更新日:2024年05月21日
賞与は、従業員のモチベーションの向上や生活の安定に重要な役割を果たします。そうした賞与にも社会保険の控除が必要です。
本記事では、賞与計算における社会保険料の控除や所得税の計算、社会保険料が免除されるケースなどについて詳しく解説します。
目次
賞与(ボーナス)は、通常の給与とは別に臨時で支給される報酬です。法律上の支払い義務はありませんが、会社の就業規則や労働契約で定められている場合は支払わなければなりません。賞与は一般的に夏と冬の2回支給され、社会保険料や税金の対象です。ただし計算方法は通常の給与とは異なります。
健康保険法では「3か月を超える期間」ごとに支給されるのが「賞与」です。つまり、年3回まで支給される臨時の給与が「賞与」であり、年4回以上であれば「通常の給与」とみなされます。
参考:e-Gov法令検索「健康保険法第三条第6項」
賞与の種類は、主に次の3つの種類に分けられます。
従業員のモチベーションを高め、企業の成長を支える重要な要素の一つが賞与制度です。従来の安定性重視の基本給連動型賞与に加え、業績や成果に連動した業績賞与や決算賞与など、多様な賞与制度の導入が検討されたり、すでに導入されたりしているのが近年の傾向です。
基本給連動型賞与は、基本給の一定割合や月数分を、業績にかかわらず均一に支払う方式を指します。基本給連動型賞与は日本の企業で長らく採用されており、年2回の支給が一般的です。賞与額は基本給の一定割合や月数分で決まるため、基本給の高い人ほど賞与も多いのが特徴です。
従業員にとっては、定期的に安定した収入が得られる制度である一方、昇給する前に達成した成果が賞与に反映されにくいため、不公平感を生じる可能性がある制度ともいえます。
業績賞与は、会社や個々の成果に基づいて賞与の額が変動する方式です。成果に応じた報酬であるため、従業員の努力が直接賞与に反映されるのがメリットです。
業績賞与は、従業員の成果への意識を高め、モチベーションを促す一方で、賞与支給額は業績によって大きく異なることもあります。また、基本給連動型賞与と比較して支給額の予測が難しく、変動幅が大きいといったこともデメリットといえます。
決算賞与は、業績に基づき決算時期に支給され、業績が良いときには従業員に利益が分配される方式です。決算前の支給により、法人税対策にも効果的です。また、従業員のやる気を引き出す効果も見込めます。
ただし業績が振るわない場合には、賞与の減少または支給されないリスクがあります。不透明な経営や賞与支給の規程が不明瞭な場合には、従業員の不安につながる懸念もあるため明確な規定の策定が必要です。
賞与にかかる社会保険料や税は、下表のとおりです。
※住民税は、前年の所得(給与・賞与など)に基づいて計算されます。住民税は通常、事業主が毎月の給与から従業員の代わりに支払います(特別徴収)。したがって、賞与には住民税が適用されません。
ここでは、従業員負担となる次の4つの社会保険料と所得税の計算方法について解説します。
厚生年金保険料は、標準賞与額に厚生年金保険料率の18.3%を掛けて計算します。なお、事業主が「厚生年金基金」に加入している場合の厚生年金保険料率は、基金ごとに定められています(13.3%〜15.9%)。
厚生年金保険料=標準賞与額×厚生年金保険料率(18.3%)÷2 (標準賞与額:税引き前賞与の金額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額)
たとえば賞与が45万5,320円の場合、1,000円未満の端数切り捨てにより、標準賞与額は45万5,000円です。したがって、厚生年金保険料は以下のとおりです。
厚生年金保険料:4万1,632円=45万5,000円×18.3%÷2
端数の処理は、一般的に50銭以下は切り捨て、50銭を超えた場合は切り上げをします。従業員と事業主の間で特別な取り決めが存在する場合は、取り決めにしたがい端数処理をします。
参考:日本年金機構「一般・坑内員・船員の被保険者の方(令和5年度版)」
健康保険料の計算は、標準賞与額に各都道府県で定められた健康保険料率を乗じます。健康保険料率は、加入している健康保険組合や協会けんぽのWebサイトでの確認が必要です。
参考までに代表的な都道府県の健康保険料率は、以下のとおりです。
