間違えると全ての計算が狂ってしまうので、労働契約や賃金規定などを確認したうえで計算しましょう。

残業代を計算するための割増率

サラリーマンとメモ

労働基準法で定められた割増賃金の率は、時間外労働は1.25倍、休日労働は1.35倍、深夜残業(時間外深夜労働)は1.5倍、休日深夜労働は1.6倍です。正社員だけでなくアルバイトやパートの労働者であっても、割増率は代わりません。前述の基礎賃金の時給に、残業時間をかけ、さらに割増賃金の率をかけて残業代を計算します。例えば、18:00~23:00の時間外労働に対しては、時間外労働4時間、時間外深夜労働1時間に分けて考え、「時間外(時給×4時間×1.25)+時間外深夜(時給×1時間×1.5)」と計算します。先の例で基礎賃金の時給が1,488円の場合であれば、この残業に対しては9,672円を支払います。

残業が深夜労働の22時~翌朝5時を含む場合には、残業時間を分けて計算する必要があることに気を付けましょう。エクセルでも給与計算ソフトでも、最初に計算式を正しく設定することがとても大切です。必要な数字を入力すると、基礎賃金や残業代を自動的に計算してくれるWebサイトもありますので、確認方法の1つとして利用してみても良いかもしれません。

深夜労働は何時から何時までが該当する?

「深夜労働」の時間帯は、労働基準法で夜10時~朝5時と明確に決められています。交代制や、夜間にしか作業ができない業務など、深夜労働が通常の勤務時間にあたる場合にも、「深夜労働」には1.25倍の割増賃金の支払いが義務付けられています。コンビニエンスストアなどの求人で、同じ店舗で昼間の時給より深夜の時給が高く設定されているのはそのためです。

賃金計算において、労働時間が夜10時~朝5時を少しでも含む場合には、時間を分けて設定する必要があります。では残業が深夜に及ぶ場合はどうでしょうか?

深夜残業の残業代の計算方法は?

時計

残業が長引いて深夜に及んだ場合は、残業時間を通常残業と深夜残業の2つに分けて、残業代を計算します。通常の残業と深夜残業では、労働基準法で定められている割増率が異なるためです。

通常の残業時間は1.25倍、深夜の残業時間は1.5倍の割増賃金の支払いが必要で、正しく支払わないと法律に違反します。ただでさえ、体力的にも精神的にも負担の大きい残業が深夜に及ぶ場合には、賃金で補うことを国が義務付けているのです。

長時間に及ぶ残業は、労働者の心身に不調をきたすため社会問題になっています。深夜まで働からなくて済む様な工夫や仕組みを検討して、ブラック企業と言われない様にすることがとても大切です。では、休日に働く場合はどうでしょうか?

休日出勤=休日労働ではない?

下敷きになる人形

求人広告などを見ても週休2日の職場が多いですが、労働基準法では「週1回または4週間に4回以上の休日」を与えなければならないと規定されているのみです。

同僚みんなが休んでいる日に自分だけ仕事をしていると、休日労働をしていると思われる方も多いと思いますが、就業規則に土曜日と日曜日を休日とすると記載されている会社であっても、土曜日の労働は法律上の休日労働にはなりません。就業規則の休日と法律の定義が異なるために、実際、休日労働となるケースは少ないのです。

その土曜日に働くことで、一週間の労働時間の合計が40時間を超える場合、超えた時間は通常残業です。法律上の休日労働になるのは「週1回または4週間に4回以上の休日」が取れない働き方をした場合で、例えば休日が月に3日しか取れなかった場合、休日労働は1日と考えます。

固定残業代制度でも追加の残業代が発生する

電卓とお金

毎月、固定残業手当を支払っている場合でも、固定残業時間を超える残業には追加の残業代を支払う必要があります。実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合は、その差額を追加分として支払うことを、就業規則・契約書に明示します。また、固定残業の範囲内であっても深夜労働が発生した場合には、深夜の割増分を支払わなくてはなりません。毎月、固定残業代を支払っていれば、残業代は一切計算しなくて良いと勘違いしていると、知らないうちに法律に違反してしまう可能性があります。毎月、必ず確認しましょう。

