更新日:2025年03月03日
年収106万円の壁(106万の壁)とは、一定の収入を超えることにより社会保険への加入義務が生じる可能性があることを示しています。壁を越えると、収入が増えても今より手取りが減ることがあるでしょう。本記事では、106万円の壁を気にする必要がある人や、今後の撤廃される可能性についても解説します。
目次
年収106万円の壁(106万の壁)とは、納税者の扶養に入っている人でも、社会保険への加入を求められる可能性が生じるライン(106万円)を示した言葉です。従業員の加入する社会保険とは、以下を指します。
ここから、年収106万円と社会保険料の関係や、社会保険と税法における「扶養」の違いについて、確認していきましょう。
社会保険に加入する従業員は、社会保険料の一定割合を負担しなければなりません(労災保険は従業員負担なし)。
本来、扶養に入っている従業員は本来社会保険料を負担せずに扶養者の社会保険に加入できます。しかし、年収が106万円を超えて(「106万の壁」を越えて)一定の条件を満たすと、自分で社会保険に加入して社会保険料を負担する必要が生じます。
同じ言葉(扶養)でも、社会保険上と税法上では適用の条件が異なる点に注意しましょう。
すでに紹介したとおり、社会保険では年収が106万円を超えて一定の条件を満たした際に、扶養から外れることがあります(106万の壁)。また、年収が130万円を超えると、無条件に扶養から外れて社会保険料を支払わなければなりません(130万の壁)。
一方、税法における「扶養」のポイントのひとつが「103万円」(103万の壁)です。扶養に入っている子どもの年収が103万円を超えると、親の所得税額に影響を与える可能性があります。
なお、配偶者の場合は配偶者控除・配偶者特別控除を受けられるため、税法上は「150万円」を超えるかが重要です(150万の壁)。
年収が106万円を超えたからといって、今まで扶養に入っていた人が必ず社会保険に加入して社会保険料の納付が必要になるわけではありません。社会保険を適用する必要がある企業の規模や、106万円の壁に該当する可能性がある対象者について解説します。
そもそも、すべての法人事業所(被保険者1人以上)や個人事業所(常時従業員を5人以上雇用)において、正社員・法人の代表者・役員の社会保険への加入が義務付けられています。また、一定の規模以上の企業の場合、条件を満たすパートやアルバイトについても社会保険に加入させなければなりません。
適用対象の企業の範囲は、徐々に広がりつつあります。2016年10月から「501人以上」、2022年10月からは「101人〜500人」、そして2024年10月には「51〜100人」の従業員を抱える企業において、一定の条件を満たすパート・アルバイトを社会保険に加入させなければならなくなりました。
とくに年収106万円の壁を意識しなければならないのが、以下の条件をすべて満たすパートやアルバイトです。
「月額賃金が8.8万円」が要件のひとつとして設けられていることが、「年収106万円の壁」の根拠です(8.8万円 × 12か月 = 105.6万円)
*週30時間以上勤務している場合は、上記要件に関係なく社会保険の加入義務が生じる可能性がある
参考)厚生労働省「社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について」
106万円の壁(106万の壁)を越えると、以下のメリットやデメリットが生じます。
それぞれ確認していきましょう。
今まで扶養に入っていた人が年収106万円の壁を越えた場合、将来受け取る年金額が増える点がメリットです。
夫(妻)に扶養されている主婦(主夫)は、第3号被保険者として自己負担なしで国民年金(基礎年金)に加入します。一方、106万円の壁を越えて勤務先が一定規模以上の場合は、厚生年金保険の加入対象です。そのため、将来基礎年金に加えて厚生年金を受け取れるため、年金額が増える可能性があります。
また、厚生年金保険に加入することで、条件を満たした際に傷病手当金や出産手当金を受け取れることもメリットです。
年収106万円の壁を越えることにより、給与支給時に受け取る額(手取り額)が減る可能性がある点がデメリットです。
年収が106万円を超えて社会保険への加入が必要になった場合、新たに社会保険料を毎月支払わなければなりません。そのため、仮に年収が増えても、金額によっては前年よりも手元に入る金額が少なくなることがあるでしょう。
2024年度東京都のケースで、具体的な数字を用いて106万円の壁を越えた際に発生する健康保険料や厚生年金保険料を計算してみましょう。
健康保険料を求める際の計算式は、以下のとおりです。
健康保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率(健康保険) ÷ 2
