社会保険の随時改定とは?対象となる条件について解説

更新日:2024年09月03日

随時改定

随時改定とは、従業員の給与に大幅な変更があった場合に行う社会保険料の調整手続きです。本記事では、随時改定の基本的な内容や適用条件、対象外となるケースについて詳しく解説します。随時改定の仕組みを理解し、適切に対応することで、スムーズな労務管理と法令の遵守を実現しましょう。

目次

随時改定(月額変更届)とは

随時改定(月額変更届)とは、給与の大幅な変動があった際に標準報酬月額を見直し、社会保険料額を改定するための制度です。定時決定が年に一度行われるのに対し、随時改定は給与改定などがあった場合に随時実施されます。

4月に昇給があり、給与の支払いが月末締めの翌月25日払いを想定した随時改定のスケジュールは、下図のとおりです。

5月から7月に支払われた給与の平均額を算出し、8月に月額変更届を作成し提出します。新保険料は、9月25日の給与からの適用です。

随時改定と定時決定との違い

随時改定は、給与体系に大幅な変更があった場合や報酬に著しい変動が生じた際に、不定期に実施される標準報酬月額の見直し制度です。この制度により、定時決定の時期を待たずとも、特定の条件下で標準報酬月額を調整できます。

一方、定時決定は年に一度行われる定期的な標準報酬月額の見直し制度です。各事業所から提出される算定基礎届に基づいて、厚生労働大臣が毎年新たな標準報酬月額を決定します。

随時改定の適用期間

随時改定では、給与が改定された月から3カ月間の継続的な給与(報酬)を基にして、標準報酬月額を再評価します。この見直しの結果は、月額変更届(健康保険厚生年金保険被保険者報酬月額変更届)に記載し、変更月から4カ月目に年金事務所や健康保険組合に提出します。

随時改定で決定された標準報酬月額の適用期間は、改定の時期によって異なります。1月から6月の間に随時改定が実施された場合、その年の8月まで(次の定時決定まで)の適用です。一方、7月から12月の間に随時改定がなされた場合は、翌年の8月まで(次の定時決定まで)適用されます。

参考)日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

随時改定の対象となる3つの条件

随時改定の対象となるには、以下3つの条件すべてにあてはまる必要があります。

  • 昇給または降格による固定的賃金の変動
  • 変動前の標準報酬月額との差が2等級以上ある
  • 変動月以降の3カ月とも支払い基礎日数が17日以上ある

以下で、それぞれについて解説します。

昇給または降格による固定的賃金の変動

固定的賃金」とは、支給額や支給率があらかじめ決められている賃金のことです。具体的な例としては基本給に加えて、通勤手当や家族手当など、毎月一定額が支給されるものが含まれます。

また、日給や時間給の変更、割増賃金率や時間単価の変更により時間外手当の支給割合や単価が変わった場合も、固定的賃金の変動に該当します。人事考課による昇給や降格だけでなく、結婚による家族手当の支給や引っ越しによる通勤手当の変更なども対象となるため、注意が必要です。

変動前の標準報酬月額との差が2等級以上ある

標準報酬月額は社会保険料計算の基礎となり、現行制度では厚生年金で32等級、健康保険で50等級に区分されています。給与の変動により、連続する3カ月間で2等級以上の差異が生じた場合、随時改定が必要です。

ただし、標準報酬月額の上限・下限にわたる等級変更の場合、1段階の変更でも随時改定の対象となります。

変動月以降の3カ月とも支払い基礎日数が17日以上ある

給与計算の基準となる日数を「支払基礎日数」と呼びます。随時改定を適用するには、この支払基礎日数が月17日以上でなければなりません。給与に変動があった後、連続する3カ月間のいずれかの月で支払基礎日数が17日に満たない場合、随時改定の対象外です。

ただし、特定適用事業所で働く社会保険加入のパートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者については、支払基礎日数が月11日以上あれば随時改定の対象です。

参考)日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

随時改定の対象にならないケース

休職中に休職給を受け取っている場合、固定的賃金の変動がないため、随時改定の対象にはなりません。

また、次のケースも随時改定の対象外です。

  1. 固定的賃金は増加したが、残業手当などの非固定的賃金が減少し、結果として変動後の3カ月間の平均報酬額による標準報酬月額が以前より下がり、2等級以上の差が生じた場合
  2. 固定的賃金は減少したが、非固定的賃金が増加し、結果として変動後の3カ月間の平均報酬額による標準報酬月額が以前より上がり、2等級以上の差が生じた場合

月額変更届の作成方法および提出方法

月額変更届は、給与や報酬に大きな変更があった際に作成・提出しなければなりません。ここでは、月額変更届の記入方法や提出方法について解説します。

月額変更届の作成方法

被保険者報酬月額変更届(日本年金機構)を引用し加工

月額変更届には、事業所の詳細と随時改定が必要な従業員の情報を記載します。事業所整理番号や被保険者整理番号は記入漏れが発生しやすいため、注意が必要です。また、固定的賃金が変動した月からの3カ月間の給与と支払い基礎日数を記入する必要があります。賃金台帳を参照し、正確に記入することが重要です。

