更新日:2024年08月29日
賃金台帳とは、従業員の賃金やその計算の元となる情報を管理する帳簿です。従業員を雇っている企業や個人事業主は、賃金台帳を作成して保管しなければなりません。賃金台帳の記入方法や保管期間が法律で定められており、正しく処理できていなければ、罰則を受ける可能性があります。本記事では、賃金台帳の記入方法や保管期間、混同されやすい給与明細と賃金台帳の違いなどを解説します。
目次
賃金台帳とは、法定三帳簿の1つであり、労働した時間や日数、各種手当や控除など、給与についての情報を記録する帳簿です。
従業員を雇うすべての企業や個人事業主は、賃金台帳を作成・保管しなければなりません。賃金台帳は記入方法や保管方法、保管期間などが法律で決まっており、基準を満たさない場合は罰則を受ける可能性があります。
1人以上の従業員を雇っているすべての企業や個人事業主は「法定三帳簿」を作成・保管しなければなりません。法定三帳簿とは、労務管理を適切にするための帳簿で、労働基準監督署から提出を求められるケースもある重要書類です。法定三帳簿には、下記の3つの帳簿が含まれています。
従業員を雇用しているすべての事業主は、賃金台帳の作成・保管が法律で定められています。
従業員の賃金や勤務時間など、労働条件について最低限度の基準を定めた「労働基準法」の第108条では以下のように記載されています。
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
引用「e-Gov法令検索」
賃金台帳は、正しい労務管理をしている証明となり、後述する全10項目を記入した賃金台帳を作る必要があります。正しい方法で作成・保存ができていない場合、罰則を受ける可能性があります。また、中小企業や個人事業などでは、給与明細と混同してしまうケースも少なくありません。
賃金台帳と類似している書類として「給与明細」があります。給与明細とは、給与の支払額や控除額を記載した通知書です。給与明細では、賃金台帳で義務付けられている項目が記載されないため、代用はできません。
給与明細と賃金台帳の違いを下記の表にまとめました。
賃金台帳と給与明細は、作成する目的や記載内容において共通する部分も多いため、混同されることがあります。特に中小企業や小規模事業主などでは、給与明細で代用できると勘違いされるケースも少なくありません。必ず両方別々に作成しましょう。
また、給与明細は従業員に渡す必要がありますが、賃金台帳は会社で保管するものであり、基本的に従業員に見せることはありません。
賃金台帳に記入する対象者は、同じ事業所で働くすべての従業員です。正社員・アルバイト・パートなど、雇用形態にかかわらず、賃金を支払ったすべての従業員分を記入します。
正社員やアルバイトなどの常時労働者以外に、日雇いの労働者に賃金を支払った場合も、賃金台帳に記入しなければなりません。日雇い労働者は、日々雇用される人、もしくは30日以内で期間を定めて雇用される人を指します。
また、従業員に含まれませんが、管理監督者に報酬を払った際も、賃金台帳へ記入します。管理監督者とは、社長や取締役など、企業の経営者側に立つ人です。次の章で解説しますが、管理監督者や日雇い労働者は、常時労働者と記入方法が少し異なります。
なお、賃金台帳は各事業所ごとに個別で作成・保管する必要があります。親会社がまとめて管理したり、複数の事業所を本社がすべて管理したりなどは認められないため気をつけましょう。
賃金台帳に記入する項目は全部で10項目あり、法律で決められた項目であるため、必ず記載しましょう。これらの項目が記入されていない場合は賃金台帳として認められません。
参考)厚生労働省「労働者名簿及び賃金台帳の調製と記録の保存(第107条~第109条)」
以上の10項目が、法律で定められた項目です。後ほど、項目ごとの記入方法を解説します。
賃金台帳の提出を求められるケースは、主に以下のとおりです。
それぞれ解説します。
労働基準監督署による臨検監督が入る場合に、賃金台帳を提出しなければならないことがあります。臨検監督とは、労働基準監督官が事業場に立ち入り、労働者の労働条件や安全衛生などについて調査することです。
労働条件を確認する際、過度な残業や休日出勤がないか、事業所が適切に給与を支払っているかなどをチェックします。判断材料のひとつとなりうるため、臨検監督で求められたら速やかに提出しなければなりません。
