賃金台帳とは~記載項目と保存期間について解説~

賃金台帳

賃金台帳とは、従業員の賃金やその計算の元となる情報を管理する帳簿です。従業員を雇っている企業や個人事業主は、賃金台帳を作成し、保管しなければなりません。賃金台帳の記入方法や保管期間が法律で定められており、正しく処理できていなければ、罰則を受ける可能性があります。本記事では、賃金台帳の記入方法や保管期間、混同されやすい給与明細と賃金台帳の違いなどを解説します。※2022年6月9日に更新

賃金台帳とは?

賃金台帳とは、法定三帳簿の1つであり、労働した時間や日数、各種手当や控除など、給与についての情報を記録する帳簿です。従業員を雇うすべての企業や個人事業主は、賃金台帳を作成・保管しなければなりません。従業員の離職手続きや各種助成金の手続き、労務管理に関する調査の対象になったときなど、賃金台帳の提出を求められるケースもあります。賃金台帳は記入方法や保管方法、保管期間などが法律で決まっており、基準を満たさない場合は罰則を受ける可能性があります。

法定三帳簿とは

1人以上の従業員を雇っているすべての企業や個人事業主は「法定三帳簿」を作成・保管しなければなりません。法定三帳簿とは、労務管理を適切にするための帳簿で、労働基準監督署から提出を求められるケースもある重要書類です。法定三帳簿には、下記の3つの帳簿が含まれています。

  • 賃金台帳…労働した時間や日数、各種手当や控除など、給与についての情報を記録する帳簿です。
  • 労働者名簿…従業員の氏名や住所、生年月日、採用日、業務種別など、従業員の個人情報を管理する帳簿です。
  • 出勤簿…出勤・退勤時間や休憩時間など、従業員の勤務時間を正しく把握するための帳簿です。

労働基準法で作成・保管が義務付けられている

従業員を雇用しているすべての事業主は、賃金台帳の作成・保管が法律で定められています。
従業員の賃金や勤務時間など、労働条件について最低限度の基準を定めた「労働基準法」の第108条では以下のように記載されています。

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。

引用「e-Gov法令検索

賃金台帳は、正しい労務管理をしている証明となり、後述する全10項目を記入した賃金台帳を作る必要があります。正しい方法で作成・保存ができていない場合、罰則を受ける可能性があります。また、中小企業や個人事業などでは、給与明細と混同してしまうケースも少なくありません。

賃金台帳と給与明細との違い

賃金台帳と類似している書類として「給与明細」があります。給与明細とは、給与の支払額や控除額を記載した通知書です。給与明細では、賃金台帳で義務付けられている項目が記載されないため、代用はできません。

給与明細と賃金台帳の違いを下記の表にまとめました。

給与明細 賃金台帳
目的 給与の支払額や控除額を記載し、従業員に通知するため 給与の支払額やその計算の根拠となる情報を管理するため
記載項目 給与の支払額・控除額・勤怠情報等 賃金の計算期間や労働した日数・時間など、労働基準法で決められた10項目
保管期間 保管の義務はない 原則5年
(法改正の経過措置により現在は3年)

賃金台帳と給与明細は、作成する目的や記載内容において共通する部分も多いため、混同されることがあります。特に中小企業や小規模事業主などでは、給与明細で代用できると勘違いされるケースも少なくありません。必ず両方別々に作成しましょう。

また、給与明細は従業員に渡す必要がありますが、賃金台帳は会社で保管するものであり、基本的に従業員に見せることはありません。

賃金台帳に記入する対象者

賃金台帳に記入する対象者は、同じ事業所で働くすべての従業員です。正社員・アルバイト・パートなど、雇用形態にかかわらず、賃金を支払ったすべての従業員分を記入します。正社員やアルバイトなどの常時労働者以外に、日雇いの労働者に賃金を支払った場合も、賃金台帳に記入しなければなりません。日雇い労働者は、日々雇用される人、もしくは30日以内で期間を定めて雇用される人を指します。

また、従業員に含まれませんが、管理監督者に報酬を払った際も、賃金台帳へ記入します。管理監督者とは、社長や取締役など、企業の経営者側に立つ人です。次の章で解説しますが、管理監督者や日雇い労働者は、常時労働者と記入方法が少し異なります。