以下では、記入時に特に注意が必要な点について解説します。

改定年月

標準報酬月額が改定される年月を記入します。「⑨給与支給月」に記載した月から3カ月後の翌月です。

給与支払月

固定的賃金の変動が反映された月から3カ月間の月を記入します。

通貨・現物によるものの額

給与や手当など、労働の対価として支払われるすべての金銭(通貨)による合計金額を記入します。報酬のうち、食事・住宅・被服・定期券など、金銭(通貨)以外で支払われるものについても記入します。

平均額

「総計」の金額を3で割ることにより平均額を算出し、1円未満の端数を切り捨てます。

月額変更届の提出方法

随時改定の対象となる被保険者がいる場合、月額変更届に必要事項を記入し、日本年金機構に提出する必要があります。所定の様式は、「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」です。

遅滞なく、管轄の事務センターまたは年金事務所に提出しましょう。提出方法としては、「電子申請(e-Govなどの利用)」「郵送」「窓口持参」のいずれかを選択できます。

また、行政手続きの効率化を目指す政府の方針に基づき、資本金1億円超の法人など一定規模以上の事業所は、電子申請が必須です。

参考)日本年金機構「電子申請・電子媒体申請(事業主・社会保険事務担当の方)」

月額変更届に関する注意点

月額変更届は、給与や報酬に変更があった場合に必ず提出しなければなりません。これを怠ると、正確な標準報酬月額が反映されず、社会保険料や将来の年金額に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、変更対象ではなかった場合の対応についても知識が必要です。ここでは、月額変更届を提出しなかった場合のリスクと、標準報酬月額の変更対象とならないケースについて詳しく解説します。

月額変更届を提出しなかった場合

月額変更届の提出を怠った場合、重大な影響が生じる可能性もあるため注意が必要です。該当月に遡って差額の精算が必要となり、従業員の等級が上昇した場合は不足分の保険料を追加徴収し、逆に下降した場合は過払い分を将来の給与で調整するなどの措置をしなければなりません。

また、長期間にわたり届出を怠ると年金事務所から催告を受け、応答しない場合は6カ月以下の懲役または50万円の罰金を科される可能性があります。さらに、長期の未提出や虚偽申告が発覚した際は、年金事務所による実地調査が行われることもあります。

提出漏れや遅延を防ぐには、従業員の固定給や契約内容に変更があった際に随時改定の該当性を確認し、必要に応じて速やかに届け出ることが重要です。社会保険の随時改定には、「速やかに」とあるだけで明確な期限設定が定められていません。賃金変動が生じた月から4カ月後を目安に作業スケジュールを組むようにしましょう。

標準報酬月額の変更対象ではなかった場合

月額変更届を提出した後、「月額改定不該当通知書」が送られてくることもあります。この通知書は、「提出された月額変更届を受け取ったが、標準報酬月額の変更が不要である」と判断されたことを示しています。

健康保険と年金保険で上限額が異なる場合、たとえば「健康保険料は増額されるものの年金保険料は変更されない」といった状況が生じることも理由の一つです。この通知書を受け取った場合、標準報酬月額の改定は行われず、従来の標準報酬月額に基づいて保険料が徴収されます。

随時改定まとめ

随時改定とは、被保険者の毎月の固定給与や手当に大きな変動が生じた場合に、社会保険料を再評価するため標準報酬月額を変更する手続きです。

随時改定は、定時決定と異なり、年間を通じて必要に応じて行われます。対象となる主な条件は、昇給や降格による固定賃金の変動、変動前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じること、そして変動月以降の3カ月とも支払基礎日数が17日以上あることです。

一方、随時改定の対象とならないケースもあります。たとえば、固定的賃金の変動がない場合や、非固定的賃金の変動のみの場合などです。

月額変更届の作成では、特に「改定年月」「給与支払月」「通貨・現物による報酬額」「平均額」などを正確に記入しましょう。提出方法には電子申請、郵送、窓口持参があり、特定の法人では電子申請が義務化されています。

月額変更届の提出を怠ると、過去に遡って差額の支払いが発生し、長期にわたる場合には法的な制裁を受けるリスクもあるため、十分な注意が必要です。また、提出した月額変更届が標準報酬月額の変更対象とならなかった場合、「月額改定不該当通知書」が届き、その場合は従来の報酬月額で保険料が徴収されます。

適切な随時改定の実施は、正確な社会保険料の算定につながり、従業員と事業主双方の利益を守ります。随時改定の仕組みを理解し、適切に対応することで、円滑な労務管理と法令遵守を実現しましょう。給与体系の変更や昇降格の際には、随時改定の該当性を確認し、速やかに手続きすることが重要です。

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが制作しています。当社は、従業員5人まで永久無料の給与計算ソフト「フリーウェイ給与計算」を提供しています。フリーウェイ給与計算はクラウド給与計算で、WindowsでもMacでも利用できます。ご興味があれば、ぜひ利用してみてください。詳しくは、こちら↓

給与計算ソフトが永久無料のフリーウェイ
このエントリーをはてなブックマークに追加
pagetop