参考)奈良労働局「労働基準監督官の仕事をご紹介!「臨検監督」編」
労働基準監督署からの是正勧告に対応する際に、賃金台帳を提出することもあります。
是正勧告とは、労働基準監督署からの調査で法令に違反する事案が発覚した際に、改善するよう勧告されることです。「記載が漏れている労働時間がある」「出勤簿と記載が異なる」など、賃金台帳に問題があり是正勧告を受けた場合は、改善して再度提出しなければなりません。
元従業員の雇用保険手続きでも、賃金台帳の提出が必要です。
従業員の退職にあたって離職票を発行する際、確認書類として賃金台帳などを提出しなければなりません。ただし、「確認書類の照合省略に係る申出書」を提出し、照合省略の認可を受けた場合は、賃金台帳などの添付を省略可能です。
また、助成金を申請する際も、賃金台帳の提出を求められます。なぜなら、適正な賃金支払いがされているか確認するために必要なためです。
参考)東京労働局「「確認書類の照合省略に係る申込書」をご提出いただき、照合省略の認可を受けた場合、賃金台帳等の添付書類の省略が可能になります」
賃金台帳には、定型のフォーマットはありません。そのため、紹介した10項目を記載すれば、自作の書式でも対応できます。
賃金台帳の主な作り方は、以下のとおりです。
テンプレートを活用して、賃金台帳を作成できます。最初から自分で作成するよりも、必要な項目があらかじめ埋まっている分、スムーズに導入できる点がメリットです。
賃金台帳のテンプレートは、さまざまなWebサイトで無料公開されています。どのテンプレート・フォーマットを用いるべきか悩む場合は、まず厚生労働省の様式を確認するとよいでしょう。
参考)厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」
Excelを始めとする、表計算ソフトを利用して賃金台帳を作成する方法もあります。
Excelを利用する場合も、無料で賃金台帳を作成できる点がメリットです。また、自動計算機能を活用することで、計算の手間や計算ミスを軽減できます。
一方で、従業員の数が多いと管理が大変な点や、同時編集が難しい点などがデメリットです。さらに、操作に慣れていない従業員や計算式を十分に理解していない従業員が賃金台帳に関する業務を担当すると、たとえExcelを使っても計算ミスが発生する可能性があります。
Excelでの作成に限界がある場合は、給与計算ソフトや人事労務のソフトを利用する方法もあります。
給与計算ソフトとは、従業員の給与を自動で計算するソフトです。また、人事労務ソフト(労務管理ソフト)は、主に勤怠管理や社会保険の管理業務を効率化するソフトを指します。
各種ソフトを導入すれば、賃金台帳の作成だけでなく、人事関連業務の効率化にもつながる点がメリットです。ただし、ソフトの導入にあたって、一般的に初期費用や利用料がかかります。
自分で賃金台帳を作成せず、専門家(社会保険労務士)に依頼する方法もあります。社会保険労務士は、労働社会保険手続業務・労務管理の相談指導業務などを担う、国家資格者です。
専門知識がなくても、社会保険労務士に賃金台帳について相談すれば、賃金台帳の記載内容について労働基準監督署から指摘を受けるリスクを軽減できます。また、賃金台帳作成にかかる手間や時間を省ける点もメリットです。
ただし、社会保険労務士に依頼すると数万円の費用がかかる点に注意しましょう。金額は従業員数などによっても異なります。
賃金台帳に記入する10項目について、それぞれの記入方法を解説します。
なお、賃金台帳はエクセルで自作するか、テンプレートをダウンロードするなどして用意しましょう。
賃金を支払った従業員の氏名と性別を記入します。また、従業員の氏名には、管理しやすくするために労働者番号を併せて記載してもかまいません。
賃金計算期間とは、従業員の給与を計算する際に、その対象となる期間を指します。当月の賃金計算を開始した日から、締め日までの期間を記入します。記入例は以下のとおりです。
賃金計算期間は事業主によって自由に決定できますが、以下の原則に従う必要があります。
なお、本項目は日雇い労働者の場合、記載が不要です。