固定残業代制度で守るべきルール

固定残業代制度は、以下のルールに則っていない場合は無効です。

  • 固定残業代の金額・時間を明示する

    賃金に含まれる残業代と、相当する残業時間を、就業規則・契約書に明示します。ただし、以下のような曖昧な規定では無効です。

    • 5万円(固定残業代を含む)
    • 基本給25万円(固定残業代30時間分を含む)
    • 基本給20万円 / 固定残業代5万円

    正しくは、「基本給20万円 / 固定残業代(30時間分)5万円」というように、基本給と固定残業代を明確に分けて記す必要があります。

  • 最低賃金を上回っている

    固定残業代制を導入するにあたっては、基本給が最低賃金を下回らないことが必要です。

  • 従業員の同意を得る

    現在の基本給の中に固定残業代を含ませる場合、新たな労働契約書を交わすなど、個々の従業員の同意が必要です。実質的に賃金の減額(労働条件の不利益変更)になりますからね。

固定残業代制度を導入=残業代の削減ではない

固定残業代制度を導入しても、残業代を削減できるとは限りません。残業時間が少なかった月でも、固定残業代の全額を支給しなければなりません。誤った理解のもとで制度を採り入れている会社では、労使間トラブルで、退職した従業員などから未払いの残業代を請求される事例もあります。 固定残業代制度を導入する際は、専門家のアドバイスをもらうなどして細心の注意を払うようにしましょう。

変形労働時間制、フレックスタイム制の残業代は?

ノートパソコンと付箋

変形労働時間制やフレックスタイム制などの残業代は、どう計算すれば良いのでしょうか。

これらの制度を採用する場合、制度によって定められた労使協定の締結や就業規則での規定、届出が必要です。必要な届出をしていなかったり制度の運用を間違えていたりすると、変形労働時間制が認められず、後になって残業代の支払いを命じられることもあります。

変形労働時間制やフレックスタイム制では、1日8時間、週40時間を超えても残業にはならない部分がありますが、実際の労働時間から、それぞれの制度にあわせて法定残業を細かく確認したうえで、前述の割増を計算します。

法改正によってフレックスタイム制の清算期間の上限が3カ月に伸びました。変形労働時間制も制度によって残業になる時間が異なるため、注意が必要です。

裁量労働制は休日労働と深夜労働の割増賃金が発生する

管理者

裁量労働制では、いわゆる残業代は発生しません。ただし、22時以降翌日の朝5時までの時間帯に労働させた場合は、深夜労働に対する割増賃金(深夜手当)が発生します。そして、法定休日に出勤させた場合は、休日労働に対する割増賃金(休日手当)が発生します。

管理監督者には深夜労働の割増手当が必要

管理監督者には、基本的には残業代が発生しません。通常の時間外労働、休日労働は対象外です。ただし、深夜帯に労働した場合には、深夜労働分の割増賃金を計算して支給しなければなりません。

事業場外のみなし労働時間制でも残業代は発生する

事業場外のみなし労働時間制を採用しているからといって、残業代が全く発生しないわけではありません。事業場外のみなし労働時間制は、従業員が労働時間の全部または一部について事業場外での業務に従事した場合に、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間だけ労働したものとみなす制度です。実際に働いた時間にかかわらず、労働時間は所定労働時間であったものとして扱われます。ただし、たとえば外回りの営業マンが業務を遂行するために通常10時間が必要な場合は、所定労働時間が8時間であったとしても、事業場外のみなし労働時間制によるみなし労働時間は10時間となります。この場合、所定労働時間を超える2時間分については、残業代が発生するのです。

年俸制での割増賃金

年俸制を採用している会社でも、従業員が法定労働時間を超えて働いたら、超過時間に応じて年俸とは別に割増賃金(残業代)を支払う必要があります。もちろん、「年俸に毎月30時間の残業代を含む」などの規定がある企業は別ですが、この場合でも月に30時間以上の残業が発生した場合は、別途、超過分の残業代を支払わなければなりません。

未払いの残業代があったとき

もし、法律で定められた割増をしなかったり、割増率を間違えて残業代を支払っていた場合、不足する割増分が未払いになってしまいます。2020年4月から未払い賃金請求権の時効は2年から5年(当分の間は3年)に延長されました。時効の起算日は給料日で、違反に対しては、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰則が科されます。

期間が延びたことで請求できる未払い賃金の額は増えるため、労働者から数年分の未払い賃金を請求された場合、経営が成り立たなくなることも考えられます。採用や昇給のタイミングなどで、定期的に全体の残業代計算の設定を見直し、もし、間違いが見つかった場合には早い段階で適切に対処しましょう。

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