なお、賃金台帳は各事業所ごとに個別で作成・保管する必要があります。親会社がまとめて管理したり、複数の事業所を本社が全て管理したりなどは認められないため気をつけましょう。

賃金台帳の記入項目

賃金台帳に記入する項目は全部で10項目あり、法律で決められた項目であるため、必ず記載しましょう。これらの項目が記入されていない場合は賃金台帳として認められません。

  • 労働者氏名
  • 性別
  • 賃金計算期間(日雇い労働者は記入不要)
  • 労働日数
  • 労働時間数
  • 時間外労働時間数(管理監督者は記入不要)
  • 深夜労働時間数
  • 休日労働時間数(管理監督者は記入不要)
  • 基本給や手当などの種類と金額
  • 控除の項目と金額

参考:厚生労働省「労働者名簿及び賃金台帳の調製と記録の保存(第107条~第109条)

以上の10項目が、法律で定められた項目です。次の章で項目ごとの記入方法を解説します。

賃金台帳の記入方法

賃金台帳に記入する10項目について、それぞれの記入方法を解説します。
なお、賃金台帳はエクセルで自作するか、テンプレートをダウンロードするなどして用意しましょう。

労働者氏名・性別

賃金を支払った従業員の氏名と性別を記入します。また、従業員の氏名には、管理しやすくするために労働者番号を併せて記載してもかまいません。

賃金計算期間

賃金計算期間とは、従業員の給与を計算する際に、その対象となる期間を指します。当月の賃金計算を開始した日から、締め日までの期間を記入します。記入例は以下のとおりです。

  • 毎月末締の場合:2022年10月1日〜2022年10月31日
  • 10日締めの場合:2022年10月11日〜2022年11月10日

賃金計算期間は事業主によって自由に決定できますが、以下の原則に従う必要があります。

  • 一定期日払いの原則:毎月20日や毎月最終営業日など、毎月一定の期日を決めて支払わなければならない
  • 毎月1回以上払いの原則:1か月に最低1回以上は賃金を支払わなければならない

なお、本項目は日雇い労働者の場合、記載が不要です。

労働日数・労働時間数

労働日数は、賃金計算期間中に従業員が働いた日数の合計を記入します。一方、労働時間は、期間中に従業員が働いた時間数の合計を記入します。タイムカードや出勤簿など、根拠となる書類をもとに、正確な時間を記入しましょう。

また、有給休暇も通常通り労働日数や労働時間に含めます。その際は、有給休暇であると分かるように記入しておきましょう。

従業員が適正な労働時間・日数で働いているかどうかを確認できる項目であり、労働基準監督署の調査において、重点的に確認されます。

時間外労働時間数・深夜労働時間数・休日労働時間数

労働時間のうち、早出・残業・深夜労働・休日労働の時間を記入する項目で、残業手当や休日手当などを計算する際に使います。なお、深夜労働の対象となる時間帯は、22時〜翌朝5時までです。時間外労働時間数および休日労働時間数は、合計時間数を個別で計算して記入しましょう。

時間外労働や休日労働に対しては、割増賃金を支払う必要があるため、従業員に支払う給与の金額に関わります。そのため、後のトラブルを避けるためにも正確に管理・記入しましょう。

また、社長や取締役などの管理監督者は、労働条件が特殊であるため、時間外労働時間数と休日労働時間数に関しては記入が不要です。ただし、深夜割増手当の対象であるため、深夜労働時間数は記入しなければなりません。

基本給や手当などの種類と金額

賃金台帳は、給与の支給総額だけでなく、基本給と各手当を別々に記入する必要があります。通勤手当や住宅手当、家族手当など、各手当ごとに項目を分けて記入しましょう。

なお、月給制の従業員は基本給の金額を記入しますが、アルバイトやパートなど時給制の場合は「時給×勤務時間」で計算した金額を記入します。残業や休日出勤などで割増した分は別項目で記入するため、ここでは割増する前の時給で計算しましょう。また、寸志や一時金などの臨時給与や賞与についても、項目を分けて記入します。