労働日数は、賃金計算期間中に従業員が働いた日数の合計を記入します。一方、労働時間は、期間中に従業員が働いた時間数の合計を記入します。タイムカードや出勤簿など、根拠となる書類をもとに、正確な時間を記入しましょう。
また、有給休暇も通常通り労働日数や労働時間に含めます。その際は、有給休暇であると分かるように記入しておきましょう。
従業員が適正な労働時間・日数で働いているかどうかを確認できる項目であり、労働基準監督署の調査において、重点的に確認されます。
労働時間のうち、早出・残業・深夜労働・休日労働の時間を記入する項目で、残業手当や休日手当などを計算する際に使います。なお、深夜労働の対象となる時間帯は、22時〜翌朝5時までです。時間外労働時間数および休日労働時間数は、合計時間数を個別で計算して記入しましょう。
時間外労働や休日労働に対しては、割増賃金を支払う必要があるため、従業員に支払う給与の金額に関わります。そのため、後のトラブルを避けるためにも正確に管理・記入しましょう。
また、社長や取締役などの管理監督者は、労働条件が特殊であるため、時間外労働時間数と休日労働時間数に関しては記入が不要です。ただし、深夜割増手当の対象であるため、深夜労働時間数は記入しなければなりません。
賃金台帳は、給与の支給総額だけでなく、基本給と各手当を別々に記入する必要があります。通勤手当や住宅手当、家族手当など、各手当ごとに項目を分けて記入しましょう。
なお、月給制の従業員は基本給の金額を記入しますが、アルバイトやパートなど時給制の場合は「時給×勤務時間」で計算した金額を記入します。残業や休日出勤などで割増した分は別項目で記入するため、ここでは割増する前の時給で計算しましょう。また、寸志や一時金などの臨時給与や賞与についても、項目を分けて記入します。
厚生年金保険料・健康保険料・雇用保険料などの社会保険料、住民税や所得税など、給与から控除される金額をそれぞれ記入します。
全項目記入できたら、9項目目までで計算した給与の合計から、10項目の控除額を差し引いた金額を「実体給与」として記入します。
処理済みの賃金台帳で、給与計算の不備を見つけた場合、次の賃金計算期間で調整します。
例えば、残業手当の支給漏れが発覚したとすると、次月の同項目に支給漏れ分を加味して記入します。その際は、後から調整したことが分かるように、調整した金額を別途記録しておきましょう。
また、不備を見つけた段階で、必ず従業員に対して事情を説明し、次月の給与に含めることの了承を得ましょう。
作成した賃金台帳は適切な方法で保管しておく必要があります。また、法定書類であるため一定の保管期間も設けられています。保管方法や保管期間が法律で定められているため、正しく理解しておきましょう。
労働基準法109条により、賃金台帳は原則5年間保管しなければなりません。ただし、現状は法案改正の経過措置として、最後に記載した日から3年間です。
保管期間が守られていない場合、罰則を受ける可能性があるため、必ず3年間は保管しておきましょう。
賃金台帳は、電子保管も認められており、保管期間は紙媒体と同様です。ただし、電子保管の場合は、以下のような条件を満たす必要があります。
賃金台帳は、労働基準監督署の検査等で提出を求められることがあります。そのため、すぐに検索・表示・印刷ができる状態で保存し、いつでも提出できるようにしましょう。
また、電子データであることから、不正アクセス防止のためにソフトウェアを導入したり、修正の履歴が残るシステムにしたりするなど、セキュリティ面の強化も重要です。
賃金台帳の作成や保存にあたって、以下の点に注意しましょう。
賃金台帳は離職時の手続きや労務関係のトラブル、労働基準監督署による調査の対象になったときなど、さまざまな場面で必要になります。そのため、正しく作成することはもちろん、すぐ提出できる状態で、決められた期間きちんと保管しておかなければなりません。仮に賃金台帳を適切に作成・保管できていなかった場合、労働基準法により、30万円以下の罰金を求められる可能性があります。
また、作成・保管していても、調査により不備が見つかった場合は、労働基準監督署から是正するよう指示を受けることもあります。もし応じなかった場合、監督者の判断によっては送検や罰則の対象になるため、必ず対応しましょう。
このような事態を防ぐためにも、定められた基準を満たした賃金台帳の作成・保管が重要です。
