更新日:2024年07月09日
エクセルは給与計算に欠かせないツールとして広く利用されています。その柔軟性と便利な機能により、複雑な給与計算も効率的に処理できます。しかし、その利点を最大限に活かすには、エクセルの機能を適切に使いこなすスキルが必要です。
本記事では、エクセルによる給与計算作業を効率的に処理するためのポイントや便利な関数の活用法など、作業効率を向上させるテクニックについて紹介します。
また、給与データの機密性を守るためのセキュリティ対策や法改正への対応などの注意点についても解説します。
目次
エクセルを用いた給与計算システムの構築には、主に2つのアプローチがあります。1つは「独自のフォーマットを作成する方法」、もう1つは「既製のテンプレートを活用する方法」です。それぞれに長所と短所があるため、自社の状況や要望に応じて適切な選択をすることが重要です。
独自フォーマットの作成は、会社特有のニーズに合わせてカスタマイズできる利点があります。ただし、この方法にはエクセルに関する専門知識と多くの時間が必要です。さらに、作成過程でのエラーが給与計算の誤りにつながる可能性もあるため、注意しなければなりません。
一方、既製テンプレートの利用は、迅速かつ簡単にシステムを導入できる点がメリットです。多くの場合、基本的な機能がそろい、無料で入手できるものも多数存在します。ただし、テンプレートは汎用的な設計のため、会社独自の給与体系に合わせて調整が必要になることもあります。
どちらの方法を選択するにせよ、正確な給与計算を実現するためには、慎重な検討と適切な運用が欠かせません。自社の規模、給与体系の複雑さ、利用可能なリソースなどを総合的に判断し、最適な方法を選択しましょう。
ここでは、次の5つのポイントについて解説します。
これらは「独自のフォーマットを作成する方法」や「既製のテンプレートを活用する方法」でも求められるスキルです。
エクセルで長く複雑な表を扱う際、行ごとに交互に色を付けて縞模様にすると、視認性が大幅に向上し、データの誤読を防げます。とくに、数字が連続する表で目が疲れやすい場合に、この色分け手法は有効です。さらに、入力ミスの減少やデータ欠落の防止にもつながります。
縞模様にする方法は、次の3つがあります。
以下では、それぞれについて解説します。
【条件付き書式を使う方法】
条件付き書式のメリットは、行の追加や並べ替えをしても縞模様の設定が維持される点にあります。そのため、テーブルを使用したくない、あるいは使用できない場合に適した方法です。
一方、デメリットとしては、セルに直接色を付ける場合に条件付き書式が優先され色付けできないことや、条件付き書式の知識とスキルが必要な点があげられます。
【書式のコピーで色付けする方法】
書式コピーは、他に与える影響を考えずに簡単に作成でき、テーブル・マクロ・関数などの知識やスキルを必要としない点が便利です。
デメリットとしては、行の並べ替えや挿入、削除をすると「書式が崩れてしまう」点があげられます。
【テーブル機能を使う方法】
エクセルにおける「テーブル機能」は、データ管理を大幅に簡素化する強力なツールです。一覧表やリストをテーブルとして設定することにより、データの操作が容易にできます。
また、「データの並べ替え」「集計」「フィルタリング(絞り込み)」など、より直感的で効率的な操作が可能です。従来の方法でも同様の操作は行えますが、テーブル機能を使用すれば、複数の条件を同時に適用するなどより高度な処理がシンプルに実行できます。
とくに、大量のデータを扱う場合や、頻繁にデータの更新や分析をする必要がある場合、テーブル機能の利用は作業効率を飛躍的に向上させます。エクセルを使用してデータ分析や情報管理をするうえで、テーブル機能をマスターすることは有益であり、ぜひマスターしておくべき重要なスキルの一つといえるでしょう。
デメリットとしては、データテーブルの扱いに関しての知識が必要な点、表のすぐ下に別の項目を入力すると自動的にテーブルに組み込まれてしまう点があります。
エクセルには特定のセルをロックして変更を防ぐ機能があります。給与計算する際に、特定のセルが誤って上書きされないように設定しておくと安心です。あらかじめ編集可能なセルを設定し、シート全体を保護する仕組みです。