控除の項目と金額

厚生年金保険料・健康保険料・雇用保険料などの社会保険料、住民税や所得税など、給与から控除される金額をそれぞれ記入します。

全項目記入できたら、9項目目までで計算した給与の合計から、10項目の控除額を差し引いた金額を「実体給与」として記入します。

処理済みの賃金台帳を修正する場合

処理済みの賃金台帳で、給与計算の不備を見つけた場合、次の賃金計算期間で調整します。

例えば、残業手当の支給漏れが発覚したとすると、次月の同項目に支給漏れ分を加味して記入します。その際は、後から調整したことが分かるように、調整した金額を別途記録しておきましょう。

また、不備を見つけた段階で、必ず従業員に対して事情を説明し、次月の給与に含めることの了承を得ましょう。

賃金台帳の書式とテンプレートの入手方法

賃金台帳に決まった書式は定められておらず、前述した10項目を記入できていれば、自作した書式でも問題ありません。手書きの紙媒体でも構いませんが、修正や更新、計算にかかる時間や労力、計算ミスのリスクを考慮するとおすすめできません。そのため、賃金台帳の作成は会計ソフトを使うか、エクセル用のテンプレートをダウンロードするとよいでしょう。

なお、厚生労働省をはじめ、さまざまなWebサイトでエクセルやPDF形式のテンプレートが公開されています。テンプレートを使用したい場合は、これらを活用するとよいでしょう。

賃金台帳の提出を求められるケース

賃金台帳は、従業員が離職した際の雇用保険関係手続きや各種助成金の申請などに必要です。被保険者が離職するときには離職票を発行しますが、その際の確認書類として、離職前1年間の賃金台帳を離職日から10日以内に提出しなければなりません。

また、労働基準監督署による調査や、労務関係のトラブルが発生した際など、さまざまなケースで必要になります。そのため、いつでも提出できるように、項目を正しく記入した上で、適切に保管しましょう。

賃金台帳の保管方法・保管期間

作成した賃金台帳は適切な方法で保管しておく必要があります。また、法定書類であるため一定の保管期間も設けられています。保管方法や保管期間が法律で定められているため、正しく理解しておきましょう。

賃金台帳は原則5年間の保管が必要

労働基準法109条により、賃金台帳は原則5年間保管しなければなりません。ただし、現状は法案改正の経過措置として、最後に記載した日から3年間です。保管期間が守られていない場合、罰則を受ける可能性があるため、必ず3年間は保管しておきましょう。保管方法は紙媒体、電子データ共に認められています。

電子保管も認められる

賃金台帳は、電子保管も認められており、保管期間は紙媒体と同様です。ただし、電子保管の場合は、以下のような条件を満たす必要があります。

  • 故意や過失によって書き換えや削除、混同ができないようにする
  • 記録した日付や時刻などの情報も同一の電子データに記録され、これらを参照できる状態にしておく
  • すぐに表示・印字できる状態にしておく

賃金台帳は、労働基準監督署の検査等で提出を求められることがあります。そのため、すぐに検索・表示・印刷ができる状態で保存し、いつでも提出できるようにしましょう。

また、電子データであることから、不正アクセス防止のためにソフトウェアを導入したり、修正の履歴が残るシステムにしたりするなど、セキュリティ面の強化も重要です。

賃金台帳を作成・保管していないときの罰則

賃金台帳は離職時の手続きや労務関係のトラブル、労働基準監督署による調査の対象になったときなど、さまざまな場面で必要になります。そのため、正しく作成することはもちろん、すぐ提出できる状態で、決められた期間きちんと保管しておかなければなりません。仮に賃金台帳を適切に作成・保管できていなかった場合、労働基準法により、30万円以下の罰金を求められる可能性があります。

また、作成・保管していても、調査により不備が見つかった場合は、労働基準監督署から是正するよう指示を受けることもあります。もし応じなかった場合、監督者の判断によっては送検や罰則の対象になるため、必ず対応しましょう。

このような事態を防ぐためにも、定められた基準を満たした賃金台帳の作成・保管が重要です。

賃金台帳を正しく作成・保管しましょう

賃金台帳は、従業員に対する給与の支払い情報を管理するための帳簿で、法定三帳簿の一つです。労働基準法により、従業員を雇用するすべての事業主は賃金台帳を作成・保管しなければなりません。

決まった書式はありませんが、定められた10項目を記載し、すぐ提出できる状態で3年間保管しておく必要があります。記載内容に不備があったり、適切に保管できていなかったりした場合は、罰則や是正勧告の対象になる可能性があります。本記事を参考に、賃金台帳を正しく作成・保管しましょう。

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