賃金台帳における労働時間の管理を従業員の自己申告に頼っている場合、実労働時間の把握が必要な点に注意が必要です。
従業員の勤務形態がテレワークであるケースのように、会社側で直接労働時間を管理できない場合があります。その場合でも、会社は従業員が自己申告した内容をそのまま鵜呑みにするのではなく、実態を把握するよう努めなければなりません。
厚生労働省が定めた「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、従業員の自己申告制で労働時間を記録する場合でも、会社側は「従業員に適正に自己申告することの必要性を説明する」ことが求められます。また、「著しい乖離が生じている場合は実態調査を実施して労働時間を補正する」などの対応をしなければなりません。
参考)厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
賃金台帳は、従業員に対する給与の支払い情報を管理するための帳簿で、法定三帳簿の一つです。労働基準法により、従業員を雇用するすべての事業主は賃金台帳を作成・保管しなければなりません。
決まった書式はありませんが、定められた10項目を記載し、すぐ提出できる状態で3年間保管しておく必要があります。記載内容に不備があったり、適切に保管できていなかったりした場合は、罰則や是正勧告の対象になる可能性があります。本記事を参考に、賃金台帳を正しく作成・保管しましょう。
賃金台帳について学んだら、給与計算ソフト「フリーウェイ給与計算」がおすすめ。従業員5人まで永久無料のクラウド給与計算で、WindowsでもMacでも利用できます。賃金台帳の出力も無料です。
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賃金台帳とは、従業員の賃金やその計算の元となる情報を管理する帳簿です。従業員を雇っている企業や個人事業主は、賃金台帳を作成して保管しなければなりません。賃金台帳の記入方法や保管期間が法律で定められており、正しく処理できていなければ、罰則を受ける可能性があります。本記事では、賃金台帳の記入方法や保管期間、混同されやすい給与明細と賃金台帳の違いなどを解説します。
目次
賃金台帳とは?
賃金台帳とは、法定三帳簿の1つであり、労働した時間や日数、各種手当や控除など、給与についての情報を記録する帳簿です。
従業員を雇うすべての企業や個人事業主は、賃金台帳を作成・保管しなければなりません。賃金台帳は記入方法や保管方法、保管期間などが法律で決まっており、基準を満たさない場合は罰則を受ける可能性があります。
法定三帳簿とは
1人以上の従業員を雇っているすべての企業や個人事業主は「法定三帳簿」を作成・保管しなければなりません。法定三帳簿とは、労務管理を適切にするための帳簿で、労働基準監督署から提出を求められるケースもある重要書類です。法定三帳簿には、下記の3つの帳簿が含まれています。
労働基準法で作成・保管が義務付けられている
従業員を雇用しているすべての事業主は、賃金台帳の作成・保管が法律で定められています。
従業員の賃金や勤務時間など、労働条件について最低限度の基準を定めた「労働基準法」の第108条では以下のように記載されています。
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
引用「e-Gov法令検索」
賃金台帳は、正しい労務管理をしている証明となり、後述する全10項目を記入した賃金台帳を作る必要があります。正しい方法で作成・保存ができていない場合、罰則を受ける可能性があります。また、中小企業や個人事業などでは、給与明細と混同してしまうケースも少なくありません。
賃金台帳と給与明細との違いとは
賃金台帳と類似している書類として「給与明細」があります。給与明細とは、給与の支払額や控除額を記載した通知書です。給与明細では、賃金台帳で義務付けられている項目が記載されないため、代用はできません。
給与明細と賃金台帳の違いを下記の表にまとめました。
(法改正の経過措置により現在は3年)
賃金台帳と給与明細は、作成する目的や記載内容において共通する部分も多いため、混同されることがあります。特に中小企業や小規模事業主などでは、給与明細で代用できると勘違いされるケースも少なくありません。必ず両方別々に作成しましょう。
