更新日:2025年02月04日
103万円の壁とは、年収が103万円を超えることにより、所得税が発生することを示しています。基礎控除と給与所得控除を足した金額が103万円であることが、主な根拠です。本記事では、103万円の壁の概要や扶養控除との関係などを説明したうえで、今後の引き上げ見通しについても解説します。
目次
年収の壁とは、年収が一定額を超えることで税金や社会保険料の負担額が変動することを指します。年収の壁のひとつである「103万円の壁」は、年収が103万円を超えることにより、所得税が発生することです。
ここから、103万円の壁の主な対象や、106万円の壁および130万円の壁といった他の年収の壁との違いについて解説します。
103万円の壁は、年収が103万円前後の見通しの場合に気にしなければならないトピックです。そのため、とくにパートやアルバイトとして働く主婦(主夫)や学生などの間で話題になることがあります。
また、扶養家族がいる人も、103万円の壁が重要な意味を持つことがあるでしょう。なぜなら、扶養家族が働いて年収103万円を超えるかによって、自分の納税額が変動することがあるためです。
103万円の壁以外にも、106万円の壁や130万円の壁といった年収の壁が存在します。103万円の壁と106万円の壁・130万円の壁の主な違いは、壁を越えた際に変動する項目です。
106万円の壁とは、一定の規模の会社に勤める人の年収が「106万円」を超えた場合に、社会保険への加入が義務付けられる制度を指します。また、130万円の壁とは、勤め先の規模に関係なく、年収が「130万円」を超えた場合に社会保険に加入しなければならないことです。
つまり、103万円の壁は税金に関する壁であるのに対し、106万円の壁・130万円の壁は社会保険に関する壁である点が異なります。
基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)を足した金額が「103万円」であることが、103万円を壁とする根拠のひとつです。ここから、基礎控除と給与所得控除の意味について解説します。
基礎控除とは、所得税を計算する際に総所得金額から引ける所得控除のひとつです。基礎控除の控除額は、納税者の合計所得金額によって異なります。
合計所得金額と控除額の関係は、以下のとおりです(2024年4月1日現在)。
つまり、合計所得金額が2,400万円以下であれば、基礎控除として一律で48万円を控除できます。
参考)国税庁「No.1199 基礎控除」
給与所得控除とは、給与所得を算出するにあたって給与収入額から引ける額のことです。給与所得控除額は、給与の収入金額に応じて以下のように決められています(2024年4月1日現在)。
上の表から、給与収入が162.5万円以下であれば一律で55万円の給与所得控除を適用できることがわかります。
ここで、給与収入が102万円(収入は給与収入のみ)で、103万円の壁に届かないケースを考えてみましょう。
給与所得控除55万円を適用できるため、給与所得は47万円です(102万円 − 55万円)。すると、給与所得が基礎控除額(48万円)よりも小さく課税所得金額が0円を下回るため、所得税がかからないことになります。
参考)国税庁「No.1410 給与所得控除」
103万円の壁は、配偶者控除や扶養控除を適用する際の収入条件を根拠とする場合もあります。それぞれ確認していきましょう。
配偶者控除とは、配偶者のいる納税者が、要件を満たす際に一定の所得控除を受けられる制度です。「一般の控除対象配偶者」がいる場合は13万〜38万円、「老人控除対象配偶者」がいる場合は16万〜48万円を適用できます。
控除対象配偶者を適用する際の要件のひとつが、配偶者の年間の合計所得が48万円以下であることです。また、すべて給与の場合は、給与収入が103万円以下であることが要件として設けられています。
つまり、配偶者が「103万円の壁」を越えると、配偶者控除を適用できなくなるということです。ただし、その場合でも配偶者特別控除は適用できる場合があります。
参考)国税庁「No.1191 配偶者控除」
扶養控除とは、扶養親族のいる納税者が、要件を満たす際に一定の所得控除を受けられる制度です。一般の控除対象扶養親族がいる場合、38万円を適用できます。
扶養控除を適用するための要件のひとつは、対象となる扶養親族の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下であること)です。つまり、扶養親族が「103万円の壁」を越えると、扶養控除を適用できません。
参考)国税庁「No.1180 扶養控除」