上記設定により、あらかじめ設定したセル以外は編集できなくなります。
エクセルのデータ量が多く、縦横にスクロールしなければ全体を確認できない場合、行や列を固定すると便利です。先頭行や列を固定することで、スクロールしても項目名が常に表示され、見やすさが向上します。
固定方法は、「ウィンドウ枠の固定」「先頭行の固定」「先頭列の固定」の3種類です。
【行と列の両方を固定したい場合】
【固定を解除する場合】
まず、固定させたい箇所のセルを選択するのがポイントです。
時給で給与計算をする際、「時間×時給」を自動で計算する関数を覚えておくと便利です。
【時間×時給の計算方法】
以下の手順で、A1セルに労働時間、B1セルに時給を入力すると仮定します。
この関数を使うことで、勤務時間と時給を掛け合わせて支給額を表示できます。あらかじめ支給額のセルに計算式を貼り付けておけば、数値を入力するだけで自動計算されるため、手計算よりも効率的です。
たとえば出勤時間が9:00で退勤時間が12:00の場合には、稼働時間は計算式により3:00と表示されます。この3:00に時給をそのまま乗算しても正しい支給金額は表示されません。
稼働時間の3:00に24を乗算して「3」という数字にした後に時給を乗算しなければなりません。ただし、そのままでは「3」という表示にならないため、次の書式設定が必要です。
上記の書式設定により、「3」という数字が得られます。その数字に時給を乗算し、支給金額を割り出します。
エクセルの給与計算作業を効率化するために役立つ関数にはさまざまなものがあります。IF関数やWEEKDAY関数は、特定の条件や日付に基づいた計算の自動化が可能です。
また、時給の切り上げや切り捨てにはCEILING関数やFLOOR関数が精度の高い給与計算を可能にし、MROUND関数は打刻時間を指定した時間単位で丸めるのに役立ちます。これらの関数をうまく活用することで、給与計算の精度を向上させ、作業の効率化を図れます。
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
IF関数は、指定した条件が真(True)か偽(False)かによって異なる値を返す関数です。
時間外労働による割増賃金やボーナス、評価に基づく支給などの計算にIF関数を使うと、条件に応じた数値を割り出せます。
【IF関数の入力方法】
=IF(条件式, 真の場合, 偽の場合)
条件式は真か偽かを評価するための式です。次に、条件が真の場合と偽の場合に返す値を指定します。
たとえば、労働時間が所定労働時間を超えている場合に割増賃金を計算するには、以下のように当てはめます。
=IF(労働時間 > 所定労働時間, (労働時間 - 所定労働時間) * 時給 * 割増率, 0)
具体例として、所定労働時間が8時間、時給が1,300円、割増率が1.25で9時間(D2のセルに入力したと仮定)労働した場合を考えます。
=IF(D2> 8, (D2 - 8) * 1300 * 1.25, 0) =1,625円
D2は9のため、1時間の残業で1,625円が割増賃金として支払われることがわかります。
エクセルには、指定した日付の曜日を数値で返す便利な関数があります。この関数を使えば、カレンダーを確認しながらの曜日確認は不要です。
【WEEKDAY関数の入力方法】
=WEEKDAY(シリアル値, 種類)
「シリアル値」には、曜日を知りたい日付(セルの選択でもできます)を入力します。「種類」には、戻り値の種類を表す1(日曜 = 1 ~ 土曜 = 7)、2(月曜 = 1 ~ 日曜 = 7)、3(月曜 = 0 ~ 日曜 = 6)のいずれかの数字を指定します。 なお種類を省略した場合は、種類1です。
【エクセル上の操作】
たとえば、2024/06/16(日)のケースで、種類を1にした場合には、数値を1で返します。
CEILING関数は、切り上げ計算に利用されます。給与計算では、指定した時間単位で時刻を切り上げる場面がよくあります。たとえば、退勤時間が「9時26分」の場合に、「9時30分」に切り上げるケースです。