健康保険料の標準報酬月額は、第1級58,000円から第50級1,390,000円までの50等級に区分されています。また、介護保険第2号被保険者に該当しない(40歳未満)場合、協会けんぽの保険料率は9.98%です。
たとえば、標準月額が95,000円であれば標準報酬月額は98,000円で、106万円の壁を越えることにより毎月健康保険料4,890.2円(年間58,682.4円)を納付しなければならないことになります(98,000円 × 9.98% ÷ 2)。
厚生年金保険料を求める際の計算式は、以下のとおりです。
厚生年金保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率(厚生年金保険) ÷ 2
健康保険料の標準報酬月額は、1等級88,000円から32等級650,000円までの32等級に区分されています。また、厚生年金保険の保険料率は18.3%です。
たとえば、標準月額が95,000円であれば標準報酬月額は98,000円のため、社会保険への加入義務が生じると毎月8,967円(年間107,604円)の厚生年金保険料を納付しなければなりません(98,000円 ×18.3% ÷ 2)。
つまり、106万円の壁を越えて社会保険への加入義務が生じると、今回のケースでは健康保険料と厚生年金保険料をあわせて年間でおよそ17万円近くの納付が必要です。
参考)全国健康保険協会(協会けんぽ)「令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)」
年収106万円の壁が存在することの問題点は、従業員があえて労働時間を抑える可能性があることです。
従業員が年収106万円の壁を意識して労働時間を減らすと、企業は人件費を削減できる一方で、納期に間に合わせられないリスクなどが生じます。また、従業員が本来は「もっと働きたい」と考えているにもかかわらず、手取りが減ることを懸念して労働時間を抑えざるをえないこともあるでしょう。
納期などを考慮し、従業員にもっと働いてもらいたい場合は、手取りを減らさないように企業が社会保険料を負担する方法があります。しかし、中小企業のなかには、自社で負担するだけの企業体力がないこともあるでしょう。
企業が106万円の壁が抱える問題点を解消するための対策のひとつが、政府の助成金を活用することです。2024年10月の社会保険適用拡大に伴い新たに加入対象となる労働者に対して、社会保険に加入させて収入増加の取り組みを実施する場合に、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を利用できる場合があります。
たとえば、「手当等支給メニュー」を適用して対象者に賃金の15%以上を追加支給した場合に事業者が受け取れる助成額は、ひとりあたり20万円(1年目)です。また、「労働時間延長メニュー」で週所定労働時間を3時間以上4時間未満延長し、賃金の増額が5%以上の場合は、ひとりあたり30万円を受け取れます。そのため、事業者は従業員「年収の壁」を意識せず働いてもらいやすくなるでしょう。
なお、制度を活用するためには、キャリアアップ計画の提出が必要です。
参考)厚生労働省「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」
106万円の壁は、今後撤廃される見込みです。ここから、厚生労働省が示した方針や、撤廃された際に生じうる課題について解説します。
厚生労働省は、厚生年金の加入要件のひとつである「月額88,000円以上」という賃金要件の撤廃案を示し、審議会の部会で了承されました。そのため、2026年10月に賃金要件が撤廃される見込みです。
また、「従業員数51人以上」という企業要件についても、2027年に撤廃することで調整が進んでいます。ただし、「週20時間以上」の要件は今後も残る見込みです。
賃金要件や企業要件が撤廃されても、労働時間の要件が残ることが課題です。「週20時間以上」の要件が残る限り、あえて働き控えを選択する人が予想されます。
また、中小企業に保険料負担が重くのしかかることも課題です。106万円の壁撤廃に伴う保険料負担に耐えられる企業でなければ、今後経営を続けることが困難になることもあるでしょう。
年収106万円の壁とは、今まで扶養に入っていても年収が「106万円」を超えることで社会保険への加入義務が生じる可能性があることです。106万円の壁を越えて社会保険料を納付することにより、収入が増えても手取りが減る場合があります。
企業を経営している方や人事を担当している方は、労働者が年収106万円の壁を越えることをためらい、労働時間を抑える可能性がある点を理解しておきましょう。
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年収106万円の壁(106万の壁)とは、一定の収入を超えることにより社会保険への加入義務が生じる可能性があることを示しています。壁を越えると、収入が増えても今より手取りが減ることがあるでしょう。本記事では、106万円の壁を気にする必要がある人や、今後の撤廃される可能性についても解説します。