40歳未満の従業員は、左側の「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の健康保険料率で計算します。40〜64歳までの従業員は、右側の「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の健康保険料率(介護保険料を含めた料率)で算出します。
健康保険料=標準賞与額×健康保険料率÷2 (標準賞与額:税引き前賞与の金額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額)
賞与が45万5,320円の場合、1,000円未満の端数切り捨てにより、標準賞与額は45万5,000円です。たとえば40歳未満で大阪府在住の場合は、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の10.34%が健康保険料率です。
健康保険料:2万3,523円=45万5,000円×10.34%÷2
参考:全国健康保険協会「令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)」
介護保険料は、40歳から64歳の従業員に適用され、給与や賞与から控除されます。標準賞与額に、介護保険料率を乗じて算出します。介護保険料率は全国同率です。ただし変動することもあるため、健康保険協会のWebサイトで最新情報のチェックをしましょう。
2024年3月現在、介護保険料率は1.6%。保険料額表の右側の「介護保険第2号被保険者に該当する場合」が、健康保険料率に介護保険料率を加算した料率です。
介護保険料=標準賞与額×介護保険料率÷2 (標準賞与額:税引き前賞与の金額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額)
賞与が45万5,320円の場合、1,000円未満の端数切り捨てにより、標準賞与額は45万5,000円です。たとえば40〜64歳の場合、介護保険料は以下のとおりです。
介護保険料:3,640円=45万5,000円×1.6%÷2
雇用保険料の計算は他の社会保険と異なり、賞与の全額をベースに計算します。1,000円未満の端数は省かず全額を計算に含める点に注意が必要です。
雇用保険料=賞与額×雇用保険料率
雇用保険料率は、事業の種類ごとや従業員・事業主別に定められ、詳細は厚生労働省のWebサイトで確認できます。
<令和6年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)の雇用保険料率>
年度ごとに更新されるため、最新の雇用保険料率を確認しておくようにしましょう。2024年度の雇用保険料率は、前年の2023年度から変更はありません。
賞与が45万5,320円で「一般の事業」に勤める従業員の場合は、下記の雇用保険料です。
従業員の雇用保険料:2,732円=45万5,320円×0.6%
参考:厚生労働省「令和6年度の雇用保険料率」
所得税の源泉徴収額は、賞与から社会保険料を控除した金額に「所得税率」を乗じて求めます。所得税率は、扶養家族の人数と前月の給与額(社会保険料を控除した額)によって決まります。
所得税額=(賞与額-社会保険料)×【所得税率】
【所得税率】の求め方
賞与が45万5,320円であり、賞与にかかる社会保険料が7万1,527円。前月の給与が25万円で社会保険料が4万円、扶養親族が1人の場合を想定してみます。
「前月の給与から社会保険料を差し引いた金額」は21万円。「扶養親族等の数」が1人の場合「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和 5年分)」に照らし合わせれば、所得税率は2.042%です。よって所得税額は、以下のとおり計算できます。
所得税額=(45万5,320円-7万1,527円)×2.042%=7,837円(端数切り捨て)
ただし、賞与が「前月の給与の10倍以上」または「前月に給与がない」ケースでは、計算の方法が異なります。税額を正確に把握するには、国税庁のWebサイトで最新情報のチェックが必要です。
参考:国税庁「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和5年分)」