103万円の壁を越えると、年収が103万円を超えた人に対して所得税・住民税がかかったり、親にかかる税金が増えたりする可能性がある点に注意が必要です。それぞれ解説します。
前年より年収が増えて103万円の壁を越えることで、本人に所得税がかかります。
すでに説明したとおり、基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円を足した103万円を超えることが、所得税が発生する理由です。ただし、納税者が学生で勤労学生控除を適用できる場合は27万円を控除できるため、給与収入130万円までは所得税が課税されません。
また、一般的に、住民税がかかるラインは「100万円」のため、103万円の壁を越えて所得税がかかるときには同じく住民税も発生するでしょう。
参考)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
今まで親の扶養に入っていた場合、103万円の壁を越えることにより親にかかる税金が増えることがあります。なぜなら、子どもの給与収入が増えることで収入条件をオーバーし、納税者である親が扶養控除を適用できなくなるためです。
なお、2018年以降、主婦(主夫)の場合は基本的に103万円の壁を越えても、配偶者の納税額に影響を与えなくなりました。配偶者の合計所得金額が133万円以下(給与収入が「150万円」以下)であれば、条件を満たすと配偶者控除と同様に38万円を適用できるようになったことが理由です。このことを「150万円の壁」と呼びます。
参考)国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
中小企業にとって、103万円の壁が存在することが問題なのは、人手不足につながるためです。
103万円を超えると自身に税金がかかったり、親の税金が増えたりする可能性があるため、労働者は「もっと働きたい」と思ってもあえて労働時間を抑える可能性があります。その結果、企業は目標達成に必要な従業員を確保しにくくなるでしょう。
どうしても人材を集めたい場合は、賃金アップなどでアピールしなければなりません。
2024年の衆議院選挙以降、103万円の壁をめぐる議論が活発になりました。その結果、今後103万円の壁が見直される見込みです。
ここから、「令和7年度税制改正大綱」で政府が示した内容や、引き上げによるメリットと課題について詳しく解説します。
2024年12月に、与党は「令和7年度税制改正大綱」をまとめました。
大綱によると、合計所得金額が2,350万円以下の個人の基礎控除額を10万円引き上げる(48万円から58万円)とのことです。また、給与所得控除の最低保障額も、現在の55万円から65万円にまで引き上げる ことが盛り込まれています。
そのため、今後「103万円の壁」は「123万円の壁」に引き上げられるでしょう。
参考)財務省「令和7年度税制改正大綱」
労働者の手取りが増えることが、123万円の壁への引き上げメリットとして挙げられます。なぜなら、控除額が増える分納付する税額が減るためです。
また、労働者が「103万円」を気にせずに働く分、企業の人材不足解消につながります。パートやアルバイトなどの労働者も、今まで以上に働くことでより多くの年収を得られる点がメリットです。
年収の壁の引き上げに伴い、税収が減る見込みであることが課題です。「令和7年度税制改正大綱」では、基礎控除の引き上げに伴い平年度5,450億円(初年度6,310億円)、給与所得控除の引き上げなどに伴い平年度280億円(初年度320億円) の税収減になると試算しています。
また、年収の壁の引き上げで、所得格差がより広がりうる点も課題です。基礎控除の額を上げると、低所得者よりも高所得者の減税額のほうが大きくなる可能性がある点が理由として挙げられます。
さらに、103万円の壁を123万円の壁に引き上げただけでは、増える手取り額が限定的であることも、問題点のひとつです。
103万円の壁とは、年収が103万円を超えることにより所得税が発生することを意味する言葉です。基礎控除額の48万円と給与所得控除額の55万円が「103万円」の主な根拠として挙げられます。
しかし、今後は103万円の壁が123万円の壁に引き上げられる見通しです。年収の壁は人材確保にも関係する重要な項目のため、会社を経営している方や人事担当の方は、随時動向を把握しておきましょう。
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103万円の壁とは、年収が103万円を超えることにより、所得税が発生することを示しています。基礎控除と給与所得控除を足した金額が103万円であることが、主な根拠です。本記事では、103万円の壁の概要や扶養控除との関係などを説明したうえで、今後の引き上げ見通しについても解説します。