CEILING関数の入力方法は、次のとおりです。
=CEILING(数値, 基準値)
時刻を15分単位で切り上げる場合、退勤時間がA2セルに入力されていれば、次のように関数を入力します。
=CEILING(A2, “0:15”)
返された数値は小数点表記のため、他の時刻表示と合わせる必要があります。時刻表示がされているセルをコピーし、書式のみをペーストすれば時刻表示されます。
FLOOR関数は、CEILING関数とは逆に切り捨て計算に利用されます。
FLOOR関数の入力方法は、次のとおりです。
=FLOOR(数値, 基準値)
時刻を15分単位で切り捨てる場合、退勤時間がA2セルに入力されていれば、次のように関数を入力します。
=FLOOR(A2, “0:15”)
CEILING関数のときと同様、返された数値は小数点表記のため、表示形式を時刻表示に設定する必要があります。
MROUND関数は、基準値に応じて数値を最も近い倍数に丸めるための関数です。たとえば、打刻時間を特定の時間単位に丸めたい場合などに使用されます。
MROUND関数の入力方法は、次のとおりです。
=MROUND(数値, 倍数)
時刻を10分単位で四捨五入する場合、退勤時間がA2セルに入力されていれば、次のように関数を入力します。
=MROUND(A2, “0:10”)
A2のセルに「9:24」と時刻を入力すると「9:20」、「9:25」と時刻を入力すると「9:30」と、四捨五入されて表示されます。
エクセルを用いた給与計算は、業務の効率化や計算ミスの防止など多くのメリットがあります。しかし、誤った使い方をすると給与情報や個人情報の流出リスクがあるため、十分な注意が必要です。
エクセルで給与計算する際に気をつけるべきポイントは以下のとおりです。
以下で、それぞれ詳しく解説します。
給与情報は機密データであり、共有フォルダへの保管は避けるべきです。エクセルシートは簡単に操作でき、USBでの移動やメール添付も容易なため、情報漏洩のリスクが高まります。
給与情報には給与額のほか、住所や口座番号といった個人情報も含まれており、流出すると深刻な問題に発展しかねません。
社内での情報漏洩は不法行為と見なされることがあり、従業員から精神的損害として慰謝料を請求されるおそれもあります。対策として、データの使用者を限定し、パスワードを設定するなど情報セキュリティ対策を徹底することが重要です。
給与計算用のエクセルファイルには、パスワードを設定して第三者がアクセスできないようにしましょう。ファイル全体にパスワードをかけ、担当者以外が簡単に閲覧できないようにします。パスワード管理も慎重に行い、経理担当者や管理者など限られた人のみで共有することが重要です。
ファイルにパスワードをかける手順は、次のとおりです。
パスワードを設定しただけでは完全とはいえません。技術を持った人による解析のリスクもあるため、定期的なパスワード変更やファイル管理にも注意が必要です。
エクセルを使用して給与計算をする際、定期的にデータのバックアップを取ることが重要です。データはパソコンのHDDやサーバーに保存されますが、誤ってデータを書き換えてしまった場合や、パソコンが故障した場合にはデータ喪失のリスクがあります。
バックアップを取ることで、万が一の際に迅速にデータを復元できるように準備しましょう。USBメモリやクラウドにもコピーするなど、二重バックアップを取ることでさらに安全性が向上します。
また、退職者の情報・賃金台帳・労働者名簿・源泉徴収簿などは一定期間保管する義務があるため、法令遵守のためにも保管が必要です。
従業員への給与支給時には、総支給額から所得税や住民税、雇用保険料、社会保険料などを差し引かなければなりません。これらの保険料率や税率は国によって定められていますが、社会情勢などにより不定期に変更されることがあります。
保険料率や税率が改正された際に、前年度の料率や税率で計算を続けると、給与の未払いや過払いが発生し、保険料や税金の未納・過払いのリスクがあります。改正が行われた場合は、エクセルの設定を必ず更新し、最新の料率や税率を反映させて給与計算するようにしましょう。