社会保険料は賞与からも徴収されますが「産前産後・育児休業中の従業員」や「退職予定者」の場合、要件を満たせば控除不要です。
産前産後休業を取得している従業員の場合は「産休開始日の月」から「産休が終わった翌日の前月分」までの社会保険料が免除されるため、開始日と終了日の把握が重要です。
育児休業中の賞与に関しては「育児休業の期間が1か月を超えなければならない」との要件が2022年10月から加わりました。
退職予定の従業員に対して支払われる賞与は、支払いのタイミングや条件によっては社会保険料がかからないケースもあります。ここでは、これら2つのケースについて詳しく解説します。
産前産後の休業期間は、社会保険料の支払いが免除されます。月末の時点で産前産後の休業中にある場合、その月の保険料や賞与にかかる社会保険料は徴収されません。
賞与を受領した同じ月に産前産後休業を開始し、産前産後休業状態がその月の月末まで継続している場合には、休業開始前に受け取った賞与であっても社会保険料は免除されます。
一方で、産前産後休業中に賞与が支払われ、賞与支給日と同じ月の月末より前に職場復帰する場合には「産休が終わった翌日の前月分」までが免除期間に該当するため、社会保険料が発生します。
育児休業中の賞与については「賞与支給月の末日を含めた1か月超の連続した育児休業を取得している」場合に社会保険料が免除されます。この1か月超については、土日等も期間に含まれます。
社会保険制度では、被保険者が厚生年金や健康保険を離脱した日の翌日を「資格喪失日」とし、その月を「資格喪失月」と定めています。
社会保険料は「資格喪失日の前月までの分が対象」となるため、賞与が支払われる月の末日より前に退職すると、その月の社会保険料は徴収されません。一方で退職日が月末である場合には、資格喪失日が次の月の初日になり、その前月に支給された賞与に対しては、社会保険料の控除が必要です。
たとえば12月10日に賞与を受け取り、12月31日に退職する従業員の場合、資格喪失日は次の月(翌年の1月1日)となるため、前月の12月に支給された賞与に関する保険料が徴収されます。
賞与の計算にはいくつかの重要な注意点があります。とくに年4回以上支給される賞与は、社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」に含まれる「報酬」とみなされます。つまり、給与としての扱いです。
同一月内に2回以上支給される賞与には、回数分の賞与の合計額から控除額を計算し、すでに控除している額の差し引き計算をしなければなりません。
賞与計算の際には、これらの点を踏まえる必要があります。
賞与は、基本的に社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」には含まれません。標準報酬月額は4月から6月の給与を基に算出されますが、6月に支払われる賞与はこの計算からは除外されます。
ただし、年間で4回以上の賞与がある場合は、標準報酬月額の計算に算入する必要があります。すると、社会保険料は通常の給与と共に計算されるため、賞与が加わると社会保険料の額が増加し、従業員や会社の負担増加につながりかねません。慎重な検討が必要です。
月に2回以上支給される賞与は、2回分の賞与の合計額から1,000円未満を切り捨てて得られる「標準賞与額」をベースに、保険料率を適用して控除額を求めます。
すでに1回目の賞与に対する控除をしている場合は、1回目と2回目の賞与を合わせた標準賞与額で計算した保険料から、1回目の賞与だけで計算した保険料を差し引き控除額とします。
賞与(ボーナス)を支給するに際し、以下の書類作成や手続きが必要です。
ここでは、手続き上必要となる「賞与明細書」「賞与支払届」それぞれの手続きについて解説します。
賞与明細書は、従業員への賞与支給に際して必要とされる明細書であり、支給される金額や控除額を記載します。各項目には保険法や税法に従って正確な金額を記入しなければなりません。
賞与の支払いに関しての法的な義務はありませんが、賞与から差し引かれた金額に関する計算書と支払明細を作成し、発行する義務が定められています(所得税法・健康保険法・健康保険法・厚生年金保険法)。そのため事業主は、これらの情報を賞与明細書に記載し発行します。