目次
103万円の壁(年収の壁)とは
年収の壁とは、年収が一定額を超えることで税金や社会保険料の負担額が変動することを指します。年収の壁のひとつである「103万円の壁」は、年収が103万円を超えることにより、所得税が発生することです。
ここから、103万円の壁の主な対象や、106万円の壁および130万円の壁といった他の年収の壁との違いについて解説します。
103万円の壁の主な対象
103万円の壁は、年収が103万円前後の見通しの場合に気にしなければならないトピックです。そのため、とくにパートやアルバイトとして働く主婦(主夫)や学生などの間で話題になることがあります。
また、扶養家族がいる人も、103万円の壁が重要な意味を持つことがあるでしょう。なぜなら、扶養家族が働いて年収103万円を超えるかによって、自分の納税額が変動することがあるためです。
他の年収の壁(106万円・130万円)との違い
103万円の壁以外にも、106万円の壁や130万円の壁といった年収の壁が存在します。103万円の壁と106万円の壁・130万円の壁の主な違いは、壁を越えた際に変動する項目です。
106万円の壁とは、一定の規模の会社に勤める人の年収が「106万円」を超えた場合に、社会保険への加入が義務付けられる制度を指します。また、130万円の壁とは、勤め先の規模に関係なく、年収が「130万円」を超えた場合に社会保険に加入しなければならないことです。
つまり、103万円の壁は税金に関する壁であるのに対し、106万円の壁・130万円の壁は社会保険に関する壁である点が異なります。
103万円の壁の根拠となる項目
基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)を足した金額が「103万円」であることが、103万円を壁とする根拠のひとつです。ここから、基礎控除と給与所得控除の意味について解説します。
基礎控除
基礎控除とは、所得税を計算する際に総所得金額から引ける所得控除のひとつです。基礎控除の控除額は、納税者の合計所得金額によって異なります。
合計所得金額と控除額の関係は、以下のとおりです(2024年4月1日現在)。
つまり、合計所得金額が2,400万円以下であれば、基礎控除として一律で48万円を控除できます。
参考)国税庁「No.1199 基礎控除」
給与所得控除
給与所得控除とは、給与所得を算出するにあたって給与収入額から引ける額のことです。給与所得控除額は、給与の収入金額に応じて以下のように決められています(2024年4月1日現在)。
上の表から、給与収入が162.5万円以下であれば一律で55万円の給与所得控除を適用できることがわかります。
ここで、給与収入が102万円(収入は給与収入のみ)で、103万円の壁に届かないケースを考えてみましょう。
給与所得控除55万円を適用できるため、給与所得は47万円です(102万円 − 55万円)。すると、給与所得が基礎控除額(48万円)よりも小さく課税所得金額が0円を下回るため、所得税がかからないことになります。
参考)国税庁「No.1410 給与所得控除」
103万円の壁と配偶者控除・扶養控除の関係
103万円の壁は、配偶者控除や扶養控除を適用する際の収入条件を根拠とする場合もあります。それぞれ確認していきましょう。
配偶者控除における収入条件
配偶者控除とは、配偶者のいる納税者が、要件を満たす際に一定の所得控除を受けられる制度です。「一般の控除対象配偶者」がいる場合は13万〜38万円、「老人控除対象配偶者」がいる場合は16万〜48万円を適用できます。
控除対象配偶者を適用する際の要件のひとつが、配偶者の年間の合計所得が48万円以下であることです。また、すべて給与の場合は、給与収入が103万円以下であることが要件として設けられています。
つまり、配偶者が「103万円の壁」を越えると、配偶者控除を適用できなくなるということです。ただし、その場合でも配偶者特別控除は適用できる場合があります。
参考)国税庁「No.1191 配偶者控除」
扶養控除における収入条件
扶養控除とは、扶養親族のいる納税者が、要件を満たす際に一定の所得控除を受けられる制度です。一般の控除対象扶養親族がいる場合、38万円を適用できます。
扶養控除を適用するための要件のひとつは、対象となる扶養親族の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下であること)です。つまり、扶養親族が「103万円の壁」を越えると、扶養控除を適用できません。
参考)国税庁「No.1180 扶養控除」
103万円の壁を越えるとどうなる?