アルバイトやパートの従業員であれば時給が変わることがあり、正社員であれば基本給や各種手当、非課税の交通費の金額が変わることがあります。エクセルは自由度が高いツールのため、あまり心配する必要はないかもしれませんが、変更に弱い設計で作り込んでしまうと、変更のたびに負担がかかるため注意が必要です。
エクセルに詳しくなっていく過程で、マクロなどを使った中級者向けのカスタマイズを加えた結果として、作った当人しかメンテナンスできないような、属人性の高いエクセルのファイルを作ってしまう懸念があります。そうなると、その担当者が引継ぎなしで急に退職した場合や、後任者がエクセル初心者だった場合などに、給与計算の業務に支障をきたしてしまい、余計なコストが発生することが心配されます。エクセル初学者でも使いやすく感じる程度に留めておくのが、おすすめです。
エクセルを使用した給与計算では、効率性と正確性を高めるためのさまざまなテクニックがあります。条件付き書式による色分け、セルのロック機能、行列の固定機能などを活用することで、作業効率が向上します。また、IF関数やWEEKDAY関数、CEILING関数などの関数を活用することにより、計算の自動化が可能です。
他方で給与情報が機密データであることを認識し、共有フォルダでの保存を避け、パスワード保護やバックアップの定期的な実施などのセキュリティ対策をすることも重要です。さらに、法改正や保険税率の変更にも迅速に対応する必要があります。
これらのポイントを押さえることにより、給与計算作業を効率的かつ安全に運用していきましょう。
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(c) 2017 freewayjapan Co., Ltd.
エクセルは給与計算に欠かせないツールとして広く利用されています。その柔軟性と便利な機能により、複雑な給与計算も効率的に処理できます。しかし、その利点を最大限に活かすには、エクセルの機能を適切に使いこなすスキルが必要です。
本記事では、エクセルによる給与計算作業を効率的に処理するためのポイントや便利な関数の活用法など、作業効率を向上させるテクニックについて紹介します。
また、給与データの機密性を守るためのセキュリティ対策や法改正への対応などの注意点についても解説します。
目次
エクセルで給与計算作業を効率的に行うポイント
エクセルを用いた給与計算システムの構築には、主に2つのアプローチがあります。1つは「独自のフォーマットを作成する方法」、もう1つは「既製のテンプレートを活用する方法」です。それぞれに長所と短所があるため、自社の状況や要望に応じて適切な選択をすることが重要です。
独自フォーマットの作成は、会社特有のニーズに合わせてカスタマイズできる利点があります。ただし、この方法にはエクセルに関する専門知識と多くの時間が必要です。さらに、作成過程でのエラーが給与計算の誤りにつながる可能性もあるため、注意しなければなりません。
一方、既製テンプレートの利用は、迅速かつ簡単にシステムを導入できる点がメリットです。多くの場合、基本的な機能がそろい、無料で入手できるものも多数存在します。ただし、テンプレートは汎用的な設計のため、会社独自の給与体系に合わせて調整が必要になることもあります。
どちらの方法を選択するにせよ、正確な給与計算を実現するためには、慎重な検討と適切な運用が欠かせません。自社の規模、給与体系の複雑さ、利用可能なリソースなどを総合的に判断し、最適な方法を選択しましょう。
ここでは、次の5つのポイントについて解説します。
これらは「独自のフォーマットを作成する方法」や「既製のテンプレートを活用する方法」でも求められるスキルです。
条件付き書式などで色付けする
エクセルで長く複雑な表を扱う際、行ごとに交互に色を付けて縞模様にすると、視認性が大幅に向上し、データの誤読を防げます。とくに、数字が連続する表で目が疲れやすい場合に、この色分け手法は有効です。さらに、入力ミスの減少やデータ欠落の防止にもつながります。
縞模様にする方法は、次の3つがあります。
以下では、それぞれについて解説します。