※日本年金機構「被保険者賞与支払届」を引用し加工
賞与を支給する際、事業主は「賞与支払届」を日本年金機構に提出しなければなりません。賞与が支給された場合のみ提出が求められ、支給なしの場合は「賞与不支給報告書」を提出します。
提出は管轄の年金事務所や広域事務センター宛、賞与支払い日から5日以内です。年金事務所窓口や郵送、電子申請、CD・DVDなどで提出できます。
事前に日本年金機構や健康保険組合に登録がある場合には、賞与支払届が送られてきます。この賞与支払届には、被保険者番号・氏名・生年月日などが印字されています。印字されていない場合は、手書きなどで追記可能です。
参考:日本年金機構「被保険者賞与支払届」
賞与(ボーナス)は、通常の給与とは別に臨時で支給される報酬であり、年4回以上支給する場合には「給与」とみなされることに注意しましょう。
また「産前産後・育児休業中の従業員」や「退職予定者」に関しては、社会保険料の控除が不要なケースがあるため、タイミングの見極めが重要です。
社会保険料の計算は、1,000円未満の端数を切り捨てる「標準賞与額」をベースに計算するものと、そうでないものがあります。それぞれの計算方法を把握しておきましょう。そして賞与支給の際には、賞与明細書を作成して従業員に通知し「賞与支払届」を日本年金機構に提出します。
賞与の主な目的は、従業員のモチベーション向上です。スムーズな手続きを心がけていきましょう。
この記事は、給与計算ソフト「フリーウェイ給与計算」の株式会社フリーウェイジャパンが提供しています。フリーウェイ給与計算は、従業員5人まで永久無料のクラウド給与計算で、WindowsでもMacでも利用できます。
ブログTOPへ戻る
(c) 2017 freewayjapan Co., Ltd.
賞与は、従業員のモチベーションの向上や生活の安定に重要な役割を果たします。そうした賞与にも社会保険の控除が必要です。
本記事では、賞与計算における社会保険料の控除や所得税の計算、社会保険料が免除されるケースなどについて詳しく解説します。
目次
賞与(ボーナス)とは?
賞与(ボーナス)は、通常の給与とは別に臨時で支給される報酬です。法律上の支払い義務はありませんが、会社の就業規則や労働契約で定められている場合は支払わなければなりません。賞与は一般的に夏と冬の2回支給され、社会保険料や税金の対象です。ただし計算方法は通常の給与とは異なります。
健康保険法では「3か月を超える期間」ごとに支給されるのが「賞与」です。つまり、年3回まで支給される臨時の給与が「賞与」であり、年4回以上であれば「通常の給与」とみなされます。
参考:e-Gov法令検索「健康保険法第三条第6項」
賞与の主な種類
賞与の種類は、主に次の3つの種類に分けられます。
従業員のモチベーションを高め、企業の成長を支える重要な要素の一つが賞与制度です。従来の安定性重視の基本給連動型賞与に加え、業績や成果に連動した業績賞与や決算賞与など、多様な賞与制度の導入が検討されたり、すでに導入されたりしているのが近年の傾向です。
基本給連動型賞与
基本給連動型賞与は、基本給の一定割合や月数分を、業績にかかわらず均一に支払う方式を指します。基本給連動型賞与は日本の企業で長らく採用されており、年2回の支給が一般的です。賞与額は基本給の一定割合や月数分で決まるため、基本給の高い人ほど賞与も多いのが特徴です。
従業員にとっては、定期的に安定した収入が得られる制度である一方、昇給する前に達成した成果が賞与に反映されにくいため、不公平感を生じる可能性がある制度ともいえます。
業績賞与
業績賞与は、会社や個々の成果に基づいて賞与の額が変動する方式です。成果に応じた報酬であるため、従業員の努力が直接賞与に反映されるのがメリットです。
業績賞与は、従業員の成果への意識を高め、モチベーションを促す一方で、賞与支給額は業績によって大きく異なることもあります。また、基本給連動型賞与と比較して支給額の予測が難しく、変動幅が大きいといったこともデメリットといえます。
決算賞与
決算賞与は、業績に基づき決算時期に支給され、業績が良いときには従業員に利益が分配される方式です。決算前の支給により、法人税対策にも効果的です。また、従業員のやる気を引き出す効果も見込めます。