103万円の壁を越えると、年収が103万円を超えた人に対して所得税・住民税がかかったり、親にかかる税金が増えたりする可能性がある点に注意が必要です。それぞれ解説します。
本人に所得税・住民税がかかる
前年より年収が増えて103万円の壁を越えることで、本人に所得税がかかります。
すでに説明したとおり、基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円を足した103万円を超えることが、所得税が発生する理由です。ただし、納税者が学生で勤労学生控除を適用できる場合は27万円を控除できるため、給与収入130万円までは所得税が課税されません。
また、一般的に、住民税がかかるラインは「100万円」のため、103万円の壁を越えて所得税がかかるときには同じく住民税も発生するでしょう。
参考)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
親にかかる税金が増える可能性がある
今まで親の扶養に入っていた場合、103万円の壁を越えることにより親にかかる税金が増えることがあります。なぜなら、子どもの給与収入が増えることで収入条件をオーバーし、納税者である親が扶養控除を適用できなくなるためです。
なお、2018年以降、主婦(主夫)の場合は基本的に103万円の壁を越えても、配偶者の納税額に影響を与えなくなりました。配偶者の合計所得金額が133万円以下(給与収入が「150万円」以下)であれば、条件を満たすと配偶者控除と同様に38万円を適用できるようになったことが理由です。このことを「150万円の壁」と呼びます。
参考)国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
中小企業にとって103万円の壁が問題となる理由
中小企業にとって、103万円の壁が存在することが問題なのは、人手不足につながるためです。
103万円を超えると自身に税金がかかったり、親の税金が増えたりする可能性があるため、労働者は「もっと働きたい」と思ってもあえて労働時間を抑える可能性があります。その結果、企業は目標達成に必要な従業員を確保しにくくなるでしょう。
どうしても人材を集めたい場合は、賃金アップなどでアピールしなければなりません。
103万円の壁の引き上げ見込み
2024年の衆議院選挙以降、103万円の壁をめぐる議論が活発になりました。その結果、今後103万円の壁が見直される見込みです。
ここから、「令和7年度税制改正大綱」で政府が示した内容や、引き上げによるメリットと課題について詳しく解説します。
「令和7年度税制改正大綱」の概要
2024年12月に、与党は「令和7年度税制改正大綱」をまとめました。
大綱によると、合計所得金額が2,350万円以下の個人の基礎控除額を10万円引き上げる(48万円から58万円)とのことです。また、給与所得控除の最低保障額も、現在の55万円から65万円にまで引き上げる ことが盛り込まれています。
そのため、今後「103万円の壁」は「123万円の壁」に引き上げられるでしょう。
参考)財務省「令和7年度税制改正大綱」
引き上げによるメリット
労働者の手取りが増えることが、123万円の壁への引き上げメリットとして挙げられます。なぜなら、控除額が増える分納付する税額が減るためです。
また、労働者が「103万円」を気にせずに働く分、企業の人材不足解消につながります。パートやアルバイトなどの労働者も、今まで以上に働くことでより多くの年収を得られる点がメリットです。
引き上げに関する課題
年収の壁の引き上げに伴い、税収が減る見込みであることが課題です。「令和7年度税制改正大綱」では、基礎控除の引き上げに伴い平年度5,450億円(初年度6,310億円)、給与所得控除の引き上げなどに伴い平年度280億円(初年度320億円) の税収減になると試算しています。
また、年収の壁の引き上げで、所得格差がより広がりうる点も課題です。基礎控除の額を上げると、低所得者よりも高所得者の減税額のほうが大きくなる可能性がある点が理由として挙げられます。
さらに、103万円の壁を123万円の壁に引き上げただけでは、増える手取り額が限定的であることも、問題点のひとつです。
103万円の壁まとめ
103万円の壁とは、年収が103万円を超えることにより所得税が発生することを意味する言葉です。基礎控除額の48万円と給与所得控除額の55万円が「103万円」の主な根拠として挙げられます。
しかし、今後は103万円の壁が123万円の壁に引き上げられる見通しです。年収の壁は人材確保にも関係する重要な項目のため、会社を経営している方や人事担当の方は、随時動向を把握しておきましょう。