目次
年収106万円の壁(106万の壁)とは
年収106万円の壁(106万の壁)とは、納税者の扶養に入っている人でも、社会保険への加入を求められる可能性が生じるライン(106万円)を示した言葉です。従業員の加入する社会保険とは、以下を指します。
ここから、年収106万円と社会保険料の関係や、社会保険と税法における「扶養」の違いについて、確認していきましょう。
社会保険料との関係
社会保険に加入する従業員は、社会保険料の一定割合を負担しなければなりません(労災保険は従業員負担なし)。
本来、扶養に入っている従業員は本来社会保険料を負担せずに扶養者の社会保険に加入できます。しかし、年収が106万円を超えて(「106万の壁」を越えて)一定の条件を満たすと、自分で社会保険に加入して社会保険料を負担する必要が生じます。
社会保険と税法における「扶養」の違い
同じ言葉(扶養)でも、社会保険上と税法上では適用の条件が異なる点に注意しましょう。
すでに紹介したとおり、社会保険では年収が106万円を超えて一定の条件を満たした際に、扶養から外れることがあります(106万の壁)。また、年収が130万円を超えると、無条件に扶養から外れて社会保険料を支払わなければなりません(130万の壁)。
一方、税法における「扶養」のポイントのひとつが「103万円」(103万の壁)です。扶養に入っている子どもの年収が103万円を超えると、親の所得税額に影響を与える可能性があります。
なお、配偶者の場合は配偶者控除・配偶者特別控除を受けられるため、税法上は「150万円」を超えるかが重要です(150万の壁)。
社会保険の適用範囲
年収が106万円を超えたからといって、今まで扶養に入っていた人が必ず社会保険に加入して社会保険料の納付が必要になるわけではありません。社会保険を適用する必要がある企業の規模や、106万円の壁に該当する可能性がある対象者について解説します。
社会保険を適用する企業【2024年10月〜】
そもそも、すべての法人事業所(被保険者1人以上)や個人事業所(常時従業員を5人以上雇用)において、正社員・法人の代表者・役員の社会保険への加入が義務付けられています。また、一定の規模以上の企業の場合、条件を満たすパートやアルバイトについても社会保険に加入させなければなりません。
適用対象の企業の範囲は、徐々に広がりつつあります。2016年10月から「501人以上」、2022年10月からは「101人〜500人」、そして2024年10月には「51〜100人」の従業員を抱える企業において、一定の条件を満たすパート・アルバイトを社会保険に加入させなければならなくなりました。
106万円の壁の対象者
とくに年収106万円の壁を意識しなければならないのが、以下の条件をすべて満たすパートやアルバイトです。
「月額賃金が8.8万円」が要件のひとつとして設けられていることが、「年収106万円の壁」の根拠です(8.8万円 × 12か月 = 105.6万円)
*週30時間以上勤務している場合は、上記要件に関係なく社会保険の加入義務が生じる可能性がある
参考)厚生労働省「社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について」
106万円の壁(106万の壁)を越えるとどうなる?
106万円の壁(106万の壁)を越えると、以下のメリットやデメリットが生じます。
それぞれ確認していきましょう。
将来受け取る年金額は増える【メリット】
今まで扶養に入っていた人が年収106万円の壁を越えた場合、将来受け取る年金額が増える点がメリットです。
夫(妻)に扶養されている主婦(主夫)は、第3号被保険者として自己負担なしで国民年金(基礎年金)に加入します。一方、106万円の壁を越えて勤務先が一定規模以上の場合は、厚生年金保険の加入対象です。そのため、将来基礎年金に加えて厚生年金を受け取れるため、年金額が増える可能性があります。
また、厚生年金保険に加入することで、条件を満たした際に傷病手当金や出産手当金を受け取れることもメリットです。
収入が増えても手取りが減る可能性がある【デメリット】
年収106万円の壁を越えることにより、給与支給時に受け取る額(手取り額)が減る可能性がある点がデメリットです。
年収が106万円を超えて社会保険への加入が必要になった場合、新たに社会保険料を毎月支払わなければなりません。そのため、仮に年収が増えても、金額によっては前年よりも手元に入る金額が少なくなることがあるでしょう。
106万円の壁を越えた場合に発生する社会保険料
2024年度東京都のケースで、具体的な数字を用いて106万円の壁を越えた際に発生する健康保険料や厚生年金保険料を計算してみましょう。
健康保険料
健康保険料を求める際の計算式は、以下のとおりです。
健康保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率(健康保険) ÷ 2