ただし業績が振るわない場合には、賞与の減少または支給されないリスクがあります。不透明な経営や賞与支給の規程が不明瞭な場合には、従業員の不安につながる懸念もあるため明確な規定の策定が必要です。
賞与にかかる社会保険料の計算方法
賞与にかかる社会保険料や税は、下表のとおりです。
負担
負担
が対象
「雇用保険料率」で計算
※住民税は、前年の所得(給与・賞与など)に基づいて計算されます。住民税は通常、事業主が毎月の給与から従業員の代わりに支払います(特別徴収)。したがって、賞与には住民税が適用されません。
ここでは、従業員負担となる次の4つの社会保険料と所得税の計算方法について解説します。
厚生年金保険料
厚生年金保険料は、標準賞与額に厚生年金保険料率の18.3%を掛けて計算します。なお、事業主が「厚生年金基金」に加入している場合の厚生年金保険料率は、基金ごとに定められています(13.3%〜15.9%)。
厚生年金保険料=標準賞与額×厚生年金保険料率(18.3%)÷2
(標準賞与額:税引き前賞与の金額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額)
たとえば賞与が45万5,320円の場合、1,000円未満の端数切り捨てにより、標準賞与額は45万5,000円です。したがって、厚生年金保険料は以下のとおりです。
厚生年金保険料:4万1,632円=45万5,000円×18.3%÷2
端数の処理は、一般的に50銭以下は切り捨て、50銭を超えた場合は切り上げをします。従業員と事業主の間で特別な取り決めが存在する場合は、取り決めにしたがい端数処理をします。
参考:日本年金機構「一般・坑内員・船員の被保険者の方(令和5年度版)」
健康保険料
健康保険料の計算は、標準賞与額に各都道府県で定められた健康保険料率を乗じます。健康保険料率は、加入している健康保険組合や協会けんぽのWebサイトでの確認が必要です。
参考までに代表的な都道府県の健康保険料率は、以下のとおりです。
に該当しない場合
に該当する場合
40歳未満の従業員は、左側の「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の健康保険料率で計算します。40〜64歳までの従業員は、右側の「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の健康保険料率(介護保険料を含めた料率)で算出します。
健康保険料=標準賞与額×健康保険料率÷2
(標準賞与額:税引き前賞与の金額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額)
賞与が45万5,320円の場合、1,000円未満の端数切り捨てにより、標準賞与額は45万5,000円です。たとえば40歳未満で大阪府在住の場合は、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の10.34%が健康保険料率です。
健康保険料:2万3,523円=45万5,000円×10.34%÷2
参考:全国健康保険協会「令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)」
介護保険料
介護保険料は、40歳から64歳の従業員に適用され、給与や賞与から控除されます。標準賞与額に、介護保険料率を乗じて算出します。介護保険料率は全国同率です。ただし変動することもあるため、健康保険協会のWebサイトで最新情報のチェックをしましょう。
参考までに代表的な都道府県の健康保険料率は、以下のとおりです。
に該当しない場合
に該当する場合
2024年3月現在、介護保険料率は1.6%。保険料額表の右側の「介護保険第2号被保険者に該当する場合」が、健康保険料率に介護保険料率を加算した料率です。
介護保険料=標準賞与額×介護保険料率÷2
(標準賞与額:税引き前賞与の金額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額)
賞与が45万5,320円の場合、1,000円未満の端数切り捨てにより、標準賞与額は45万5,000円です。たとえば40〜64歳の場合、介護保険料は以下のとおりです。