【条件付き書式を使う方法】
条件付き書式のメリットは、行の追加や並べ替えをしても縞模様の設定が維持される点にあります。そのため、テーブルを使用したくない、あるいは使用できない場合に適した方法です。
一方、デメリットとしては、セルに直接色を付ける場合に条件付き書式が優先され色付けできないことや、条件付き書式の知識とスキルが必要な点があげられます。
【書式のコピーで色付けする方法】
書式コピーは、他に与える影響を考えずに簡単に作成でき、テーブル・マクロ・関数などの知識やスキルを必要としない点が便利です。
デメリットとしては、行の並べ替えや挿入、削除をすると「書式が崩れてしまう」点があげられます。
【テーブル機能を使う方法】
エクセルにおける「テーブル機能」は、データ管理を大幅に簡素化する強力なツールです。一覧表やリストをテーブルとして設定することにより、データの操作が容易にできます。
また、「データの並べ替え」「集計」「フィルタリング(絞り込み)」など、より直感的で効率的な操作が可能です。従来の方法でも同様の操作は行えますが、テーブル機能を使用すれば、複数の条件を同時に適用するなどより高度な処理がシンプルに実行できます。
とくに、大量のデータを扱う場合や、頻繁にデータの更新や分析をする必要がある場合、テーブル機能の利用は作業効率を飛躍的に向上させます。エクセルを使用してデータ分析や情報管理をするうえで、テーブル機能をマスターすることは有益であり、ぜひマスターしておくべき重要なスキルの一つといえるでしょう。
デメリットとしては、データテーブルの扱いに関しての知識が必要な点、表のすぐ下に別の項目を入力すると自動的にテーブルに組み込まれてしまう点があります。
セルのロック機能で意図しない変更を防ぐ
エクセルには特定のセルをロックして変更を防ぐ機能があります。給与計算する際に、特定のセルが誤って上書きされないように設定しておくと安心です。あらかじめ編集可能なセルを設定し、シート全体を保護する仕組みです。
上記設定により、あらかじめ設定したセル以外は編集できなくなります。
固定機能で重要な情報を固定する
エクセルのデータ量が多く、縦横にスクロールしなければ全体を確認できない場合、行や列を固定すると便利です。先頭行や列を固定することで、スクロールしても項目名が常に表示され、見やすさが向上します。
固定方法は、「ウィンドウ枠の固定」「先頭行の固定」「先頭列の固定」の3種類です。
【行と列の両方を固定したい場合】
【固定を解除する場合】
まず、固定させたい箇所のセルを選択するのがポイントです。
関数の活用で時給計算を自動化する
時給で給与計算をする際、「時間×時給」を自動で計算する関数を覚えておくと便利です。
【時間×時給の計算方法】
以下の手順で、A1セルに労働時間、B1セルに時給を入力すると仮定します。
この関数を使うことで、勤務時間と時給を掛け合わせて支給額を表示できます。あらかじめ支給額のセルに計算式を貼り付けておけば、数値を入力するだけで自動計算されるため、手計算よりも効率的です。
表示方法を確認してデータを正しく表示させる
たとえば出勤時間が9:00で退勤時間が12:00の場合には、稼働時間は計算式により3:00と表示されます。この3:00に時給をそのまま乗算しても正しい支給金額は表示されません。
稼働時間の3:00に24を乗算して「3」という数字にした後に時給を乗算しなければなりません。ただし、そのままでは「3」という表示にならないため、次の書式設定が必要です。
上記の書式設定により、「3」という数字が得られます。その数字に時給を乗算し、支給金額を割り出します。
エクセルの給与計算作業の効率化ができる関数
エクセルの給与計算作業を効率化するために役立つ関数にはさまざまなものがあります。IF関数やWEEKDAY関数は、特定の条件や日付に基づいた計算の自動化が可能です。
また、時給の切り上げや切り捨てにはCEILING関数やFLOOR関数が精度の高い給与計算を可能にし、MROUND関数は打刻時間を指定した時間単位で丸めるのに役立ちます。これらの関数をうまく活用することで、給与計算の精度を向上させ、作業の効率化を図れます。