健康保険料の標準報酬月額は、第1級58,000円から第50級1,390,000円までの50等級に区分されています。また、介護保険第2号被保険者に該当しない(40歳未満)場合、協会けんぽの保険料率は9.98%です。
たとえば、標準月額が95,000円であれば標準報酬月額は98,000円で、106万円の壁を越えることにより毎月健康保険料4,890.2円(年間58,682.4円)を納付しなければならないことになります(98,000円 × 9.98% ÷ 2)。
厚生年金保険料
厚生年金保険料を求める際の計算式は、以下のとおりです。
厚生年金保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率(厚生年金保険) ÷ 2
健康保険料の標準報酬月額は、1等級88,000円から32等級650,000円までの32等級に区分されています。また、厚生年金保険の保険料率は18.3%です。
たとえば、標準月額が95,000円であれば標準報酬月額は98,000円のため、社会保険への加入義務が生じると毎月8,967円(年間107,604円)の厚生年金保険料を納付しなければなりません(98,000円 ×18.3% ÷ 2)。
つまり、106万円の壁を越えて社会保険への加入義務が生じると、今回のケースでは健康保険料と厚生年金保険料をあわせて年間でおよそ17万円近くの納付が必要です。
参考)全国健康保険協会(協会けんぽ)「令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)」
106万円の壁が存在することの問題点
年収106万円の壁が存在することの問題点は、従業員があえて労働時間を抑える可能性があることです。
従業員が年収106万円の壁を意識して労働時間を減らすと、企業は人件費を削減できる一方で、納期に間に合わせられないリスクなどが生じます。また、従業員が本来は「もっと働きたい」と考えているにもかかわらず、手取りが減ることを懸念して労働時間を抑えざるをえないこともあるでしょう。
納期などを考慮し、従業員にもっと働いてもらいたい場合は、手取りを減らさないように企業が社会保険料を負担する方法があります。しかし、中小企業のなかには、自社で負担するだけの企業体力がないこともあるでしょう。
106万円の壁の対策
企業が106万円の壁が抱える問題点を解消するための対策のひとつが、政府の助成金を活用することです。2024年10月の社会保険適用拡大に伴い新たに加入対象となる労働者に対して、社会保険に加入させて収入増加の取り組みを実施する場合に、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を利用できる場合があります。
たとえば、「手当等支給メニュー」を適用して対象者に賃金の15%以上を追加支給した場合に事業者が受け取れる助成額は、ひとりあたり20万円(1年目)です。また、「労働時間延長メニュー」で週所定労働時間を3時間以上4時間未満延長し、賃金の増額が5%以上の場合は、ひとりあたり30万円を受け取れます。そのため、事業者は従業員「年収の壁」を意識せず働いてもらいやすくなるでしょう。
なお、制度を活用するためには、キャリアアップ計画の提出が必要です。
参考)厚生労働省「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」
106万円の壁は今後撤廃される?
106万円の壁は、今後撤廃される見込みです。ここから、厚生労働省が示した方針や、撤廃された際に生じうる課題について解説します。
厚生労働省の方針
厚生労働省は、厚生年金の加入要件のひとつである「月額88,000円以上」という賃金要件の撤廃案を示し、審議会の部会で了承されました。そのため、2026年10月に賃金要件が撤廃される見込みです。
また、「従業員数51人以上」という企業要件についても、2027年に撤廃することで調整が進んでいます。ただし、「週20時間以上」の要件は今後も残る見込みです。
撤廃後の課題
賃金要件や企業要件が撤廃されても、労働時間の要件が残ることが課題です。「週20時間以上」の要件が残る限り、あえて働き控えを選択する人が予想されます。
また、中小企業に保険料負担が重くのしかかることも課題です。106万円の壁撤廃に伴う保険料負担に耐えられる企業でなければ、今後経営を続けることが困難になることもあるでしょう。
106万円の壁まとめ
年収106万円の壁とは、今まで扶養に入っていても年収が「106万円」を超えることで社会保険への加入義務が生じる可能性があることです。106万円の壁を越えて社会保険料を納付することにより、収入が増えても手取りが減る場合があります。
企業を経営している方や人事を担当している方は、労働者が年収106万円の壁を越えることをためらい、労働時間を抑える可能性がある点を理解しておきましょう。