介護保険料:3,640円=45万5,000円×1.6%÷2
参考:全国健康保険協会「令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)」
雇用保険料
雇用保険料の計算は他の社会保険と異なり、賞与の全額をベースに計算します。1,000円未満の端数は省かず全額を計算に含める点に注意が必要です。
雇用保険料=賞与額×雇用保険料率
雇用保険料率は、事業の種類ごとや従業員・事業主別に定められ、詳細は厚生労働省のWebサイトで確認できます。
<令和6年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)の雇用保険料率>
年度ごとに更新されるため、最新の雇用保険料率を確認しておくようにしましょう。2024年度の雇用保険料率は、前年の2023年度から変更はありません。
賞与が45万5,320円で「一般の事業」に勤める従業員の場合は、下記の雇用保険料です。
従業員の雇用保険料:2,732円=45万5,320円×0.6%
参考:厚生労働省「令和6年度の雇用保険料率」
所得税
所得税の源泉徴収額は、賞与から社会保険料を控除した金額に「所得税率」を乗じて求めます。所得税率は、扶養家族の人数と前月の給与額(社会保険料を控除した額)によって決まります。
所得税額=(賞与額-社会保険料)×【所得税率】
【所得税率】の求め方
賞与が45万5,320円であり、賞与にかかる社会保険料が7万1,527円。前月の給与が25万円で社会保険料が4万円、扶養親族が1人の場合を想定してみます。
「前月の給与から社会保険料を差し引いた金額」は21万円。「扶養親族等の数」が1人の場合「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和 5年分)」に照らし合わせれば、所得税率は2.042%です。よって所得税額は、以下のとおり計算できます。
所得税額=(45万5,320円-7万1,527円)×2.042%=7,837円(端数切り捨て)
ただし、賞与が「前月の給与の10倍以上」または「前月に給与がない」ケースでは、計算の方法が異なります。税額を正確に把握するには、国税庁のWebサイトで最新情報のチェックが必要です。
参考:国税庁「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和5年分)」
賞与に社会保険料がかからない2つのケース
社会保険料は賞与からも徴収されますが「産前産後・育児休業中の従業員」や「退職予定者」の場合、要件を満たせば控除不要です。
産前産後休業を取得している従業員の場合は「産休開始日の月」から「産休が終わった翌日の前月分」までの社会保険料が免除されるため、開始日と終了日の把握が重要です。
育児休業中の賞与に関しては「育児休業の期間が1か月を超えなければならない」との要件が2022年10月から加わりました。
退職予定の従業員に対して支払われる賞与は、支払いのタイミングや条件によっては社会保険料がかからないケースもあります。ここでは、これら2つのケースについて詳しく解説します。
1.産前産後・育児休業中の賞与
産前産後の休業期間は、社会保険料の支払いが免除されます。月末の時点で産前産後の休業中にある場合、その月の保険料や賞与にかかる社会保険料は徴収されません。
賞与を受領した同じ月に産前産後休業を開始し、産前産後休業状態がその月の月末まで継続している場合には、休業開始前に受け取った賞与であっても社会保険料は免除されます。
一方で、産前産後休業中に賞与が支払われ、賞与支給日と同じ月の月末より前に職場復帰する場合には「産休が終わった翌日の前月分」までが免除期間に該当するため、社会保険料が発生します。
育児休業中の賞与については「賞与支給月の末日を含めた1か月超の連続した育児休業を取得している」場合に社会保険料が免除されます。この1か月超については、土日等も期間に含まれます。
2.退職予定者の賞与
社会保険制度では、被保険者が厚生年金や健康保険を離脱した日の翌日を「資格喪失日」とし、その月を「資格喪失月」と定めています。