また、給与明細は従業員に渡す必要がありますが、賃金台帳は会社で保管するものであり、基本的に従業員に見せることはありません。
賃金台帳に記入する対象者
賃金台帳に記入する対象者は、同じ事業所で働くすべての従業員です。正社員・アルバイト・パートなど、雇用形態にかかわらず、賃金を支払ったすべての従業員分を記入します。
正社員やアルバイトなどの常時労働者以外に、日雇いの労働者に賃金を支払った場合も、賃金台帳に記入しなければなりません。日雇い労働者は、日々雇用される人、もしくは30日以内で期間を定めて雇用される人を指します。
また、従業員に含まれませんが、管理監督者に報酬を払った際も、賃金台帳へ記入します。管理監督者とは、社長や取締役など、企業の経営者側に立つ人です。次の章で解説しますが、管理監督者や日雇い労働者は、常時労働者と記入方法が少し異なります。
なお、賃金台帳は各事業所ごとに個別で作成・保管する必要があります。親会社がまとめて管理したり、複数の事業所を本社がすべて管理したりなどは認められないため気をつけましょう。
賃金台帳の記入項目・記載事項
賃金台帳に記入する項目は全部で10項目あり、法律で決められた項目であるため、必ず記載しましょう。これらの項目が記入されていない場合は賃金台帳として認められません。
参考)厚生労働省「労働者名簿及び賃金台帳の調製と記録の保存(第107条~第109条)」
以上の10項目が、法律で定められた項目です。後ほど、項目ごとの記入方法を解説します。
賃金台帳の提出を求められるケース
賃金台帳の提出を求められるケースは、主に以下のとおりです。
それぞれ解説します。
労働基準監督署の臨検監督が実施される
労働基準監督署による臨検監督が入る場合に、賃金台帳を提出しなければならないことがあります。臨検監督とは、労働基準監督官が事業場に立ち入り、労働者の労働条件や安全衛生などについて調査することです。
労働条件を確認する際、過度な残業や休日出勤がないか、事業所が適切に給与を支払っているかなどをチェックします。判断材料のひとつとなりうるため、臨検監督で求められたら速やかに提出しなければなりません。
参考)奈良労働局「労働基準監督官の仕事をご紹介!「臨検監督」編」
労働基準監督署の是正勧告に対応する
労働基準監督署からの是正勧告に対応する際に、賃金台帳を提出することもあります。
是正勧告とは、労働基準監督署からの調査で法令に違反する事案が発覚した際に、改善するよう勧告されることです。「記載が漏れている労働時間がある」「出勤簿と記載が異なる」など、賃金台帳に問題があり是正勧告を受けた場合は、改善して再度提出しなければなりません。
雇用保険や助成金の手続きを進める
元従業員の雇用保険手続きでも、賃金台帳の提出が必要です。
従業員の退職にあたって離職票を発行する際、確認書類として賃金台帳などを提出しなければなりません。ただし、「確認書類の照合省略に係る申出書」を提出し、照合省略の認可を受けた場合は、賃金台帳などの添付を省略可能です。
また、助成金を申請する際も、賃金台帳の提出を求められます。なぜなら、適正な賃金支払いがされているか確認するために必要なためです。
参考)東京労働局「「確認書類の照合省略に係る申込書」をご提出いただき、照合省略の認可を受けた場合、賃金台帳等の添付書類の省略が可能になります」
賃金台帳の作り方
賃金台帳には、定型のフォーマットはありません。そのため、紹介した10項目を記載すれば、自作の書式でも対応できます。
賃金台帳の主な作り方は、以下のとおりです。
それぞれ解説します。
テンプレートを活用する
テンプレートを活用して、賃金台帳を作成できます。最初から自分で作成するよりも、必要な項目があらかじめ埋まっている分、スムーズに導入できる点がメリットです。
賃金台帳のテンプレートは、さまざまなWebサイトで無料公開されています。どのテンプレート・フォーマットを用いるべきか悩む場合は、まず厚生労働省の様式を確認するとよいでしょう。
参考)厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」
Excelなどの表計算ソフトを利用する
Excelを始めとする、表計算ソフトを利用して賃金台帳を作成する方法もあります。