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
IF関数
IF関数は、指定した条件が真(True)か偽(False)かによって異なる値を返す関数です。
時間外労働による割増賃金やボーナス、評価に基づく支給などの計算にIF関数を使うと、条件に応じた数値を割り出せます。
【IF関数の入力方法】
=IF(条件式, 真の場合, 偽の場合)
条件式は真か偽かを評価するための式です。次に、条件が真の場合と偽の場合に返す値を指定します。
たとえば、労働時間が所定労働時間を超えている場合に割増賃金を計算するには、以下のように当てはめます。
=IF(労働時間 > 所定労働時間, (労働時間 - 所定労働時間) * 時給 * 割増率, 0)
具体例として、所定労働時間が8時間、時給が1,300円、割増率が1.25で9時間(D2のセルに入力したと仮定)労働した場合を考えます。
=IF(D2> 8, (D2 - 8) * 1300 * 1.25, 0)
=1,625円
D2は9のため、1時間の残業で1,625円が割増賃金として支払われることがわかります。
WEEKDAY関数
エクセルには、指定した日付の曜日を数値で返す便利な関数があります。この関数を使えば、カレンダーを確認しながらの曜日確認は不要です。
【WEEKDAY関数の入力方法】
=WEEKDAY(シリアル値, 種類)
「シリアル値」には、曜日を知りたい日付(セルの選択でもできます)を入力します。「種類」には、戻り値の種類を表す1(日曜 = 1 ~ 土曜 = 7)、2(月曜 = 1 ~ 日曜 = 7)、3(月曜 = 0 ~ 日曜 = 6)のいずれかの数字を指定します。 なお種類を省略した場合は、種類1です。
【エクセル上の操作】
たとえば、2024/06/16(日)のケースで、種類を1にした場合には、数値を1で返します。
CEILING関数
CEILING関数は、切り上げ計算に利用されます。給与計算では、指定した時間単位で時刻を切り上げる場面がよくあります。たとえば、退勤時間が「9時26分」の場合に、「9時30分」に切り上げるケースです。
CEILING関数の入力方法は、次のとおりです。
=CEILING(数値, 基準値)
時刻を15分単位で切り上げる場合、退勤時間がA2セルに入力されていれば、次のように関数を入力します。
=CEILING(A2, “0:15”)
返された数値は小数点表記のため、他の時刻表示と合わせる必要があります。時刻表示がされているセルをコピーし、書式のみをペーストすれば時刻表示されます。
FLOOR関数
FLOOR関数は、CEILING関数とは逆に切り捨て計算に利用されます。
FLOOR関数の入力方法は、次のとおりです。
=FLOOR(数値, 基準値)
時刻を15分単位で切り捨てる場合、退勤時間がA2セルに入力されていれば、次のように関数を入力します。
=FLOOR(A2, “0:15”)
CEILING関数のときと同様、返された数値は小数点表記のため、表示形式を時刻表示に設定する必要があります。
MROUND関数
MROUND関数は、基準値に応じて数値を最も近い倍数に丸めるための関数です。たとえば、打刻時間を特定の時間単位に丸めたい場合などに使用されます。
MROUND関数の入力方法は、次のとおりです。
=MROUND(数値, 倍数)
時刻を10分単位で四捨五入する場合、退勤時間がA2セルに入力されていれば、次のように関数を入力します。
=MROUND(A2, “0:10”)
A2のセルに「9:24」と時刻を入力すると「9:20」、「9:25」と時刻を入力すると「9:30」と、四捨五入されて表示されます。
エクセルで給与計算する際の注意点
エクセルを用いた給与計算は、業務の効率化や計算ミスの防止など多くのメリットがあります。しかし、誤った使い方をすると給与情報や個人情報の流出リスクがあるため、十分な注意が必要です。
エクセルで給与計算する際に気をつけるべきポイントは以下のとおりです。
以下で、それぞれ詳しく解説します。
共有フォルダに保存しない