社会保険料は「資格喪失日の前月までの分が対象」となるため、賞与が支払われる月の末日より前に退職すると、その月の社会保険料は徴収されません。一方で退職日が月末である場合には、資格喪失日が次の月の初日になり、その前月に支給された賞与に対しては、社会保険料の控除が必要です。
たとえば12月10日に賞与を受け取り、12月31日に退職する従業員の場合、資格喪失日は次の月(翌年の1月1日)となるため、前月の12月に支給された賞与に関する保険料が徴収されます。
賞与を計算する際の注意点
賞与の計算にはいくつかの重要な注意点があります。とくに年4回以上支給される賞与は、社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」に含まれる「報酬」とみなされます。つまり、給与としての扱いです。
同一月内に2回以上支給される賞与には、回数分の賞与の合計額から控除額を計算し、すでに控除している額の差し引き計算をしなければなりません。
賞与計算の際には、これらの点を踏まえる必要があります。
年4回以上支給される賞与は「報酬」になる
賞与は、基本的に社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」には含まれません。標準報酬月額は4月から6月の給与を基に算出されますが、6月に支払われる賞与はこの計算からは除外されます。
ただし、年間で4回以上の賞与がある場合は、標準報酬月額の計算に算入する必要があります。すると、社会保険料は通常の給与と共に計算されるため、賞与が加わると社会保険料の額が増加し、従業員や会社の負担増加につながりかねません。慎重な検討が必要です。
同月に2回以上支給される賞与は社会保険の計算方法が異なる
月に2回以上支給される賞与は、2回分の賞与の合計額から1,000円未満を切り捨てて得られる「標準賞与額」をベースに、保険料率を適用して控除額を求めます。
すでに1回目の賞与に対する控除をしている場合は、1回目と2回目の賞与を合わせた標準賞与額で計算した保険料から、1回目の賞与だけで計算した保険料を差し引き控除額とします。
賞与の支給の際に必要な手続きや書類
賞与(ボーナス)を支給するに際し、以下の書類作成や手続きが必要です。
ここでは、手続き上必要となる「賞与明細書」「賞与支払届」それぞれの手続きについて解説します。
従業員への賞与明細書の発行
賞与明細書は、従業員への賞与支給に際して必要とされる明細書であり、支給される金額や控除額を記載します。各項目には保険法や税法に従って正確な金額を記入しなければなりません。
賞与の支払いに関しての法的な義務はありませんが、賞与から差し引かれた金額に関する計算書と支払明細を作成し、発行する義務が定められています(所得税法・健康保険法・健康保険法・厚生年金保険法)。そのため事業主は、これらの情報を賞与明細書に記載し発行します。
日本年金機構への賞与支払届の提出
※日本年金機構「被保険者賞与支払届」を引用し加工
賞与を支給する際、事業主は「賞与支払届」を日本年金機構に提出しなければなりません。賞与が支給された場合のみ提出が求められ、支給なしの場合は「賞与不支給報告書」を提出します。
提出は管轄の年金事務所や広域事務センター宛、賞与支払い日から5日以内です。年金事務所窓口や郵送、電子申請、CD・DVDなどで提出できます。
事前に日本年金機構や健康保険組合に登録がある場合には、賞与支払届が送られてきます。この賞与支払届には、被保険者番号・氏名・生年月日などが印字されています。印字されていない場合は、手書きなどで追記可能です。
参考:日本年金機構「被保険者賞与支払届」
賞与計算まとめ
賞与(ボーナス)は、通常の給与とは別に臨時で支給される報酬であり、年4回以上支給する場合には「給与」とみなされることに注意しましょう。
また「産前産後・育児休業中の従業員」や「退職予定者」に関しては、社会保険料の控除が不要なケースがあるため、タイミングの見極めが重要です。
社会保険料の計算は、1,000円未満の端数を切り捨てる「標準賞与額」をベースに計算するものと、そうでないものがあります。それぞれの計算方法を把握しておきましょう。そして賞与支給の際には、賞与明細書を作成して従業員に通知し「賞与支払届」を日本年金機構に提出します。
賞与の主な目的は、従業員のモチベーション向上です。スムーズな手続きを心がけていきましょう。