Excelを利用する場合も、無料で賃金台帳を作成できる点がメリットです。また、自動計算機能を活用することで、計算の手間や計算ミスを軽減できます。
一方で、従業員の数が多いと管理が大変な点や、同時編集が難しい点などがデメリットです。さらに、操作に慣れていない従業員や計算式を十分に理解していない従業員が賃金台帳に関する業務を担当すると、たとえExcelを使っても計算ミスが発生する可能性があります。
給与計算ソフト・人事労務のソフトを利用する
Excelでの作成に限界がある場合は、給与計算ソフトや人事労務のソフトを利用する方法もあります。
給与計算ソフトとは、従業員の給与を自動で計算するソフトです。また、人事労務ソフト(労務管理ソフト)は、主に勤怠管理や社会保険の管理業務を効率化するソフトを指します。
各種ソフトを導入すれば、賃金台帳の作成だけでなく、人事関連業務の効率化にもつながる点がメリットです。ただし、ソフトの導入にあたって、一般的に初期費用や利用料がかかります。
専門家に依頼する
自分で賃金台帳を作成せず、専門家(社会保険労務士)に依頼する方法もあります。社会保険労務士は、労働社会保険手続業務・労務管理の相談指導業務などを担う、国家資格者です。
専門知識がなくても、社会保険労務士に賃金台帳について相談すれば、賃金台帳の記載内容について労働基準監督署から指摘を受けるリスクを軽減できます。また、賃金台帳作成にかかる手間や時間を省ける点もメリットです。
ただし、社会保険労務士に依頼すると数万円の費用がかかる点に注意しましょう。金額は従業員数などによっても異なります。
【項目別】賃金台帳の記入方法
賃金台帳に記入する10項目について、それぞれの記入方法を解説します。
なお、賃金台帳はエクセルで自作するか、テンプレートをダウンロードするなどして用意しましょう。
労働者氏名・性別
賃金を支払った従業員の氏名と性別を記入します。また、従業員の氏名には、管理しやすくするために労働者番号を併せて記載してもかまいません。
賃金計算期間
賃金計算期間とは、従業員の給与を計算する際に、その対象となる期間を指します。当月の賃金計算を開始した日から、締め日までの期間を記入します。記入例は以下のとおりです。
賃金計算期間は事業主によって自由に決定できますが、以下の原則に従う必要があります。
なお、本項目は日雇い労働者の場合、記載が不要です。
労働日数・労働時間数
労働日数は、賃金計算期間中に従業員が働いた日数の合計を記入します。一方、労働時間は、期間中に従業員が働いた時間数の合計を記入します。タイムカードや出勤簿など、根拠となる書類をもとに、正確な時間を記入しましょう。
また、有給休暇も通常通り労働日数や労働時間に含めます。その際は、有給休暇であると分かるように記入しておきましょう。
従業員が適正な労働時間・日数で働いているかどうかを確認できる項目であり、労働基準監督署の調査において、重点的に確認されます。
時間外労働時間数・深夜労働時間数・休日労働時間数
労働時間のうち、早出・残業・深夜労働・休日労働の時間を記入する項目で、残業手当や休日手当などを計算する際に使います。なお、深夜労働の対象となる時間帯は、22時〜翌朝5時までです。時間外労働時間数および休日労働時間数は、合計時間数を個別で計算して記入しましょう。
時間外労働や休日労働に対しては、割増賃金を支払う必要があるため、従業員に支払う給与の金額に関わります。そのため、後のトラブルを避けるためにも正確に管理・記入しましょう。
また、社長や取締役などの管理監督者は、労働条件が特殊であるため、時間外労働時間数と休日労働時間数に関しては記入が不要です。ただし、深夜割増手当の対象であるため、深夜労働時間数は記入しなければなりません。
基本給や手当などの種類と金額
賃金台帳は、給与の支給総額だけでなく、基本給と各手当を別々に記入する必要があります。通勤手当や住宅手当、家族手当など、各手当ごとに項目を分けて記入しましょう。
なお、月給制の従業員は基本給の金額を記入しますが、アルバイトやパートなど時給制の場合は「時給×勤務時間」で計算した金額を記入します。残業や休日出勤などで割増した分は別項目で記入するため、ここでは割増する前の時給で計算しましょう。また、寸志や一時金などの臨時給与や賞与についても、項目を分けて記入します。
控除の項目と金額