給与情報は機密データであり、共有フォルダへの保管は避けるべきです。エクセルシートは簡単に操作でき、USBでの移動やメール添付も容易なため、情報漏洩のリスクが高まります。
給与情報には給与額のほか、住所や口座番号といった個人情報も含まれており、流出すると深刻な問題に発展しかねません。
社内での情報漏洩は不法行為と見なされることがあり、従業員から精神的損害として慰謝料を請求されるおそれもあります。対策として、データの使用者を限定し、パスワードを設定するなど情報セキュリティ対策を徹底することが重要です。
ファイルにパスワードをかけておく
給与計算用のエクセルファイルには、パスワードを設定して第三者がアクセスできないようにしましょう。ファイル全体にパスワードをかけ、担当者以外が簡単に閲覧できないようにします。パスワード管理も慎重に行い、経理担当者や管理者など限られた人のみで共有することが重要です。
ファイルにパスワードをかける手順は、次のとおりです。
パスワードを設定しただけでは完全とはいえません。技術を持った人による解析のリスクもあるため、定期的なパスワード変更やファイル管理にも注意が必要です。
バックアップを定期的に取る
エクセルを使用して給与計算をする際、定期的にデータのバックアップを取ることが重要です。データはパソコンのHDDやサーバーに保存されますが、誤ってデータを書き換えてしまった場合や、パソコンが故障した場合にはデータ喪失のリスクがあります。
バックアップを取ることで、万が一の際に迅速にデータを復元できるように準備しましょう。USBメモリやクラウドにもコピーするなど、二重バックアップを取ることでさらに安全性が向上します。
また、退職者の情報・賃金台帳・労働者名簿・源泉徴収簿などは一定期間保管する義務があるため、法令遵守のためにも保管が必要です。
法改正や保険税率変更が発生したら必ず対応する
従業員への給与支給時には、総支給額から所得税や住民税、雇用保険料、社会保険料などを差し引かなければなりません。これらの保険料率や税率は国によって定められていますが、社会情勢などにより不定期に変更されることがあります。
保険料率や税率が改正された際に、前年度の料率や税率で計算を続けると、給与の未払いや過払いが発生し、保険料や税金の未納・過払いのリスクがあります。改正が行われた場合は、エクセルの設定を必ず更新し、最新の料率や税率を反映させて給与計算するようにしましょう。
基本給や手当の変更に柔軟に対応できるようにする
アルバイトやパートの従業員であれば時給が変わることがあり、正社員であれば基本給や各種手当、非課税の交通費の金額が変わることがあります。エクセルは自由度が高いツールのため、あまり心配する必要はないかもしれませんが、変更に弱い設計で作り込んでしまうと、変更のたびに負担がかかるため注意が必要です。
エクセル職人を生み出さない(担当者が退職することを想定しておく)
エクセルに詳しくなっていく過程で、マクロなどを使った中級者向けのカスタマイズを加えた結果として、作った当人しかメンテナンスできないような、属人性の高いエクセルのファイルを作ってしまう懸念があります。そうなると、その担当者が引継ぎなしで急に退職した場合や、後任者がエクセル初心者だった場合などに、給与計算の業務に支障をきたしてしまい、余計なコストが発生することが心配されます。エクセル初学者でも使いやすく感じる程度に留めておくのが、おすすめです。
エクセルでの給与計算まとめ
エクセルを使用した給与計算では、効率性と正確性を高めるためのさまざまなテクニックがあります。条件付き書式による色分け、セルのロック機能、行列の固定機能などを活用することで、作業効率が向上します。また、IF関数やWEEKDAY関数、CEILING関数などの関数を活用することにより、計算の自動化が可能です。
他方で給与情報が機密データであることを認識し、共有フォルダでの保存を避け、パスワード保護やバックアップの定期的な実施などのセキュリティ対策をすることも重要です。さらに、法改正や保険税率の変更にも迅速に対応する必要があります。
これらのポイントを押さえることにより、給与計算作業を効率的かつ安全に運用していきましょう。