厚生年金保険料・健康保険料・雇用保険料などの社会保険料、住民税や所得税など、給与から控除される金額をそれぞれ記入します。
全項目記入できたら、9項目目までで計算した給与の合計から、10項目の控除額を差し引いた金額を「実体給与」として記入します。
処理済みの賃金台帳を修正する場合
処理済みの賃金台帳で、給与計算の不備を見つけた場合、次の賃金計算期間で調整します。
例えば、残業手当の支給漏れが発覚したとすると、次月の同項目に支給漏れ分を加味して記入します。その際は、後から調整したことが分かるように、調整した金額を別途記録しておきましょう。
また、不備を見つけた段階で、必ず従業員に対して事情を説明し、次月の給与に含めることの了承を得ましょう。
賃金台帳の保管方法・保存期間
作成した賃金台帳は適切な方法で保管しておく必要があります。また、法定書類であるため一定の保管期間も設けられています。保管方法や保管期間が法律で定められているため、正しく理解しておきましょう。
賃金台帳は原則5年間の保管が必要
労働基準法109条により、賃金台帳は原則5年間保管しなければなりません。ただし、現状は法案改正の経過措置として、最後に記載した日から3年間です。
保管期間が守られていない場合、罰則を受ける可能性があるため、必ず3年間は保管しておきましょう。
電子保管も認められる
賃金台帳は、電子保管も認められており、保管期間は紙媒体と同様です。ただし、電子保管の場合は、以下のような条件を満たす必要があります。
賃金台帳は、労働基準監督署の検査等で提出を求められることがあります。そのため、すぐに検索・表示・印刷ができる状態で保存し、いつでも提出できるようにしましょう。
また、電子データであることから、不正アクセス防止のためにソフトウェアを導入したり、修正の履歴が残るシステムにしたりするなど、セキュリティ面の強化も重要です。
賃金台帳の作成・保存で注意すること
賃金台帳の作成や保存にあたって、以下の点に注意しましょう。
それぞれ解説します。
賃金台帳を作成・保管していないときの罰則
賃金台帳は離職時の手続きや労務関係のトラブル、労働基準監督署による調査の対象になったときなど、さまざまな場面で必要になります。そのため、正しく作成することはもちろん、すぐ提出できる状態で、決められた期間きちんと保管しておかなければなりません。仮に賃金台帳を適切に作成・保管できていなかった場合、労働基準法により、30万円以下の罰金を求められる可能性があります。
また、作成・保管していても、調査により不備が見つかった場合は、労働基準監督署から是正するよう指示を受けることもあります。もし応じなかった場合、監督者の判断によっては送検や罰則の対象になるため、必ず対応しましょう。
このような事態を防ぐためにも、定められた基準を満たした賃金台帳の作成・保管が重要です。
自己申告制の場合は実労働時間の把握が必要
賃金台帳における労働時間の管理を従業員の自己申告に頼っている場合、実労働時間の把握が必要な点に注意が必要です。
従業員の勤務形態がテレワークであるケースのように、会社側で直接労働時間を管理できない場合があります。その場合でも、会社は従業員が自己申告した内容をそのまま鵜呑みにするのではなく、実態を把握するよう努めなければなりません。
厚生労働省が定めた「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、従業員の自己申告制で労働時間を記録する場合でも、会社側は「従業員に適正に自己申告することの必要性を説明する」ことが求められます。また、「著しい乖離が生じている場合は実態調査を実施して労働時間を補正する」などの対応をしなければなりません。
参考)厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
賃金台帳まとめ
賃金台帳は、従業員に対する給与の支払い情報を管理するための帳簿で、法定三帳簿の一つです。労働基準法により、従業員を雇用するすべての事業主は賃金台帳を作成・保管しなければなりません。
決まった書式はありませんが、定められた10項目を記載し、すぐ提出できる状態で3年間保管しておく必要があります。記載内容に不備があったり、適切に保管できていなかったりした場合は、罰則や是正勧告の対象になる可能性があります。本記事を参考に、賃金台帳を正しく作成・保管しましょう。